T.現行制度のしくみと内外の情勢変化

1.現行制度の仕組み

 航空機は空中を飛行するものであり、高度の安全性が求められることから、国は、当該航空機の搭乗者や搭載物並びに地上の人や物の安全確保のために、必要な規制を設けている。
 また、航空機はその騒音等により周辺環境に影響を及ぼすものであることから、国は必要な規制を設け、環境の保全を図っている。
 この場合の国の規制は、

(a)安全確保及び環境保全のための基準を設定すること
(b)航空機がこれらの基準に適合していることを検査すること
(c)検査に合格した航空機のみ飛行を許可すること
の3点を基本的な枠組みとしている。

 一方、航空機は、国際輸送にも使用されることから、その安全規制及び騒音等の環境規制については、国際民間航空条約及び同条約に基づく国際標準(以下「ICAO標準」という。)に国際的なルールが定められている。当該ルールにおいては、安全性、騒音等の基準及び検査の基本的な内容は定められているが、具体的な検査手法については各国の裁量に委ねられている。
 我が国の航空法の航空機検査制度は、上記の基本的な枠組みの下で、国際的ルールを踏まえ、次のように定められている。

(1)安全規制
A 耐空証明
 航空機は、その強度、構造及び性能が安全基準に適合するか否かにつき国の検査に合格し、耐空証明を受けなければ飛行してはならないとされている。また、耐空証明の有効期間は1年(航空運送事業に使用される航空機については別途運輸大臣が定める期間)とされている。
 国の検査は、初めて耐空証明を受ける場合の新規検査と有効期限が満了する場合の更新検査がある。
 新規検査においては、航空機の設計、製造過程及び完成後の現状の各々について検査が行われる。ただし、型式証明を受けた航空機及び国際民間航空条約の締約国がその耐空性を証明した輸入航空機については、設計検査及び製造過程検査の一部が省略される。
 また、更新検査においては、航空機の耐空性が維持されていることの現状検査が行われる。

B 型式証明
 航空機は、型式の設計について、その強度、構造及び性能が安全基準に適合するか否かにつき国の検査に合格すれば、型式証明が受けられる。
 この証明制度は、大量に生産される同一型式の航空機に着目して設けられたものであり、耐空証明に先行しあらかじめ型式の設計を証明するものであることから、個々の航空機に対して行われる耐空証明検査の一部が省略されるものとして位置付けられている。
 型式証明を受けた設計を変更しようとする場合は、国の検査を受けた上でその承認を受ければ、型式証明を受けた型式の航空機として耐空証明検査の一部が省略される。ただし、当該承認は、型式証明を受けた者以外の者は受けることができないとされている。

C 修理改造検査と有資格整備士の確認
 航空機について整備(修理及び保守)又は改造が行われたときは、当該作業後の航空機が安全基準に適合することを確保するため、当該作業が航空機の耐空性に大きな影響を及ぼすおそれがある場合は国の修理改造検査を、その他の場合は国家資格を有する整備士の確認をそれぞれ受けなければ飛行してはならないとされている。
 なお、航空機の整備又は改造の能力について国の認定を受けた者(航空機の整備改造認定事業場)が整備又は改造を行い、安全基準に適合することを確認した場合は、国の修理改造検査又は有資格整備士の確認は不要となる。

D 予備品証明
 発動機、プロペラ等の安全確保上重要な装備品は、その強度、構造及び性能が安全基準に適合するか否かにつき、国の検査に合格すれば予備品証明が受けられる。これらの重要な装備品を交換する場合には、その都度国の修理改造検査を受けなければならないが、あらかじめ国の予備品証明を受けた装備品を用いた交換については、有資格整備士の確認を受ければよいこととされている。
 予備品証明には、有効期間及び当該装備品を装備できる航空機の型式についての限定を付すこととされている。
 また、装備品の修理又は改造の能力について国の認定を受けた者(装備品の修理改造認定事業場)が修理又は改造を行い、安全基準に適合することを確認した装備品は、国の予備品証明を受けたものと同様に取扱われる。

(2)環境規制
 航空機のうち、ターボジェット飛行機は、騒音基準に適合するか否かにつき、国の検査に合格し、騒音基準適合証明を受けなければ飛行してはならないとされている。 また、騒音基準適合証明を受けた航空機に、騒音に影響を及ぼすおそれのある修理又は改造が行われた場合は、国の騒音関係修理改造検査を受けなければ飛行できないこととされている。

2.検査制度を取り巻く内外の情勢の変化

 航空法制定(1952年[昭和27年]7月)後、現在までの間に、我が国の民間航空は順調な発展を遂げてきているが、この発展は航空の安全が確保されていなければなし得なかったものであり、その中で、現行の航空機検査制度も、技術進歩に対応した安全基準の改定とあいまって、航空の安全確保に大きな役割を果たしてきている。
 しかしながら、この間、航空機の検査制度を取り巻く内外の情勢は、以下のように大きく変貌してきている。

(1)民間能力の向上
 我が国航空機関係業界においては、国産航空機等の製造や国際共同開発への参画を通じて、航空機製造者及び装備品製造者の技術力、製造品質が一段と向上しているほか、整備事業者においても諸外国からその整備品質について高い評価を得ているなど、その能力は世界的に見ても高い水準に達している。

(2)登録航空機数の増加
 民間航空の発展に伴って、我が国登録航空機数は、近年、急激かつ大幅な増加を示している。このため検査件数が急増したことに伴い、航空機の使用者の希望する日程で検査が行えない場合が増えているなど、現行の航空機検査制度では使用者のニーズに必ずしも十分に対応できなくなっている。

(3)国際的な相互承認の進展
 ICAO標準によれば、輸入航空機が輸出国の耐空証明を有している場合は、輸入国は輸出国の証明をもって当該航空機が耐空性を有していると認め、耐空証明検査の一部又は全部を省略することができることとされているが、国際的にも航空機の安全性等に係る証明の受け入れが進展しており、輸入航空機については輸出国の証明をもとに1機毎の現状検査を省略することが世界的な趨勢になっている。
 また、近年、航空機の国際共同開発により、航空機の設計、製造が多数の国にまたがって行われるようになってきたこと等を背景として、関係各国間で検査の重複を避けるため、欧米諸国間を中心に、航空機の型式証明の合同実施、整備事業者の認定制度の整合化等従来よりも一歩進んだ相互承認の推進が図られつつある。

(4)環境規制に関する国際的な取組みの進展
 航空機の騒音規制については、ターボジェット飛行機、プロペラ飛行機及びヘリコプターについてICAO標準が定められているが、我が国の騒音基準適合証明制度においては、これまでターボジェット飛行機についてのみ騒音規制を行ってきており、プロペラ飛行機及びヘリコプターについては、機数が限られていること等の理由から騒音規制は行われず、今日に至っている。
 しかしながら、近年、これらの航空機に対する騒音規制が国際的にも定着してきており、また、我が国においてもヘリコプターの機数が急増してきているなど、これらの航空機についても騒音問題を生じかねない情勢にある。
 また、航空機の発動機の排出物規制についてもICAO標準が定められている。現在、我が国では当該規制は導入されていないが、近年、諸外国においてその導入に向けた動きが顕著になっている。さらに、1993年(平成5年)11月に発効した海洋法に関する国際連合条約においては、締約国に対して航空機の発動機の排出物規制を行うことを求めており、我が国においても同条約の批准に向けて作業が進められている。


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