2.開発リスクの低減

 開発リスクを低減することは、どのような開発にあたっても基本的な課題となります。特に大規模工場跡地等の開発にあたっては、規模が大きく膨大な投資が必要なこと、市場が未成熟な場合が多いこと、開発企業(土地所有者)が事業経験が少ないことなどの理由により、いかに開発リスクを低減するかが事業化実現への鍵と言えるでしょう。
 リスクの低減策は、総合的な事業成立性そのものですが、特に大規模工場跡地の開発の場合には、暫定利用も踏まえた段階的な活用・整備により無理の無い事業計画を立てることが考えられます。また、デベロッパー等の民間企業等をパートナーとして一体的にすすめる方法も有効です。
 さらに、資金調達の手法として証券化等の多様な手法も今後、積極的に検討すべきでしょう。

方策1 基盤整備への支援措置の活用

 大規模な低・未利用地では区画道路等の公共施設の整備や敷地の整序が必要となります。また、地区へのアプローチが悪い場合には、幹線道路へ通じる取付道路等の整備も必要となりますが、周辺地区の基盤も同時に整備する必要がある場合には、周辺地区も含めた一体的な「土地区画整理事業」の実施が有効であり、そのため、国等からの補助制度があります。

土地区画整理事業

国の所管
建設省都市局区画整理課

目  的
道路などの公共施設の整備改善、宅地の利用の増進

事業主体
個人、地権者などが設立する組合、地方公共団体、都市基盤整備公団等

対象地域
都市計画区域

要 件 等
組合等区画整理補助事業:施行地区の面積が10ha以上(特別の場合は5ha以上)

補助金
調査設計費、移転補償費、公共施設整備費等

事業の特色

換地方式
…事業により造成され、従前の宅地に代わり地権者に提供される宅地を「換地」といい、これを従前の宅地とみなして、所有権などを置き換えること

減歩制度
…道路など公共施設や事業費を賄うために第3者に売却する土地(保留地という)を生み出すために、各地権者が少しずつ土地を供出すること。供出して面積が減少しても、宅地の利用増進により、基本的に従前との価値の増減はない

備  考
目的や対象地域などによってさまざまな類似制度があります。
例)特定土地区画整理事業…首都圏など大都市地域で比較的小規模な面積でも可能その他敷地整序型土地区画整理事業等

事業のメージ

 

方策2 暫定利用を含めた段階的な活用

 現状では地域の開発に対する需要が低かったり、開発規模が大きく一時期の開発では資金的負担も大きすぎる場合は、段階的な開発を進めるべきでしょう。再開発地区計画や土地区画整理事業などの制度や事業も、段階的な整備が可能ですから、無理のない事業計画を検討することが重要です。既存施設や空地部分を利用した暫定利用から始め、当該地区への人の流入状況、消費需要の動向を探ることも考えられます。また、暫定利用する場合は定期借地権制度や定期借家制度(次項参照)を用いることも有効でしょう。

ケーススタディ:大規模工場跡地等の暫定利用、既存施設の利活用(Y市)

 本地区は、工業専用地域に指定され、操業停止により、遊休化とすることが決定されています。また、提案者は、処分等を考えており、事業化により、複数の有効活用や将来の土地利用方向を求められています。以下のような有効活用方針を目標としています。

@既存施設の有効活用
A用地地域の見直し、再開発地区計画等の検討
B「定期借地権制度」等、資金調達支援策の導入検討

調査地区の範囲と提案地区

有効活用方針


 

方策3 パートナーシップによる事業推進

 大規模な土地の場合は、資金面やノウハウ面などから自社のみによる開発はリスクが高く、開発が難しい場合があります。このような場合、専門的な知識や資金力のある都市基盤整備公団等の公的機関や民間デベロッパーにパートナーとして事業に参画してもらう方法が有効です。パートナーシップによるまちづくりでは、例えば土地所有者が土地を提供するかわりに、民間デベロッパー等がパートナーとなり資金やノウハウを提供してもらい事業を進めることが考えられます。パートナーには一時的な資金の立替やビル床を一括して買い取ってもらったり、管理運営を委託することも考えられます。また、民間のノウハウを広く活用する方法として、事業コンペ方式*による開発も有効な方法です。
 
*事業コンペ方式:当該地の開発に深く関与するパートナーを選択する方法で、あらかじめ「土地利用の考え方」「事業の概要」「予算」等を説明し、企画提案その他により決定する。

方策4 多様な資金調達手法の検討

 開発リスクの低減のためには、投資軽減策を検討する必要があります。
 投資軽減策としては、資金的な負担がなく、安定的な不動産収入を得るには定期借地法式(事業用借地権)や土地信託方式、等価交換方式等が考えられます。また、等価交換方式では自己使用によるリストラ後の再雇用策等が考えられます
 また、新しい資金調達の手法として不動産の証券化を活用することも考えられます。

定期借地権
定期借地権とは…
  • 従来の「正当事由」がないと地主に返還してもらえない借地制度とは異なり、一定の契約期間が満了すると、貸した土地は必ず地主に返還されることを法的に定めた制度です
  • 期間が50年以上で更地で返還する「一般定期借地権」、期間が30年以上で建物を譲渡する「建物譲渡特約付借地権」、事業用に期間が10年以上20年以下で更地で返還する「事業用借地権」の3タイプがあります
メリット
  • 地主にとって、一定期間後必ず土地が戻ってくる上、固定資産税が軽減されます
  • 借地人にとって、所有権の取得と比較して、初期投資の軽減が図れるため、通常の分譲に比べて安価で広い住宅を取得できます
留意点
  • 地代改定など期間中に法的管理問題があります
  • 地主には土地保有税の負担があります
  • 借地人が住宅を売却する場合、地主の承諾などが必要となります
適用例等
  • 初期投資の軽減を図るため、様々な活用が考えられますが、例えば、国道沿いのスーパーマーケット等のロードサイドビジネスにおける事業用借地権の活用が考えられます


定期借家権
定期借家権とは…
  • 「正当事由」がないと返還してもらえない従来の借家制度とは異なり、一定の契約期間が満了すると、貸した借家は必ず家主に返還されることを法的に定めた制度です
メリット
  • 契約期間が明確なため、ファミリー向けなど良質で多様な賃貸住宅の供給が期待できます
  • 期間中の収入予測が立ちやすくなります
  • 不動産の証券化がしやすくなります
  • 土地活用の選択肢が増えます
留意点
  • 従来の借家権からのスムーズな移行・普及が必要です
  • 高齢者のみ世帯や低所得者などが不当に退去させられ困窮することないようにすること
適用例等
  • 住宅、商業施設、オフィスなどあらゆる用途への適用ができるので、さまざまな活用が考えられます


不動産の証券化
不動産の証券化とは…
  • 不動産の所有権を所有者とは別のその不動産を所有することを目的として設立した特定目的会社(SPC)などに移し、その不動産から得られる収益を元に、証券を発行して資金調達します
  • 特定資産流動化に関する法律(いわゆるSPC法)が制定されるなど、不動産証券化のスキームが整備されつつあります。
メリット
  • 新たな資金調達手法となります
  • 財務諸表から離脱するため、資産のスリム化が図れます
  • 投資家は自ら資産を所有せずに、資産からの利益を享受できます
留意点
  • 収益の実績がある既存ビルの証券化と違い、開発型の証券化の場合、スケジュールの明確化、そして将来収益の予測方法が重要となります。
  • 単体での証券化は、将来収益見通しを下回るなどのリスクが大きいために、複数の物件を組み合わせるなどのリスクの軽減策が必要となります
適用例等
  • 例えば、工場跡地でのリサイクル施設、中心市街地での住宅供給など需要見通しが高く具体化が明確で、将来収益予測が立ちやすい場合に活用できるとみられます
  • 単体での証券化ではなく、その他の物件との組み合わせてリスクの軽減を図る方策が必要となります
事業のイメージ