新技術等を活用した駅ホームにおける 視覚障害者の安全対策検討会 (第13回) 令和6年10月7日(月)16:00~18:00  中央合同庁舎3号館6階 鉄道局大会議室 (※ウェブ会議併用) 議 事 次 第 1.開 会 2.議 事 (1) 新技術を活用した駅ホーム転落防止対策等について (2) 鉄道における歩行訓練プログラム(案)の作成について (3) 駅ホームから転落した視覚障害者からの情報取得について (4) 長軸方向の安全な歩行経路を示す方法について 3.閉 会 新技術等を活用した駅ホームにおける 視覚障害者の安全対策検討会(第13回) 【障害者団体・支援団体】  日本視覚障害者団体連合 組織部長         三宅  隆 日本弱視者ネットワーク 幹事(筑波大学附属視覚特別支援学校 教諭) 宇野 和博 東京都盲人福祉協会 常任理事            市原 寛一 埼玉県網膜色素変性症協会 相談役         田村彰之助 日本歩行訓練士会 事務局長/日本ライトハウス 養成部 部長 堀内 恭子  日本盲導犬協会 顧問               吉川  明 【学識経験者】 成蹊大学 名誉教授/大原記念労働科学研究所 特別研究員 大倉 元宏 慶應義塾大学 経済学部 教授            中野 泰志  鉄道総合技術研究所 人間科学研究部 主任研究員   大野 央人 【鉄道事業者】 JR東日本 執行役員 安全企画部長         丸山 正樹※1) JR西日本 鉄道本部 駅業務部長          水田 雅博 東京メトロ 経営企画本部 企業価値創造部長     青木 洋二 小田急電鉄 安全・技術部長  永井 弘一※1) (代理出席:交通サービス事業本部安全・技術部 課長代理 中田 努) 近畿日本鉄道 取締役常務執行役員 鉄道本部 企画統括部長 深井 滋雄 阪神電気鉄道 都市交通事業本部 都市交通計画部(安全担当) 部長 増味 康彰 【国土交通省】  大臣官房 技術審議官(鉄道)            岸谷 克己※1)  総合政策局 バリアフリー政策課長          瀬井 威公※1) (代理出席:総合政策局 バリアフリー政策課 交通バリアフリー政策室長 内田 謙一) 鉄道局 鉄道サービス政策室長           鈴木 邦夫※1) (代理出席:鉄道局 鉄道サービス政策室 課長補佐  河内 篤史) 鉄道局 都市鉄道政策課長              児玉 和久※1) 鉄道局 技術企画課長                中野 智行※1) 鉄道局 安全監理官                 竹島 晃※1) 【厚生労働省(オブザーバー)】  社会・援護局 障害保健福祉部 企画課 自立支援振興室長 川部 勝一 (代理出席:障害保健福祉部 企画課 自立支援振興室長補佐 佐藤 敏彦 障害保健福祉部 障害福祉課障害福祉専門官 周藤 方史) (事務局 鉄道局技術企画課) ※1)新任委員 ※2)委員以外のJR・大手民鉄・公営地下鉄等事業者の傍聴を認めております。 資料1 P1 議事1.新技術を活用した駅ホーム転落防止対策等について P2 1.駅係員等による円滑な介助の実現 <システムの概要> 駅を訪れる視覚障害者等に対して、改札口のカメラの映像から白杖や車椅子をAIで認識し、駅係員に通知し、見守るシステム。 <現状及び今後の開発の方向性> ① AIの学習機能による検知精度の向上を進める。 ② 2020年6月大和西大寺駅(近鉄)、2021年5月~天王町駅(相鉄)等、2024年4月屏風ヶ浦(京急)において導入済み。 ③大阪メトロにおいては2024年9月25日以降に56駅に導入予定。 P3 2.ホーム端を歩行する視覚障害者を検知して注意喚起 <システムの概要> ホーム上のカメラの映像からホーム端へ接近する人をAIで検知し、音声で注意喚起を行うとともに、駅務室へ通知。 <現状及び今後の開発の方向性> ① ホーム上の白杖所持者を検知することで注意喚起を行う対象者を限定。 ② 列車の在線状況や歩行動線を踏まえた効果的・具体的なメッセージの発信。 ③ 2019年10月~現在、京急蒲田駅(京急)にて実証実験中。 P4 3.ホームからの転落後、速やかに列車を停止 <システムの概要> ホームのカメラ映像やセンサから転落する人をAIで認識し、駅執務室に通報。列車停止は駅係員により非常停止ボタンを扱う。 <現状及び今後の開発の方向性> ① 転落した人の姿勢(うつ伏せ等)に影響されない確実な検知 ② ダイヤ乱れを防止するため検知精度の向上(誤検知防止) ③ 2023年度末までに放出駅(JR西)等15駅に導入済(今後、さらに2027年度末までに69駅 導入を計画)、2020年度4月~経堂駅(小田急)等、2019年度~新井薬師前駅(西武)等で導入済。 P5 4.ホームドア設置ホームやコンコース階における移動円滑化 <システムの概要> 警告ブロックに貼付したQRコードをスマホで読み取り、専用アプリによる音声案内で誘導ブロック上を安全に誘導。 <現状及び今後の開発の方向性> ① ホームドアの設置されているホームやコンコース階における誘導支援システムとして有効。 ② 注意の分散の防止、歩きスマホと誤解されないような配慮が必要。 ③ 2021年1月~新木場駅(東京メトロ)等、2023年3月大阪駅(うめきたエリア) (JR西)にて導入済。 P6 5.第14回検討会以降の方針 「新技術を活用した転落防止対策」の設備導入の普及に向け、引き続き各事業者の実証実験や導入事例を本検討会にて情報共有し、国土交通省においても、必要に応じた実証実験を含め検討を進めていく。 資料2 P1非公表 議事2.鉄道における歩行訓練プログラム(案)の作成について 第12回検討会のご意見  駅における歩行訓練の実施に関するご意見(抜粋) 田村委員 主な意見内容 歩行訓練で、初めて線状ブロックや点状ブロック等の位置をゆっくりと確認し、移動することにつながってくるのではないかと思う。 歩行訓練の際、ブロックの形状を把握するために手で触るという方法と杖を立てに滑らせるという方法の2つを取るとよいのではないか。 宇野委員 主な意見内容 歩行訓練は受けた方がよいが、全国的に歩行訓練士が足りていない。そのため、歩行訓練を受けたくても受けられないという実態がある。 このような根本的な問題を解決しない限り、様々な手を打ってもなかなか実を結ばないのではないかと思う。 中野委員 主な意見内容 盲学校から最寄りの鉄道駅で歩行指導を行いたいが、なかなか協力が得られないという話も寄せられている。 その意味で、福祉施設や盲学校と連携し、鉄道事業者が様々な体験会等を行うことはニーズが十分にあると思う。 吉川委員 実際に単独で駅を利用する視覚障害者は多くないと思うので、駅を利用している視覚障害者の方に何らかの形で訓練の案内ができる仕組みができないかと思っている。 訓練士が実際に行くと経費がかなりかかるため、経営的視点からもなかなか大変である。 このような事情を厚生労働省と国土交通省で連携して考え、歩行指導員が訓練できる環境を作ってほしい。 三宅委員 歩行訓練について、鉄道事業者の研修の中に入れていただきたい。 現場の方が研修に参加するのが望ましいが、それがすぐには難しい場合は、研修を受けた方の許可を取った上で、動画等の記録を研修に活用することを検討してほしい。 P2 歩行訓練プログラム作成の経緯・目的 視覚障害者の駅ホームからの転落事故は、白杖による点状ブロックや車両の確認が適切に行われていないことが背景の一つ。 「新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会※」においても、白杖を正しく用いていれば転落事故を防ぐことができるとの意見も多い 歩行訓練により、白杖の使い方、点状ブロック・線状ブロック・内方線付き点状ブロックの役割を学ぶことで、転落の危険性を減少させることが可能と考えられる。 しかしながら、現状では駅ホームでの歩行訓練の認知度は高いとは言えず、訓練場所の提供等、鉄道事業者の協力体制の構築も課題。 これを受け、「鉄道施設における歩行訓練の基本的な訓練プログラム」を作成し、視覚障害者や歩行訓練実施者に対し、鉄道施設における歩行訓練の実施を促すとともに、鉄道事業者に対し、鉄道施設の活用について理解を求める。 P3 鉄道施設における視覚障害者の歩行訓練の試験的実施 P4 鉄道施設における視覚障害者の歩行訓練の試験的実施概要 東京地下鉄株式会社の協力を得て、歩行訓練士6名、視覚障害者12名による歩行訓練を実施。 実施日時  令和6年1月25日(木) 午前9時30分〜午後12時30分 実施場所  東京メトロ総合研修訓練センター 参加人数  歩行訓練士:6名 / 視覚障害者(体験者):12名 P5 基本訓練・乗降訓練に対する評価 訓練時間の長さ 全体的には「ちょうどよい」と感じた者が最も多く、訓練時間としては概ね適正なものであったと思われる。 価値ある体験だったと感じた訓練 体験者、歩行訓練士とも「車両への乗降」が最も価値ある体験とされており、実際の駅とほぼ同じ環境で訓練を実施できたことに対して価値を感じているものと思われる。 普段から同行者なしで外出する機会がある体験者も多かったが、基本訓練により認識を新たにする者もいるなど、基本訓練も重要である。 P6 歩行訓練スキームの検討 歩行訓練プログラムは、参加者の疲労や鉄道事業者の負担を考慮し、全体が2時間以内に納まるようにタイムスケジュール(例)を作成。 歩行訓練プログラムのタイムスケジュール(例) 事前 30分 挨拶及び訓練説明 訓練内容やタイムスケジュールに関する説明、保険の加入手続き等 基本訓練 10分 スライド法        線路と平行(長軸方向)にスライド法で歩行する練習 10分 短軸方向でホーム端に接近 線路に向かってスライド法で接近し、白杖が落ち込んだらすぐに止まる練習 10分 白杖部分に足を踏み出す  線路と平行に立ち、電車乗車時に床を確認する方法の練習 乗降訓練 20分 車両への乗降  基本訓練の内容を踏まえて、電車に乗降する方法を練習 事後 30分 アンケート及び意見交換 訓練を受けたことに対するアンケートや意見交換を実施し、参加者間で情報や認識を共有 基本訓練及び乗降訓練の実施時間は、今回実施したプログラムの長さで「ちょうどよい」と評価している者が多いことから、これを踏襲して全体で50分程度が適正であると考える(ただし、歩行訓練士と体験者が同人数で、訓練実施中に待ちが発生しない場合)。 訓練の効果を考えると項目別の訓練時間を短縮することは望ましくないが、鉄道施設を用いずとも実施が可能な「スライド法」については、事前に別途訓練を実施することができれば、歩行訓練プログラム内で必ずしも行う必要はないと考える。 体験者や歩行訓練士の声を聞くことで鉄道事業者も新たな気付きが得られると考えられることから、歩行訓練実施後には意見交換の場を設けることが望ましい。 P7 今後の予定 「鉄道施設における基本的な視覚障害者の歩行訓練プログラム」の有効性の確認を行う 全国的に普及させることが目標であることから、「鉄道施設における基本的な視覚障害者の歩行訓練プログラム(案)」を参考に事業者・歩行訓練士が歩行訓練を実行しつつ、並行して本プログラムの内容精査を行い、歩行訓練の普及に向け検討を進めていく。 2025年1月に小田急電鉄にて実施予定 (検討会の皆様にご協力をお願いすることもあるかと思いますので、ご了承願います) 資料3 駅ホームから転落した視覚障害者からの情報取得について P1 問題意識 ○本検討会にて、「視覚障害者の駅ホームからの転落事故が発生した際、初動にて確認すべき事項(案)」をとりまとめ。 ○実際に、視覚障害者の駅ホームからの転落事故が発生した際には、この確認すべき事項に基づき確認が行われ、本検討会の有識者に情報を提供。 ○他方、確認すべき事項(案)の検討時には、個人情報保護の視点が欠如。 →このため、個人情報の取り扱いに関する考察を次の通り実施。 P2 個人情報の取り扱いに係る制限 ○個人情報の保護に関する法律第27条及び第69条によれば、「鉄道事業者及び行政機関は、法令に基づく場合を除き、本人の同意を得ないで、利用目的以外の目的のために個人情報を自ら利用し、又は第三者に提供してはならない。」となっている。 ⇒個人情報の利用・提供には、本人の同意が必要。 ○情報取得に当たっては、個人情報の管理の観点から、国土交通省鉄道局が、直接聞き取ることとする。 ○個人情報の保護に関する法律(平成15年5月30日法律第57号)(抄) (第三者提供の制限) 第二十七条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。 一 法令に基づく場合 二~七 (略) 2~6 (略) (利用及び提供の制限) 第六十九条 行政機関の長等は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供してはならない。 2 前項の規定にかかわらず、行政機関の長等は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供することができる。ただし、保有個人情報を利用目的以外の目的のために自ら利用し、又は提供することによって、本人又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでない。 一 本人の同意があるとき、又は本人に提供するとき。 二~四 (略) 3・4 (略) P3 転落原因調査のための相談窓口について ○個人情報の保護の観点に加え、国土交通省鉄道局が積極的に、転落者ご本人への聞き取りを試みると、転落者ご本人の中には気分を害される方がいらっしゃる可能性がある。 ○このため、国土交通省HPなどに相談窓口の案内を掲載した上で、国土交通省鉄道局による聞き取りは、連絡があった転落者ご本人のみを対象とする。 ○聞き取った結果は、ご本人の同意の下、可能な範囲で国土交通省HPにて公開し、関係者への注意喚起を図る。 <相談窓口の周知方法> ○国土交通省HP及びご協力頂ける団体のHPにて、次の内容を掲載。 ☑国土交通省では、関係者への注意喚起を図るべく、駅ホームからの転落を経験された視覚障害者ご本人に、転落時の状況についてお話を伺っています。 ☑伺った内容は、ご本人のご同意を頂いた範囲で公開します。 ☑ご協力頂ける方は、次の番号まで、お電話をお願いします。なお、対応時間は、平日10:00~18:00です。   (電話番号)03-5253-8548 <国土交通省が転落者ご本人に聞き取る際の事前の説明要領(案)> ○国土交通省では、関係者への注意喚起を図るべく、駅ホームからの転落を経験された視覚障害者ご本人に、転落時の状況についてお話を伺っています。 ○伺った内容は、お名前を伏せるとともに、ご本人のご同意を頂いた範囲で、公開します。 ○公開にご同意頂けない情報については、お答え頂く必要はありません。 資料4 P1 議事4-1 長軸方向の安全な歩行経路を示す方法について     ホーム中央ブロックの今後の方針 P2 ホーム中央ブロックについて(障害者団体要望書) ・各障害者団体に意見を改めて確認したところ、正式に要望書が提出され賛否両論となっている。 ・前提として「ホーム中央ブロック」はホームドアのない駅における転落防止策案の1つでしかないが、議論が紛糾していることもあり、  収束に向けた論理的な展開が今後は必要であると考えられる。 ・一歩進んだ議論に向け、実証実験を行うならばどのような事項を確認すべきかについて今一度ご議論願いたい。 ホーム中央ブロックの敷設に対する意見 日本視覚障害者団体連合 賛成できない。 ・無人駅においてホーム中央に視覚障害者誘導用ブロックを設置してほしいという要望が地域団体から寄せられている一方で、そうした設備の設置を反対している地域団体もある。それゆえ、ホーム中央に視覚障害者誘導用ブロックを設置することの有効性・安全性について検証することが必要である。 ・ホーム中央に視覚障害者誘導用ブロックを設置することが困難な駅が多数見られることを踏まえ、全国統一の指針を作ることが困難だと認識している。 ・ホームドアないし転落防止柵の設置が最優先であり、ホーム中央に視覚障害者誘導用ブロックを設置することは、それに代わり得るものではない。また、ホーム中央に視覚障害者誘導用ブロックを設置することが、ホームドアないし転落防止柵の設置を遅らせる結果となることは、言語道断である。 東京都盲人福祉協会 ホーム中央に誘導ブロックを敷設するよりも、ホームドアや可動柵の敷設を最優先にして考えて欲しい。 実証実験の必要性はない。 日本弱視者ネットワーク 日本網膜色素変性症協会 長軸方向の安全な歩行経路に関する実証実験を速やかに実施すること。 日本視覚障害者道安全協会(参考) ・ホーム中央への誘導用ブロックの設置については、検討を中止していただきたい。 ・検討にあたっては、視覚障害者以外の障害者(例えば車椅子利用者等)の意見も聴取されたい。 ・ホーム中央への誘導用ブロックよりも、可動式ホーム柵の設置及び車両の標準化を推進していただきたい。 P5 ホーム中央ブロックの実証に関する論点整理 ■実証実験における過去の議論  過去の実証実験に対する議論(第12回検討会等)も踏まえて、実証実験を行う場合に検討すべき主な条件を整理したが、議論が並行線であり、実証実験を行う結論に至っていない。 実証試験における懸念点 ・結果を検証する上で適切なサンプリングが可能か ・ホーム歩行の回数に対して、ホーム転落の発生率が低い中、どのように実証するか  ・主な転落原因である「疲れや焦り等」などの被験者の状態は再現が難しい ・整備している駅と整備していない駅が混在してしまう状況をどのように実証するか ・様々な駅構造、状況がある中で、適切な試験フィールドが模擬できるか (周囲を歩く人間の数、駅構内の案内放送の有無、列車走行の有無等) ※第12回検討会資料抜粋 検討事項 実験環境 実験フィールド(営業線、模擬駅、駅以外(床面の形状・材料も要検討)) ブロックの仕様(シート型タイル、埋め込み型ブロック) ホーム幅員(ホーム中央線状ブロックと内方線付き点状ブロックとの離隔) 参加者 人数 属性(性別、年齢、歩行訓練の経験 等) 募集方法、選定方法 実験方法 場面設定 実験における場面の再現方法 ※第11回検討会資料抜粋 P6 ホーム中央ブロックの実証に関する論点整理 ○前提条件 ・検討すべきは死亡事故に直結する転落防止への対策であり、安全性が向上するものでなければならない。(利便性等は検討対象外) ・安全性については視覚障害者のそれぞれの障害度合いやその時々の状態等によりマイナスに働くようなことがあってはならない。 ○実験を行う場合に確認すべき論点   ホーム中央ブロックの敷設に対する意見 ①ホーム中央ブロックと内方線付点状ブロックを勘違いし転落リスクが増大する。 ホーム中央ブロックと内方線付点状ブロックの誤認が起こりえないか確認する実験内容を検討。 ②ホーム中央ブロックを敷設する場合、すぐに全ての駅ホームに敷設できる訳ではなく、必ずホーム中央ブロックが有る駅と無い駅が混在してしまう。 ホーム中央ブロックの有無が混在した場合においても誤認が起こりえないか確認する実験内容を検討。 ③ホーム中央には売店等支障物があり、迂回する形で歩く必要が大いに考えられるため、方向転換の際に定位を見失う恐れがある。 複数回の迂回を含むルートを構築し、方向転換の際に定位を見失わないと言えるか確認する実験内容を検討。 ④疲れや焦りにより誤認リスクが高まると考えられる。 ①~③の内容に重ね、注意力を低下させた状況においても誤認が起こりえないか確認。 本検討会で議論 (他論点の有無についてもご意見いただきたい) ○仮に敷設を行う場合に確認すべき論点 ・ホーム中央ブロック敷設によりホームドアや可動式ホーム柵等の転落防止策整備に遅れが生じる可能性があるのか。  (費用面、工程面等) 【宇野委員】 2024年10月7日 新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会資料 「ホーム長軸方向の歩行動線の必要性」 日本弱視者ネットワーク 筑波大学附属視覚特別支援学校 宇野和博 I 二俣駅での転落案件について  前回の会議で報告があった二俣駅での転落案件だが、駅に確認したところ、ホーム中央に誘導ブロックは敷設されていなかった。実際には、他の多くの駅と同じようにガイドライン通りに、誘導ブロックが最寄りの車両ドアまで敷設されているだけということである。(添付写真参照)この事案に関連し、4点意見を述べたい。 1. 誤認  転落された方は、ホーム端の警告ブロックをホーム中央の誘導ブロックと誤認したという話だった。確かにホームには、全面的に中央ブロックは敷設されていないが、この駅でも、改札から最寄りの車両のドアまでは誘導ブロックが敷設されている。このように最寄りの車両ドアまで誘導する部分的な中央ブロックは全国のほぼすべての駅で敷設されている。この方は警告ブロックを、改札まで敷設されている誘導ブロックと誤認したということだが、一部の委員が指摘しているように、誘導ブロックと警告ブロックの誤認のリスクが高いのなら、今回のような誤認が過去に他の駅で起こっていても不思議ではない。しかし、前回の会議資料を見ると、「警告ブロックと階段のブロックを誤認 3件」や「滑り止めゴムを警告ブロックと誤認 2件」という例はあるものの、誘導ブロックと警告ブロックを誤認したケースは1件もあがっていない。つまり、警告ブロックと誘導ブロックを誤認するリスクは警告ブロックと階段のブロックや滑り止めゴムと誤認するリスクより稀であるといえる。ロジックとして頭の中でひねり出した事故例は実際には起こっておらず、机上の空理空論を繰り返すより、エビデンスに基づいて安全対策を論じる方が賢明である。また、論より証拠で、実際に起こっている63.5%の長軸方向移動時の転落をどう防ぐか、現実的な議論が必要である。これが正しいのか、そうでないのかは実証実験を行えば分かることである。 2. 混在  転落された方に直接尋ねてみないと分からないが、警告ブロックを誘導ブロックと見間違えた場所は、誘導ブロックが敷設されている最寄りのドアより離れたところだったかもしれない。そうすると、誘導ブロックを見過ごしたというよりは、最初に目に入った点字ブロックを改札につながるホーム中央の誘導ブロックと認識した疑いが生じる。借りにそうだとすると、ホームの一部に中央ブロックがあり、多くのエリアには中央ブロックがないが故に起こった事案といえる。つまり、ホーム前面に中央ブロックを敷設し、混在状態を解消していれば、この転落は防げたかもしれない。  また乗り換えやトイレへの誘導のために、既に護国寺駅以外でも、ホーム長軸方向に誘導ブロックが敷設されているところもある。混在が問題というならば、トイレの有無に関わらず、すべての駅で長軸方向の誘導ブロックヲ敷設すべきである。 3. 迂回  二俣駅の転落場所近くの警告ブロックは柱を迂回するように敷設してあある。一方、改札から最寄りの車両ドアに誘導する線状ブロックは柱と干渉していないため、直線状に敷設されているそうである。青山一丁目駅もそうだったが、ホーム端の警告ブロックが、柱を避けるために迂回しているところは少なからずあり、ホーム端から80センチのところで迂回を強いるような動線は、ホーム中央で売店等を迂回するより危険といえる。また、売店やそば屋は減少してきているが、柱は屋根を支えているため、減らしていくことはほぼ不可能である。 4. 内方線  平成23年と平成28年にまとめられた「中間とりまとめ」に従って、全国の駅で内方線が整備されてきている。しかし、近年の転落死亡事故の現場を確認するとほとんどのホームで内方線が敷設されている。二俣駅の転落を問題視する前に、ホーム転落対策として敷設された内方線がある駅で、現に数多くの転落が起こっていることをどう考えるか、意見を聞きたい。 II これまでの論点整理  これまでホームドアのない駅での安全対策を議論してきたが、議論が迷走してきたため、以下に整理する。 1.新技術  これまでAIカメラを使ったホーム縁端歩行注意喚起システム、センサーが内臓された白杖、改札やホームで画像認識技術を使い視覚障害者の存在を駅係員に伝えるシステム、点字ブロックに埋め込まれたコードを利用した移動支援アプリ等の技術を検証してきたが、どれも時期尚早と判断されており、現時点ですぐに実装できるものはない。 2. 駅係員による案内  無人駅が全国の駅のほぼ半数に達し、更にこの傾向が続くと予想される。アプリ等を使って駅係員を呼ぼうとしても、無人では呼ぶことはできない。また、首都圏でも、改札から人を引き上げる傾向にあり、ますます依頼しづらくなってきている。加えて、混雑時に待たされたり案内を断られたりするケースもあるため、相変わらず案内を望まない視覚障害者もいる。 3. 一般客からの声かけ  とても有難いことではあるが、強制できるものではない。また、場所や時間帯によっては、周囲に人がいないこともあるため、主たる安全対策とは位置づけられない。 4. 歩行訓練  これまで国交省主催で歩行訓練が行われてきたが、1回目が3人、2回目が3人、3回目が13人、合計19人という状況である。視覚障害者の総数、31万2千人から考えると、歩行訓練士を増やし、実際の利用駅で訓練を受けられるようにするなど、抜本的な改善策を講じなければ、劇的にホーム転落を減らせるとは考えにくい。また、これまで行われてきている訓練は電車乗降ということだが、長軸方向移動時の転落が63.5%という実態から考えると、乗り降りする場面だけでなく、いかに安全に長軸方向を移動するかの訓練が必要である。そのためにも、本来沿って歩くべきではない警告ブロック沿いを歩かせるのではなく、安全な歩行動線を示す必要がある。つまり、安全な環境を整備し、その上で訓練を充実させていくのが合理的なステップといえる。 III ホーム中央の歩行動線の道しるべとなるマーカー  中間報告では、線状ブロックを設置する案と内方線付き点状ブロックの内側の領域を活用する案が例示されている。「その他にも様々な方策を検討すべき」とあるが、その後3年経っても新たな方策案は出てきていない。よって、この2案の安全性、有効性、実現性を具体的に検証する段階にきている。国交省の方針では、2022年に実証実験の方法を検討し、2023年に実証実験を実施するということだったが、既に今年は2024年である。  ちなみに私が推奨しているホーム中央の歩行動線について、これまでいくつか懸念が示された。それに対する意見を既に2020年度に述べたが、それ以上に議論が深まっていないため、もう一度意見を再掲する。なお、ホーム上での長軸移動の是非や人との接触、人との接触、動線長、狭隘箇所の敷設、駅による違い、視覚障害者同氏の衝突の危険性、エスカレータ前の点字ブロック、誘導ブロックと警告ブロックの距離、コストなど、議論にならない項目については、既に第6回の検討会議(2021年3月12日開催)で回答済みであり、その後の反論もないため、当時の資料を参照されたい。 1. 警告ブロックと誘導ブロックの誤認  以下の理由により、警告ブロックと誘導ブロックの誤認がホーム中央のマーカーの敷設を妨げる根拠にはならない。  (1) 多くの視覚障害者は、JISで定められた点状警告ブロックか線状誘導ブロックかを識別することはできる。但し、ホーム上を歩いている時には、点状か線状かを認識しようとはしていない。これは直線上を歩行している時には白杖や足裏から伝わってくるブロックの突起そのものに意識を集中しているからであり、点状か線状までを認識しようとすると、すたすた歩くことができなくなってしまうからである。また、直進している時はその必要性もない。  仮にホーム中央に線状誘導ブロックが敷設されたら、ホーム中央のブロックとホーム端の点状警告ブロックを誤認するという懸念もあったが、以下の理由により、それはあり得ないといえる。  まず、乗車時について考える。現状の線状誘導ブロックは、階段から最寄りの車両ドアに誘導するために、「T」のように敷設されている。ホーム中央に線状誘導ブロックを敷設するというのは、「T」の字の縦線をそのまま延長し、「+」のように敷設することである。つまり、階段から線状誘導ブロックに沿ってそのまままっすぐ歩くだけであり、途中で直角に曲がらない限り、点状警告ブロックを歩くことにはならない。万一、不安に思ったら、立ち止まって足下のブロックが線状か点状かを確認すればよいだけである。仮に中途失明直後で線状か点状かを認識できないのであれば、駅まで単独歩行するのも難しく道路上の歩行も危険であるため、ガイドヘルパーとの同行を勧めたい。  (2) 電車降車時にホーム中央ブロックがない駅で視覚障害者が中央ブロックがあるものと思い込み、反対側のホームの内方線をホーム中央ブロックと勘違いするリスクがあるという懸念についてだが、これは以下の3つの少ないリスクがすべて重なった時に起こるかも知れない仮説である。 ①そもそも転落の危険性のある視覚障害者は全盲、もしくは重度の弱視者である。そのような重度の視覚障害者は、慣れている駅であれば単独歩行しているが、初めての駅であれば大抵は駅係員に案内を依頼するか、ガイドヘルパーと移動している。つまり、重度の視覚障害者が単独で初めての駅で降車するというのはあまりないことといえる。現に過去の調査で、転落の72.9%は慣れた駅で起こっているというデータもある。 ② 初めての駅では、視覚障害者は駅の構造を理解していないため、脳内にメンタルマップを描けているわけではない。つまり、ホームに降りた時に「この駅は島式だろうか、それとも相対式だろうか? ホームの幅はどれくらいだろうか? 階段はどっちにあるんだろうか?」などの不安を持つものの、あるかないか分からないような中央ブロックを「あるはずだ」と早合点する視覚障害者はほとんどいないと思われる。実際には恐る恐る慎重に前方を杖で確認しながら歩くはずである。 ③ そのような不安な状態で借りに反対ホームの内方線を踏んだとしても、普通は「これは予想した中央ブロックだろうか?それとも反対ホームの内方線だろうか」と疑問を持ち、ブロック全体を足で確認し、内方線付き警告ブロック化、ホーム中央線状ブロックかを確認すると思われる。  つまり、重度の視覚障害者が初めての駅で降車し、メンタルマップがない状態でホーム中央ブロックがあるものと早合点し、なおかつ内方線をホーム中央ブロックだと決めつけて歩き出すというこれらのほとんどあり得ない3つの過程をすべてやってしまった場合にのみ起こり得る想定といえる。これもやはり頭の中でひねり出したケースであって現実にはまず起こらないと考えられる。このような事例を空想するのではなく、現に起こっている中間報告のケース1,2,3,6のような事故例をどう解決するかを考えるべきである。 いずれにせよ、これらの内容が正しいかどうか、実証実験をするのが妥当である。仮説が正しくなければ当然そのような結果が出てくるだけである。 2. 売店等の障害物の迂回  まず現実としてホーム上の売店やそば屋は急速に減ってきている。まだ残っている駅は、かなり大規模なえきである。ちなみに1日の利用客が10万人以上の駅はホームドアの設置が求められているため、ホームドアが設置されていればたとえ売店等があったとしても転落のリスクはない。  「避けた時に方向が分からなくなり、迷う危険性が出てくる。」ということだが、これも現実離れした懸念である。前提として、視覚障害者の家から駅までの動線が一直線ということはない。「コ」の字のような道路もあれば、もっと複雑なルートもある。路上駐車している車を迂回することもある。視覚障害者は頭の中に地図(メンタルマップ)を描き、点字ブロックや歩道の縁石等を頼りながら、これらのルートを訓練し、駅まで来ているのである。ホーム上の「コ」の字の迂回ができなければ、そもそも駅まで一人で来ることはできない。駅の構内を見ても、改札からホームにたどり着くまでにも「コ」の字以上に複雑なルートはいくらでもある。つまり、ホーム上に売店等があっても、メンタルマップ内に売店等があることを認識していれば、迂回によって方向感覚を失うことはまずない。もっとも、もし「コ」の字の迂回で迷う状態であれば、駅係員の誘導を依頼した方が安全だと考えられる。本会議で考えるべきなのは、ある程度歩行能力がある人でも、警告ブロック沿いを歩いていて転落したり、何も道しるべがないエリアで方向定位を失うという現実に起こっている転落をどうなくしていくかということである。逆にホーム中央に歩行動線を確保することが危険であると主張するのであれば、売店等があるエリアで視覚障害者がどこを歩くのが安全なのかを示していただきたい。また、ホーム端の警告ブロック沿いを歩いていて、柱を迂回するのが危険ではないというロジックを説明していただきたい。 IV 疲れや焦り  2024年4月2日の参議院国土交通委員会で、国交大臣は「転落の際の背景要因である疲れや焦りなどの被験者の状態の再現が難しいこと」を実証実験が遅れている理由に挙げている。これは事故を誘発する精神状態の問題と視覚障害者の歩行動線を確保するというハード面の環境整備を混同している。確かに人はだれでも疲れている時や焦っている時はミスをしやすい。しかし、それは点字ブロックというハード面の環境整備とは別次元の問題である。ホームの中央に点字ブロックがないため斜めに歩いてしまったり、ホーム端の警告ブロック沿いを歩いていて柱や人を避けるために転落することは疲れや焦りがなくても起こり得ることである。また当然だが、視覚障害者も疲れることもある。駅で案内を断られ、焦ることもある。これらは不可抗力で、どうしようもない。実際にできることは、「時間に余裕をもって行動してください」と啓発していくことくらいであろう。  何も手掛かりがないエリアを歩いていて、電車の入線案内があった時に方向感覚を失い、焦ることもあるが、ホーム中央にマーカーがあれば、「Orientation and Mobility」を失っていないため、このような焦りはなくすことができるともいえる。 V 確認したい事項 ① 反対意見の明確化  議論を前に進めるために、 ホームの中央に触覚的な手がかりを設けることに反対している委員は、ホーム中央に触覚的な手がかりを敷設することそのものに反対しているのか、それともその手がかりが誘導ブロックであることに反対しているのかを明確にしていただきたい。 ② 議論と実証実験の見通し  実証実験は実際に当事者の意見を聞くことであるが、なぜ実際にそのステップに進まないのか、理解に苦しむ。上記の議論も2020年度の繰り返しだが、合理的な反論がないまま、同じような意見に逆戻りしている。国土交通省は、いつまでこの平行線の議論を続けるのか、明確にしていただきたい。 ③ 検討会議の複数開催  年に1度の検討会議では議論が進まない。現に中間報告が公表されて3年以上経つが、具体的な策は何も講じられていない。2020年度のように年に複数回、会議を開催し、早く有効な策を提案すべきであると考えるが、なぜ積極的に会議を開催しなくなったのか。こうしている間にも毎年平均で、66人が転落し、2人が亡くなっているという現実を忘れてはならない。 【大野委員】 2024年10月7日 1.中央ブロックによって起こり得るリスク ・2021年3月に資料「長軸移動を支援する歩行動線の導入によって起こり得るリスクの例」を提出した(同資料は3月29日に鉄道局より各委員に共有された)。 ・同資料では,中央ブロックを導入した場合に起こり得るリスクとして4つのケースを示した。 ・ここでは4つのケースを再掲し,各ケースに対応する転落やヒヤリハットの実例を併せて示す。 (1)ケース1 ・中央ブロックを外れて歩いている当事者が,ホーム縁端の点状ブロック(以下,ホーム縁端ブロック)を見つけて,中央ブロックだと勘違いするリスクである。 ・この勘違いを起こすと,自分の両側に広いスペースがあるという錯覚につながる。 ◆実例①:降車後,階段に向かおうとしていた。ホーム縁端ブロックに沿って歩いた後,L字分岐で線状ブロックに移って歩いた。詳細経緯は不明だが,気づかないうちに線状ブロックから外れてホーム縁端ブロックに戻ってしまった。普段は線状ブロックと点状ブロックの違いは足で踏めばわかるが,この時は考えごとをしていたので,踏んでいたのが点状ブロックであることに気づかなかった。歩いているうちに前方から近づいて来る人の声が聞こえたので,右側に避けようとしたら転落した。線状ブロックの上を歩いていると思っていたので,右側にスペースの余裕があると思っていた。 (2)ケース2 ・プラットホーム上に中央ブロックが「ある箇所」と「無い箇所」が混在した場合,ホームを横切って移動(短軸移動)する当事者が,ホーム縁端ブロックを中央ブロックと勘違いするリスクである。 ・中央ブロックに気づかずに通過してしまった場合も同様である。 ・この勘違いを起こすと,自分の両側に広いスペースがあるという錯覚につながる。 ◆実例②:普段の歩行ルートは,列車から降車した後,線状ブロックを見つけて左折し,線状ブロックに沿って歩いてスロープを降りた後,右折して改札に向かうという歩き方であった(青線)。しかしその日は線状ブロックを見つけ損ねたため,その先にあった点状ブロックを線状ブロックと勘違いして,点状ブロックに沿って歩き,柱を越えた所にある屈曲に沿って歩いて右折して,そのまま転落した(赤線)。 (注)当該駅ではホーム全長に渡って線状ブロックが敷設されている訳ではないが,当事者が降車した地点では線状ブロックがホーム中央に敷設されていた。そして当事者の普段の歩き方(線状ブロックを見つけて左折し,線状ブロックに沿って歩く)は中央ブロックで想定される歩き方と同じである。それゆえ,この実例から中央ブロックのリスクが推察できる。 (3)ケース3 ・中央ブロックが「ある駅」と「無い駅」が混在した場合,ホームを横切って移動(短軸移動)する当事者が,ホーム縁端ブロックを中央ブロックと勘違いするリスクである。 ・中央ブロックに気づかずに通過してしまった場合も同様である。 ・この勘違いを起こすと,自分の両側に広いスペースがあるという錯覚につながる。 (実例②と同じ) (4)ケース4 ・中央ブロックがホーム中央から外れて設置されると,中央ブロックから一方のホーム縁端までの距離と,もう一方のホーム縁端までの距離が相違する。 ・中央ブロックはホーム中央にあるものと思い込んでいると,ホームを横切って移動(短軸移動)する当事者がホーム幅を誤るリスクが生じる。 ◆実例③:列車から降車した後,階段に向けて短軸方向に歩いた。だが,階段前の人混みで歩く向きが変わってしまい,気づかないうちに反対側のホーム縁端の方向に歩いてしまった。白杖で落ち込みを見つけたが,階段前からすぐの距離だったので,下り階段だと思った。降車地点から階段前までの距離を認識していたので,反対側にも同程度の距離があると思っていた。白杖を下方に差し込んで確認しようとしている時,誰かが後方からリュックサックを引っ張ってくれた(ヒヤリハット)。 (5)補足 ・ケース2とケース3は中央ブロックの有無が「混在」することによって生じるリスクである。 ・中央ブロックを導入する場合,「ある駅」と「無い駅」や,「ある箇所」と「無い箇所」が混在することを避けられない以上,ケース2やケース3のリスクは避けられない。 ・これらのケースでは,中央ブロックが「無い」側で危険が生じることに留意が必要である。 ・マクロな視点で見れば,特定の駅(もしくは特定の箇所)で中央ブロックを導入したために,中央ブロックが無い駅(もしくは無い箇所)でのリスクを増大させることになりかねない。 2.視覚障害者の歩行特性 中央ブロックの議論で重要と思われる視覚障害者の歩行特性について述べる。 (1)点状ブロックと線状ブロックの区別 ・鉄道総研の調査では「点状ブロックと線状ブロックの区別ができるか?」との問いに8割以上(83.6%)の視覚障害者が「区別できる」と答えた一方,「駅ホームで両者を区別して利用しているか?」との問いに対して「常に区別して利用している」と答えた視覚障害者は2割未満(17.9%)であった。 ・当事者委員からも同様の意見が述べられている。 ・したがって,「ホーム上では点状ブロックと線状ブロックの区別ができるとは限らない」ことを十分に想定しておくことが,安全サイドに立った議論の上では重要と考える。 (2)触覚や視覚で把握できる範囲 ・晴眼者は視覚で遠くまで見渡せるのに対し,視覚障害者が触覚や視覚で把握できる範囲は非常に限られる。 ・そのため,点字ブロックなどの触知表示を複雑にすることは,状況把握を誤るリスクを高める。 ・したがって,触知表示は出来る限りシンプルに留める必要があると考える。 ・すなわち,全国統一の方式で整備することや,情報過多に陥らないことなどが必要と考える。           晴眼者の把握           視覚障害者の把握(イメージ)   (3)安全サイドの検討の必要性 ・安全のための検討はより危険な状況を想定して行うことが鉄則である。 ・過去の議論において,「わからなくなったら立ち止まって確認すればよい」「不安になったら立ち止まって確認すればよい」などの意見も見られたが,勘違いしている人は「わからなくなった」とは感じないし,不安も感じない。気づかないまま勘違いしている状況が非常に危ない。 ・また,過去の議論において「降車駅の状況を事前に調べておけばよい」という意見も見られたが,利用者は計画通りの駅で降車するとは限らない。予定と異なる駅で降車したことが原因の転落やヒヤリハットは数多く起こっている。 ◆実例④:列車内で寝てしまい,予定と違う駅で降車した。しかし,そのことに気づかないまま,予定した駅のつもりで歩いたため転落した。 ◆実例⑤:仕事の約束に向かう列車内で寝てしまい,手前の駅で降車した。違う駅で降りたことには気づいたが,約束の時間に遅れると思って焦っていたので,冷静な状況判断が出来なかった。本当は降車したホームで次の列車を待てばよかったのだが,乗り越したと思っていたので,引き返そうとした。さらに駅構造を勘違いして歩き,転落しそうになった(ヒヤリハット)。 ◆実例⑥:朝の通勤で乗る列車を間違えた。当該駅では同じホームに2種類の路線の列車が来るため,自分が乗った列車では職場に行けなかった。路線が分岐する手前の駅で降車して乗り換えようとした。しかしその駅は使ったことが無く,駅構造を知らなかった。落ち込みを見つけ,降り階段だと思って降りようとしたら,近くにいた人に手を引っ張られて助かった(ヒヤリハット)。 ・理想的な条件だけでなく,あらゆるケースを想定した検討が必要と考える。 3.実証実験について ・一般論として,実験で得られた結果・知見の適用範囲は,与えられた条件などを踏まえて慎重に判断されるべきものである。それゆえ,実証実験で有意義な知見を得るためには十分な条件設定が必須である(この点が十分に検討されていないと,実証実験を実施しても有意義なエビデンスが得られるとは限らない)。 ・ホーム転落には,駅ホームの物理要因(ホーム構造,幅員,床材など),環境要因(他客の存在,環境音,照明など),当事者側の要因(急ぎ,疲労,油断など)が絡み合って影響している。 ・ホーム中央ブロック敷設のリスクも考慮した上で実証実験を行う必要があるが,これらの諸要因を網羅することは現実的には困難と考える。 ・一方,実際のホーム転落の事例には駅ホームの物理要因,環境要因,当事者側の要因などが全て含まれている。 ・ホーム転落の事例を収集し詳しく分析することにより,実証実験より有意義な知見が得られると考える(それゆえ,転落事例の調査は重要である)。 【天竜浜名湖鉄道二俣駅 転落事故概要】 2023年6月17日(土) 現場検証 転落された方と会長 転落された日時:2023年2月28日火曜日 午前9時 場所:天竜浜名湖鉄道 二俣駅(ふたまたえき) 駅の構造:島式 2面4線(1線は使わていない)東西に長く、西側にスロープ、改札 あり 年齢・性別:60代 男性 視力・眼疾患:弱視2級 網膜色素変性症 白杖使用状況:シンボルケーンを持っていたが転落時は所持していなかった。 (その後、ロングケーンを購入したが現在も持たない時が多い) 有人駅、電車はワンマン 転落状況(写真③前方が西) 乗車していた電車は、左側(南側)のホームに奥から入線(西から東) 一番後ろに乗っていたため、西から2つ目の鉄柱あたりで下車 (右側(北側)のホームは使われていない) すぐの点状ブロックには内方線があり、いつもなら手前のブロックを超え、中央の ブロックで左(西)を向き、スロープをさがるように進み、改札に向かうためにブロ ックに沿って右(北)に曲がる。 当日は、何らかの理由で中央ブロックを超えてしまい奥(右側)の点状ブロック (ホーム縁端・内方線なし)を中央ブロックと間違えて沿って歩いていた。 スロープの方角は朝日と屋根の陰で見えにくくなっていたとのことだが、実際は西に むかって歩行していたため、アサヒというよりも日向と日陰の境目で見えにくかったと 思われる。 北側の点状ブロックを西に進むと鉄柱を避けるように右(北)に曲がっており、 本人はそれを中央ブロックの改札に向かう曲がり角と誤認し、右(北)を向いてそのまま進んだところで転落。 すでに低くなりつつある場所でホームの高さは60センチほど。 そのまま足から落ちて転ばずに着地したとのこと。 落ちたときは少し足が痛かったが、特に怪我はなかった。 改札から駅員が来て線路上からホームへ誘導してくれた。 駅員には状況報告し、その後転落防止のため黄色いコーンが置かれている。 本人は普段から点字ブロックを目で確認して歩いており、 点状、線状の違いもよく分かっていなかった。