第I部 地域の活力向上に資する国土交通行政の展開 

第4節 人口減少・高齢化の下で地域の活力を支える担い手

(人口減少下における地域の活力の担い手)
 人口減少・高齢化の進行により、地域における諸活動を誰が担っていくかということが問題となってくる。一つには、地域経済を支える労働力人口が今後減少していくという問題がある。もう一つは、地域経済の縮小による財政上の制約等から従来どおりの水準での行政サービスの提供が困難になっていくことが挙げられる。前者の問題に対しては、多様な人材が活躍できるようにすることが必要であり、特に女性が子育て期にも働きやすい環境を整備することが重要になってくる。また、後者の問題に対しては、前節でも指摘したように、行政だけでなく多様な民間主体を新たな担い手としてとらえ、これら多様な民間主体と行政の協働によってサービス内容の充実を図る「新たな公」を基軸とした地域づくりを進めていくことが必要である。その担い手として、2007年(平成19年)から大量退職が始まることが見込まれている「団塊の世代」の動向が特に注目される。

(子育て期の女性が活躍できる環境づくり)
 我が国では、少子高齢化の進行に伴い、今後労働力人口の減少が予想されている。このような中で、女性がその意欲に応じて働き続けられるようにしていくことは、ますます重要な課題となっている。
 女性就業率を年齢階級別に見てみると、30代女性の就業率がその前後の年齢層と比較して低くなっており、就業率は「M字型曲線」を描いている。これは、仕事と育児の両立が困難であること等を理由として、出産・育児を機に離職する女性が多く存在しているためであると言われている。その一方で、30代女性の就業希望者率について見ると、他の年齢層と比較して高い割合を示していることから、これらの女性が必ずしも望んで離職しているわけではないことが推測される。
 ここで、女性就業率を三大都市圏(注1)と地方圏(注2)で比べて見てみると、三大都市圏における30代女性の就業率の落ち込みは地方圏よりやや大きく、その後の回復度合いも芳しくない。
 
図表I-2-4-1 三大都市圏と地方圏の年齢別女性就業率

全国の年齢別女性就業率について見ると、15から19才が14.9%、20から24才が62.0%、25から29才が66.4%、30から34才が57.1%、35から39才が58.0%、40から44才が65.1%、45から49才が68.1%、50から54才が64.0%、55から59才が56.3%、60から64才が38.0%、65才以上が13.3%である。
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図表I-2-4-2 年齢階級別女性就業希望率

年齢別女性就業希望率について見ると、15から19才が16.7%、20から24才が47.1%、25から29才が63.6%、30から34才が61.6%、35から39才が63.5%、40から44才が59.7%、45から49才が51.5%、50から54才が41.6%、55から59才が32.6%、60から64才が23.6%、65から69才が13.6%、70から74才が5.8%、75才以上が1.6%である。
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 また、合計特殊出生率(注3)について都道府県別に見ると、女性の就業率が高い地域であるほど高い傾向が見られ、女性の就業率と合計特殊出生率には正の相関関係が認められる。その背景には、女性就業率の比較的高い地域では子育てをしながら働けるような環境がある程度整っているということが影響しているものと思われる。例えば、概して地方圏においては大都市圏より三世代同居率が高く、0−5歳人口10万人当たりの保育所数も多い状況にあるが、三世代同居率、0−5歳人口10万人当たり保育所数のいずれについても女性就業率と正の相関関係が見られる。
 
図表I-2-4-3 合計特殊出生率、三世代同居率、0−5歳人口10万人当たり保育所数と女性就業率との相関関係

女性就業率と合計特殊出生率、女性就業率と保育所数、女性就業率と三世代同居率には、正の相関関係が見られる。
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 子育て期の女性が働き続けたいと望んでいるにもかかわらず、子育てとの両立の困難さから、仕事を辞めなければならない状況に追い込まれることは、本人はもちろん社会にとっても大きな損失である。また、地域の活力の担い手として、NPOやまちづくり・地域づくり活動等においても、女性の活躍が期待されており、社会全体として子育てを支援する環境を整備していくことが必要である。

(2007年問題)
 2007年(平成19年)から、いわゆる「団塊の世代」(昭和22年〜24年生まれ)の大量退職が始まることが見込まれている。総務省の「労働力調査」によれば、この世代を含む55〜59歳の労働力人口は819万人であり全労働力人口の12.3%と大きな割合を占めている。この世代が大量退職期を迎えることについては「2007年問題」と呼ばれており、企業における技術・技能の伝承等が大きな課題として受け止められている。
 その一方で、厚生労働省の「第1回中高年者縦断調査」(平成17年)によれば、55〜59歳の人のうち、60歳以降も「仕事をしたい」とした割合は70.7%と高い比率を示している。このような60歳以降も就業意欲を持つ人々の活用を図ることは、今後、労働力人口の減少が予想される中で、ますます重要となってくる。

(地域づくりと団塊の世代)
 「団塊の世代」の大量退職に際し、その退職後の居住等の動向は、地域に影響を及ぼす可能性がある。
 平成17年国勢調査によれば、「団塊の世代」の人口は688万人で、総人口の5.4%を占める。このうち三大都市圏居住者は346万人で、「団塊の世代」全体の50.3%を占めている。これに対し、昭和30年国勢調査の時点で、ほぼ「団塊の世代」に相当する6〜8歳であった者の人口は728万人であるが、そのうち三大都市圏に居住しているのは256万人と35.2%を占めるに過ぎなかった。このことから、この世代においては、就職等を契機として、地方圏から三大都市圏への大規模な人口移動があったことが分かる。
 
図表I-2-4-4 「団塊の世代」の居住地域の状況

団塊の世代は、昭和30年には728万人であり、そのうち三大都市圏に居住しているものは35.2%にあたる256万人であった。平成17年には688万人であり、そのうち三大都市圏に居住しているものは50.3%にあたる346万人であった。
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 このような大都市圏への大規模な人口移動を経験した「団塊の世代」が、退職後どのような居住のあり方を望むかが注目される。
 内閣府の「都市と農山漁村の共生・対流に関する世論調査」によれば、「平日は都市部で生活し、週末は農山漁村地域で生活するといった二地域での居住をしてみたいという願望がありますか」という質問に対し、「ある」又は「どちらかというとある」と回答した都市居住者は、全体で見ると37.6%で、年代別に見ると50歳代は45.5%と、他の年齢層よりもやや高い割合を示した。また、「農山漁村地域に定住してみたいという願望がありますか」という質問に対しても、「ある」又は「どちらかというとある」と回答した都市居住者は、全体では20.6%だったところ、50歳代では28.5%と比較的高い割合を示している。
 
図表I-2-4-5 二地域居住の願望の有無

二地域居住の願望の有無について質問したところ、あると回答した人の割合は、全体では16.1%、20から29才では4.0%、30から39才では11.9%、40から49才では15.2%、50から59才では24.0%、60から69才では18.6%、70才以上では15.2%であった。どちらかというとあると回答した人の割合は、全体では21.5%、20から29才では29.3%、30から39才では23.9%、40から49才では21.0%、50から59才では21.5%、60から69才では22.8%、70才以上では13.4%であった。
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図表I-2-4-6 農山漁村地域への定住の願望の有無

農さん漁村地域への定住の願望の有無について質問したところ、あると回答した人の割合は、20から29才では8.1%、30から39才では5.0%、40から49才では6.5%、50から59才では15.0%、60から69才では9.3%、70才以上では7.3%であった。どちらかというとあると回答した人の割合は、20から29才では22.2%、30から39才では11.9%、40から49才では9.4%、50から59才では13.5%、60から69才では10.7%、70才以上では6.1%であった。
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 既に地方公共団体の中には、「団塊の世代」を主な対象として大都市圏からの移住の促進に取り組んでいる事例が数多く見られる。今後、この世代を中心に、二地域居住を始めとする交流人口の拡大が活発化し、地域の活性化に寄与することも考えられる。
 また、内閣府の「国民生活選好度調査」によれば、30代以降では年齢が上がるとともにボランティア活動への参加意欲が高まるとの結果が得られており、今後、住民が参画するまちづくり・地域づくりの活動において、「団塊の世代」が大きな役割を果たしていくことも期待される。
 
図表I-2-4-7 ボランティア活動への参加に対する意識

ボランティア活動への参加意欲のある人の割合は、10代では、男が57.9%、女が67.3%、20代では、男が55.8%、女が58.4%、30代では男が48.3%、女が54.9%、40代では、男が58.4%、女が64.4%、50代では、男が66.7%、女が65.6%、60代では、男が73.1%、女が72.5%、70代では男が70.1%、女が72.2%であった。
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(注1)本節においては、東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)、名古屋圏(岐阜県、愛知県、三重県)、大阪圏(京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)
(注2)三大都市圏以外の道県
(注3)合計特殊出生率(期間合計特殊出生率)とは、その年次の15〜49歳までの女子の年齢別出生率を合計したもので、1人の女子がその年次の年齢別出生率で一生の間に出産すると仮定した場合の子どもの数に相当する。

 

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