VIII 健全な水循環・適正な国土管理に向けた新たな川づくり

1 現状と課題

(1)水循環型社会の構築

イ 流域全体、社会全体を視野に入れた水循環システムの必要性
 我が国は厳しい国土条件であるにもかかわらず、江戸時代の約4倍の人口を約37万km2の国土に収容し、世界有数の高い人口密度を有し、現代文明を営んでいるが、これを可能ならしめたのは、明治以降、治水事業により平地を洪水氾濫から回避させることに努め、利水事業により、国民生活の向上、経済社会活動の発展を図ってきたからともいえる。しかしながら、近年の人間の諸活動は、水循環系に負荷を与え、深刻な弊害も各地で生み出した。
 都市化の進展、経済活動の高密度化及び快適性や利便性を追求する生活様式を前提とした水・エネルギー多消費型の社会となってきた中で、森林、農地の減少及びこれに伴う降雨の流出、水利用の形態の変化及び渇水の頻発、汚濁物質の流入による水質悪化、内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)等の新たな汚濁物質の顕在化、生態系の変化等、水循環に関する様々な看過できない弊害が露呈してきた。このように、人間の諸活動を含めた流域における変化が水循環系に影響を与えていることから、これらの課題を解決すべく、流域単位での取組み及びこれに対する国民の理解が不可欠な状況となっている。
 一方、平成10年の栃木県余笹川や高知県国分川における水害等、通常の河川改修だけでは対応が困難な、異常気象等を原因とした集中豪雨による大洪水や、平成11年の福岡における地下街での浸水被害等新たなタイプの浸水被害が発生しており、川の中だけではなく流出抑制対策や氾濫原での対応等を併せた治水対策や、洪水情報等の的確かつ迅速な伝達、洪水時の避難体制の確立等、洪水氾濫被害を最小化するための流域全体での効果的な治水対策が必要となっている。
 今後、人口が減少傾向に転じることを、国土のゆとりと美しさを回復させる機会として有効に活用するためにも、健全な水循環系の構築に向け、社会全体を視野に入れた国土の総合的な整備・保全・管理を指向する必要がますます高まっている状況にある。
ロ 水に関する基本理念の確立・共有
 このため、人間社会と水との健全な関わりを構築すべく、人間社会と水循環系との調和などの水に関する基本理念を国民一人一人が共有する必要があり、基本理念に基づき、総合的な施策の推進及びその体制を確立することが急務である。
 健全な水循環系構築については、関係省庁が連携した取組みが必要であり、総合的・効率的な施策の実施に向け、相互の連携・協力のあり方等を検討していくことが重要であることから、水に関する関係6省庁(環境庁、国土庁、厚生省、農林水産省、通商産業省、建設省)において、平成10年8月、「健全な水循環系構築に関する関係省庁連絡会議」が開催された。
 水に関する各省庁の考え方、取組み等について情報交換・意見交換を行いつつ、健全な水循環系の概念等についての共通認識、今後の連携・協力のあり方等の基本的事項について検討を重ね、平成11年10月、連携・協力のあり方等の基本的事項について、中間的なとりまとめが公表されたところである。
 この中で、健全な水循環系の定義として「健全な水循環系とは、流域を中心とした一連の水の流れの過程において、人間社会の営みと環境の保全に果たす水の機能が、適切なバランスの下にともに確保されている状態」とし、水循環系を取り巻く状況変化と問題点(図2-VIII-1)に対する施策のイメージとして、以下のように整理された。
1)流域の貯留浸透・かん養能力の保全・回復・増進(水を貯える・水を育む)
2)水の効率的利活用(水を上手に使う)
3)水質の保全・向上(水を汚さない・水をきれいにする)
4)水辺環境の向上(水辺を豊かにする)
5)地域づくり、住民参加、連携の推進(水とのかかわりを深める)
 また、「水の日」等における諸活動に加え、水循環の健全化に向けた諸活動を広く顕彰し、活動を支援することを目的として、平成10年6月に新たに日本水大賞顕彰制度が設けられるなど、社会全体で水循環の健全化に取り組む動きが始まっている。


C2801101.gif