我が国の工業用水

 工業用水は、我が国の経済成長に呼応し、まさに産業の血液として産業活動の発展に重要な役割を果たしてきました。工業用水の総使用量は、最近ではほぼ横ばいで推移していますが、従来からの主要な用途であるボイラー用、原料用、製品処理用、洗浄用、冷却用、温調用等に加え、IC産業やファインケミカルズ(医薬品)産業等の先端産業において高品質の水が要求されるなど、新たな水需要も台頭してきました。

 ○工業用水需要の現状
 現在、工業用水需要は、「使用水量」ベースで152.1百万m3/日、回収再利用を踏まえ減損した水量を補う「補給水量」ベースで33.7百万m3/日(いずれも平成9年工業統計表、従業員30人以上の事業所ベース。)となっており、取水量ベースで全国の淡水需要の約16%を占めています。

業種別工業用水使用量

○工業用水の回収率の動向
回収率(工業用水使用水量に対する回収水量の割合)については、昭和40年の全業種平均36%から、その後の水使用合理化等の進展により平成9年には77.9%まで上昇しています。

○工業用水の水源
工業用水の淡水補給水量の水源別の構成比は、平成9年現在、工業用水道が38.5%と最大の水源となっており、次いで地下水が27.5%、河川水(地表水及び伏流水)が25.6%、上水道が7.2%となっています。

       【工業用水(淡水)の水源別シェア】 (単位:%)
総量
補給水
回収水
工業用水道
地下水
河川水
上水道
その他
100.0
22.1
8.5
6.1
5.6
1.6
0.3
77.9
-
100.0
38.5
27.5
25.6
7.2
1.2
-

(注)平成9年工業統計表

○工業用水道事業の沿革
工業用水道は、産業活動に必要不可欠な水を、安定的・計画的に供給するための水供給システムであり、世界的にはあまり類例を見ないものですが、昭和30年代以降の高度経済成長に大きく寄与するとともに、地域開発のための基盤整備事業として、あるいは地盤沈下対策、地下水塩水化対策等のための代替水供給事業など重要な役割を担ってきました。
 我が国の公営工業用水道は、昭和12年に川崎市において、地下水位の低下対策のため供給が開始されて以来、昭和13年には山口県が昭和14年には静岡県など2県1市が工業用水道の建設に着手していますが、工業用水道の建設が本格的に進められたのは、戦後、特に昭和30年代以降の経済の高度成長期以降であり、昭和31年の工業用水法の制定及び工業用水道事業に対する国庫補助制度の創設、昭和33年の工業用水道事業法の制定等を経て、その整備基盤が順次図られてきました。
 現在では、139の事業体による233事業が運営されていますが、その多くが国庫補助事業により建設されました。平成12年度の工業用水道事業に対する補助金は、建設事業に51億円、改築事業に68億円、合計118億円確保されており、地盤沈下対策、地域開発の推進のため、引き続き建設の拡張が図られるとともに、工業用水道事業が開始されてから数十年を経過した事業の施設の老朽化対策や耐震対策のため、多くの改築事業が実施されています。
 また、工業用水道事業の経営状況としては、事業体の多くが安定した料金収入を確保しており、目下のところ工業用水道事業全体では黒字決算となっています。しかし、一方では建設事業の長期化による建設費、特に水源開発費の増加、老朽化した施設の改築費用の増蒿、また、産業構造の変化や水使用の合理化により今後の大きな水需要が見込めないことから、より一層の効率的な事業運営を図ることが緊要な課題となっています。


制度等
内容等
S20年代後半
地下水過剰汲み上げによる地盤沈下が顕著となる
京浜工業地帯
S31年
工業用水法の制定
地盤沈下防止対策事業費補助制度創設
工業用地下水採取規制(地下水保全、工業の健全発達、地盤沈下防止)
S32年
産業基盤整備事業費補助制度創設
均衡ある国土開発の為の工業用水道事業、地盤沈下未然防止
S37年
水資源開発公団事業費補助制度創設
水源を水資源開発公団が施工しているダム等に依存している工業用水道事業者に対し補助金を交付するべきころを、事務の簡素化の為、直接水資源開発公団へ交付
S42年
水源費補助制度創設
当面、工業用水道の専用施設の建設を行う必要がない場合であっても治水等、多目的の緊急性に合わせて、先行的に工業用水の水資源確保が必要な場合に、当該多目的ダムの建設費のうち工業用水の負担分について補助金を交付
S47年
沖縄工業用水道事業費補助制度創設
本土復帰記念事業
S56年
改築事業費補助制度創設
施設の劣化、老朽化が著しい事業を対象に補助金を交付
S60年
小規模工業用水道事業費補助制度創設
足早な企業立地に対するため30,000m2/日以下の事業を対象に補助金を交付
S62年
工業用水道事業資金貸付金制度創設
一定区域の整備及び開発事業の一環として、一体的かつ緊急に実施する必要のある工業用水道事業の建設費用に充てる資金の一部を貸し付ける
H7年
工業用水道施設災害復旧事業費補助制度創設
阪神・淡路大震災により被害を受けた工業用水道施設について、地方公共団体が施工する災害復旧事業費の一部補助を行う
H9年
補助採択基準の下限値を設定 1:工業用水道事業者が都道府県で、計画給水陵が6,000m2/日以下の事業
2:工業用水道事業者が市町村で計画給水陵が3,000m2/日以下の事業の場合は補助対象外とする
H10年
補助採択基準の下限値の引き上げ及び設定
1:工業用水道事業者が市町村で計画給水陵が4,000m2/日以下の事業
2:改築事業がで工期が10年を超え、かつ、補助対象事業費が20億円未満のもの場合は補助対象外とする
H11年
補助採択基準の設定
災害に起因する再建または補修事業で工期が1年以上、かつ、補助対象総事業費が2億円未満のものは補助対象外とする
H12年
補助採択基準の下限値の引き上げ
工業用水道事業者が都道府県で、計画吸水量8,000m2/日以下の事業の場合は補助対象外とする