「平成15年版　日本の水資源」について

平成15年版日本の水資源について

～地球規模の気候変動と日本の水資源問題～

平成15年８月

国土交通省土地・水資源局水資源部

第１編　地球規模の気候変動と日本の水資源問題

昨今、地球規模での気候変動が深刻な問題として提起されている。これは、人間の活動に伴って発生する二酸化炭素などによる温室効果が地球の気温を上昇させ、自然の生態系や人類の諸活動に影響をもたらすというものである。
「気候変動に関する政府間パネル」（IPCC）の第三次評価報告書（2001年）は、地球の平均地上気温（陸域における地表付近の気温と海面水温の平均）が1861年以降上昇し、20世紀の100年間で0.6±0.2℃も上昇したこと、地球全体の平均海面水位については10cm～20cm上昇したこと、また、積雪面積については1960年代後期以降では約10%減少した可能性が高いことを明らかにしている。また、過去50年間の温暖化の大部分が人間の活動に起因することの、新たな、かつより確実な証拠が得られたとも述べている。
さらに、同報告書では、1990年から2100年までの間に、平均地上気温が1.4℃～5.8℃上昇し、これに伴って、北半球の積雪域の縮小と、9cm～88cmの海面上昇が発生すると予測されている。また、低緯度の陸上域では、降水量の増加する地域と減少する地域の両方が生じること、北半球の中・高緯度地域や南極では、冬の降水量が増加する可能性が高いこと、平均降水量の増加する地域においても、降水量の年々の変動が大きくなる可能性がかなり高いことなどが示されている。
エルニーニョなど数年スケールの気候変動や、氷河期のサイクルに見られる数10万年単位の気候変動など、気候の変動には様々な要因が含まれるが、水資源を安定的に確保するためには、今後も進行が予想される地球温暖化と、それに伴う降水状況の変化の影響を無視することはできない。これらについて対策を講じるべく調査・検討を進めることが不可欠であると考えられる。

１．地球温暖化と我が国の水資源への影響

（１）地球温暖化の実態

20世紀（1901年から2000年の100年間）における地球全体の平均気温は、およそ0.6℃上昇している。この傾向が継続するならば、 21世紀における地球上の気温は、現在よりもさらに高いものになると予想される。
地球温暖化の原因の一つは人間活動に起因していると言われている。すなわち、人間活動によって二酸化炭素などの温室効果ガスが増えると、地表面付近の気温が上昇すると考えられる。
IPCCによると、2100年までの気温の変化について、最も温暖化が進行するという試算で5.8℃、最小の場合で1.4℃、1990年に比べて上昇すると予測されている。また、この上昇率は、20世紀に観測されたものよりもはるかに大きく、少なくとも過去１万年の間にも観測されたことのない大きさである可能性がかなり高いと記述されている。
気象庁によると、年平均気温の上昇幅は北半球の中・高緯度地域で大きく、2100年頃には2.5℃～1.7℃上昇が予測されている。また、モデルによっては日本付近の全域で2℃以上上昇するという結果も報告されている。

（２）降水量の推移

IPCCによると、20世紀における降水量の長期的な傾向は、南北両半球の中・高緯度地域を中心に、降水量が増加傾向にある一方、アフリカ大陸の赤道付近や南米大陸の西岸地域では降水量が減少している。また、このような気候変動の実態として、洪水や干ばつなどの異常気象が、世界各地で毎年発生している。
51地点における、1901年から2000年までの100年間の年降水量は、北海道や西日本の一部を除くほとんどの地点で、長期的には減少傾向にあることが認められる。特に、東北南部から紀伊半島にかけては、100年間で10％以上の大きな減少率を示している地点が多い。
日本全体の年降水量を平均値で見ると長期的には減少傾向にある。
水資源の安定的な確保という観点からは、少雨の年の降水量が大きな意味を持っている。多雨の年と少雨の年の差が大きくなってきており、特に1960年代半ば頃からその傾向が顕著に現れている。

季節別に見ると、春季、夏季は増加傾向にある地点も多いが、秋季、冬季は北海道を除いて増加傾向にある地点はほとんどなく、逆に大幅な減少傾向にある地点が多く認められる。

降水のない日が連続する最も長い期間を見ると、関東以西の地域は全体的に長くなる傾向が認められ、渇水発生の危険性が懸念される。

1931年以降の月別降水量について異常多雨・異常少雨の発生回数を整理すると、異常少雨の発生数については増加の傾向が認められる。
北日本日本海側では顕著な変化は認められないが、東日本日本海側の降雪量は1980年代半ば頃から急激に減少している。
積雪深が減少する時期すなわち雪融けの時期が、近年では昭和40年代に比べると約半月程度早まる傾向が認められる。
10％確率の少雨値は年平均値を上回るペースで減少。この傾向は、季節別、地域別にデータを整理した場合でも認められる。将来もこの傾向が継続するとは限らないが、仮に今後とも同様のペースで10％確率の少雨値が減少していった場合、将来時点では現在よりも深刻な少雨の頻発する危険性が高まり、水利用の安定性が低下することになる。

降水量など気象現象の長期にわたる変化を、十分な精度をもって予測することはいまだ困難である。しかし、安定的な水供給を確保していくためには、降水量の変動や雪融けの早期化などが及ぼす影響を無視することはできない。このため、水資源の計画・運用に、長期的な予測の視点を考慮に入れていくことが課題と考えられる。

（３）水資源への影響

少雨の年の降水量の減少傾向によって、主要な水系における水供給の安定性も大幅に低下している。

灌漑期の平均気温と日蒸発散量の関係をみると、平均気温が上昇するに伴って蒸発散量が増大する。
全ての都道府県で気温が上昇するに伴って生活用水使用量原単位が上昇する傾向にある。
我が国の過去の渇水を振り返ってみると、戦前にも昭和14年の琵琶湖大渇水、昭和39年の東京オリンピック渇水、昭和42年の長崎渇水、昭和48年の高松砂漠、昭和53年の福岡渇水、昭和59・60年の全国冬渇水、平成６年の列島渇水と数年に一回の割合で大規模な渇水が発生してきている。
昭和59・60年の全国冬渇水、平成６年の列島渇水の年では、全国で1,600万人以上が時間給水や減圧給水などの影響を受けている。
平成６年の列島渇水以降、深刻な渇水は発生していないが、我が国の降水量を長期的な観点から見ると、減少の傾向を示している地域が多い。
多雨年と少雨年の間のばらつきも次第に増大してきている。

安定した水供給を実現していくためには需要と供給の両面から適切な対応を講じていく努力が必要である。
常に長期的・広域的な視点に立脚し、水資源の安定性確保に資する各種施策を、先行的かつ計画的に推進していくことが強く求められる。

２．第３回世界水フォーラムと閣僚級国際会議

（１）水問題の解決に向けた政府レベルの取組

2000年　国連ミレニアムサミットにおいて、貧困撲滅をテーマとしたミレニアム開発目標（MDGs）採択。「2015年までに安全な飲み水にアクセスできない人口の割合を半減する。」という具体的な数値目標が掲げられる。
2002年5月、アナン国連事務総長がヨハネスブルグ・サミットに向けた準備会合で「ＷＥＨＡＢ」発言。具体的な成果をあげることが期待される重要な分野として、1)水（Water）、2)エネルギー（Energy）、3)健康（Health）、4) 農業（Agriculture）、 5)生物多様性（Biodiversity）を規定。
2002年８～９月、持続可能な開発に関する世界首脳会議（ヨハネスブルグ・サミット）において、水が５つの最重要分野（WEHAB）の一つとして取り上げられ、「実施計画」で水に加え衛生について数値目標が明示されるなど、水問題が現在の世界の最重点課題の一つとして認識される。

（２）世界水フォーラム

アジアで初めてとなる第３回世界水フォーラムは、2003年３月16日から23日までの８日間にわたって、京都・滋賀・大阪の２府１県にまたがる琵琶湖・淀川流域を舞台に、

オープンな会議
参加する会議から一人一人が創る会議へ
議論から具体的な行動を実現する会議へ

の三つを基本理念として開催された。

（３）世界水フォーラムにおける閣僚級国際会議の概要

世界の様々な水問題を解決していくためには、水問題に責任を有する各国政府が、自らの具体的な行動を明らかにし、市民や専門家等と連携して問題の解決に取り組むことが不可欠であるとの観点から、日本政府として第２回世界水フォーラムと同様、第３回世界水フォーラムに併せて閣僚級国際会議を開催した。水問題に対する認識の高まりから、170の国・地域と47の国際機関等から、約130名の閣僚級の代表を含む約1,300名が出席し、水問題の解決に向けた具体的行動に関する議論を行った。
１日目の全体会合では、扇千景議長が「水行動集－Time to Act－」を発表し、その後、５つのサブテーマに即した分科会が行われた。
２日目の全体会合は、外務省の藤崎外務審議官が議長を務め、閣僚宣言が採択された。
閣僚級国際会議では「持続可能な開発のための自立と連携による水問題の解決」がテーマとして設定された。このテーマは、 "水に関するガバナンスと自助努力の強化"と"自助努力を支援する水パートナーシップの醸成"から構成される。

具体的な議論を展開するために「安全な飲料水と衛生」、「食料と農村開発のための水」、「水質汚濁防止と生態系の保全」、「災害軽減と危機管理」、「水資源管理と便益の共有」という5つの分科会が設けられた。

（４）閣僚級国際会議の成果

今回の閣僚級国際会議の成果として、参加各国・国際機関の合意文書である「閣僚宣言」に加え、各国政府・国際機関の自発的な行動集である「水行動集－Time to Act－」（Portfolio of Water Actions）がとりまとめられた。
成果のとりまとめプロセスにおいて、閣僚級国際会議と世界水フォーラムの間で、緊密な連携が図られた。

閣僚宣言は、具体的な行動に言及した内容となっている。また、ヨハネスブルグ・サミット等の関連国際会議の成果に対するフォローアップ等の決意も盛り込まれた。
「水行動集－Time to Act－」には45の国、18の国際機関から、合計501件の行動が提出された（2003年3月23日時点）。日本から提出された行動は、技術開発やODAなど合計92件（2003年3月23日時点）。
今回取りまとめられた行動集は成果の第一歩に過ぎず、それぞれの国および国際機関がこれらの行動計画を着実に実施するとともに、各国政府・国際機関ないしは国際社会が実施状況をモニタリングするなど、行動を促進するためのフォローアップを行っていかなければならない。そのため、日本政府は、当面このネットワークを組織し、運営する用意があることを表明し、関連する国際機関と協力していくこととした。

（５）閣僚級国際会議の関連活動

第3回世界水フォーラムにおける先進的な試みとして、日本政府と第3回世界水フォーラム運営委員会の共催により、閣僚級国際会議に先だって参加閣僚とフォーラムの参加者が、自由に対話できる場が設営された。

（６）今後の取組

世界が直面する様々な水問題を解消するためには、水に関係する全ての人と組織が、各々の立場で積極的に問題の解決に取り組んでいくことが必要である。
2003年６月にフランスのエビアンで開催された主要国首脳会議（Ｇ８）でも、水の問題は重要な課題の一つとしてとりあげられ、第３回世界水フォーラムと閣僚級国際会議の成果を踏まえ、参加各国がより積極的な役割を果たしていくことを謳った「行動計画」が採択された。
我が国も、世界の各国・国際機関とも緊密に連携しつつ、水に関する情報ネットワークの整備・運営や、各種の技術・経験の移転などを通じて、今後とも世界の水問題の解決に向けて努力を傾けていくことが求められている。

第Ⅱ編　平成14年度の日本の水資源の状況

１．最近の気象状況

我が国の年平均降水量は1,718mm(昭和46年から平成12年の全国約1,300地点の降水量から算出)。
平成14年の年降水量は、西日本で平年を下回り、東北、北陸で平年を上回る(平成14年の全国51地点の平均は1,408mm)。

２．水使用の現状

平成12年における我が国の水使用実績（取水量ベース）は約870億m3/年。
生活用水約164億m3、工業用水約134億m3、農業用水約572億m3（公益事業や消･流雪などのために使用された水量は含まない）。

生活用水の使用量は約144億m3(有効水量ベース)で対前年比0.5%増、一人一日平均使用量は322リットル/人・日で対前年比 0.3％増(平成12年)。

工業用水の淡水使用量は約555億m3(有効水量ベース)で対前年比1.1％増。回収率は78.6％で対前年比0.5％増。その結果、淡水補給量は約119億m3で対前年比0.5％減(平成12年)。

その他に、消流雪用水が消雪パイプで約2.6億m3/年、流雪溝で約5.4億m3/年を、養魚用水が約55億m3/年を使用(平成13年度)。

３．水資源開発の現状

（１）河川水

我が国のダム等の水資源開発施設による河川水の都市用水の開発水量は約166億m3/年。内訳は、水道用水が約106億m3/年、工業用水が約61億m3/年(平成15年3月末)。
平成14年度に完成した都市用水又は農業用水の開発を目的とするダム等水資源開発施設は、全国で9施設。これらの施設による年間の開発水量は、都市用水が約12百万m3/年(水道用水約8百万m3/年、工業用水約3百万m3/年)、農業用水が約16百万m3/年。
都市用水の不安定取水量(河川水が豊富なときだけ取水可能な量)は、全国で約12億m3/年(平成14年末)であり、平成12年の都市用水の使用量に対する割合は約4.0％。

（２）地下水

都市用水及び農業用水の地下水使用量は約110億m3/年、地下水依存率は約12.6％、このうち都市用水については約25.8％。(平成12年)

（３）その他の水資源

下水処理水は約130億mm3/年が発生し、202か所の処理場において約1.4億m3の水量が処理場外で再利用(平成12年度)。
雨水は全国の雑用水利用施設のうち、約38％に当たる934の施設において水洗トイレ用水等の雑用水として利用され､その水量は約0.07億m3/年(平成11年度)。
海水等の淡水化施設で水道として供給するために造水された量は、約0.07億m3/年(平成13年度)

４．平成14年の渇水の状況等

平成14年は夏以降の降水が少なかったことから、関東（6～7月）、東海（6～10月）、近畿（8月～15年1月）、四国（6月～7月）、九州北部（12月～15年5月）の一級水系等において取水制限が実施された。

５．水資源と環境

河川の水質環境基準の達成率をBODでみると、近年わずかずつ上昇しており、平成13年度は81.5％。
湖沼の水質環境基準の達成率をCODでみると、低い水準にあり、平成13年度は45.8％。
河川水や湖沼水から内分泌攪乱化学物質（環境ホルモン）の疑いがもたれている物質についての実態調査が進捗しており、今後も更なる関連情報の収集が必要。
水資源の開発や利用等に関するエネルギー消費量は、例えば、平成12年度における上下水道合計の電力使用量は145億kWh、これは我が国の総電力使用量の約1.5％。

６．地下水の保全と適正な利用

平成13年度の全国の地盤沈下状況は、年間2cm以上沈下した地域は9地域28km2。

７．水資源の有効利用

雑用水利用は全国でおよそ2,500施設、一日あたり約45万m3が利用されており、全国の生活用水使用量の約１％に相当 (平成11年度末時点)。
地域別にみると、関東臨海地域及び北九州地域の両地域で全国の約2/3。

雑用水利用のコストについてみると、使用水量規模が大きくなるに従って低くなる傾向にあるが、建築物の構造、水処理方式及び維持管理体制の差違等によりかなりのバラツキがある。

８．水源地域対策の充実

水源地域対策特別措置法に基づき、平成14年度は、雄物川水系成瀬川に建設される成瀬ダム(秋田県)を指定ダムとして指定。
平成14年度末における法指定ダム等の数は95ダム及び1湖沼水位調節施設の96施設、うち水源地域整備計画の決定されたものは84施設。
平成13年度より、ダムごとに、ダムを活かした水源地域の自立的、持続的な活性化のための行動計画「水源地域ビジョン」を、水源地域の自治体等と共同で策定・推進。これまでに90ダムにおいて策定作業又は推進が図られ、21ダムにおいて策定・公表。
水源地域を担う地域リーダーを養成するため水源地域活性化リーダー養成研修を平成14年度より開始。

９．水資源に関する国際的な取組

世界の年降水量は約119兆m3/年。うち約43兆m3/年が河川水等として存在。
1995年の世界の水使用量は約35,700億m3/年。地域別には、アジアが約20,850億m3/年と最多。
将来の水需要量は、2025年には1995年の約1.4倍を予測。
国連では、水不足の人口の割合は、1995年の約1/3が2025年には約2/3になると報告。
アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、タイ、インドネシアにおける流域単位の計画策定に向けた取組状況等、水資源行政を紹介。
第3回世界水フォーラム及び閣僚級国際会議が2003年3月に日本で開催され、閣僚宣言を採択、水行動集が発表された。

10．平成14年度の水資源をめぐる動き

ヨハネスブルグ・サミット
利根川水系及び荒川水系における水資源開発基本計画の一部変更
独立行政法人水資源機構法の制定
第３回世界水フォーラム開催
水道水質基準の見直し
今後の下水道の整備と管理及び流域管理のあり方はいかにあるべきか

その他：「水資源トピックス」を枠囲いで表示

気候変動に関する政府間パネル（IPCC）
持続可能な開発に関する世界首脳会議（ヨハネスブルグ・サミット）
国際淡水年2003
Ｇ８エビアンサミットでの水行動計画
水循環系再生構想策定への取組み
水源地域活性化のための流域連携の促進
世界水発展報告書

担当：国土交通省水資源部

水資源計画課水資源調査室（代表：5253-8111)

室長　　　　中安　正晃（内線 31-251）

専門調査官　尾中　宗久（内線 31-233）

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