国土交通省
運輸審議会答申書(国運審第9号)

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 主  文 

 道路運送法第8条第1項の規定に基づき、沖縄本島営業区域を平成17年9月1日から平成18年3月31日までの間、一般乗用旅客自動車運送事業に係る緊急調整地域に指定することについてはやむを得ないものとして認める。

 理  由 

  国土交通大臣は、平成14年8月30日付け国土交通省告示第772号により、沖縄本島営業区域(道路運送法施行規則第5条の規定に基づき沖縄総合事務局長が定める営業区域の「沖縄本島」をいう。以下同じ。)について、平成14年9月1日から平成15年8月31日までの間、緊急調整地域(道路運送法(以下「法」という。)第8条第1項の一般乗用旅客自動車運送事業に係る緊急調整地域をいう。以下同じ。)として指定した。また、平成15年8月29日付け国土交通省告示第1253号により、引き続き同営業区域を平成15年9月1日から平成16年8月31日までの間、緊急調整地域として指定した。さらに、平成16年8月31日付け国土交通省告示第1043号により、引き続き同営業区域を平成16年9月1日から平成17年8月31日までの間、緊急調整地域として指定した。
  国土交通大臣は、同営業区域について一般乗用旅客自動車運送事業の供給輸送力が輸送需要量に対して著しく過剰となっており、当該供給輸送力が更に増加することにより、輸送の安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれがあると認め、引き続き同営業区域を平成17年9月1日から平成18年3月31日までの間、緊急調整地域として指定することを予定している。
 
  当審議会に所管局から提出された資料、所管局から聴取した説明は、以下のとおりである。
(1)  国土交通省は、緊急調整地域の指定要件について、実車率及び1日1車当たり営業収入のいずれもが、前年度から減少し、かつ、当該年度の前5年間の当該地域の平均値を15%以上下回っている(前5年間の全国平均を20%以上下回っている場合を含む。)場合であって、かつ、一定の安全関係の法令違反及び利用者からの苦情の件数が2年連続、前々年度と比較して増加している場合等に該当することを基準として定めている。
(2)  国土交通省によると、沖縄本島営業区域における上記要件の各指標の実績は次のとおりである。
@  平成16年度の実車率は、30.4%であり、前年度の30.3%より0.1%増加し、数値基準には合致していない。前5年間の全国平均の実車率42.3%との乖離率は28.1%であり、20%以上下回っている。
A  平成16年度の1日1車当たり営業収入は、22,931円であり、前年度の22,981円より50円減少し、数値基準を満たしている。前5年間の全国平均の1日1車当たり営業収入30,701円との乖離率は25.3%であり、20%以上下回っている。
B  安全関係の法令違反件数は、平成15年度129件、平成16年度52件であり、いずれも平成14年度25件と比較して2年連続で増加しており、数値基準を満たしている。
C  利用者からの苦情件数は、平成15年度38件、平成16年度30件であり、平成14年度45件と比較して2年連続で減少しており、数値基準には合致していない。
(3)  国土交通省は、各指標の数値基準は、現在利用可能なデータを用いて合理的かつ妥当と考えられるものを採用しているが、数値基準にはおのずと一定の限界があるため、既に緊急調整地域として指定されている地域について指定の有無を判断するに当たっては、数値基準のみで判断することはせず、それを補完するような他のデータと併せて法第8条の指定要件に実質的に該当するか否かを総合的に判断する必要があるとして以下の説明を行っている。
@  実車率は、微増にとどまっており、依然として全国平均を28.1%下回る低い水準となっている。平成15年8月の沖縄本島でのモノレール開業により平成15年度のタクシー需要が大幅に落ち込み、平成16年度はその数字を若干盛り返したという特殊事情もある。1日1車当たり営業収入は、前5年間の全国平均に比べ、25.3%低く、指定の数値基準を満たしている。
A  実車率及び1日1車当たり営業収入の数値基準の限界を補うため、実車キロのほか輸送人員や営業収入といったその他の需要動向を示す指標の動向を見る必要があるが、これらの指標はすべて引き続き減少している。
B  安全関係法令違反件数は、現行の数値基準を満たしている。この法令違反件数は、特別監視地域を含めて全国で最も多い。また、タクシー運転手が第一当事者である事故であって利用者が死傷した事故件数は、平成15年度に急増し、平成16年度も引き続き増加している。
C  苦情件数は、ここ数年の数値を見ると減少傾向にあり数値基準には合致しないものの、特別監視地域でも30件以上の苦情がある地域はなく、他の地域と比べると苦情件数は依然として多い。また、苦情に対する行政処分の内容について、沖縄本島では他の地域には見られない相当重い処分をした例もあった。
(4)  以上を踏まえた国土交通省の継続指定についての見解は、次のとおりである。
@  沖縄本島については、一部の数値が若干改善しているものの、過去3年間全国で唯一の緊急調整地域として継続的に指定されてきた地域である。数値基準にはおのずと限界があるため、沖縄本島の指定の継続の有無については、実態を踏まえて総合的に判断する必要がある。
A  そこで、通達で規定する数値基準の限界を補完するような他のデータと併せて、沖縄本島について法第8条の指定要件に実質的に該当するか否かを検討した結果、継続して指定を行う必要があるとの結論に至ったものである。
B  ただし、一部の指標に若干明るい兆しが見えつつあることから、指定期間については1年間とせずに、暦年の輸送実績等の動向を精査するために必要最小限の期間として、平成18年3月31日までの7箇月間とすることとした。
 当審議会が参考人として平成17年8月22日に沖縄県所管部局より聴取した意見の要旨は、次のとおりである。
 沖縄本島地域が3年連続して全国で唯一、タクシー事業に係る緊急調整地域に指定されていることは、本来好ましくない。タクシー事業者自らが需給バランスの回復並びに安全・労働関係法令の遵守や輸送サービスの改善・向上を図る努力をする必要がある。現在タクシー業界においては、本年4月に沖縄県の法人タクシー5団体が統合・合併され、観光タクシーや介護タクシーの導入など輸送サービスの改善・向上に向けて取り組んでいるところであるが、いまだ経営改善に結び付くまでには至っていない状況であり、もうしばらく指定を継続して改善状況を見極める必要がある。
 
当審議会に提出された資料、所管局から聴取した説明、参考人より聴取した意見等に基づいて検討した結果は、次のとおりである。なお、本件について公聴会開催の申請はなかった。
(1)  沖縄本島では、鉄軌道系の輸送手段が少なく、県民の足としてタクシーへの依存度が極めて高く、また、タクシー事業者についても平成14年の多数の駆け込み増車届出の例もあることから、緊急調整地域の指定の解除に当たっては慎重な検討が必要である。
(2)  国土交通省の緊急調整地域の指定の要件に関し、平成16年度は実車率と苦情件数が改善し数値基準を満たしていないが、実車率の増加は微増にとどまる一方、利用者からの苦情については他の地域と比べて苦情件数と内容の両面で依然一層の改善が必要であると言わざるを得ない。さらに、同基準は主として新規の指定を前提としたものでありその数値のみをもって継続指定の可否についての結論を出すことは適当でなく、他の補完するデータ及び沖縄地域の実態も踏まえた上で総合的に判断することが必要である。
(3)  一方、本件に関連して地元の沖縄県議会は、平成17年7月14日付けで地方自治法第99条の規定により「タクシー事業等の「緊急調整地域」の継続指定に関する意見書」を提出し、当面の継続指定に向けた特段の配慮を要請している。また、当審議会が参考人意見聴取として行った沖縄県所管部局によると、輸送サービスの改善・向上に向けた取り組みの効果が現れるまでもうしばらく指定を継続し改善状況を見極める必要があるとしている。
(4)  当審議会としては、数値基準、他の補完するデータ及び地元の関係者の意見等を総合的に判断した結果、沖縄本島営業区域について改善の兆しは認められるものの、一般乗用旅客自動車運送事業の供給輸送力が輸送需要量に対して依然として著しく過剰となっており、今般解除した場合に輸送の安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれが生ずる懸念がないとまでは言い切れない。よって、指定の解除に向けた沖縄本島地域の状況を見極めるため、沖縄本島営業区域を平成17年9月1日から平成18年3月31日までの間に限り、一般乗用旅客自動車運送事業に係る緊急調整地域に指定することについてはやむを得ないものとして認める。
(5)  これらに対して田島優子委員は、次の反対意見を述べた。
 緊急調整地域の指定を行うには、憲法の保障する営業の自由を制限することが許されるだけの合理性が必要であるが、国土交通省が自動車交通局長通達に定める4つの数値基準は、これを満たす場合であっても指定の合理性を欠くことがあり得る。当審議会は、その厳格化の見直しを行うよう、過去3回にわたる指定の都度、要望してきた。しかしながら、国土交通省はその見直しをしていないばかりか、今回は、その数値基準すら2つの点において満たしていないにもかかわらず、総合的判断などというあいまいな理由で指定を行おうとしている。
 これは、法の定める輸送の安全及び旅客の利便の確保に資する指定とは認められないので、本指定は行うべきでない(詳細別紙)。
 国土交通大臣に対する要望
  当審議会は、国土交通大臣が次の事項について万全の措置を講ずるべきことを要望する。
(1) 沖縄本島営業区域の早期の指定解除に向けた改善努力
@  今回の緊急調整地域の指定が4回目になることにかんがみ、これまでの経緯、指定する理由、今後の取組等を利用者である沖縄県民に十分に説明して理解を求めるべきである。
A
 今般の指定が過去3回にわたり継続して指定された後の指定であることに十分留意し、沖縄本島営業区域に係る緊急調整地域の指定が繰り返されることのないよう、早急により実効性の高い措置を検討されたい。
B
 緊急調整措置の指定を行う法の趣旨を十分にタクシー業界・事業者に認識させるとともに、指定の解除に向けて利用者サービスの改善、安全・労働関係法令の遵守等についてタクシー業界・事業者への指導・監督を徹底されたい。
C
 タクシー事業の需給バランスの回復のために、地元自治体を始めとする関係行政機関や交通機関等の協力も得つつ、沖縄への観光客等を積極的に取り込むなど需要の拡大につながる実効性のある措置の策定と実施にタクシー業界・事業者が一体となって真剣な努力をするよう指導・監督を徹底されたい。
(2) 緊急調整地域の指定基準の見直し
 緊急調整地域の指定基準について、制度実施後の状況を踏まえた要件の厳格化、指標の適正化が必要である。具体的には、指定の根拠が明確になるよう透明性の高い要件を定めるとともに、輸送の安全及び旅客の利便の確保に係る指標を改善し、また、新規の指定と継続的な指定とを区別した新たな指定基準を年内に定めるべきである。
(別 紙)  田島優子委員の反対意見の詳細
          
 道路運送法は、一般乗用旅客自動車運送事業を需給調整のない許可制とし、一定の基準に適合しているものについては許可を与えることが原則となっている。
 しかしながら、著しい供給過剰となり、そのまま放置すれば、更に供給が増すことにより、輸送の安全及び旅客の利便の確保が困難となるおそれがある場合は、当該特定の地域に限り、期間を定めて緊急調整地域の指定を行い、新たな許可及び既に許可を得ている者の増車を認めないこととしている。
 これを受けて、国土交通省の自動車交通局長通達は、緊急調整地域の指定要件を、
「前年度において特別監視地域又は緊急調整地域の指定を受けている地域であって、以下の場合等に該当するもの。
@  実車率及び1日1車当たり営業収入のいずれもが、前年度から減少し、かつ、当該年度の前5年間の当該地域の平均値を15%以上下回っている(前5年間の全国平均を20%以上下回っている場合を含む。)場合であって、かつ、一定の安全関係の法令違反及び利用者からの苦情の件数が2年連続、前々年度と比較して増加している場合。ただし、車庫待ち、駅待ち等以外の流し営業の比率が著しく少ない地域における実車率の基準は、別に定めるところによる。
A  前年度と比較して供給輸送力が急激に増加した結果、@の要件を満たすことが確実と見られる場合(前年度において特別監視地域の指定を受けている地域に限る。)。
B  @又はAの要件を満たす場合については、改正道路運送法第88条の2第1号に基づき運輸審議会に諮るものとする。」
と定めている。
 過去3回にわたる沖縄本島地域に対する緊急調整地域の指定は、本通達の@の場合に該当するものとして行われてきており、いずれも@に定める4つの数値基準に当てはまる場合として、その点のみを調査して行われた指定であった。
 しかしながら、この数値基準のうち、特に法が重視する輸送の安全及び旅客の利便の確保に結び付く指標である、法令違反件数及び苦情件数については、この減少により指定が外れることによって競争に巻き込まれ、不利益を被る既得権者の改善努力を阻害する性格のものであって、指定の継続を望む者が、法令違反を犯し、苦情の原因となる悪質な行為を働くことが、指定につながる結果となる不合理性もあるため、これを指標としている基準の早期見直しを行い、いたずらに指定が継続しないよう、基準の厳格化・適正化を図ることを、当審議会が毎回国土交通大臣に対して強く要望してきたものである。
 ところが国土交通省はこの要望を無視し、これまで4つの数値基準の見直しは全く行われていない。
 他方、平成16年の指標にかかわる数値が確定した本年春以降は、3回に及ぶ指定により、沖縄県、沖縄総合事務局及び沖縄本島地域の事業者らの改善努力が奏功し、ようやく数値基準を満たさず指定の継続を避けられる状況になったとの報告が、国土交通省から当審議会になされ、国会においても、本年は新たな指定を要しないと答弁されていたものである。
 ところが国土交通省は、本年7月になり、沖縄本島地域の事業者団体及び県議会からの更なる指定の強い要望が出されると、同月末には突然方針を転換し、4度目の指定を行うこととして、8月4日に国土交通大臣から当審議会に対する指定の諮問がなされるに至った。
 国土交通省は、指定の根拠をこれまで唯一の基準として重用してきた4つの指標に限定せず、「それを補完するような他のデータと併せて法第8条の指定要件に実質的に該当するか否かを総合的に判断する」ものとしている。
 その理由は、平成16年度の数値によれば、4つの指標のうち、実車率及び苦情件数については基準を満たさず、これによる指定が行えないためである。
 国土交通省は、4つの数値基準のみに基づく判断を行わず、総合的判断を行い得る重要な根拠として、通達に定める指定要件本文の、「以下の場合「等」に該当するもの。」の「等」を引用している。
 しかしながら、この「等」は、「以下の場合」に当たる@からBまでの外にC以降として並ぶものを指す「等」であり、@の要件に総合的判断を加えることを許すものではない。仮に@の要件に総合的判断を加えることとしたい場合は、@の本文中にそれを表す文言を書き加えることになるのであって、「以下の場合」の後に「等」が書かれることはない。
 しかも、この「等」は、内容に全く限定のない白地の「等」であり、何を指すものであるか不明であって、その意味では存在意義がなく、どのようにも解釈し得る「等」を指定要件に取り入れることは、この場合考えられない。
 さらに、通達の指定要件の記載内容を詳細に検討すると、Bは手続要件にすぎず、@及びAと並列する記載の仕方は明らかに誤っている。
 これらの通達表記上の問題点は、昨年、通達の一部改正が行われた際に生じたものと推察されるが、過去3回にわたる指定の都度、当審議会が早急に合理性の疑われる指定基準の見直しを行うよう求めてきたにもかかわらず、それを行わなかった国土交通省が、このような通達中の意味不明の「等」を根拠に、通達の定める基準を広げ、総合的判断などというあいまいな理由で、憲法が保障する営業の自由を制限する本指定を行うことが許されるものとは考えられない。
 国土交通省の突然の方針転換が、旅客の要請に基づくものである資料はなく、また、通達に定める指定基準の指標を離れて総合的判断を行うとする検討内容を見ても、指定を容易にする観点からの検討のみを行い、例えば1日1車当たり営業収入について、沖縄県が全国一低い450円の初乗り運賃を採用する地域であって、それは地域別最低賃金額も最少であることに現れているように、物価の低さを物語るため、供給過剰か否かを見る際に、この違いを無視して単純に数字を全国平均と比較することには疑問があるといった、指定を困難にする観点からの検討を行っていないことから見ても、初めに指定の結論ありきの姿勢が垣間見えるのであって、輸送の安全及び旅客の利便の確保のために、今回、緊急調整地域の指定を行う合理的根拠があるとは認められない。
 よって、沖縄本島地域について、4回目の緊急調整地域の指定を行う合理的理由があるとは認められず、指定は不適当と考える。


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