第5章 国際化対応として有効な方策

第1節 分解整備検査の見直し
1.分解整備制度の現状
(1)分解整備制度の概要

 分解整備は、安全上重要な部位に係わる自動車の整備として法令で定義されている。この分解整備を自動車ユーザー自らが行った場合には、国による分解整備検査の受検義務を課しているが、自動車分解整備事業の認証制度に基づき認証を受けた自動車整備工場において分解整備が行われた場合には、この分解整備検査の受検義務を課していない。ここで、自動車分解整備事業の認証制度とは、事業として自動車の分解整備を行う場合には認証を受けなくてはならないとする制度である。
 分解整備の定義に関しては、平成7年8月に決着した日米自動車・同部品協議に基づく措置事項として、平成7年10月にショックアブソーバ等4品目を取り外して行う整備を定義から削除した。その後、さらに平成8年8月に定義を全般的に見直し、二輪自動車のクラッチ等を取り外して行う整備を削除したところであり、現在では、制動装置、かじ取り装置等を取り外して行う整備が分解整備に該当している。

(2)自動車分解整備事業の認証制度の現状

 自動車分解整備事業の認証制度は、事業として自動車の分解整備を行う者は認証を受けなくてはならないこととするとともに、その要件として自動車整備士、機器・工具及び作業場面積の技術的な基準を定めたものである。
 ほとんどの自動車ユーザーは、自動車の分解整備についての十分な技能、専門知識又は設備を持っていないことから、自動車の分解整備を通常は整備工場へ委託している。この整備工場の工場数及びその配置等の整備実施体制は、自動車ユーザーからの委託に十分対応できるものとなっている。
 整備工場では自動車分解整備事業の認証の要件によって一定レベルの技術力が担保されていることから、広く自動車ユーザーから委託があった整備について常に確実な整備が確保されている。これにより自動車の安全の確保、さらには公害の防止が図られている。
 また、自動車分解整備事業の認証制度においては、ユーザー保護の観点からも、整備料金の透明性等を確保するために必要な自動車分解整備事業者の遵守事項を定めている。
 この自動車分解整備事業の認証の要件については、時代の要請等を踏まえてこれまで適宜必要な見直しが行われてきたところであり、適切な整備が行われることを確保するために必要最小限のものとなっている。
 なお、欧米諸国においても、ユーザー保護等の観点から、国又は州等において、自動車の整備を事業として行う場合に規制を行っている例が見られる。

(3)分解整備検査の現状

 分解整備は、通常、認証を受けた整備工場で行われているが、自動車の整備についての技能、専門知識及び設備を持っている自動車ユーザーが分解整備を自ら行う場合があり、そのときには国による分解整備検査が義務付けられている。
 分解整備検査は、検査の時点において自動車が保安基準に適合しているか否かを判定するものであり、その実施方法は継続検査の場合と同じである。自動車ユーザーは、分解整備検査を受検する際には国の検査場に自動車を提示し、検査に合格したときは自動車検査証の有効期間が継続検査の場合と同様に更新される。
 分解整備検査の実施状況を見ると、そのほとんどが継続検査を受けるべき時期に実施されている。これは、継続検査を受けるべき時期に行うこととされている点検整備(自家用乗用車の場合は2年毎の点検整備)が多くの場合分解整備に該当することから、この点検整備を自動車ユーザーが自ら行う場合には、分解整備検査を受検する義務が生じることによるものである。この場合において、分解整備検査と継続検査は結果的に同様な役割を果たしており、分解整備検査が継続検査の代わりに受検されている実態となっている。
 また、例えば自家用乗用車の1年毎の点検整備にも、多くの場合に分解整備に該当する項目がある。これらについても自動車ユーザーが自ら行う場合は分解整備検査が必要となり、このことが点検整備の励行促進に影響を及ぼしているおそれがある。
 なお、調査結果によれば、分解整備検査と同様な検査制度は、欧米諸国においては見られない。

2.分解整備制度のあり方

 以上のことを踏まえ、分解整備制度については、次のような考え方と指針により対応することが適当である。

(1)分解整備検査の見直しの基本的考え方

分解整備検査については、世界的な状況も踏まえ、安全の確保を図りつつ、そのあり方について見直しを行う必要がある。見直しに当たっては、平成5年6月の運輸技術審議会の答申「今後の自動車の検査及び点検整備のあり方について」及びこれを踏まえて改正された道路運送車両法(平成7年7月施行)における考え方である、自動車の安全の確保と公害の防止を図りつつ自動車ユーザーによる自主的な保守管理を促すとの方向を踏まえることが必要である。

(2)分解整備検査の見直しに向けての指針

   (a)自動車分解整備事業の認証制度の維持 

 現状では、ほとんどの自動車ユーザーは、分解整備を整備工場へ委託しており、これにより、分解整備が適切に行われることが確保されている。従って、事業として行われる分解整備の場合には、顧客等からの依頼に応じ、多様な構造及び装置について、必要となる様々な分解整備が確実に行われなければならないことを考慮すれば、安全の確保を図るためには、従来どおり認証制度を維持するとともにその確実な運用を図り、適切な技術水準のもとで分解整備が行われることを確保しておく必要がある。また、自動車分解整備事業の認証制度は、公害の防止とユーザー保護の観点からも引き続き維持する必要がある。

   (b)分解整備検査の廃止

 自動車分解整備事業の認証制度に基づく整備実施体制が整っていることから、自動車ユーザー自らが行う分解整備は、自動車の整備についての技能、専門知識及び設備を持っている一部の自動車ユーザーによって一部の分解整備について行われているのが現状であり、また、分解整備検査のほとんどは継続検査を受けるべき時期に受検されている実態となっている。
 このため、平成5年6月の運輸技術審議会の答申及び平成7年7月施行の改正道路運送車両法における考え方である、自動車の安全の確保と公害の防止を図りつつ自動車ユーザーによる自主的な保守管理を促すとの方向を踏まえれば、自動車ユーザー自身の持っている技能、専門知識及び設備の範囲内において自動車ユーザー自身が行う分解整備の適切な実施については、安全確保を図るための措置を講じつつ、自動車ユーザーの自己責任に委ねることが可能であり、また、これにより点検整備の励行促進に資することとなる。
 このことから、安全の確保及び公害の防止に必要な継続検査等の検査制度及び自動車分解整備事業の認証制度を維持することを前提として、世界的にも例がない分解整備検査については、廃止することが望ましい。
 分解整備検査の廃止に際しては、より一層、自動車ユーザーが責任を認識し、安全確保を図るために、分解整備の実施者、実施内容等の記録及びその保存、整備不良車両排除体制の充実、その他広報活動等の措置を検討することが必要である。

第2節 その他の国際化対応方策
1.完成検査終了証の有効期間の見直し

 型式指定を受けた自動車については、個々の自動車の基準適合性の確認はメーカーに委ね、メーカーが一台毎に発行する完成検査終了証の提出をもって、国の新規検査における現車の提示を不要としている。この取扱いは、自動車の部品等の経時劣化等を考慮して、発行後6箇月を経過していない完成検査終了証に限るとしている。
 型式指定を受けた自動車について、完成検査終了証の提出により国の新規検査における現車提示を省略できる期間については、技術的データを基に検討したうえで、EU等から日本への輸送期間等を考慮して、安全の確保及び公害の防止に支障を及ぼさない範囲で延長することを検討すべきである。

2.その他
(1)大量に生産される自動車に対する安全・公害防止基準を大幅に強化する際に、規制への対応が複雑化するにつれて長期間の適用猶予期間を必要とする場合がある。このため、新基準適合車への切替えができる限り早期に行われるよう、自動車メーカーに段階的な切替えを促す方式(フェーズイン)の導入について検討すべきである。
(2)自動車の基準・認証制度において、世界的に採用されつつある国際単位系(SI)を導入する必要がある。
(3)日本の自動車の基準・認証制度は、法律から通達まで様々な文書に規定され、複雑で分かりにくく、外国の自動車の基準・認証制度と整合化を図るうえで困難を伴うとの指摘もあることから、自動車の基準・認証制度の体系をより分かりやすいものとするよう努める必要がある。また、インターネット等による情報提供体制(V−CALS)を整備する必要がある。


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