第II部 国土交通行政の動向 

(1)既存ストックの有効活用

1)中古住宅流通市場の環境整備
 住宅ストックが有効活用されるためには、質の高い中古住宅が安心して売買できる市場の形成が重要である。しかしながら、現在の我が国の住宅市場は、全住宅取引に占める中古住宅取引の割合が米国等と比較して低い水準にあり、新築住宅中心の市場である。このため、中古住宅の質・価格両面の透明性が確保され、安心して取引できる中古住宅市場の実現に向けて、既存住宅の性能表示制度や瑕疵(かし)保証制度の普及、不動産市況情報の提供、中古住宅の質を考慮した価格査定システムの普及等を推進している。また、平成17年度から住宅ローン減税等の税制特例において、地震に対する安全基準に適合する中古住宅については、築後経過年数に関する要件にかかわらず、対象に加える措置を講じた。

 
図表II-4-4-1 中古住宅取引戸数の国際比較

中古住宅取引戸数と全住宅取引量に占める中古住宅取引戸数の割合の比較を見てみると、日本は18万戸、12.8%で、アメリカは610万戸、76.7%で、イギリスは179万戸、89.4%で、フランスは78万戸、68.9%である。
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2)住宅リフォーム市場の環境整備
 住宅ストックが有効活用されるためには、適切な維持管理や、耐震性の向上、省エネルギー化、バリアフリー化の推進に向けたリフォームが重要である。このため、安心してリフォームできる市場の環境整備に向けて、増改築工事における瑕疵保証制度の普及、「スケルトン・インフィル(SI)住宅」(注1)等のリフォームの容易な長期耐用型住宅の普及、リフォームに係る様々な情報の提供等が可能なシステムであるリフォネットの普及、耐震化に係る総合的な助成制度の創設等の施策を推進している。

 
図表II-4-4-2 住宅リフォーム市場規模の推移(推計)

設備等の修繕維持費と増築・改築工事費とを合わせた狭義のリフォーム市場規模は、2004年には5.05兆円。住宅着工統計上、新設住宅に区分される増築・改築戸数の工事費とリフォーム関連の家庭用耐久消費財、インテリア商品等の購入費を加えた金額をいう広義のリフォーム市場規模は、2004年には6.56兆円の規模にとどまっている。
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3)悪質リフォーム対策
 訪問販売等による住宅リフォーム工事契約に伴う被害が生じ、社会問題になっている状況を踏まえ、消費者が安心して耐震改修やリフォームを実施できるよう、全国の都道府県及び政令指定市ごとに最低1箇所以上リフォーム相談窓口を設置し、きめ細かな相談体制の整備を行うとともに、学識経験者や弁護士等からなる「悪質リフォーム対策検討委員会」を開催し、国土交通省を中心に取り組むべき対策を取りまとめ、建設業法に基づく事業者への指導・監督の徹底、住宅リフォームに関する情報提供の強化等に取り組んでいる。

4)公共賃貸ストックの計画的改善
 公営住宅については、躯体(くたい)(注2)を残して内装の全面的な改善、共用部分のバリアフリー化等を行うトータルリモデル事業、公営住宅の約半数を占める中層の階段室型共同住宅へのエレベーター設置等を行う個別改善事業等の公営住宅ストック総合改善事業を推進している。
 独立行政法人都市再生機構が管理している住宅(都市機構住宅)においては、昭和40年代に供給した住宅を中心に一定の住宅について空家発生時に、「高齢者向け優良賃貸住宅」として、床段差を解消する等の性能向上及び所得に応じた家賃の軽減を図ることによって、既存ストックを有効に活用している。

 
図表II-4-4-3 公営住宅ストック総合改善事業による住戸改善実績戸数

公営住宅ストック総合改善事業による住戸改善実績戸数は、平成11年は14,315戸であったが、平成16年には18,451戸になる見込みである。
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5)マンション管理の適正化と建替えの円滑化
 平成16年にはマンションストック戸数は約466万戸に達し、マンションは、特に都市部において、国民の主要な居住形態となっている。
 マンションの管理状況を把握することで適正な管理を一層推進するため、修繕の履歴情報等を登録し閲覧することのできる「マンション履歴システム」を平成17年10月に試験運用を実施したほか、管理組合向けに、マンション管理に求められる標準的な対応を具体的に示す「マンション管理標準指針」を策定している。
 また、老朽化マンションの建替えを円滑に行うため、「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」等に基づき、建替え主体の法人化、権利変換手法の導入、建替え決議の要件の明確化、団地型マンション等の建替えに関する規定の整備等の措置を講じるとともに、補助、融資、税制特例等の制度の創設・拡充、管理組合等に対する情報提供として各種マニュアルの作成等を行っている。平成17年12月末現在、同法を活用したマンション建替事業は、全国で16件が実施されている。

 
図表II-4-4-4 マンションストックの推移

マンションストックは年々増加しており、平成16年には、約446万戸と推計される。
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6)既存オフィスビル等の住宅への転用
 都心部等を生活拠点とするニーズの高まり等に呼応し、既存オフィスビル等の都市型住宅や都市再生住宅(注3)等への転用による良質な賃貸住宅の効率的供給を支援するため、補助及び税制等による支援、設計施工指針の作成等の措置を講じている。


(注1)耐久性の高い躯体(くたい)(スケルトン)と可変性を有する内装・設備(インフィル)から構成される住宅
(注2)建造物の骨組み等、全体を構造的に支える部分
(注3)事業の実施に伴い住宅等に困窮する者のための住宅

 

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