第1節 人口減少を踏まえた社会の再構築 

1 生活、経済活動を支える基盤の再編

 私たちの日々の生活や企業等の経済活動は、様々なものに支えられている。以下、国土交通分野について、生活、経済活動を支える基盤となる都市や移動を支える公共交通、そして社会資本の面から、求められるものを考える。

(1)生活を支える基盤の再編
(都市的地域の拡大が抱える課題)
 これまで人口が増加していく社会においては、市街地は郊外や農村部等に外延化が進み、都市的地域は拡大する傾向にあった(注1)。モータリゼーションの進展と相まって、都市の周辺部には豊かな自然や手頃な価格で手に入る住宅があるといったことなどから、この傾向は続いてきた。
 
図表59 人口集中地区面積と人口密度の推移

図表59 人口集中地区面積と人口密度の推移
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図表60 自動車保有台数、走行台キロの推移

図表60 自動車保有台数、走行台キロの推移
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 一方で、都市的地域が拡大し人々が拡散して居住することには、様々な懸念もある。自動車を運転できない人にとっては不便であったり、環境への負荷がかかったり、まちの中心部が衰退する一方で新たなインフラ整備が必要になり財政負担が増えたりするなどといった懸念に対して、半数以上の人々が共感していることが国土交通省の調査によりわかった。
 
図表61 居住地域の拡散に対する人々の考え方

図表61 居住地域の拡散に対する人々の考え方
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 実際に、地球環境への負荷についてみると、人口密度が低い地域の方が、一人当たりの自動車CO2排出量が多い傾向がうかがえる。
 
図表62 人口集中地区人口密度と一人当たり自動車CO2排出量(都市圏別)

図表62 人口集中地区人口密度と一人当たり自動車CO2排出量(都市圏別)
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 また、都市的地域が拡大し自動車依存度が過度に高まると公共交通の利用者が減少し、サービスの低下やネットワークの減少をもたらすとともに、それが更なる利用者減少を引き起こすといった負の連鎖となるおそれもある。

(生活を支える基盤の再編に向けた取組み)
 今後、人口が減少していく社会においても、都市的地域が拡大する傾向が続くと、これらの課題がより深刻化することが懸念される。将来にわたって持続可能なように、生活を支える基盤を再編していくことが求められる。
 都市を集約し、人々がある程度集まって住むようになると、公共施設やインフラの新たな整備にかかる負担が軽減されたり、自動車の利用が控えられ環境負荷が軽減されたりする効果が期待される。また、都市の集約化に当たっては公共交通ネットワークの活用を図っていくことも重要である(注2)

(2)経済活動を支える基盤の再編
(高齢期に入る社会資本)
 これまで我が国で蓄積されてきた社会資本ストックは、私たちの日々の生活を支えるとともに、産業活動の基盤となってきた。これらのストックは、高度経済成長期に集中的に整備されており、今後老朽化は急速に進む。図表63は、50年以上経過する社会資本の割合を示したものであるが、現在(2009年)と20年後を比較すると、例えば、道路橋(約8%→約51%)、水門等河川管理施設(約11%→約51%)、下水道管きょ(約3%→約22%)、港湾岸壁(約5%→約48%)などと急増し、今後、維持管理費・更新費が増大することが見込まれる。
 
図表63 建設後50年以上経過する社会資本の割合

図表63 建設後50年以上経過する社会資本の割合
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図表64 損傷した橋梁

図表64 損傷した橋梁

 これまでは、発生する損傷等に対して個別・事後的に対処してきたが、今後、高齢化した社会資本の割合が急速に増えていくことにより、致命的な損傷が発生するリスクは飛躍的に高まることになる。厳しい財政状況の中、施設の状況を定期的に点検・診断し、異常が認められる際には致命的欠陥が発現する前に速やかに対策を講じ、ライフサイクルコストの縮減を図る“予防保全”の考え方に立った戦略的な維持管理・更新が重要になる。
 例えば直轄国道における道路橋は、5年に1回の点検を実施し、長寿命化修繕計画に基づく予防保全を実施している。また、地方公共団体においても、計画の策定が4分の1程度の橋梁で進んでいるとともに、計画を策定するための点検を約4割の地方公共団体で実施しているところである(注3)。しかしながら、一部の地方公共団体においては、資金、技術力、人材の不足などが原因で、橋梁の点検等が進んでいないところもある。
 図表65は、道路橋も含め各施設の長寿命化・老朽化対策の進捗状況であるが、現時点でいずれも低い状態にあることがわかる。
 
図表65 施設ごとの長寿命化・老朽化対策の進捗率

図表65 施設ごとの長寿命化・老朽化対策の進捗率
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(戦略的な維持管理・更新)
 図表66は、国土交通省所管の社会資本を対象に、過去の投資実績等を基に今後の維持管理・更新費を推計したものである。今後の投資可能総額の伸びが2010年度以降対前年度比±0%で、維持管理・更新に関して今まで通りの対応をした場合は、維持管理・更新費が投資総額に占める割合は2010年度時点で約50%であるが、2037年度時点で投資可能総額を上回る。2011年度から2060年度までの50年間に必要な更新費は約190兆円と推計され、そのうち更新できないストック量が約30兆円と試算される。
 
図表66 維持管理・更新費の推計(従来通りの維持管理・更新をした場合)

図表66 維持管理・更新費の推計(従来通りの維持管理・更新をした場合)
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 図表67は、維持管理・更新費について、先進的な取組みを行っている地方公共団体と同じレベルまで他の地方公共団体が早期発見・早期改修の予防保全の取組みを強化したケースを推計したものである。維持管理・更新費が投資可能総額を超えるのは10年伸びて2047年度となっており、更新できないストック量は2060年度までに約6兆円と大幅に減少する。早急に戦略的な維持管理を進め、ライフサイクルコストの縮減や長寿命化を図る必要があることがわかる。
 
図表67 維持管理・更新費の推計(予防保全の取組みを先進地方公共団体並みに全国に広めた場合)

図表67 維持管理・更新費の推計(予防保全の取組みを先進地方公共団体並みに全国に広めた場合)
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 今後、国・地方の厳しい財政状況が続き、人口が減少していく社会においても、国民の安全・安心を確保するため、今まで以上の一層のコスト縮減を図りつつ、長寿命化計画の策定、予防的な修繕や計画的で必要水準に見合った更新を進めるなど、計画的・効率的な社会資本の維持管理・更新を推進していくことが不可欠である。また、今後の新規投資については、選択と集中の下、今まで以上に真に必要なものを見極めていく必要がある。さらに、厳しい財政事情の中でこのような取組みを効果的・効率的に進めるため、民間の資金、経営能力、技術的能力を活用した仕組みであるPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)等の手法も積極的に取り入れていくことが必要である。


(注1)人口集中地区(DID(Densely Inhabitant District)地区、市区町村の境域内で原則として1km2に4,000人以上居住する国勢調査の基本単位区が隣接して総計で5,000人以上の人口を有する地区)は、1960年代から80年代にかけて、その面積が約2.6倍に増加するとともに人口密度は3割以上低下するなど、都市的地域は拡大してきたことがうかがえる。
(注2)暮らしに必要な機能の集積や公共交通機関によるアクセスの確保等による、暮らしやすさの向上については、第2章第3節1.(1)参照。
(注3)国土交通省調べ(2009年4月調査)


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