安全と環境に配慮した今後の自動車交通政策のあり方について
 −自動車検査証の有効期間及び点検整備の項目等の見直しを中心とした今後の自動車の点検整備及び検査のあり方について−
 第一次答申(平成10年12月10日)


 自動車の点検整備及び検査制度については、技術の進歩及び使用形態の変化等に対応して、最近では、昭和58年及び平成7年に、自動車検査証の有効期間の延長、点検項目の簡素化等が行われてきたところである。
 今般、運輸技術審議会は、平成10年6月に運輸大臣から「安全と環境に配慮した今後の自動車交通政策のあり方について」の諮問を受け、自動車部会に検査・整備小委員会を設け、自動車技術の進歩等に対応した今後の自動車の点検整備及び検査のあり方について、自動車の検査証の有効期間及び点検整備の項目等の見直しを中心に審議を重ね、答申を取りまとめた。
 審議に当たっては、広く関係各方面からの意見を聴取する機会を設けるとともに、自動車の安全の確保及び環境の保全を前提として、最近の自動車技術の進歩及び自動車の使用形態の多様化等の状況の変化や諸外国の状況を踏まえ、あわせて自動車ユーザーの負担軽減の観点にも配慮しつつ、検討を行った。
 今後、運輸省においては、本答申の趣旨に沿った方策を講じ、その円滑な実施が図られるよう望むものである。

1 自動車を取り巻く状況
(1) 使用の態様
 我が国における自動車保有台数は、依然増加を続け、平成10年3月末現在で約7千万台(四輪車)に達している。これは世界の自動車保有台数の約1割を占める。
 また、我が国の可住地面積1平方キロメートル当たりの自動車保有台数は467台と米国の16倍、旧西ドイツの2.5倍の高密度車社会となっている。
 さらに、自動車は、平成8年度の貨物輸送量で約3,100億トンキロ、旅客輸送量で約9,300億人キロとなっており、これは全輸送機関の各々53%、66%を占め、社会的にも経済的にも重要な役割を担っている。
(2) 交通事故の現状
 交通事故による死傷者数は、昭和62年の73万人が平成9年には97万人と10年間で約1.3倍に増加するなど、近年一貫して増加傾向にあり、総合的な事故防止対策が求められている状況にある。
 全人身事故のうち、自動車が第一当事者となった事故について自家用・事業用別、用途別に保有台数当たりの事故発生状況を比較すると、死亡事故では事業用貨物車が自家用乗用車の6倍となっている。また、総じて事業用自動車が自家用自動車に比べて高くなっている。
 事故原因別では、整備不良を原因とする交通事故発生件数の割合は、財団法人交通事故総合分析センターの交通事故事例調査から推定すると1.5%程度と考えられる。
(3) 交通渋滞の現状
 交通渋滞は、全国の高速道路で年々増加傾向となっている。
 首都高速道路における平成8年度の年間渋滞発生回数は約1万回であり、平成4年度の調査では、総渋滞回数に占める事故や故障による割合は18%であり、このうち故障によるものが3分の1となっている。
 このような車両故障を原因とする渋滞の社会的損失額は、平成8年で約6千億円にのぼるとの推計もある。
(4) 環境問題の現状
 大気汚染については、大都市を中心に環境基準を達成していない地域が多く、依然厳しい状況にある。首都圏においては、自動車からの窒素酸化物(NOx)の排出割合が半分以上を占め、車種別の総排出量では普通貨物車が最も大きい。
 温室効果ガスとして問題とされている二酸化炭素の排出量の約17%は自動車に起因するものである。また、ディーゼル自動車から排出される粒子状物質についても、発がん性や気管支ぜん息等健康影響との関連が懸念されている。
 自動車騒音についても環境基準を達成していない地域が多くある。
(5) 技術進歩の状況
 自動車は、走行すると摩耗・劣化する部品や走行しなくても時間の経過とともに劣化する部品等を多く使用しており、適切に保守管理が実施されることを前提に製作されている。
 近年、自動車メーカーにおいては、ABS、エアバッグ、リターダ、ディスチャージドヘッドランプ等の新たな技術の導入が進展しており、また、電気自動車やハイブリッド車等新たな車両開発も行われてきている。さらに、自動車の保守管理を容易にするため、タイミングベルト警告灯等の故障摩耗等警報装置の開発・普及が行われてきている。
2 自動車の点検整備及び検査の現状
(1) 見直しの経緯
 自動車の点検整備及び検査制度については、モータリゼーションが成熟する中で、時代の要請に対応して適宜見直しが行われてきている。
 最近では、自動車の点検整備について、昭和58年3月に点検項目の大幅な簡素化が行われ、平成7年7月には自動車の使用者の保守管理義務を明確化するとともに、自家用乗用車等の6か月点検の廃止、運行前点検を日常点検に変更する改正及び点検項目の簡素化が行われた。
 自動車検査制度については、昭和58年7月に自家用乗用車の有効期間が初回の新規検査後2年から3年に延長された。また、平成7年7月には、車齢が11年を超える自家用乗用車等の有効期間が1年から2年に延長された。さらに、平成10年11月には、分解整備を実施した場合に自動車ユーザーに義務付けられていた分解整備検査が廃止された。
(2) 自動車ユーザーの意識
 自動車ユーザーの大多数は安全走行の確保のため自動車の検査が必要であると考えているが、他方において検査時における費用は高いと感じている自動車ユーザーもいる。これは、検査の際には、検査の手数料以外に点検整備を実施する費用、自動車重量税、自動車損害賠償責任保険料等が必要であり、多くの人にとって、これらの費用を含めた全体が検査における費用としてとらえられていることによるものと考えられる。また、費用だけではなく、検査に要する時間等の手間に負担を感じている面もある。
 なお、多くの自動車ユーザーは点検整備が必要であると考えているが、例えば、トラックの点検整備費用について見ると、年間の点検整備に要する総費用は日本と諸外国との間に大きな差はないものの、検査の際に要する点検整備の費用が年間費用に占める比率は、諸外国では約1〜2割であるのに対し、日本は約4割と高くなっており、これが検査の際の負担感の一つの要因ともなっていると考えられる。
(3) 多様化の進展
 平成7年7月に自動車の検査・点検整備制度の大幅な見直しが図られて以降、自動車検査の受検方法及び整備事業者の提供する整備サービスの多様化が進展してきている。
 自動車ユーザー自らが自動車検査場に車を持ち込み、検査を受けるいわゆる「ユーザー車検」も増加してきており、平成9年度には約160万件(継続検査全体の7%)に達している。
 また、整備業においては、例えば、数時間以内の短時間の車検整備や整備の前に点検を行い、その結果に基づき自動車ユーザーが整備の内容を選択できる新しい形の整備等、ユーザーニーズに対応するための取組がなされてきている。
 このように検査・整備の多様化が進みつつあり、自動車ユーザーの選択が可能になるとともに、整備料金は全体として低廉化の傾向が見られる。しかしながら、検査・整備の多様化の進捗の状況は地域的にあるいは車種によって差が見られ、また、新しい整備サービス等が必ずしも自動車ユーザーに十分活用されていない面も見られる。
(4) 諸外国の状況
 諸外国においては、点検整備について、法令上の規定により自動車ユーザーに自動車の一般的な保守管理義務が課せられており、その実施は自動車メーカーの推奨する点検項目や点検時期に基づいて、自動車ユーザーの自主的判断により行われている。
 自動車の検査制度については、諸外国においても安全及び排出ガスについて検査時点における法令への適合性を確認するものであり、また、各装置の亀裂、がた、緩みがないか等の確認、ブレーキ性能等の確認、ヘッドライトの光度・光軸等の確認、一酸化炭素(CO)・炭化水素(HC)ガス濃度の確認等の検査内容も、日本とほぼ同様の制度となっている。
 自動車検査証の有効期間についてみると、総じて日本とほぼ同程度の期間設定となっているが、車両総重量3.5トン以下の貨物車はベルギーを除く欧州諸国が日本より長い期間となっており、レンタカーは各国において異なっている実態にある。
3 自動車の点検整備の基本的考え方及び審議結果
(1) 基本的考え方
(i) 保守管理の意義
 自動車は、走行に伴い摩耗・劣化する部品や走行しなくても時間の経過とともに劣化する部品等が多く使用されていることから、走行、あるいは、時間経過とともに必ず劣化するものである。
 このような自動車の特性から、自動車メーカーにおいては、適切に保守管理がなされることを前提として自動車を製作している。
(保守管理を必要とする部品等)
 ・走行により摩耗・劣化し、又は緩む部品
  :ブレーキパッド・ライニング、タイヤ、クラッチディスク、ボルトナット等
 ・経年により劣化・減少する部品
  :ベルトやダストブーツ等ゴム類、ブレーキオイル、バッテリー等
 したがって、自動車においては、適切な保守管理を行わなければ、場合によっては不具合に起因する事故、排出ガス等の公害を増大させ、自動車ユーザーのみならず同乗者や通行人等の第三者にも影響を与える可能性が大きくなる。
 これらの社会的影響を最小限にとどめるためには、自動車ユーザーは、常に自分の自動車の保守管理を適切に行う必要がある。
(ii) 制度の考え方
 自動車の保守管理は、一義的には自動車ユーザーの責任の下になされるべきものである。しかし、我が国においては、狭い国土で過密な交通状況にあるため、交通事故や交通公害等も依然として厳しい状況にあり、安全の確保、環境の保全に対する社会的要請もあり、また、欧米に比べてモータリゼーションの始まりが遅かったこともあり、必ずしも自動車ユーザーによる自主的な保守管理が十分実施されていない現状に鑑み、国が標準的な使用状況に対応した必要最小限の点検時期、点検箇所、点検方法を明示し、点検を義務付けることにより必要な整備を促している。
 国が定める点検整備には、自動車ユーザーが自ら実施可能な容易な作業であり、日常の自動車の使用の中で適宜適切な時期に行う「日常点検整備」と、標準的な使用状況を前提として、車両の劣化度合等を考慮し点検の項目と時期を設定して義務付けている「定期点検整備」がある。
 自動車ユーザーによる自主的な保守管理が定着すれば、将来的には、点検整備を自動車ユーザーの自己責任に委ねることも考えられるが、我が国においては点検整備制度が永年定着し、重要な役割を果たしていると考えられることから、現段階では、引き続き維持すべきであると考える。
 しかし、この点検整備制度は、自動車ユーザーによる自主的な保守管理の実施状況、自動車技術の進歩、使用状況の変化等を勘案し、諸外国の状況も考慮しつつ、段階的に見直しを図っていく必要があり、今般、このような状況の変化を踏まえ、自動車ユーザーの負担の軽減にも配慮しつつ、定期点検の時期及び項目等の見直し検討を行うものである。
(2) 定期点検等の時期及び項目の見直し
(i) 見直しの方法
 定期点検の時期及び項目の見直しに当たっては、自動車技術の進歩、使用状況の変化に対応するために、点検の結果何らかの整備作業が必要とされた割合(要整備率)を指標とし、この要整備率を基本として、以下の考え方に沿って検討を行った。
(ア) 要整備率が低い項目については、廃止又は実施時期の延長を検討する。
(イ) 要整備率が低くない項目であっても、点検が目視等により容易に確認できること、整備の主な作業が清掃等軽微であること、又は安全の確保等に必要な措置を講じることにより、日常点検に委ねるか又は実施時期の延長を検討する。
(ウ) 安全の確保及び環境の保全の観点から重要な項目は維持する。
(ii) 見直しの結果
 現在の定期点検の車種区分に従って見直しを行った結果は、以下のとおりである。
(ア) 事業用自動車及び車両総重量8トン以上の自家用自動車等
 現在、事業用貨物車、自家用の車両総重量8トン以上の貨物車、バス、事業用乗用車、レンタカーの貨物車等については、1か月、3か月、12か月ごとに実施する定期点検の項目が規定されている。
(a) 1か月点検の廃止
 1か月点検については現行の25項目のうち、タイヤの空気圧等5項目については、点検としての作業が容易であることから日常点検項目に、パワーステアリング装置のベルトの緩み等20項目については、要整備率が低いことから3か月点検項目に移行することが可能である。その結果、1か月点検については廃止することができる。
 なお、3か月点検へ延長された項目のうち、保安上重要であり、かつ、使用状況が過酷な場合があるものに関しては、自動車メーカーの推奨による点検項目として点検時期を設定することが望ましい。
(b) 3か月点検項目及び12か月点検項目の見直し
 3か月点検項目については、要整備率が低い燃料装置の噴射ノズルの噴射圧力及び噴霧状態等数項目を廃止するとともに、要整備率は低いものの、安全上重要なかじ取り装置のロッド及びアーム類のダストブーツの亀裂及び損傷等数項目については12か月点検項目に移行することが可能であり、その結果、現行の40項目を30項目程度に整理できる。
 また、12か月点検項目については、要整備率の低い原動機の圧縮圧力等10数項目を廃止することが可能であり、その結果、現行の62項目が45項目程度に整理できる。
 以上の結果から、この車種区分における定期点検時の項目数は、3か月点検時に必要であった65項目(1か月と3か月の点検項目の合計)が概ね50項目程度に、12か月点検時では全部で127項目(1か月と3か月と12か月の点検項目の合計)を概ね100項目程度に簡素化することが可能である。
 以上の見直しの結果をまとめると次表のとおりとなる。
<事業用自動車等における見直しの結果>
定 期 点 検 項 目 数
1か月ごと3か月ごと12か月ごと
現   行
(適用全車種合計項目)
25項目65項目127項目
  大型貨物車 25項目程度60項目程度100項目程度
  事業用乗用車 20項目程度55項目程度105項目程度
見直し後 廃 止50項目程度100項目程度
  大型貨物車 廃 止45項目程度75項目程度
  事業用乗用車 廃 止40項目程度80項目程度
(イ) 車両総重量8トン未満の自家用自動車、レンタカーの乗用車等
 現在、車両総重量8トン未満の自家用自動車、レンタカーの乗用車、小型二輪車等については、6か月、12か月ごとに実施する定期点検の項目が規定されている。
 車両総重量8トン未満の自家用自動車等の6か月点検項目に関して見直した結果、一部を日常点検又は12か月点検項目に移行することが可能であり、27項目を20項目程度に整理できる。12か月点検項目に関しては、20項目程度について廃止等の整理が可能であり、72項目を50項目程度に整理できる。これにより、6か月点検項目を含めた12か月点検時の点検項目数は、99項目を75項目程度に簡素化することが可能である。
 また、小型二輪車については、6か月点検項目に関して見直した結果、一部を日常点検又は12か月点検項目等へ移行することが可能であり、20項目を15項目程度に整理できる。12か月点検項目に関しては、一部廃止するなどが可能であり、36項目について数項目程度廃止し、整理する。これにより、6か月点検項目を含めた12か月点検時の点検項目数は、56項目を50項目程度に簡素化することが可能である。
(ウ) 自家用乗用車等
 現在、自家用乗用車等については、1年、2年ごとに実施する定期点検の項目が規定されている。
 この項目について見直した結果、2年点検項目を数項目程度廃止することが可能である。これにより、1年点検項目を含めた2年点検時の点検項目数は、60項目を50数項目程度に簡素化することが可能である。
(3) 定期点検等の弾力的運用
(i) 走行距離の加味
 定期点検を行うべき時期については、管理の容易性から、期間に基づいた設定としている。
 しかし、自動車の劣化には、ゴム製品やオイル等のように経年劣化するものと、しゅう動部の摩耗、緩み等のように主として走行距離の増加に伴って劣化するものがある。
 このため、期間だけで定期点検の時期を設定する場合、平均的な使用状況の自動車に比べて極めて走行距離が少ないものに対しては、過大な負担となる可能性が生じてくる。したがって、走行距離の少ない自動車ユーザーへの負担を軽減することに配慮して、走行距離の増加に伴って劣化する度合いが大きい項目について、走行距離を加味した点検時期を設定して対応することが考えられる。
 以上の考え方は自家用乗用車において既に導入されているが、貨物自動車、バス等についても、重量物や人員を大量に輸送するなど過酷な使用状況が多いことや、公共性や加害性が強いことを考慮したうえで、導入することが必要である。
 具体的には、動力伝達装置のシャフトの連結部の緩み等、自動車ユーザーの運転操作の状況等による影響が少なく、劣化度合いが走行距離に依存する可能性が高い項目に導入することが適当である。
(ii) 使用状況の加味
 国が定める点検項目は、車種や用途により大きく区分され、自動車の安全の確保及び環境の保全を図るために標準的な使用状況に対応した必要最小限の規定となっている。さらに個別の車種やその使用状況に応じたきめの細かい点検を実施するためには、自動車メーカーによる推奨項目として定めることが適当である。この場合、走行距離の多いものあるいは過酷な使われ方をするものについては、点検の間隔を短縮することが適当である。
 このような考え方は、既に自家用乗用車において導入されているが、貨物自動車、バス等についても技術的に検討を行ったうえで、導入していくことが適当である。
 具体的には、悪路での使用の状況、発進停止回数の頻度、海浜地域や降雪地域における腐食の影響、積載重量の実態等を検討し、車種に応じた内容とすることが考えられる。
 また、バス、事業用乗用車等のシートベルトについては、乗客保護の観点からその活用の一層の促進を図るため、その取付状態を日常点検に追加して確認することが望まれる。
(iii)使用実態等に対応した部品の定期交換
 定期交換部品とは、その品目及び標準的な交換時期を自動車メーカーが明示して、自動車ユーザーに対して一定の期間ごとに交換することを推奨している部品である。
 自動車メーカーにおいては、独自で耐久性の向上を図るとともに、使用実態の把握による安全性の確認を行ったうえで、適宜、これらの品目及び交換時期の見直しを行っている。
 その際、自動車の使用実態等に適切に対応したものとなるよう、交換時期の延長及び定期交換部品の削減に努めることが望まれる。
4 自動車検査の基本的考え方及び審議結果
(1) 基本的考え方
 自動車の保守管理は、一義的には自動車ユーザーの責任の下になされるべきものであるが、自動車は、交通事故、環境汚染により、自動車ユーザー自身の生命、身体のみでなく、第三者の生命、身体にも影響を与える危険性を内包しているため、国は、自動車の安全確保と環境保全を図る観点から、安全及び環境に関する基準を定め、自動車検査により、各車両がこの基準に適合することを確認している。
 この検査において点検整備記録簿の提示を求める等により、自動車ユーザーに確実な点検整備を促し、点検整備制度と相まって、自動車を良好な状態に維持することとしている。また、自動車検査は、安全及び環境に関する基準の不適合箇所を是正することにより、基準に不適合な自動車を排除するとともに、不正な改造を防止するという目的も合わせて有するものである。
 このため、自動車検査は、使用過程車について、不具合により発生する事故や交通渋滞といった第三者に与える影響を防止するとともに、大気汚染、道路騒音、地球温暖化等の環境への負荷を低減する効果があり、安全確保と環境保全を図る有効な手段となっている。
 なお、このような自動車検査の役割は、諸外国においても同様であり、検査の導入・強化は世界の趨勢となっている。
 さらに、日本では検査の機会を利用してリコール対策の状況を確認することによりリコール未対策車両の回収を確実なものとしており、検査は、リコール制度の実効性を高める手段としても活用されている。
(2) 自動車検査証の有効期間等の見直し
 自動車技術の進歩、自動車使用の態様の変化等を踏まえながら、我が国の自動車検査制度とその運用について概観すると、現行の制度は概ね妥当なものであると考えられるが、ここでは、自動車関係者からの意見聴取等を基に、特に自動車ユーザーの関心が高い自動車検査証の有効期間を中心として、検討を行った。
(i) 見直しの考え方
(ア) 自動車検査の間隔は、現在、自動車検査証の有効期間として定められている。この間隔は、自動車の安全の確保及び環境の保全を図るという目的を達成するため、合理的に設定することが必要であり、具体的には、次の各視点等を総合的に考慮しつつ定められるべきものである。
・自動車の安全の確保及び環境の保全に係る不具合の発生状況
・自動車の不具合が交通事故及び環境汚染に与える影響
・走行距離が長いかどうかなど自動車の使用実態
・広く多くの人が利用するかなど自動車の公共性
・自動車ユーザーの保守管理状況
・諸外国における自動車検査の間隔
 この場合において、自動車の不具合の発生状況は、積載条件、走行路の状態等の使用条件及び点検整備の状況により差があるが、基本的には走行距離が増加することに伴い、自動車の各部位において摩耗・劣化が進み、自動車の不具合は増加すると考えられる。また、不具合の状況が同じ場合には、整備不良による事故の発生の確率は、年間走行距離に比例すると考えられる。このため、自動車の安全の確保及び環境の保全に係る不具合の発生状況、年間走行距離が長いかどうかなど自動車の使用実態を自動車検査の間隔の見直しの際の基本とすることとした。
(イ) 自動車検査は、一定期間ごとという間隔でなく、一定走行距離ごとに行う方が良いのではないかとの指摘もあるが、以下の点から走行距離ではなく期間により定めることが適当である。
・検査を受けるべき時期が、自動車ユーザーにとって分かりやすい。
・走行距離による管理が難しい。
・積算走行距離計には改ざん、故障等の問題が予想される。
・自動車の構造・装置の中には、時間の経過に伴って劣化するものがある。
・諸外国においても、自動車検査の間隔を走行距離により定めているところは無い。
(ii)見直しの結果
(i)に述べた自動車検査証の有効期間の見直しの考え方に基づき、平成9年度に行われた調査結果、各方面からの意見等可能な限り幅広い情報をもとに、自動車検査証の有効期間について総合的な検討を行った結果は、以下のとおりである。
(ア) 貨物車
 貨物車については、その大きさは様々であり、大きさに応じて使用形態等に違いがあり、大きな貨物車ほど走行距離が長く、不具合率(検査の際の整備前における基準不適合車の割合)が高くなり、また、重大な事故に至る頻度が高くなる傾向にある。このため、現在同一となっている貨物車の有効期間の検討は、大きな貨物車と小さな貨物車とを区分して行うことが必要である。なお、諸外国の一部においては、大きな貨物車と小さな貨物車の有効期間は異なっている。
 貨物車を大きさで区分する場合、諸制度において用いられている車種区分により、年間平均走行距離、初回の継続検査時の不具合率及び保有台数当たりの年間死亡事故発生件数に着目して比較すると、区分間の差が最も大きくなるのは車両総重量8トンで区分した場合であることから、これにより区分して有効期間について検討を行うことが適当である。
 車両総重量8トン以上の貨物車については、年間平均走行距離が約5.5万キロメートルと長く、初回の継続検査時における不具合率が69%と高いこと、また、保有台数当たりの死亡事故発生件数も多いことから、有効期間は現行どおり1年とすることが適当である。
 一方、車両総重量8トン未満の貨物車については、年間平均走行距離が約1.5万キロメートルであり、初回の有効期間を2年まで延長するとすれば、自家用乗用車の初回の継続検査までの3年間における平均走行距離約3万キロメートルとほぼ同様となる。また、初回の継続検査時における不具合率は47%と比較的小さい。このため、初回の有効期間を1年から2年に延長することが可能である。2回目以降の有効期間については、延長した場合の不具合率が大幅に高くなることから、現行どおり1年とすることが適当である。
 また、ダンプ車やコンクリートミキサ車については、比較的走行距離の短いものがあるものの、一般の貨物車に比べ前後車軸間の距離が短く、工事現場等狭隘な不整地を走行することが多いため車体の各部に大きな力が作用すること等により、走行装置等への負荷が大きく不具合率が高いことから、有効期間は現行どおり1年とすることが適当である。しかし、車両総重量8トン未満のものについては、使用実態や構造上の違いにより、負荷が小さく不具合率も比較的小さいことから、初回の有効期間を1年から2年に延長することは可能である。
(イ) 事業用乗用車
 事業用乗用車については、年間平均走行距離が約6.1万キロメートルと自家用乗用車の約7倍となっていること、初回の継続検査時における不具合率が59%と高いこと、また、1台当たり年間約1万人を輸送しており、広く一般の者に利用され、高い安全性が必要であることから、有効期間は現行どおり1年とすることが適当である。
 なお、諸外国における有効期間は1年又は半年である。
 また、事業用乗用車には、個人タクシーと法人タクシーがあるが、走行距離の長い地域の個人タクシーは、走行距離の短い地域の法人タクシーと同程度の距離を走行していることから、これらを事業用乗用車として包括的に扱うことが適当である。
(ウ) バス
 バスについては、年間平均走行距離が約2.3万キロメートルと比較的長く、また、1台当たり年間約3万人を輸送し、広く一般の者に利用されるとともに、多数の乗客が乗車していることから、一旦事故が起きると大きな被害に結びつく可能性があり、高い安全性が求められる。このため、有効期間は現行どおり1年とすることが適当である。
 なお、諸外国における有効期間は1年又は半年である。
(エ) レンタカーの乗用車
 レンタカーの乗用車については、不特定の者が使用することからより安全性について配慮する必要があるものの、年間平均走行距離が約1.7万キロメートルと自家用乗用車の2倍弱であること、また、初回の継続検査時における不具合率が42%と自家用乗用車と大きな違いが無いことから、初回の有効期間に限って1年から2年に延長することが可能である。
(オ) 自家用乗用車
 自家用乗用車については、初回の継続検査時の不具合率は比較的低いが、有効期間を延長した場合の不具合率の増加が大きく、また、自家用乗用車に区分される自動車の保有台数が多いことから、交通事故や交通渋滞など社会的影響が極めて大きいことを踏まえると、有効期間は現行どおり2年(初回3年)とすることが適当である。
 なお、現行の日本の自家用乗用車の有効期間は、諸外国と同等であると考えられる。
5 答申実施に際して取り組むべき課題等
(1) 自動車ユーザーによる確実な点検整備の実施
 前述した点検整備の項目・時期及び自動車検査証の有効期間の見直しに当たっては、点検整備及び自動車検査制度の目的である自動車の安全確保及び環境保全が図られるよう、あわせて自動車ユーザーによる確実な点検整備が実施されるよう、次に掲げるところにより、関係者が諸施策に積極的に取り組む必要がある。
(i) 国は、検査等の機会をとらえて点検整備の実施を促すため、(ア)前検査・後整備を行う自動車ユーザーに対する確実な点検整備実施のための指導を行い、(イ) 基準不適合車の使用者に対する整備命令に際して、点検整備の勧告及び自動車の使用停止の措置の確実な実施を図る。
(ii)国は、立入検査の権限に基づく街頭検査について、実施時期、対象車両等に関する重点化、検査用機材の開発・活用等により充実・強化を図る。
(iii)自主的な点検整備の実施を推進するため、点検整備の実施が経済的に直接自動車ユーザーに還元される施策について、例えば、(ア) 点検整備の実施に基づく自動車保険料の割引又は給付金の増額の可能性、(イ) 点検整備の実施に基づく中古車査定の増額の充実の可能性、(ウ) 点検整備の実施に基づく路上故障車救援等サービス費用の減額の可能性等を検討する。
(iv)自動車の保守管理は、自動車ユーザーの責任のもとで行われるべきものであることから、国を始め関係者はあらゆる機会を通じて、自動車ユーザーを啓発していくものとする。
(ア) 点検整備推進運動の充実
 国及び自動車整備、自動車製造、自動車販売等の関係者は、自動車ユーザーに対し、点検整備の意義、必要性、実施の方法等について情報提供を行い、自動車ユーザーの点検整備意識の高揚を図るため、点検整備推進運動を一層充実して実施する。
(イ) 運送事業者等の取組の充実
 今回の見直しに係る自動車を使用する運送事業者等の業界団体は、傘下の運送事業者等が確実に点検整備を行うよう、経営責任者及び整備責任者に対し、講習会・研修会を開催して、啓発活動を行うとともに、傘下の個別の運送事業者等に対し、定期的な巡回を行う等点検整備の確実な実施を強く指導する。
(ウ) 自動車ユーザー等への適切な情報提供の充実
 点検整備について、自動車ユーザーの理解を得るため、メンテナンスノート(整備手帳)の内容の充実、定期交換部品に関する適切な情報提供、自動車の点検結果の公表、故障摩耗等警報装置の開発・普及等について、自動車メーカー等の関係者が取り組むことが望ましい。
 また、自動車の点検整備の必要性について、免許取得希望者等のように今後自動車ユーザーになる者に対しても、適切な情報提供を行う。
(2) 適切な整備サービス提供のための整備事業者の取組等
 自動車ユーザーが行う自動車の保守管理のかなりの部分が自動車整備事業者に委ねられている現状から、自動車ユーザーが、点検整備及び検査の費用を含めた内容を正しく理解し、適切に保守管理責任を果たすためにも、整備事業者は、整備内容・料金等のサービス内容を日頃から十分に自動車ユーザーに説明し、点検整備の必要性の理解を得るとともに、点検整備費用の負担感を払拭することに一層努めることが必要である。
 また、整備事業者は、今後も多様化が進むと思われるユーザーニーズへの的確な対応、技術進歩や安全・環境等社会問題への対応が求められていることから、国及び業界団体においても、技術の向上、コストの削減を図るための作業の近代化・効率化や事業運営の適正化のために必要な支援を行うことが望ましい。
 自動車検査に要する費用については、基本的には国に納付する自動車検査手数料のみであり、自動車検査証の有効期間の延長により自動車ユーザーが受ける経済的効果は、自動車ユーザー自らが検査を受ける場合は検査手数料(千数百円程度)と受検のために陸運支局等に出向く時間、また、誰かに委任する場合にはその費用となる。しかしながら、一部の自動車ユーザーは、「車検」を「検査」のみならず点検整備の費用、自動車重量税及び自動車損害賠償責任保険料を含めたものとしてとらえ、「車検は高い」と思っている。一方、近年では、ユーザーニーズの多様化に伴い、自動車ユーザーが各々の事情に応じた整備内容を選択することが可能となってきており、整備に要する費用は、一律ではなく多様化してきている。
 したがって、自動車検査に要する費用の負担感を軽減するためには、自動車ユーザーにおいても各々の予算、時間、技術知識等の事情に応じて、整備事業者に任せる点検整備等の具体的内容を選択することが不可欠である。
 このため、国においても、整備事業者及び自動車ユーザーに対し、自動車の点検整備及び検査に関する適切な情報の提供を行い、整備事業者における自動車ユーザーのニーズに対応した適切な整備サービスの提供、自動車ユーザーにおける新しい整備サービスの積極的な活用を促すとともに、自動車検査の際の負担感を払拭し、自動車の点検整備及び検査に関する理解が得られるよう努める必要がある。
(3) 見直しの実施時期
 点検整備の項目・時期及び自動車検査証の有効期間の見直しについては、国民の負担軽減の観点から早急に実施することが望ましい。また、その際には、自動車ユーザーによる確実な点検整備、制度改正に対する関係者の理解浸透等が見直しの円滑な実施に必要であることを留意する必要がある。
(4) 見直し後の状況の継続的調査等
 今後とも、自動車技術の進歩により、自動車の構造・装置について、電子制御技術や新素材の採用等新技術が導入されるとともに、故障摩耗等警報装置等の開発・普及も進展していくものと考えられる。また、自動車ユーザーによる自動車の使用形態、自動車検査の受検の態様等は変化していくものと考えられる。さらに、今回の点検整備の項目・時期及び自動車検査証の有効期間の見直しによる自動車の使用形態や自動車ユーザーの保守管理状況等の変化も予想される。
 したがって、国は、車種毎の不具合や自動車の使用実態等について継続的に調査等を行い、今回の見直し後の状況を見極めつつ、自動車の安全及び環境に関する規制の動向や諸外国の状況等も勘案しながら、今後、必要に応じて、点検整備の方法、自動車検査証の有効期間、検査内容等について検討していくことが適当である。

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