第I部 地域の活力向上に資する国土交通行政の展開 

第1節 地域ブロックの自立的発展と社会資本整備

(経済のグローバル化と地域)
 人口が減少し、少子高齢化が急速に進行する中で、我が国の活力を維持していくためには、経済成長が不可欠であり、先端産業に代表される付加価値の高い生産活動を国内で続けることが必要である。一方で、経済のグローバル化が進展し、企業は、製造拠点等について世界規模で最適な立地選択を行うようになってきているなど、地域は厳しい国際競争にさらされている。このような状況の下、地域が自立的な発展を図っていくためには、生産拠点、消費市場として成長著しく、我が国との相互依存関係がますます深くなっている東アジア地域と、各地域ブロックが、競争しつつも、交流や連携を直接深めていくことが重要となっている。

(東アジア地域との関係)
 産業立地等における国際競争力を確保するとともに、東アジア地域を始めとする海外の成長や活力を取り込んでいくためには、我が国において、引き続き東アジア地域と世界を結ぶ国際交通拠点機能を担うとともに、地域ブロックと東アジア地域を直接結ぶ総合的な交通ネットワークを形成することにより、円滑な物流や人流を確保しなければならない。
 東アジア地域との間の物流は、近年著しく増大している。2004年(平成16年)における日本から東アジア地域への港湾貨物輸出量(注1)は、1億3,892万トン(対1980年比3.2倍)となっており、日本から世界への港湾貨物輸出量全体の56%を占めている。一方、東アジア地域からの港湾貨物輸入量は、2億9,111万トン(対1980年比2.2倍)と、同様に増加している。
 
図表I-2-1-1 港湾貨物輸出入トン数(方面別)の推移

我が国の港湾貨物輸出入トン数について、方面別に1980年から2004年までの推移をみると、港湾貨物輸出入トン数は、輸出入とも増加している。輸出入トン数のうち東アジア地域の占める割合は増加しており、輸出トン数については、1980年は、28.3%であったものが、2004年には55.9%、輸入トン数については1980年が20.1%であったものが、2004年には30.3%となっている。
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 東アジア地域との物流の特徴として、博多−東京間が1,138kmであるのに対し、博多−上海間は907km、博多−釜山間では222kmと、我が国の国内物流と距離的に大差のない圏域で行われていることが挙げられる。このような圏域の中で大量かつ頻繁に輸送が行われることから、東アジア地域内の物流は「準国内物流化」が進んでいると言われている。このため、国内物流と同程度の迅速さや低廉なコストが求められており、さらには、貨物を翌日中に届けることができる「貨物翌日配達圏」の形成を推進していくことも課題となっている。
 
図表I-2-1-2 東アジア地域内物流の「準国内物流化」

日本の61港と、中国の24港、韓国の7港、台湾の3港との間で定期コンテナ航路が結ばれているなど、東アジア地域と我が国との関係は緊密になっている。

 東アジア地域との人流も、ビジネスニーズや観光交流の拡大等を受けて、近年活発化している。東アジア地域からの訪日外国人旅行者数は、1991年(平成3年)から2005年(平成17年)の間に203万人から443万人へと約2.2倍に増加しており、全体の約3分の2を占めている。また、東アジア地域への日本人航空利用出国者数も、1991年(平成3年)から2004年(平成16年)の間に504万人から860万人へと約1.7倍になっており、地方空港から東アジア地域への国際定期便も増加しているなど、我が国と東アジア地域との航空ネットワークは広がりつつある。
 このような人流の緊密化が進む中で、特に航空利用出国者の増加率の高いビジネスニーズに関しては、我が国の各地と東アジア地域との間において、出発したその日のうちに目的地で一定の用務が行える「東アジア一日圏」の拡大や、さらには、用務が終了した後には速やかに我が国に帰ってくることも可能な「日帰りビジネス圏」の形成を促進していくことが求められている。
 
図表I-2-1-3 東アジア地域との関係の強化

ひがしアジア地域からの我が国の訪問者数は、平成3年の203万人から17年の443万人と約2.2倍に増えており、我が国から東アジア地域への出国者数は平成3年の504万人から16年の880万人と約1.7倍に増えている。また地方空港と東アジア地域を結ぶ国際定期便も増加している。
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(港湾・空港の役割と課題)
 このような拡大する物流・人流を支える港湾や空港について、その機能の充実を図っていくことは、国際競争力を確保するとともに、東アジア地域を始めとする海外の活力を取り込んでいく上で極めて重要である。
 我が国の港湾は、コンテナ輸送において、東アジア地域の主要港と比べ、コストが割高でリードタイム(注2)が長いといった課題を抱えている。こうした中で、近年、増大している中国等との間の輸出入貨物に対応するためには、大量の貨物を迅速かつ円滑に処理し集配送するロジスティクス機能を強化するとともに、港湾諸手続の簡潔化・統一化等による港湾サービスの一層の向上等を図っていく必要がある。
 
図表I-2-1-4 東アジア航路の増大と船舶の大型化

我が国と東アジア地域の港湾を結ぶ国際コンテナ航路便数は、航路数が平成13年の週830.3便から平成18年の週917.7便へと11%増加し、うち中国路線が平成13年の週227.5便から平成18年の週328.0便と44%増加するなど、近年の東アジア航路の伸びが著しい。さらに、バルク船についても大型化が進展している。
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 空港について見ると、大都市圏拠点空港における容量面等の処理能力の制約から、東アジア路線を中心に増大する国際航空需要への対応や利用者ニーズに対応した国内航空ネットワークの構築に支障を来しており、国内外を通じた円滑な物流・人流の確保が課題となっている。
 
図表I-2-1-5 我が国と世界の都市圏における滑走路の整備状況及び人口、旅客数等の比較

我が国と世界の都市圏における、滑走路の整備状況についてみると、3000メートル級の滑走路が東京圏は3本、関西圏は2本、中部圏は1本に対し、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ソウル、シャンハイは4本である。また、発着回数については、東京圏はニューヨークやロンドンの約4割程度である。
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 このような状況に対し、国際拠点港湾の機能向上、大都市圏拠点空港の機能向上やアクセスの改善等、ハード・ソフト両面において港湾・空港の整備を行い、グローバル化や東アジア地域との連携強化に対応できるよう、円滑な物流・人流を支えるネットワーク形成を図る必要がある。

(道路の役割と課題)
 地域の国際競争力という観点からは、国際拠点港湾・空港等を介して国内外の物流が円滑に結ばれることが重要である。
 国内物流の状況と産業立地との関係について見ると、平成17年に新たに立地した工場では、高速道路インターチェンジ(IC)から5km以内の立地が全体の56%、10km以内の立地が全体の78%を占めており、7年の状況と比較すると、高速道路ICから5km以内の立地が20ポイント近く増えている。このことから、道路交通の利便性が、工場の立地地域の選定に当たって、より重視されるようになってきていることが分かる。
 
図表I-2-1-6 高速道路ICからの距離別立地状況

平成7年の新規立地工場では、高速道路のインターチェンジから5km以内への立地が38%、5から10km以内が24%、10km以上が37%であった。平成17年においては、5km以内が56%、5から10km以内が22%、10km以上が23%であった。
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図表I-2-1-7 高速道路ICから10分以内で到達できる拠点的な空港・港湾

高速道路インターチェンジから10分以内で到達できる拠点的な空港、港湾の割合は、平成13年末のアメリカでは、空港が94%、港湾が88%、平成13年末の欧州では、空港が82%、港湾が88%、平成17年末の日本では、空港が80%、港湾が60%である。
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 このように地域の産業の基盤となる道路ネットワークが、国際物流の効率化という観点からその機能を十分に発揮するためには、海外への玄関口となる港湾や空港と円滑に結ばれることが不可欠である。しかしながら、国際物流戦略上重要な幹線道路においても国際標準コンテナ車(注3)が通行できない区間が存在するなど、道路ネットワークの整備は未だ十分ではなく、また、拠点的な空港・港湾へのアクセス道路の整備状況も欧米に比べて低水準であり、これらの改善が急務となっている。

(地域における社会資本整備のあり方)
 経済がグローバル化する中で、地域が発展していくためには、以上のような国際的な物流や人流に関する課題に対応し、東アジア地域を始め世界の成長や活力を取り込んでいくことが重要である。あわせて、国内における経済活動の広域化に対応することや、本格的な人口減少を迎える中で地域の活力を維持・向上させていくために交流人口の拡大を促進することも重要な課題となっている。
 そこで、地域ブロックにおいては、地域のあり方について明確なビジョンを示していくとともに、こうしたビジョンに基づいて、優先度の高いところから集中的に事業を行う「選択と集中」により、戦略的な社会資本整備を進めていくことが必要である。その際、港湾・空港手続の改善等のソフト施策の活用や民間プロジェクトとの連携等を図ることによって、社会資本の整備効果を相乗的に高めることも重要である。地域におけるこうしたハード・ソフト一体となった総合的な対応は、企業がグローバルに事業展開する中で、生産拠点の立地等の民間投資を地域に呼び込む上でも、不可欠なものである。


(注1)ここで取り上げる数値は港湾調査規則に規定する「甲種港湾(172港)」を対象としている。港湾貨物輸入量についても同様
(注2)船舶の入港から貨物の引き取りが可能となるまでの時間
(注3)フル積載の40フィート背高海上コンテナを積載した車両

 

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