駅の無人化に伴う安全・円滑な駅利用に関する障害当事者団体・鉄道事業者・国土交通省の意見交換会の中間とりまとめ 令和3年9月24日 T.はじめに 鉄道サービスは公共性の高い交通機関であり、障害当事者を含む駅の利用者がすべからく安全、円滑に駅を利用できるようにすることは極めて重要な課題であり、これまで、各鉄道事業者においても、駅の利用者が安全、円滑に駅を利用できるよう必要な設備や体制の整備等に努めてきたところである。 しかしながら、障害当事者が無人駅等(時間帯によって無人となる駅も含む。以下同様。)を利用する際に、車椅子使用者は駅の利用において、長時間待たされる場合がある他、視覚障害者(全盲、弱視(ロービジョン)、色覚多様性など(以下、同様))にとって券売機等の駅務機器や車両の停車位置がわかりにくい、聴覚障害者に必要な文字情報の提供が十分なされていないなど、無人駅等の安全、円滑な利用に係る問題点や要望が障害当事者より寄せられ、国会においても、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(以下「バリアフリー法」という)」の令和2年改正時には、衆議院、参議院いずれも無人駅にかかるガイドライン化について附帯決議がなされるなど、無人駅等に対する強い関心が寄せられている。 一方で、我が国の少子高齢化の進展や生産労働人口の減少等、昨今の鉄道事業者を巡る経営環境が大きく変化する中で、鉄道事業者は経営合理化努力を続けながら鉄道輸送サービスの維持について努めているところである。 このような状況を踏まえ、今般、無人駅における障害当事者の安全、円滑な利用に資する取組等について検討することを目的として、障害当事者団体・鉄道事業者及び国土交通省の三者からなる本意見交換会を設置し、これまで4回にわたり意見交換を行ってきた。 意見交換会では、各障害当事者の団体からの無人駅ご利用時のお困りごとや要望(第1回)、鉄道事業者が無人駅等において行っている取組等(第2回)、当面の鉄道事業者が改善に向け検討している事項等(第3回)、現状とりまとめ(第4回)について意見交換を行った。 意見交換会においては、様々な障害当事者から様々な無人駅の利用時における課題、要望等が挙げられたが、特に大きな要望として(1)障害当事者への適切な案内・情報提供のあり方、(2)駅の利用に関する事前連絡のあり方、(3)列車運転士等の乗務員による乗降介助の実施の3点に分けることができた。 本中間とりまとめでは、上記3点について、障害当事者団体の指摘及び現状における鉄道事業者の対応事項を整理のうえ、ガイドラインの方向性について「U.意見交換会においてあげられた課題、要望及び改善の方向性等」において整理したほか、現在別途検討されている「新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会」との連携及び今後ガイドライン策定に向けて上記3点以外に検討すべき事項について、それぞれ「V.「新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会」との連携」、「W.その他の検討事項」において整理した。 U.意見交換会においてあげられた課題、要望及び改善の方向性等 1.障害当事者への適切な案内・情報提供の実施 @視覚障害者に対する駅務機器等への適切な誘導の必要性 ■障害当事者団体の指摘等 駅によっては、ホームや駅構内における視覚障害者誘導用ブロックや音声による案内等が無いため、インターホンや券売機、改札機の位置や、ホームにおける列車の停車位置や車両のドアの位置、ドア開閉ボタンの位置の把握が困難であることや、インターホンや券売機がタッチパネル式のため使用できないことなどの指摘があった。 ■鉄道事業者の対応等 視覚障害者誘導用ブロックや音声による案内の実施のほか、機器への点字シールの貼付、触知案内図の設置や、ホームページにおける情報提供を実施している等の報告があった。 また、鉄道施設を活用した視覚障害者の体験会、研修会の実施や、アプリや新技術を活用した案内の実施事例についても報告があった。 ◆ガイドラインの方向性  鉄道事業者は、利用状況を踏まえて、無人駅等を利用する視覚障害者を、視覚障害者誘導用ブロック等によりインターホンや券売機、改札機などの駅務機器や、列車のドア位置の方向などに適切に誘導されるよう環境の整備の検討のほか、駅利用者の協力も得て、「声かけ・サポート」運動の実施などソフト対策も必要である。 <具体的な対応例> ・障害当事者を駅務機器や列車のドア位置などに適切に誘導する設備の点検 ・「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン」を参考にSNS等による適切な情報発信 ・視覚障害者に対する駅係員等による声かけ・見守りは有効な対策であることから、今後も引き続き「声かけ・サポート」運動の実施、駅係員等に対する声掛けの重要性の教育 ・放送などにより他の利用者に「声かけ・サポート」運動を呼びかけ ・駅施設等を活用した障害当事者による体験会の実施 ・ホームページ、SNS等を点検し、障害当事者が無人駅を利用するにあたって移動等円滑化経路、ホームの形状、乗車位置、駅係員が不在となる時間帯等の必要な情報を掲載し、情報発信に努める。経路、ホームの形状(島式か相対式)、番線の数など、駅の情報を文字情報や図式化して提供することが望ましい。 ・アプリ等を活用した情報発信 A聴覚障害者に対する文字情報の提供の必要性 ■障害当事者団体の指摘等 聴覚障害者については、以下の指摘があった。 @輸送障害が発生した時など、緊急時は鉄道事業者からの情報提供が音声情報中心の場合があり、文字による情報提供が少ないことから状況の把握が難しいこと Aホーム上のスピーカーの音声が分からない、また不明瞭で聞き取りにくいこと B聴覚障害は外見では障害の有無が伝わりにくいため、困っている仕草をしているときに駅係員や他の利用者に気づいて声かけをしてもらえるとありがたいこと C二次元コードを活用した情報提供の実施など新技術の活用も有効であること ■鉄道事業者の対応等 鉄道事業者においては、自社のウェブサイトでの文字情報の提供や二次元コードを駅に貼付するほか、発車標や電光掲示板による文字情報の提供等について報告があった。 ◆ガイドラインの方向性  鉄道事業者は、利用状況を踏まえて、無人駅等を利用する聴覚障害者が視覚表示設備によって適切に情報収集できるほか、乗車券等販売所や券売機等においてリアルタイムで適切に駅係員等への問い合わせ等のコミュニケーションがはかれるよう環境の整備の検討が必要である。 また輸送障害発生時等の緊急時においては、列車遅延、運休等の情報提供を中心に聴覚障害者にも適時適切に情報提供が行われるような環境が整備されていることが必要であり、加えて遠隔でもコミュニケーションが可能となる対応も求められる。 このため、各鉄道事業者はホームページやSNS等への文字による情報提供体制について点検を行い、文字情報を提供できる体制の構築について、実施可能なことから速やかに実施していくことのほか、有人駅との意思疎通を図るためのコミュニケーションツールの設置の検討が必要である。 このほか、聴覚障害者が緊急時に鉄道事業者のホームページ等に接続できるようにすることで必要な情報を速やかに入手できる手段を提供することが求められるほか、駅利用者の協力も得て、「声かけ・サポート」運動のような、ソフト対策も必要である。 <具体的な対応例> ・バリアフリー法に基づく発車標、電光掲示板等視覚表示設備等の整備状況及び筆談の可否(筆談具及びコミュニケーションボード等)について点検 ・「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン」を参考にSNS等による適切な情報発信 ・鉄道事業者HPにリンクされる二次元コードの駅での掲示 ・カメラ付インターホンの設置 ・画像通信サービスの活用 ・聴覚障害者に対する駅係員等による声かけ・見守りも有効な対策であることから、今後も引き続き「声かけ・サポート」運動の実施、駅係員に対する声掛けの重要性の教育 ・放送などにより他の利用者に「声かけ・サポート」運動を呼びかけ B障害当事者の問い合わせを受ける窓口等の整備 ■障害当事者団体の指摘等 障害当事者からは、介助の申込みの際、連絡窓口のワンストップ化や、障害当事者専用の窓口を設置のほか、各社のホームページにおける連絡先の掲出箇所がわかりにくいこと等の指摘があった。 ■鉄道事業者の対応等 鉄道事業者においては、介助等の事前連絡の窓口の電話番号を各社ホームページなどで掲出し、事業者によっては障害当事者専用の窓口を設けるなどの対応を行っているとの報告があった。 なお、連絡窓口の設定においては、無人駅を管轄する駅ごとに連絡先を掲出する事業者や、お客様サポート専用の連絡先のみを掲出し、窓口を一本化している事業者など、各社において対応が分かれている。 ◆ガイドラインの方向性  障害当事者が鉄道を利用する際、事前連絡があれば、鉄道事業者はあらかじめ介助等の手配を行うことができ、利用者が円滑・迅速に鉄道を利用することが可能となることから、障害当事者が容易に問い合わせを行うことができる環境整備の検討が必要である。 <具体的な対応例> ・連絡窓口のわかりやすさや、所要時間を短縮するために連絡を受けてから実際に介助を実施するまでの連絡体制について点検 ・連絡窓口のワンストップ化など、連絡体制の簡素化 ・問い合わせに係るオンライン化やアプリの活用など、ICT技術の活用 2.介助の申込み等にかかる事前連絡に関する認識の共有 ■障害当事者団体の指摘等 主に車椅子使用者の鉄道利用にあたっては、例えば事前に連絡がないと鉄道を利用できないなどの運用がなされ、急遽鉄道を利用する必要が生じた際に乗車できない、長時間待たされる、事前連絡していたにもかかわらず鉄道事業者の連絡の行き違い等により希望する列車で乗降介助が受けられない、降車を希望した駅が無人であることを理由に有人駅での降車を求められるなどの事例があったとの指摘があった。 ■鉄道事業者の対応等 各鉄道事業者からは、障害当事者が鉄道を利用する際、事前連絡がなくても介助等の対応を行うこととしているほか、当該駅が無人駅であることのみをもって、駅の利用を断るような運用は行っておらず、来訪に応じて適宜対応しているとの報告があった。 また、管理駅の社員による定期的な巡回、遠隔監視システムの活用や自治体への委託による介助、また、乗務員による乗降介助を実施している鉄道事業者もあるとの報告があった。 ◆ガイドラインの方向性  介助等にかかる事前連絡は、各社とも事前連絡がない場合においても、可能な限り待ち時間が短くなるよう努めつつ対応を行うこと、また無人駅であることのみをもって駅の利用を断るような対応を行わないというスタンスが必要である。 <具体的な対応例> ・事前連絡がないことや無人駅であることのみをもって駅の利用を断るようなことがないよう社内研修等の場を活用した社内への周知徹底 ・障害当事者の駅利用にかかる情報が正確に伝えられるような対応アプリなど新しい技術の活用 なお、事前連絡については、円滑にかつ安全を確保した上で鉄道を利用するために有効な手段であることから、1.Bに記載の通り、事前連絡の窓口をわかりやすく整備しておくことが必要であり、また、連絡した際においても、何度も同じ説明を求めるようなことがないような環境の整備が必要である。 さらに、事前連絡が無くとも、利用者を可能な限り待ち時間が短くなるような環境整備が求められ、このための取り組みとして、後述する乗務員による乗降介助の実施や、鉄道事業者の職員以外による介助の実施などが考えられる。   3.乗務員による携帯スロープを活用した乗降介助の実施 ■障害当事者団体の指摘等 意見交換会においては、車椅子使用者から、事前連絡における待ち時間等に係る課題解決の一つの方策として、運転士や車掌などの乗務員が携帯スロープを活用して乗降介助を行うことについての要望があげられた。 ■鉄道事業者の対応等 一部の鉄道事業者においては、既に乗務員による乗降介助を実施している。 一方、既に乗務員による乗降介助を実施している線区の特徴等を踏まえると、乗務員による乗降介助を実施するための考慮すべき課題として、車椅子使用者の安全確保を前提とし、@駅のバリアフリーの課題(車両までの駅構内の段差解消の状況)、A過密ダイヤ路線や長編成路線など、列車遅延の発生に係る課題、B介助中不在となる運転席の安全の確保、C転動(傾斜等により車両が動き出してしまう事象)の防止があげられた。 ◆ガイドラインの方向性  車椅子使用者が介助等にかかる事前連絡がなくとも鉄道を利用できる環境を整備するために、乗務員による乗降介助を実施することは有効であり、早急に導入に向けた検討を進めることが求められる。 <具体的な対応例> ・以下の条件を満たす路線・線区から試行的に実施  試行的に実施する路線、線区についての考え方:利用者の安全確保を大前提に、 @ホームから駅出入口間の段差が解消されている駅 A短編成でかつ比較的ダイヤ設定に余裕のある路線、線区の条件を満たす路線、線区において、 B乗務員以外の者が乗務員室に侵入することの防止策(乗務員室の施錠又は乗務員室直近の扉において介助を実施等) C乗務員不在時に車両が動いてしまうことの防止策(転動が発生しないような措置を確実に実施等)   等の安全対策を講じられる場合 ・試行に当たっては国や障害当事者団体とも連携し、安全確保や安定輸送の確保のために利用者の理解や社会全体の理解を得るとともに、障害当事者に必要な協力をいただきながら実施。 ・乗務員による乗降介助を実施する路線・線区を計画的に順次拡大するため、試行的実施の課題などを踏まえながら検討。 V.「新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会」との連携 現在、本意見交換会とは別途検討されている「新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会」は、ホームドアが整備されていないホームにおいて、視覚障害者が安心してホームを利用できる方策について検討することを目的として、視覚障害者のホームからの転落に係る現状及び原因について分析を実施しているほか、新技術等を活用した様々な安全対策について議論が行われているところである。 当該検討会において議論されている、新技術等を活用した安全対策は、無人駅の安全確保においても有用なものもあると考えられることから、鉄道事業者においては当該検討会の議論を注視しつつ、無人駅の安全対策にも有効な対策については積極的に取り入れていくことが望まれる。 W.その他の検討事項 今後、ガイドライン策定に向け、上記以外に検討すべき事項として以下の項目が考えられ、今後意見交換会において検討を進める必要があると思われる。 (1)障害当事者の利用状況の現状把握等に関すること ○無人駅周辺の障害者施設、自治体等との意思疎通 無人化等要員配置の見直しを行う際は、駅の周辺の障害当事者が利用する施設(学校、職場、病院等)等の状況を把握し、利用実態に応じて地方自治体や当該施設等関係者及び地元障害当事者団体等と十分な意思疎通を図り、当該駅の運用について関係者の理解を得られるよう努めることが重要である。 また、地方自治体や地域の観光協会の職員等により駅において介助を実施している事例などを参考とし、鉄道事業者の職員以外が障害当事者を乗車まで支援する方策についても、本意見交換会において、国、鉄道事業者と障害当事者団体で、実際に実施している事例やその課題等を踏まえ検討することが重要である。 (2)安全対策に関すること 〇事故等の防止対策 無人駅の更なる安全性向上のため、遠隔監視システム等を活用した注意喚起放送など新技術の活用、障害当事者の利用が一定程度見込まれる時間帯における駅係員等による巡回、見守りの実施、他の利用者に対する「声かけ・サポート」運動の協力の呼びかけ等、無人駅の利用実態を踏まえ、対策を講じることが求められる。 〇緊急時における連絡体制の整備 無人駅等において利用者がホームへ転落するなどの緊急時は、列車の運行を止めるとともに、現場へ駅係員を急行させる環境等、安全の確保のための環境の整備が必要である。 このことから、鉄道事業者においては、遠隔監視システムの整備や、また、このようなシステムがない場合であっても、障害当事者の利用が一定程度見込まれる時間帯における駅係員等による巡回、見守りの実施、他の利用者による通報体制の構築、転落検知マット等技術の活用等、無人駅の利用実態を踏まえ、更なる安全性向上のため対策を講じることが求められる。 〇ICT技術の活用 現在、実証実験が行われている、視覚障害者が支援要請を送信するためのアプリの活用など、ICT技術の活用についての検討も重要である。 (3)円滑な利用に関すること 〇障害者割引制度の利便性向上  無人駅等において乗車券を購入する場合、予め障害者割引を適用した乗車券を購入することができない場合があることから、利便性向上が求められる。 このことから、鉄道事業者においては、小児切符での代用等、障害者割引制度の利用方法について周知するほか、ICカードの利用が可能なエリアについては、障害者ICカードの導入などの検討を進めるなど、更なる利便性向上を図ることが望ましい。 (4)その他 〇時間帯無人駅の取扱い 無人となる時間帯においては、無人となる時間帯の周知のほか、駅の利用に必要な対応をとれるようにするなど、障害当事者への配慮が求められる。 ○効果的な対策の実施 無人駅の安全・円滑な利用にかかる各種対策については、障害当事者の利用状況、駅周辺の関連施設の状況等を勘案しながら、優先順位をつけて対策に着手するなど、計画的にかつ、効果的な実施が必要である。 ○施設整備の実施 無人駅であっても、利用状況等を踏まえつつ、バリアフリー法に基づいて、計画的に施設整備を進めることが求められる。 ○ガイドラインの位置づけ 「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」や「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)」、「バリアフリー整備ガイドライン」など、ガイドラインの位置づけについて検討が必要である。 ○今後の意見交換会のあり方ついて 引き続き、本意見交換会を継続的に実施し、障害当事者団体・鉄道事業者・国土交通省が一丸となって、無人駅における安全・円滑な駅利用に向けた取組を実施していくことを検討するほか、地域ごとにおいても障害当事者を含めた意見交換を実施し、より地域の実情に沿った対策を検討する。