第1章 自動車に係る基準・認証制度を巡る状況

1.自動車を取り巻く国際情勢
(1)世界の主要国における自動車の流通の概況

 世界の自動車の保有台数は、平成7年(1995年)末現在で約6億4,700万台である。日本は、米国に次ぎ世界全体の約1割を占める約6,700万台の自動車を保有しており、世界第2位の自動車保有国となっている。
 また、生産台数で見てみると、平成7年(1995年)における世界の主要国の自動車生産台数は約5,000万台であり、このうち日本国内の自動車生産台数は約1,000万台であり、世界全体の約2割を占めている。
 近年、日本を始めとする欧州、米国等の自動車先進国においては、自動車社会の成熟化等により保有台数及び生産台数の伸びがわずかである一方で、日本を除くアジア地域においては、保有台数が著しく伸長しており、韓国、中国、タイ等においては、生産台数も急増している。
 平成7年(1995年)の新規登録台数で見ると、日本が約690万台、欧州が約1,590万台、北米が約1,630万台であり、これに対し、日本を除くアジアの規模は近年急速に伸びているものの、まだ日本の約8割程度である。また、平成7年(1995年)における世界主要国の新規登録車(統計の得られない一部の国においては輸入車)の製作者母国(各自動車製作者の主たる本社所在国)別の台数の順位では、日本は欧州以外の世界のほぼ全ての国において1位又は2位を占め、欧州においても上位を占めており、世界の国々で日本車が大きな役割を果たしている。
 自動車の輸出入については、平成7年(1995年)の地域別輸出台数では、日本、欧州、北米の順に多く、近年、韓国が顕著な伸びを見せている。また、地域別輸入台数は、北米、欧州が多い。
 世界の主要経済圏間の自動車流通の状況をみると、輸出台数については、日本から米国、日本から欧州、欧州から米国、日本からアジアの順に多く、日本は、米国、欧州、アジアのいずれの経済圏に対しても輸出超過となっている。また、欧州は、米国に対して大幅な輸出超過であるが、日本に対しては輸入超過となっている。

(2)自動車メーカー及び自動車部品メーカーの国際化の現状

 乗用車については、日本車の品質向上等による日本からの輸出の拡大、それに伴う貿易摩擦の激化を経て、昭和60年代(1980年代半ば)以降、欧州及び米国において日系自動車メーカーの現地生産が本格化し、平成7年(1995年)には、海外生産拠点はおよそ50か国・地域となっている。
 一方、日本の自動車輸入台数の増加とともに、欧米の自動車メーカー及び自動車部品メーカーの日本への販売分野での直接進出が一般化する傾向にあり、外国製部品の使用も拡大している。また、このように自動車生産の多国籍化や自動車流通の国際化が進む中で、日本の自動車メーカーと世界各国の自動車メーカーとの協力・連携が活発になる傾向にある。
 日本の自動車メーカーの海外展開とともに、日本の自動車部品メーカーの欧米への海外進出・生産が活発になっている。また、アジア等においては、昭和60年(1985年)の円高を契機として、日本の自動車部品メーカーの進出が加速され、それ以前に進出していた日本の自動車メーカーの技術指導等による現地部品メーカーの発展と相まって、自動車部品の現地生産が本格化している。

2.自動車に係る基準の現状と動向
(1)日本の自動車に係る基準の現状と動向

 自動車に係る基準は、自動車の安全性の確保及び公害の防止の観点から自動車の構造、装置及び性能に関して国が定めた技術要件であり、試験方法(試験機器、試験条件等)及び判定基準から構成され、以下の原則に基づき規定されている。
 ・事故の発生を未然に防止し、事故時の被害を最小限とすること。
 ・国民の健康を保護するとともに、生活環境を保全すること。
 ・自動車の製作又は使用について不当な制限を課すものでないこと。
 安全基準については、交通事故の実態のほか、交通環境の変化、技術開発の進展等に対応して運輸技術審議会の答申に基づき適宜改正を行っており、また、公害防止基準については、安全基準と同様に自動車公害の実態等に対応して中央環境審議会答申に基づき適宜改正を行っている。
 なお、これらの自動車安全・公害防止基準は、道路を運行する全ての自動車に義務付けられているものであり、いわゆる強制規格と呼ばれるものである。これに対して任意規格は、生産の合理化、使用・消費の合理化、取引の公正化等を図ることを目的としており、いわゆる強制規格とは目的を異にしている。
 自動車分野における任意規格としては、世界貿易機構(WTO)協定上の国際標準とされるべき国際標準化機構(ISO)規格が試験方法を中心に定められており、世界的に統一化される方向にあるが、一方で、SAE(米国)、DIN(ドイツ)、JIS、JASO(日本)等として各国独自の規格が引き続き使用されている。

(2)各国の自動車に係る基準の現状と動向

 自動車の安全・公害防止基準は、各国における交通事故、交通環境のほか、自己責任、製造物責任(PL)等についての考え方を含む社会環境等を考慮して制定されるため、国毎に差異がある。
 欧州各国では、大陸内での陸上交通の必要性から、基準の整合が図られているが、日本、欧州、米国の間では、国境を越えた自動車による相互交通がなく、昭和40年代(1970年代前半)までは自動車の国際流通もわずかであったことから、基準の整合を図る必要性に乏しかった結果、それぞれの基準の対象に共通点もあるものの、その内容は一般的に異なる。
 また、アジアでは、急激なモータリゼーションの進展に伴う交通事故の増加や大気汚染問題に対処するため、自動車の安全・公害防止基準の制定が各国独自に進められつつあり、制定される基準は、日本、欧州、米国のいずれかの基準を構造、装置及び性能毎に選択して採用する傾向がある。
 このように開発途上国を含めた各国の基準が多様であることは、仕向地の基準に応じた開発・設計及び生産が必要となるため、基準の統一が図られていれば回避可能である負担が自動車又は自動車部品の製作者にかかることになり、国際流通の阻害要因の一つとなると考えられる。また、特に、自動車の専門知識に乏しい個人による輸入は、各国の基準の相違により困難な状況である。
 なお、各国における自動車安全基準の詳細については、平成4年3月の運輸技術審議会諮問第15号「自動車の安全確保のための今後の技術的方策について」に対する答申等に詳しく述べられている。

3.自動車に係る国際基準調和の現状と動向
(1)自動車に係る国際基準調和の意義

 自動車に係る国際基準調和とは、経済の地球的一体化を踏まえ、自動車及び自動車部品の技術開発及び共通化を容易にするため、各国の相違する基準について、あるいは新たな項目の基準について国際的に統一した基準を策定することをいう。
 基準の調和により、自動車及び自動車部品メーカーにとっては、開発・生産コストの削減が可能となり、自動車ユーザーにとっては、購入価格の低減や車種選択の多様化が図られる。
 一方、基準調和による影響として、自動車市場の地球的一体化が促進されるため市場競争原理が一層強く働くことや、各国が規制の水準を維持しようとするため全体として厳しい基準で調和されることが考えられる。

(2)国連における国際基準調和

 1949年に国連道路交通条約が締結され、自動車交通に係る技術上の国際的な基準が策定されたが、このうち自動車に関する基準は、多国間を通過する国際交通に関連した基準である灯火器の灯光の色等に限定された規定であった。
 自動車の国際流通が多く、国際交通も盛んな欧州では、各国基準の整合を図ることが必要であるとの認識に立ち、1953年に発足した国連欧州経済委員会・車両構造作業部会(ECE/WP29)において制定されたECE1958年協定に基づき、これまで 103項目(平成9年3月現在)のECE規則の作成を行っている。なお、ECE規則の一部には、任意の国際規格であるISOに定められている試験方法等を採用しているものもある。
 ECE規則は、欧州域内の国々が中心となって策定してきた基準であるが、日本は、約10年前から米国とともに、ECE/WP29の場で乗用車のブレーキ、灯火器の取付位置、側面衝突の3項目を中心に、調和作業のためのデータの作成、日本の意見の提出等により、日欧米間の基準調和活動に取り組んできた。各国の基準に対する考え方は異なっており、安全性が確保されることを客観的に判断する必要があったことから、長期間と多大な労力を費やしたものの、これらのうちの2項目(ブレーキ、灯火器の取付位置)については、先般、世界統一基準がまとまったところである。
 運輸省は、その後、自動車の装置に係る国際基準調和の促進を図るため、平成7年(1995年)6月、ECE1958年協定の締約国となるべく同協定に加入する意向を表明した。
 米国は、これまでECE1958年協定の改正後に締約国となる方針であったが、1国1票の多数決制は欧州主導となることから、ECE1958年協定改正の最終段階において取り止め、現在、同協定と並立する米国の新協定案により世界統一基準策定の場を作ることを目指している。

(3)地域的なフォーラムにおける国際基準調和

 APECにおいては、域内の自動車部品の技術基準の調和を図るための道路輸送調和プロジェクトが開始され、また、大西洋間ビジネス対話(TABD)においても、欧米間の貿易の拡大のために基準調和に取り組む旨の原則を掲げている。
 なお、これらの地域的なフォーラムでは、ECE/WP29での成果を活用した基準調和が適当であるとの意見がこれまでのところ大勢であるが、仮にそれぞれの地域で独立して基準調和を進めることとなると、各国毎の基準が集約されて国際的な調和に近づくものの、様々な地域的調和基準が多数生まれ、世界統一基準を作るうえでは、複雑なプロセスにつながるおそれがある。

4.自動車に係る認証制度の現状と動向
(1)自動車に係る認証制度の意義

 自動車の認証制度は、自動車の交通事故による被害の甚大性及び自動車公害の大規模性に鑑み、安全・公害防止基準に適合していない自動車の使用を未然に防止するため、基準適合性を政府等の公的機関があらかじめ確認し、公証する制度である。この認証制度は、自動車メーカーに過度の負担を与えることのないよう、必要最小限のものである必要がある。
 なお、政府等による事前の確認を受けることなく、自動車のメーカー責任において基準適合宣明書を個々の自動車に添付のうえ、自由に販売を行える方式(自己適合性確認方式)を採用している場合もあり、これを政府等が行う認証制度と対比して自己認証制度と呼ぶこともある。

(2)日本の自動車に係る認証制度の現状

 現在、日本では、自動車の基準適合性を事前に確認するための認証制度として型式指定制度があり、型式毎に基準適合性と自動車メーカーにおける均一性確保体制について審査のうえ、型式を指定している。この型式指定を受けた個々の自動車については、自動車メーカーが基準適合性を確認のうえ完成検査終了証を発行し、その提出により新規検査における現車の提示が省略されることとなっている。
 この認証制度は、装置を含めた自動車全体としての認証手続きとしては、審査期間、提出書類等に関し、欧米諸国に比べても同程度に簡素化されたものである。
 また、新規検査の現車提示が必要な場合でも、業務処理の円滑化を図るため、主要な構造・装置が同一である自動車について事前に審査を行う新型届出の取扱いがある。さらに、輸入台数が少数である自動車への特例として、新規検査時の提出書類を一括して事前審査する輸入車の特別な取扱いのように、貿易不均衡是正の観点から過去に導入された、国産車に比べて輸入車を優遇する措置がとられている。
さらに、灯火器等一部の装置に関する型式認定制度では、基準適合性及び品質管理体制を審査のうえ、型式認定を行っており、自動車の型式指定や新規検査の際に型式認定品であることを参考として審査や検査を行っている。しかし、現行の制度は、対象とする項目数が少なく、装置の単品での流通が輸入も含めて拡大するとともに、装置が車種間や自動車メーカー間を超えて共通化している現状に十分対応できる制度とはなっていない。

(3)各国の自動車に係る認証制度の現状と動向

(欧州)
 欧州各国では、自動車等について基準適合性を政府が事前に確認するため、認証の取得を義務付けており、さらに自動車としての認証を取得する前に各装置毎に認証の取得を義務付けている。
 なお、欧州連合(EU)域内15か国においては、乗用車について、1998年1月までに各国毎の認証制度から欧州共同体(EC)指令に基づく統一認証制度への移行が完了することとなっている。また、トラック・バスに関しては、現在、各国毎に認証を行っているが、乗用車と同様の制度とするための検討が進められている。
 装置認証制度については、EC指令に基づくものとECE1958年協定に基づくものがあり、EU域内では、ECE1958年協定に基づく認証を取得すればEC指令に基づく認証は不要との制度が設けられている。
 イギリス、フランス等では、生産台数が極めて少数である自動車及び個人輸入の自動車の認証(日本の新規検査に相当)において、前面衝突試験のような破壊試験等の過大な負担となる試験の場合には、試験以外の方法によって適合性を証明することが認められている。
(米国)
 米国においては、排出ガス基準について政府の行う認証の取得を義務付けている。一方、安全基準については認証制度はなく、生産・販売前に自動車メーカー自ら基準適合性を確認し、その後、政府が新車を市場から買い取って試験することにより基準適合性を事後的に確認し、不適合の場合にはリコール(メーカーによる無償回収修理)を行う自己適合性確認方式を採用している。
(その他の国々)
 オーストラリアにおいては、自動車メーカー等の社内試験データ等について書類審査を行うことにより政府が認証する制度を採用している。
 アジア諸国においては、自動車社会の進展に対応し、各国が政府による認証制度を順次導入しつつある。

5.自動車に係る相互承認制度の現状と動向
(1)自動車に係る相互承認制度の意義

 相互承認制度は、協定等の政府間の取極めに基づき、相互に他国(通常は生産国)の政府の認証を承認することにより受け入れ合う制度である。
 相互承認により生産国における認証を取得した自動車等については、各国毎の認証手続きが不要となる。すなわち、相互承認制度を導入することにより、装置・部品の共通化の進展、海外からの装置・部品調達の拡大等といった自動車を取り巻く最近の国際情勢の中で、認証に要する期間の短縮、費用の削減や自動車ユーザー等の負担軽減となり、自動車等の国際流通の拡大を促進することができる。
 自動車等の認証の相互承認には、自動車全体を対象とする場合と、自動車の装置を対象とする場合がある。この他、認証時の試験結果のみを受け入れ合う方法も考えられる。

(2)自動車に係る相互承認制度の現状と動向

 自動車等に関する多国間の相互承認制度としては、ECE1958年協定に基づきECE規則による認証を相互承認する制度が唯一のものであり、欧州の28か国間で実施されている。同協定は、これまで欧州のみの協定であったが、平成7年(1995年)10月に日米等の意見も取り入れて改正され、世界各国に開かれた協定となった。
 APECにおいても、オーストラリアから自動車等の相互承認取極め(MRA)モデルが提案されるなど、相互承認制度の導入について検討が行われている。
 また、EUとオーストラリアは、自動車等の試験結果に関する相互承認協定を取り交わす見込みである。


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