平成19年版日本の水資源について
〜 安全で安心な水利用に向けて 〜
平成19年8月
国土交通省 土地・水資源局水資源部
は じ め に
- 現在、私たちは「水道の蛇口をひねればいつでも「水」を手に入れ
ることができるのが当たり前」と考えるようになりました。しかし、我が国の水資源は、年間の降水量こそ世界平均の約2倍ですが、国土が急峻で流路が短いと
いう地形的特性や降雨が梅雨や台風期に集中しているという気候的特性から、地域的にも季節的にも偏在しており、安定的に水利用をするには適した地域とは言
えません。
- いつでも手に入れることのできる水は、古来より営々と水確保の努
力が積み重ねられ、戦後の高度経済成長、都市化等の急激な社会経済の変化に対応し、水資源開発施設や水供給施設の整備などによって、水利用の一連のシステ
ムが現在の水準まで高まったからだと言えます。
- 近年、我が国全体でみれば水需給の乖離は縮小しつつあります。し
かし、平成17年度には、西日本を中心に全国の広い範囲で渇水となりました。多くの地域が水源として頼
るダム等の水資源開発施設は、水系が有する計画に対し整備途上のものは整備した施設の能力を超える少雨が、また、施設が完成しても施設の計画を超える少雨
が生じた場合には、ダムは枯渇することとなります。実際には、取水を制限する等の対策が実施されるため、ダムが枯渇することはまれですが、それでも渇水に
伴う影響を避けることはできません。さらに、地域によって水需給バランスが異なることから、渇水の影響を度々受ける地域もあります。
- 一方、新たに憂慮されているのは、19世紀半ばの産業革命以降、大
量の化石燃料が消費されて二酸化炭素が大量に大気中に放出されたこと等に伴う人間活動に起因する急激な気候変動、いわゆる地球温暖化現象です。今年、「気
候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第4次評価報告書第1〜3作業部会報告書が承認され、気候変動による水資源への影響が指摘さ
れています。
- 気候変動が水資源に直接及ぼす影響は多岐にわたります。気温が上
昇すると、先ず蒸発、降雨といった地球上の水の大循環に直接影響を与えますので降水量ひいては河川流量そのものが変動します。また、地域によっては、降雪
量が減少し、早期の雪解けにより融雪出水が早まります。これらによって、ダム等の水資源開発施設の貯留量への影響が予想されます。
- 一方、気温の上昇に伴い、田植えの時期が変化して最も水が必要と
なる代かき期がずれるなど期別の需要量の変化といったことも予想されます。
- 水温も上昇するので生態系の変化や水質の悪化も懸念されます。今
年は、琵琶湖北湖で湖に酸素を供給する表層と深層が混合する全循環が例年より遅く確認されましたが、全循環の停止が危惧され、気候変動の影響があるのでは
ないかと指摘されております。このように、気候変動による渇水のリスクや水質に関わるリスクが高まる恐れがあります。
- 平成16年に発生した新潟県中越地震や平成18年の広島県営水道送水トンネルの落盤事故は、長期間の断水が生じて国民生活や社会経済に
甚大な影響を与えました。今後30年間に大規模な地震の発生の可能性が指摘され、水供給のための施設についても建設後年数
が経過し、老朽化が進行するものが増えている状況にあり、地震時や事故時のリスクも増大の恐れがあります。
- 水は、我々の生命・健康や経済活動の基盤であり、基盤を揺るがす
リスクに対しては、早くその芽をつみ取り、できる限り影響を回避・軽減する取り組みを進めていく必要があります。
- また、これまでは、社会経済の発展に伴い急増する水需要に対し、
水資源開発による量的な充足が優先されてきましたが、本格的な人口減少社会の到来や急速な少子・高齢化の進展する中で、限られた水資源を有効に利用する、
管理の時代への転換点にあります。需要サイド、供給サイドの両面から、水資源を総合的に管理することが求められています。
- 一方、世界に目を向けると、水問題に対する関心は世界的に高まっ
ているものの、現状では「2015年までに、安全な飲料水を利用できない人々の割合を、また基本的な衛生施設を利用できな
い人々の割合を半減する」という国際目標を達成するには改善のペースが遅すぎることが指摘され、国際社会の更なる取り組みが求められています。
- その中でもアジア・太平洋地域は、世界中で安全な飲料水を利用で
きない人、基本的な衛生施設を利用できない人のうち、それぞれ63%、75%を占めており、極めて深刻な状況です。
- かつては我が国も、経済成長の過程で同様の課題に直面し、乗り越
えてきました。
- 平成19年12月には第1回アジア・太平洋水サミットが開催され、アジア・太平洋地域の首脳級を含むハ
イレベルが集い、水問題の解決に向けて活発な議論が行われる予定です。アジアの成長を支援し、その活力を取り込むことは我が国の発展にもつながります。
「第1回アジア・太平洋水サミット」を通じ、知恵と技術を活かしてアジア共通の水問題の克服にリーダーシップを発揮することが、開催国である日本に強く求
められています。
- 今年の「日本の水資源」第T編では、安全で安心な水利用をテーマ
に、リスクやその対応の事例等を紹介しながら、今後に向けて重要であると考えられる事項を整理しました。第U編では、水資源に関する国際的な話題を紹介さ
せていただきました。
- 「日本の水資源」は、国土交通省土地・水資源局水資源部が関係機
関の調査結果などを基に我が国の水需給や水資源開発の現況、今後早急に対応すべき水資源に関わる課題について総合的にとりまとめたもので、昭和58年から毎年公表しておりま
す。本書を通じて、多くの国民の皆様に我が国と世界の水資源の実態をご理解いただきとともに、基礎資料として活用していただき、あわせて水資源行政に一層
のご支援を賜りますようにお願い申し上げます。
概要
版
第T編 安全で安心
な水利用に向けて
第U編 世界の水問
題解決に向けた新たな行動
第V編 日本の水資源と水需給の現況
第1章 水の循環と水資源の賦存状況 、 参考資料
第2章 水資源の利用状況 、 参考資料
第3章 水資源開発と水供給の現状 、 参考資料
第4章 地域別の状況 、 参考資料
第5章 渇水、災害、事故等の状況 、 参考資料
第6章 水資源と環境 、 参考資料
第7章 地下水の保全と適正な利用 、 参考資料
第8章 水資源の有効利用 、 参考資料
第9章 水源地域対策 、 参考資料
第10章 水資源に関する理解の促進 、 参考資料
第11章 健全な水循環系の構築
第12章 水資源に関する国際的な取り組み 、 参考資料
第13章 平成18年度の水資源をめぐる動き
用語の解説
担当:国土交通省水資源部水資源計画課水資源調査室(代表:5253-8111)
室長 海野 修司(内線 31-251)
課長補佐 木村 國男(内線 31-233)
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