色々な立場の色々な意見を知ることが、
まちづくりには必要です
滋賀県立大学環境科学部教授
柴田 いづみ氏
環境科学部の代表的授業としまして、環境フィールドワークという授業があります。環境問題をはじめ、地域の問題を考えるということは、「色々な立場の人が、色々な形で意見を出し合うこと。相手の立場も理解しながら、自分の考えを進めていくこと。」まず、そういうことがとても大切だということを覚えてもらいたいので、単にその土地に行って、その土地を調査するだけではなく、合意形成の方法論も含めて学生達に学習してもらっています。 授業のことを少しお話ししますと、まず、一日かけて現場を歩き、記録をとったりして状況を把握してもらいます。次にその調査したことをグループ単位のワークショップでパネルにします。個人レポートも出してもらうのですが、これは自然、街路やまち、人などの、関係した全てに対して、各自が自分のテーマを選んで書いてもらいます。調査方針も自分で決めて、3ヵ月程度調査をしてもらうことになります。また、ある時は、エコロールプレイをします。ロールプレイというのは、まちづくりの手法として、ワークショップの一つなのですが、環境をテーマにしている場合はエコロールプレイといいます。例えば、私が、かつては琵琶湖の内湖であった津田の干拓地を所有する人の娘の役をします。その娘は京都あたりに住んでいて、「もうとてもじゃないけれど、あの土地は引き継げないわ。」とういような意見を言ったり、またある人は国土庁の関係者、そしてまた銀行家、開発業者、自然保護団体の人・・・というように様々な役柄の人が、それぞれの立場から意見を言うわけです。琵琶湖の中の妖精とかユニークな仮想の役も認めて行いました。もちろん、エコロールプレイでは、バックとなる資料をかなり勉強しなくてはならないのですが、言ってることは正しそうでも、何かあやふやなところでクルクルと終わってしまうようなところもあったりします。 エコロールプレイをしますと、その時までは色々な意見があることがわかっていても、実は自分だけの目でしか見ていなかったり、自分の意見を押し通すことしか出来ていなかったという事がわかるわけです。しかし、終わった後で感想文を書いてもらいますと、ある一つの問題に対して、たくさんの意見が色々な立場からあるということがはっきりと自覚されて来ているのがわかります。 最終的にはグループ単位で、どういうものを津田干拓地の方向性として企画したら一番いいと思うのか提案してもらいます。すると、「現在のような干拓地のままで農業をもう少し発展させた方がいいのではないか」という意見から「もう一度内湖に復元した方がいい」という意味まで、大体大きく五つくらいに毎回分かれています。ところが、過去2年間4回ほど重ねた結果を見ますと、内湖の復元という意見が、比較的多くなってきました。 私自身は、内湖というのは、人間で例えるなら、胃であり、それから肝臓であり、そして子宮であるというような考え方を持っています。ところが、戦後、米の増産のために、琵琶湖の周辺でもかなりの内湖が干拓されてきたのが現状です。そこで「もう一度、湖の生態系を支える内湖の良さを見直し、津田内湖を復元してはいかがでしょう。」というのが、学生達と提案した意見です。水環境の保全も生態系全体の回復を目指して、色々な立場から総合的に取り組んでいくべきだと思います。 |
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