1.地域の将来像の共有

 既成市街地に存在する低・未利用地は、狭小・不整形なものが多く、単独での有効活用が困難な場合が多くなっています。また、道路等の基盤が未整備な密集市街地等に分布する場合も多く、このような低・未利用地の活用にあたっては、住民参加によるまちづくり活動を通じた地域の将来像の共有化と合意形成が前提となります。

方策1 住民参加によるまちづくり

@話し合いの"場" づくり

 まちづくりは地域住民が共通の地域の将来像を共有することが重要です。このためには、まず、まちづくりの"話し合いの場"づくりから始めましょう。行政や専門家の協力も受けて、地元のみなさんで検討していくための組織や検討の場を設け、定期的に話し合っていくことが大事でしょう。
 はじめは地元有志による「懇談会」から始めて、地元の熟度やまちづくり内容の段階に応じて、「勉強会」や「研究会」、「協議会」など適切な組織化を図ることが重要でしょう。どのような検討組織が望ましいかについては、行政や都市計画コンサルタントなどの専門家に入ってもらって相談すると良いでしょう。いきなり、具体的な事業の話ではなく、最初は自分たちの街を知ることからはじめましょう。街を見直し、良い所、問題個所等を見つけながら、みんなが共有できるまちの将来像を作り上げることが重要です。
 このようなまちの将来像づくりや、具体的な計画づくりに対しても様々な助成策があります。

【まちづくり協議会をつくるポイント】
 ○まちづくり協議会の果たす役割を明確にする
  ・まちづくりに関する様々な問題について、地域住民と行政の共通認識をもつ
  ・公開された場で、住民と行政が話し合いを重ね、まちの将来像をもつ
 ○まちづくり協議会の組織をつくる
   まちづくり協議会を組織化する母体となる団体は大きく次の2つがあります。そして、これらの団体の連携、新たにまちづくりの視点を加えた組織のレベルアップ等により、まちづくり協議会を組織化していきます。
  ・地域コミュニティ等のまとまりを持った団体
     (例えば、商店会、自治会、NPO等)
  ・テーマ別に結成された団体(例えば、地域文化の会、環境を考える会等)

【まちづくり協議会等への支援措置】
 まちづくり協議会など話し合いの活動費について、一定の助成をしている自治体もありますので、直接相談すると良いでしょう。
 また、まちづくり活動を支援する「まちづくり基金」などもあります。自治体の外郭団体であるまちづくりセンターやまちづくり公社などで運営している場合があります。


■世田谷まちづくりセンター(例)


【各段階におけるまちづくり組織の役割】
 まちづくりの各段階における話し合いの目的やまちづくりの活動の目標に応じた具体的な手法との関係を以下に整理しています。これらは、基本的な手法であるため、地区の特性やまちづくりの熟度に応じて、具体的な手法を選択・工夫することが重要です。

【計画策定段階における支援措置】
 地区レベルの整備計画(マスタープラン)を策定する調査や、土地区画整理事業など具体的な事業を行うための調査で国(国土庁、建設省)の補助が受けられる調査があります。
 国の補助調査以外にも、各自治体が独自にまちづくりや地域の活性化を図るための調査を行う場合もあります。検討内容や熟度によって活用する調査を行政に相談すると良いでしょう。

■主な国の補助調査

《これからのまちづくりの計画を検討する調査》

・土地利用促進基礎調査策定事業
目  的:既成市街地等における土地利用の実態を把握し、土地の計画的な有効利用の推進に取り組むための基礎的な資料を整備する
対象地区:既成市街地等で、今後計画的に土地利用転換を図っていくべき地区及びその周辺区域
調査主体:自治体

・土地利用転換推進計画策定事業
目  的:相当規模の土地利用転換が予想される区域及びその周辺区域について、土地利用転換計画を策定するための調査
対象地区:
・農住型(0.05ha以上):市街化区域内農地等
・低・未利用地活用型(0.5ha以上または低・未利用地の合計が0.3ha以上で街区面積に対する割合が30%以上)転換計画:既成市街地における工場跡地、未利用埋立地等や小規模な低・未利用地が散在する街区
・街並み整備型(2ha以上)小規模低・未利用地が散在する街区。既成中心市街地における木造低層住宅密集市街地、住工混在地域等
・地区計画等前提型:(各タイプの面積要件に関わらず、地区計画を策定する地区を対象とする)
調査主体:自治体

・まちなみデザイン推進事業
目  的:市街地環境の整備改善を図るため、再開発の実施の見込まれる地区などでのまちづくりのあり方を調査する
対象地区:地区内権利者等による協議会組織が設けられている地区
調査主体:協議会等の地元組織

《地区レベルの整備計画(マスタープラン)を検討する調査》

・市街地総合再生計画
目  的:土地の高度利用や市街地環境の整備改善を推進するため、再開発や良好な個別建替えなど地区の実情に合わせて、段階的総合的にまちづくりを進めるマスタープランを策定する
対象地区:概ね1ha以上で、再開発事業の実施が見込まれる地区
メ リ ッ ト:市街地再開発事業や優良建築物等整備事業の地区面積の緩和が受けられるほか、補助対象項目が拡充されるなど
調査主体:自治体

・地区再生計画
目  的:総合的な整備計画に基づき、再開発事業などにより都市計画道路と一体となった総合的な再開発を推進する
対象地区:地域の拠点となる中心市街地の商業地等で都市活力の再生を図る必要がある地域
メ リ ッ ト:市街地再開発事業や優良建築物等整備事業の地区面積の緩和が受けられるほか、補助対象項目が拡充されるなど
調査主体:自治体

《具体的な事業手法について検討する調査》

土地区画整理事業…土地区画整理A調査
市街地再開発事業…再開発基本(A)計画
その他の事業でも、実施に当たっての整備計画を策定します

 

AまちづくりNPOを活用したまちづくり

 財政の逼迫や、市場競争激化のなかで、公平・平等な対応が求められる行政や、利益追求が目的の企業だけでは、市民の多様なニーズに対応できなくなりつつあります。福祉・環境・まちづくりなど、すぐに何とかしなくてはという課題に取り組む自発的な市民活動が活発になってきています。活動理念や目的に賛同・共鳴する市民が自主的にサービスの提供をめざすNPOが、今まさに必要とされています。

NPOとは…
  • NonProfitOrganizationの略で、一般に「民間非営利組織」と呼ばれています。特定非営利組織活動促進法の制定を受け、日本でもNPOによる活動が本格化しています
  • 民間の立場ながら、企業のように営利の追求や配分を目的とはせず、公共や民間企業ではカバーし切れない社会的・公益的サービスを供給します
メリット
  • 市民一人ひとりの社会的な関心や志を具体的な活動に結び付けることができます
  • 公共や民間企業ではうまく対応できないような社会的に意義のある活動を単独で、または、公共や民間企業と協力して対処することができます
留意点
  • 法人税率や寄付金の取扱いなどで充分に優遇されているとはいえず、財政面で独り立ちできることがまだ難しい状況です
対象分野

保健、医療、福祉・地域安全活動・社会教育、人権の擁護、平和の推進・まちづくり・国際協力・文化、芸術、スポーツ・男女共同参画社会の形成促進・環境の保全・子供の健全育成・災害救援・NPOの活動の連絡、助言

低・未利用地での活用方向
  • 小規模タイプや中心市街地タイプなどでは、まちづくりに合わせた福祉NPOなどとの連携が考えられます。また、日常的なNPOの活動を通じて、まちづくりへの意識が高まることも期待できます。
  • 公的機関タイプでは、NPOの協力を得て、市民参加型の活用策の検討なども考えられます。
主な事例

○まちづくり
 ・密集住宅地区整備促進協議会、FUSION長池、街・建築・文化再生集団、千葉まちづくりサポートセンター

○技術的支援
 ・国産材住宅推進協議会、建築施工技術研究所、リニューアル技術開発協会

○福祉・医療
 ・福祉医療建築の連携による住居改善研究会、ウェルエイジングハウス研究会21、自立支援センターふるさとの会

 諸外国ではCDC(Community Development Center)と呼ばれるNPOが住宅の整備や市街地改善に係る事業を実施しています。今後は、我が国のNPOもまちづくり協議会だけでなく、CDCのように事業を行う主体としての役割を担うことも期待されています。

事例紹介:NPOによるまちづくり(東京都大田区 密集住宅地区整備促進協議会)

 密集市街地などの小規模低・未利用地において、権利関係が複雑である地区の再開発は、行政では対応しきれず、民間デベロッパーも参入しにくい状況があります。「密集住宅地区整備促進協議会」は、こうした公民のすき間のニーズに応える組織として、97年に設立されました。
 設立のきっかけは、大田区蒲田の地権者13人による木造住宅密集地域の共同建替えを、地元工務店が中心になって実現しました。その後、「民間企業よりも協議会のほうが行政として支援しやすい」という行政担当者からのアドバイスで、密集住宅地区整備
促進協議会を任意団体として組織されました。
 現在、会員は当時の建替え計画の関係者に加えて、設計事務所やゼネコンなど55団体。単なる建替えではなく、土地の権利関係をまとめて賃貸マンションやオフィスビルを建設する共同化を目的としています。
 また、現在進めている建替え計画では、協議会が都市基盤整備公団に主張してきた、地権者の建設した賃貸住宅を35年間借り上げる制度が、モデルケースとして実現する見込みで行政が踏み込めない密集地区で補助事業や融資制度を提言していることが特
徴的です。

【活動の経緯】
1994.10 「大田区木造賃貸住宅地区整備促進事業」の地区指定をきっかけに、増田工務店が共同建替えに取り組む
1997.10 密集住宅地区整備促進協議会を設立
1999.9 NPO法人認証


【事業概要】
○活動内容
(特定非営利活動に係わる事業)
  @木造住宅密集地区のまちづくり、共同化、整備の研究、提案
  A木造住宅密集地区のまちづくりに関する勉強会
  B密集地域の地権者、関係権利者に対する啓蒙活動
○会員数・会費
  ・正会員55団体、年3万円(特別会員は年3,000円)
○事業収支
  ・(2,000年予算)収入134万円8,000円 支出127万円
○所在地
 東京都大田区蒲田3-18-2アイリス壱番館101 TEL03-3735-7922

 

方策2 持続性のあるコミュニティづくり

 木造密集市街地等では少子高齢化の進展や若年層の流出等により、コミュニティバランスの崩壊や地域活力の低下などが多く見られます。
 これらの地域では、高齢者対策、子育て等の福祉対策、さらに地元の産業施策等と連動した総合的なまちづくりの促進により、地域コミュニティの再構築が必要となっています。
 低・未利用地の活用にあたっても、これらの定住方策とあわせた多様な住宅の供給を図り高齢者や子育て世代の居住継続等のニーズに応えていく必要があります。

事例紹介:コレクティブハウジング(神戸市真野地区 真野ふれあい住宅)


 コレクティブハウジングとは、それぞれ独立した住戸に共用スペースとして共同食堂、台所や談話室等を設置し、多世代が共に暮らせる集合住宅です。
 (出典:真野ふれあい住宅〜神戸市営災害復興(賃貸)住宅・協同居住の新タイプ)