第1章  経済社会状況の変化と運輸技術施策

1.経済社会状況の変化と運輸技術施策の役割
(1)経済社会状況の変化
 21世紀を間近に控えた今、我が国経済社会は、少子・高齢化の進展や国民意識の高度化・多様化による社会構造の変化、経済のグローバル化の進展に伴う国際的な大競争時代に向けた経済構造の変化など、大きな転換期を迎えている。同時に、大都市への機能集中による各種の弊害や地球的規模の環境問題など、克服すべき課題もこれまで以上に深刻化している。こうした状況のもと、現在、社会・経済・行財政等あらゆる分野において、新たな発展に向けた改革努力が行われている。
(2)交通運輸行政の役割
 交通運輸は国民生活や経済活動の基盤をなすものであることから、国はこうした状況変化への的確な対応と克服すべき課題の解決に努め、21世紀における活力ある我が国経済と豊かな国民生活の実現に向けて積極的に貢献していくことが求められている。
 この場合、交通運輸行政の目的は、効率のよいネットワークを構築し、国民に安全かつ低廉で利便性の高いサービスの提供を確保することにある。このため交通運輸行政は、交通運輸にかかるコストの一層の縮減を図りつつ、人・物が安全に輸送されること(安全性の確保)、人が快適に移動でき、物が効率的に輸送されること(利便性の向上)を確保し、さらに、環境に配慮すること(環境の保全)を基本として、その達成を図るべく適切な施策の立案と実行に努めるなど主導的な役割を担っていく必要がある。
(3)交通運輸行政における技術施策の役割
 交通運輸における政策は、総合計画の立案、公共投資による運輸基盤整備、金融・税制措置による関連投資の誘導、規制や許認可など、様々な施策が総合的にバランスよく展開されてはじめてその効果を発揮する。これらの施策には技術的な基盤を拠り所とするものが多く、こういった技術施策は、先に述べた交通運輸行政の基本である「安全性の確保」、「利便性の向上」、「環境の保全」に関して、主として以下のような役割を果たしている。
(i) 「安全性の確保」
 「事故・災害の未然防止が第一」という認識のもとに、輸送機器や運輸基盤施設に関する性能・構造要件等に関する基準の設定や認証、及び安全性向上に資する技術研究開発の実施と支援を行っている。
 また、交通運輸は国際交流の手段でもあることから、国際条約に基づく基準及び認証制度の確実な履行を図るとともに、「安全性の確保」のための国際的な枠組み作りへの積極的な貢献に努めている。
(ii) 「利便性の向上」
 人及び物の移動の広域化、大規模化、高速化、効率化、快適化等のニーズに対応するため、事業者の自主的努力を促しつつ、これに必要な技術研究開発の実施と支援を行っている。
 さらに近年、高齢社会への急速な移行や障害者の社会参加の容易化などの社会的要請の高まりを受け、高齢者、障害者等の移動制約者対策を中心として輸送機器や運輸基盤施設の設計上の指針を提示するなどの形で「利便性の向上」に寄与している。
(iii)「環境の保全」
 輸送機器や運輸基盤施設に関する環境基準の設定やその達成に向けた各種施策の実施のほか、環境低負荷型システム等環境への影響を考慮した輸送機器や運輸基盤施設に関する技術研究開発の実施と支援を通じて「環境の保全」に努めている。
 また、環境問題には地球的な規模で対応すべき性格を有しているものがあることから、国際条約に基づく輸送機器の基準及び認証制度や大規模事故の場合の汚染防除対策等の確実な履行を図るなど、「環境の保全」のための国際的な枠組み作りへの貢献に努めている。
2.運輸技術施策の今後のあり方を検討するに当たって配慮すべき視点
(1)検討の対象とする運輸技術施策
 運輸技術施策についても、新たな時代に向かっての要請や課題に的確に応えていくことが必要である。本報告においては、運輸技術施策の中で特にその中核をなす以下の二つの施策について、今後の基本的な方向を明確にすることとする。
(i) 技術的規制
 主として「安全性の確保」や「環境の保全」などを目的とする社会的規制として行っている輸送機器及び運輸基盤施設に関する性能・構造要件などの技術的側面からの規制、すなわち技術的規制を今後どのように考えていくべきか。
(ii) 技術研究開発
 高度化・多様化していく交通運輸に対する要請に応えるための技術研究開発を今後どのように考えていくべきか。
(2)検討に当たって配慮すべき視点
 上記の二つの交通運輸技術施策の今後のあり方について、その基本的な方向を明確にするに当たって、以下の3点に配慮する必要がある。
 第一に、運輸技術施策の背景にある、個人や企業が自立した社会の形成に向けた取り組みへの要請、さらにこれに即した国の適正な関与のあり方と効率的で透明な行政システムの構築に対する強い要請に配慮しなければならない。
 第二に、運輸技術施策が、運輸関連事業者の技術的向上への意欲を阻害したり新たな技術の芽を摘むようなことがあってはならず、技術の進展に弾力的に対応し得るものとなるよう配慮する必要がある。
 第三に、交通運輸は国際交流の手段でもあり、国際的枠組みの中で利用されるものが多いことや、経済活動のグローバル化に対応するための企業活動の活性化などにも配慮しなければならない。
 以上を踏まえ、次章以降においては、まず国の関与の必要性を明らかにした上で、ここに示した3つの視点である「行政の効率化、透明化」、「技術の進展」、「国際性」から求められる条件を抽出し、「技術的規制」と「技術研究開発」という二つの運輸技術施策について、今後の基本的な方向を明確にする。


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