第I部 地域の活力向上に資する国土交通行政の展開 

第2節 人口減少の下でのまちづくり・地域づくり

(人口減少下におけるまちづくり・地域づくりの課題)
 我が国の人口が減少局面に入った中で、平成17年国勢調査では前回12年国勢調査より人口減少となった市町村が全体の7割を超えており、多くの地域が人口減少に直面するようになってきている。
 人口減少が地域に与える影響について、平成12年から17年国勢調査の間に人口が5%以上減少した654市町村から選んだ30市町村(注1)のアンケートの回答から見てみると、人口減少や高齢化の進行により、コミュニティや集落機能の維持が困難となっている状況があることが分かった。具体的には、地域の伝統行事等の継承が困難となっているといった回答もあり、地域独自の歴史や文化そのものが消失の危機にあることがうかがわれる。また、小中学校の統廃合や複式学級化を人口減少の影響として挙げる市町村も多かったが、その中には、学校が地域の核となる存在であったことから、閉校がその地域の活力の更なる低下を招いているという指摘もあった。そのほか、農林水産業の衰退や森林・農地の荒廃、商業・商店街の衰退を挙げる回答も目立った。
 このような状況に対し、生活圏レベルにおいて、人口減少を前提としながらも、固有の文化・伝統・自然条件等をいかして質の高い暮らしを営むことのできる、持続可能な地域づくりを目指していくことが必要である。その際、まちづくりに当たっては、人口増加に伴う都市の拡大に合わせて基盤整備を行うという考え方から脱し、既存ストックの状況に合わせたコンパクトなまちづくりへと発想を転換することが不可欠である。また、それぞれの地域が、その地域独自の資源等をいかして活性化に取り組んでいくことが重要である。

(拡散した都市構造)
 戦後、人口や世帯数が一貫して増加するのに伴い、宅地の郊外化が進展していった。その結果、我が国の市街地は、人口密度を低下させながら、拡大することとなり、近年はこうした動きは鈍化しているものの、拡散した都市構造のまま人口減少局面を迎えることになる。
 
図表I-2-2-1 人口集中地区の面積、人口、人口密度の推移

人口集中地区の面積、人口、人口密度を、昭和35年の値を100として見ると、平成17年には、面積は64、人口は207、人口密度は325である。
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 このような人口の拡散化に伴って、次節で見るように、日常生活における自家用車への依存が高まるとともに、商業機能を始めとする都市機能の郊外化が進んできた。
 国土交通省の「人口移動等社会経済動向と土地利用に関する調査」によると、都市規模にかかわらず、8割以上の人が、商業機能の中心市街地から郊外への移転が「大変進んでいる」又は「やや進んでいる」と回答しており、特に40万人未満の都市においては、4割以上の人が「大変進んでいる」としている。
 
図表I-2-2-2 「商業機能の中心市街地から郊外への移転」についての意識

商業機能の中心市街地から郊外への移転が大変進んでいると回答した人の割合は、5万人以上の都市では40.4%、5から20万人では41.5%、20から30万人では23.5%、30から50万人では28.6%、50万人以上では8.3%であった。やや進んでいると回答した人の割合は5万人以上では46.8%、5から20万人では37.6%、20から30万人では58.8%、30から50万人では57.1%、50万人以上では75.0%であった。
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 実際、大規模商業施設の立地状況について都市計画の用途地域別に見てみると、近年になって商業系用途地域への立地割合が大きく減少し、三大都市圏(注2)では工業系用途地域、地方圏(注3)では工業系用途地域のほか非線引き白地地域(注4)等への立地割合が増加してきており、中心市街地以外の都市周辺部に立地する傾向が強まっていることが分かる。
 
図表I-2-2-3 大規模商業施設(延べ床面積3,000m2以上)の立地状況の推移

大規模商業施設の立地状況について見ると、三大都市圏では、昭和55年以前においては住居系用途地域への立地が14.3%、商業系が79.5%、工業系が5.9%、その他が0.3%であり、平成13年から平成16年においては、住居系が16.5%、商業系が35.5%、工業系が39.3%、その他が8.7%である。地方圏では、昭和55年以前においては住居系が12.8%、商業系が75.3%、工業系が8.5%、その他が3.5%であり、平成13年から平成16年においては、住居系が20.9%、商業系が25.1%、工業系が33.5%、その他が20.5%である。
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 また、公共・公益施設の立地状況について見ても、病院では7割、高校・大学では9割近くが郊外に立地しており、近年では、特に病院や文化施設の郊外移転が進んできた。
 
図表I-2-2-4 公共・公益施設の郊外移転状況

公共、公益施設の平成16年の立地状況について見ると、市役所は中心市街地に379件、郊外部に164件、文化施設は中心市街地に1089件、郊外部に1434件、病院は中心市街地に119件、郊外部に297件、高校、大学は中心市街地に237件、郊外部に1491件立地している。中心市街地から郊外部への移転件数について見ると、1970年代では、市役所が32件、文化施設が5件、病院が8件、高校、大学が13件であり、1990年代では、市役所が10件、文化施設が22件、病院が25件、高校、大学が10件である。
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 地方圏における病院の立地状況について都市計画の用途地域別に見ると、延べ床面積3,000m2以上の病院施設の4割以上が市街化調整区域や非線引き白地地域等に立地しており、既成市街地の外への立地が進んでいる状況が見られる。
 
図表I-2-2-5 病院施設(延べ床面積3,000m2以上)の立地状況の推移

のべ床面積が3,000平方メートル以上の病院施設の立地状況について見ると、三大都市圏では、昭和55年以前においては住居系用途地域への立地が51.9%、商業系が19.7%、工業系が7.8%、その他が20.6%であり、平成13年から平成16年においては、住居系が42.7%、商業系が17.2%、工業系が7.1%、その他が33.1%である。地方圏では、昭和55年以前においては住居系が44.1%、商業系が17.9%、工業系が4.4%、その他が33.6%であり、平成13年から平成16年においては、住居系が40.4%、商業系が12.9%、工業系が5.0%、その他が41.6%である。
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(コンパクトなまちづくり)
 このような拡散した市街地は、公共施設の維持管理等の都市経営に係るコスト面からも非効率である。また、自家用車の利用が前提となることから、次節で見るように、高齢者等の移動制約者にとっては日常生活の面で利便性を欠くものとなるだけでなく、環境にも大きな影響を及ぼす。
 内閣府の「小売店舗等に関する世論調査」によれば、「あなたにとって、まちの中心部が果たしている役割や、中心部に望んでいることは何ですか」という質問に対し、「小売店舗、金融機関、役所、病院などの施設が集中し、まとまったサービスが提供されること」とする回答の割合(複数回答)が31.8%と最も多く、商業や公共サービスといった都市の諸機能が中心市街地に集約することへの期待は強い。
 
図表I-2-2-6 「まちの中心部の役割や中心部への希望」についての意識(複数回答)

まちの中心部の役割や中心部への希望について質問したところ、まとまったサービスが提供されることと回答した人の割合は31.8%、生活必需品が買えることと回答した人の割合は26.5%、コミュニティとしての役割と回答した人の割合は21.9%であった。
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 今後、人口減少社会が到来し、高齢化が加速する中で、自治体財政を保ちつつ、地域コミュニティを維持していくためには、都市機能の無秩序な拡散を排し、広域的サービスを担う商業、行政、医療、文化等の諸機能の立地を集約化し、過度に自家用車に依存しない都市構造を目指していくことが必要である。
 また、近年、市町村合併が進む中で、合併の効果をいかした広域的なまちづくりにより、新市町村の一体化を図っていくことも求められている。
 平成18年5月に成立した「都市の秩序ある整備を図るための都市計画法等の一部を改正する法律」では、広域にわたり都市構造に大きな影響を与える大規模集客施設の立地に当たっては都市計画手続を経ることとし、地域の判断を反映した適切な立地を確保するよう、用途地域における立地規制や開発許可制度等の見直しが行われた。
 こうした都市計画制度の適切な運用や「中心市街地の活性化に関する法律」に基づく支援措置の活用等を通じて、都市機能の適正立地、中心市街地の振興等を一体的に推進し、多様な都市機能がコンパクトに集積した、子どもや高齢者を含めた多くの人にとって暮らしやすい、にぎわいあふれるまちづくりを実現する必要がある。

(地域の特性をいかした活性化の取組み)
 人口が減少する中で地域の活性化に取り組むに当たっては、地域の特性をいかすということが不可欠である。
 このような観点から、例えば、中心市街地の活性化に際しては、多くの中心市街地に蓄積されている歴史的・文化的要素、景観資源について再生・活用していくことも重要となってくる。
 地域活性化のための取組みとして、人口減少30市町村(注5)のアンケートの回答を見ると、ほとんどの市町村で地域固有の自然・文化等をいかした観光の振興を始めとする交流人口の拡大に取り組んでいる。また、地元特産品のブランド化等の農林水産業を始めとする地域産業の振興も、主に小規模な市町村において熱心に取り組まれている。さらに、地域・集落を単位として市民自らが行う地域の活性化事業を支援する新潟県佐渡市の「佐渡おこしチャレンジ事業」のように、いくつかの市町村では住民と協働した地域活性化を模索する動きも見られている。地方財政が厳しくなる中で、地域固有の資源をいかしつつ活性化を図っていくためには、このような住民主体の取組みが、今後ますます重要性を増していくものと考えられる。


(注1)(注9)参照
(注2)本節においては、東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)、名古屋圏(愛知県)、大阪圏(京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)
(注3)三大都市圏以外の道県
(注4)市街化調整区域と市街化区域の区分を定めていない都市計画区域内で、用途地域の定められていない地域
(注5)(注9)参照

 

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