第2章 自動車に係る基準の国際調和のあり方

1.自動車に係る基準の国際調和に向けた基本的考え方
(1)国際基準調和の基本的理念

 自動車等の国際流通及び自動車による国際交通の円滑化を図るため、各国独自基準ができるだけ少なくなるよう、国際基準調和を推進する必要がある。この場合には、公害防止基準を含む全ての基準を対象とし、自動車ユーザーの利益及び自動車業界への影響を考慮する必要がある。
 ただし、国際基準調和といえども、各国における自動車の安全性を低下させたり、自動車公害を増大させたりすることは適当ではない。このため、各国における自動車の安全を確保し、公害を防止することができると考えられる範囲内で、各国独自の基準ができるだけ少なくなるよう国際基準調和を行う必要がある。
 なお、開発途上国を含めた国際基準調和に当たっては、先進国の責任や開発途上国の安全確保、公害防止、技術移転、輸出可能性等を考えると、先進国レベルの高い基準で統一的に基準調和する方が望ましいとの考え方があるものの、開発途上国にとって導入しやすいものとするため、暫定的に簡易な基準も選択できるような基準調和を目指すことも考慮する必要がある。すなわち、開発途上国においては、先進国レベルの高い基準を直ちに導入することが困難な場合があるため、それぞれの国情の違いに応じて規制を定めたり、あるいは段階的に規制を強化していくことも現実的な方法である。

(2)国際基準調和を進めるに当たっての考え方

 世界的な調和基準を策定するため、各国(又は地域)間の利害を調整できるような世界フォーラムを設置する必要がある。この世界フォーラムには、現在基準調和作業に参加していないアジア諸国等の開発途上国も参加するよう、その促進を日本としても積極的に図るべきである。なお、最終的には世界的な基準調和を目指しつつ、2国間、地域フォーラム内等で基準調和を段階的に進めることも検討する必要がある。
 既存の基準及び新たな基準について基準を調和する際には、事故データや技術データを基本として、科学的見地から検討していく必要がある。また、各国が一旦定めた基準を調和するには多大な労力を要することから、各国が基準を制定する前や基準を大幅に改正する前の試験機器、試験条件、試験方法等の研究の段階から、国際共同研究を実施することにより、基準調和を図ることが重要である。さらに、基準全体としての調和が困難な場合には、試験機器の仕様の調和、次に試験条件の調和、さらに試験方法の調和、そして判定基準を調和するといった段階的なプロセスも考慮する必要がある。
 この他、基準調和が早期に達成困難な場合には、機能的に同等であると認められる基準について暫定的に他国の基準を受け入れることも、基準調和と同様な効果を有するとの考え方がある。これまでのところ国際的に認められた機能同等性の概念は確立していないことから、安全性向上自動車(ESV)国際技術会議における国際研究調和プロジェクト(IHRA)での機能同等性についての議論や各国政府の考え方も考慮しながら、その可能性について検討を行う必要がある。また、機能同等性の概念については、科学的裏付けのない安易な妥協が世界的な基準調和を阻害することのないように留意することが重要であり、技術的に合理性のある機能同等性の評価手法の開発が必要である。

2.自動車に係る基準の国際調和のための指針
(1)日本としての国際基準調和のための指針

 日本の自動車生産台数は、近年では世界第1位又は第2位であり、数多くの国において日本車は最大の販売台数を占めている。また、日本の自動車保有台数は世界的にも有数であり、日本は、技術的な知見を多く有していることから、技術移転の観点も含め、積極的に基準調和活動を推進することがアジアを含む多くの国から期待されている。
 このため、今後できるだけ早期に、かつ、できるだけ多くの自動車の安全・公害防止に係る基準の調和を図るべきである。具体的には、基準調和の効果と実現の容易性を考慮し、より重要とされる装置・部品に関する項目を中心に選定して、重点的に基準調和を推進すべきである。
 さらに、日本としては、日欧米の基準をどのように比較し、どのような優先順位で基準調和を行っていくのかの合意形成に向けて、国内の様々な知見を活用しながら、具体的な提案を行うべきである。特に、既存の基準については、各国の基準の背景まで視野に入れた比較検討を行い、具体的な調和基準の提案を行うことが必要である。また、新たな基準については、調和の基本となる試験方法の開発に早期に着手するよう提案を行うべきである。
 これらの作業を円滑に行うため、自動車基準認証国際化研究センター(JASIC)及びその海外事務所を積極的に活用し、国際会議のための事前の調整を欧州及び米国との間で行っていくべきである。
 世界的な基準調和が達成された場合には、可能な限り早期に国内法規に取り込むべきである。加えて、基準調和が達成されていない装置に関する国内基準を制定・改訂する場合にも、将来の基準調和を念頭に置き、従来通り、可能な限り欧州又は米国の基準との整合化に努めることが適当である。
 なお、国際基準調和を進めるためには、日本の政府及び自動車業界が国際基準調和の必要性とその有益性を十分認識し、それぞれが人材の確保、財政的措置等を配慮しつつ、自動車技術会等の学会の協力も得て国際基準調和が促進されるよう積極的に活動するなど、関係者の努力が必要である。
 他方、世界的な基準調和は、日本の輸出競争力を一層高めることを目的としたものであると各国から誤解されることも考えられるので、このような誤解を招かないよう配慮しながら進めていく必要がある。

(2)世界フォーラムの確立と地域フォーラムへの取組みについての指針

 国際基準調和を推進するための世界フォーラムについては、新たに設立することも考えられるが、現在唯一実績のある国際的なフォーラムであるECE/WP29を基本として発展させていくことが現実的である。ECE/WP29は、灯火器の取付位置、乗用車のブレーキ等の基準調和の実績があり、また、近年、日欧米間の基準調和がECE/WP29を中心として積極的に議論されていることから、日本としても、ECE1958年協定に加入することにより、協定締約国としてより発言力のある立場でECE/WP29における国際基準調和の推進を図ることが可能になると考えられる。
 また、日本のECE1958年協定への加入は、ECE加盟国以外では初めてであることから、より世界的な基準の調和を促進するための重要なステップとしても意義があり、他のECE加盟国以外の国の協定加入を促進し、ECE/WP29が日本の考え方も取り入れたより世界的なフォーラムへと発展することが期待できるため、早急に対応すべきである。ECE1958年協定に加入した場合には、ECE/WP29が世界フォーラムに発展していくための要件を明確化して提案するなどの活動により、合意形成に向けた努力を積極的に行うべきである。
 米国との連携は世界的な基準調和を推進する観点から特に重要であるが、日本がECE1958年協定の締約国となることは、世界的な基準調和の推進という米国自動車業界の意にも合致することとなる。また、世界統一基準促進のための米国提案の新協定についても、ECE1958年協定との両立の可能性等について日本の立場から内容を十分吟味したうえで、加入の可能性を検討すべきである。
 APEC等の地域フォーラムにおける自動車の基準調和活動においても、ECE/WP29における基準調和活動との整合を図りつつ、アジア太平洋地域の基準調和が促進されるよう、日本から具体的な提案を行う等積極的に活動すべきである。
 また、大西洋間ビジネス対話その他の国際的な自動車の基準調和の動向を適宜把握し、さらに、安全性向上自動車国際技術会議における国際研究調和プロジェクト等の国際的な役割分担を含めた基準調和のための国際的活動に積極的に取り組むべきである。


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