第3節 新たな価値の発見と魅力の創造 

1 地域の暮らしの魅力を高める

(地域の魅力とは何か)
 国土交通省の調査では、現在住んでいる地域に対して、4人に3人が愛着を感じていることがわかった。この傾向は、三大都市圏と地方圏で変わらない。愛着を感じる要素については、三大都市圏においては、利便性、地方圏においては、「家や土地があるから」、「自然環境に恵まれているから」、「友人など人間関係があるから」など様々な理由が挙げられている。
 
図表105 住んでいる地域への愛着の度合いとその要因

図表105 住んでいる地域への愛着の度合いとその要因
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 また、どのような地域に住みたいと考えるのか尋ねたところ(注1)、現在住んでいる地域を住みたい地域ととらえている人々の割合が、どの年代においても最も高くなっている(注2)
 図表106は、現在住んでいる地域の魅力を尋ねたものである。三大都市圏の人々が惹かれているものは、交通が便利、買い物など日常生活が便利等「利便性」に関する要素が強い。一方で、三大都市圏と比較して特に地方圏の人々が惹かれているものは、自然環境の豊かさ、気候や風土のよさ、治安や風紀のよさ、住民のつながり、文化・歴史等、その地域が持つ「地域らしさ」に関する要素が強い。
 
図表106 現在住んでいる地域の魅力

図表106 現在住んでいる地域の魅力
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 以下では、これらの各要素についてみていく。

(1)暮らしの利便性
(利便性へのニーズと現状)
 暮らしの利便性は、地域の魅力を形づくる重要な要素の一つである。
 日常生活において、まちなかで買い物をしたり、金融機関や行政等のサービスを利用したり、病院に行ったりするなど、様々な活動を行っているが、これらの活動をできる限り身近なところで一度に済ませたいというニーズは強い。
 
図表107 日常的な生活活動に関する考え方

図表107 日常的な生活活動に関する考え方
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 日常生活において人々が移動する距離は、地域の状況に影響される。
 国土交通省の調査では、人々が集まって住んでいる地域(注3)の方が、そうでない地域(注4)よりも、生活圏がより小さい傾向がうかがえた。特に、日常的な買い物、通院については、集まって住んでいる地域において移動距離が短く、商業施設・医療施設等の都市機能までの距離が短くなっていることがうかがえる(注5)。さらに、集まって住んでいる地域の方が、日常的な買い物の頻度がやや多いなど、地域の状況によって外出頻度にも影響がみられる。
 
図表108 人口集中地区の有無と移動距離・外出頻度の関係

図表108 人口集中地区の有無と移動距離・外出頻度の関係
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(利便性の確保に向けた取組み)
 できる限り身近なところで一度に用事を済ませたいといった利便性へのニーズに応えるためには、都市を集約することが必要である。人々が集まって住み、暮らしに必要な機能が集積されると、より多くの人々が、日常の用事を身近なところで一度に済ませる環境が整う。加えて、週末などに利用する大きな商業施設や文化施設等がある中心市街地まで公共交通機関によりアクセスできれば、自動車に過度に依存せず、公共交通や自転車などを利用しながら歩いて暮らすことができるような利便性の高い暮らしの実現が可能となる。
 
図表109 歩いて暮らせるまちづくりに向けた取組み

図表109 歩いて暮らせるまちづくりに向けた取組み

 人々の歩いて暮らせるまちづくりへの関心も高い。国土交通省の調査では、約8割の人々が歩いて暮らせるまちづくりに関心がある、重要だと思うと答えている(注6)。また、4人に3人が歩いて暮らせるまちに暮らしてみたいと答えている(注7)。用事を自宅の近くで済ませている人々においてこの傾向は高く、実際に住みやすさを実感している様子がうかがえる(注8)
 
図表110 歩いて暮らせるまちづくりに対する意向

図表110 歩いて暮らせるまちづくりに対する意向
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(2)地域らしさ
(地域らしさの重要性)
 利便性が重要である一方で、地域らしさに対する関心も高い。図表106でもみたが、自然環境、気候や風土、治安や風紀、住民のつながり、文化・歴史など、人々の関心は様々なものに広がっている。
 地域の暮らしや生活環境に関する諸条件について、重要度と満足度を聞いたところ、三大都市圏と地方圏で差異がみられた。利便性に関する項目など三大都市圏において満足度が高くなっている一方で、重要度が高い項目の中でも、自然環境など地方圏の方が満足度が高い項目もある。単に便利というだけではない別の“満足”があるわけであり、このような要素を守り伸ばしていくことも大切である。
 
図表111 暮らしや生活環境に関する要素の満足度

図表111 暮らしや生活環境に関する要素の満足度
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(地域らしさを活かした暮らし)
 もとより日本の地域には、自然的要素のみならず、人々の暮らし文化といった社会的要素についても差異があり、多様な特性をもっている。日々の暮らしにおける地域に根ざした要素は愛着ともなって、その地域に住み続けたいとの魅力にもつながる。
 例えば、まちなみは、その地域の顔として地域の人々の共有の財産であり、景観への取組みは近年高まっている。文化的な景観は、人々の暮らしに潤いをもたらすものであり、保存のみならず再生し、観光やまちおこしにつなげていくことも大切である。
 
図表112 良好な景観の創出に向けた取組み

図表112 良好な景観の創出に向けた取組み
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 また、古きものの価値を見出して、住み続けるといった暮らし方のスタイルもある。地域に古くからある町家などの住まいにおいては、地域特有の気候や風土を感じつつ、自然のありように目を向けながら暮らすこともできる。
 
図表113 地域に古くからある住まい(町家)

図表113 地域に古くからある住まい(町家)

 何気ない農地や集落的風景なども、地域の価値として再認識できる。現在は荒れた農地であっても、都市の住民などを巻き込んで利用することで再生したり、集落的風景を活かした地域づくりを行ったりすることにより人を惹きつけることも大切である。また、空き家や廃校などに着目し、祭りや芸術活動の拠点として活用することも考えられる。
 また、住宅地やありふれた都市空間についても、パブリックアートによる魅力の創出などオープンスペースを活かした取組みや、植栽や屋上緑化などにより緑豊かな空間の形成(注9)等により、特色ある空間を創出することもできる。
 
図表114 特色ある空間の創出に向けた取組み

図表114 特色ある空間の創出に向けた取組み

(3)環境問題への取組み
(環境への意識の高まり)
 利便性と地域らしさのみならず、よりよく地域の魅力を高めるためには、それらを取り巻く環境を考えることも欠かせない。
 国土交通省の調査では、3人に1人以上の人々が、極力ゴミは出さない、省エネルギーに努めるといった比較的行動に移しやすい取組みを既に実践していることがわかった。日々の移動については、4人に1人が、なるべく自家用車ではなく自転車や公共交通を利用するようにしていると答えている。エネルギー効率がよい家、環境に優しい車、自宅や地域の緑化については、実行している人々はまだ少ないものの、半数前後が興味をもっていることがわかった。普段の生活の様々な局面で、人々が環境に配慮した暮らしを始めていることがうかがえる。
 
図表115 環境に配慮した取組み状況、今後の意向

図表115 環境に配慮した取組み状況、今後の意向
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(低炭素社会に向けた取組み)
 地域や社会の持続可能性に向けた低炭素社会の実現のためには、自動車の燃費向上や住宅の高断熱化など製品の省エネ性能向上に加え、暮らし方や住まい方といった日々の生活の中での取組みが求められる。
 人の移動という観点では、環境負荷の小さい車の購入促進や、自家用車に比べ二酸化炭素排出量の少ない公共交通の利用を促進することが大切である。人々の心理的要因を考慮して効果的に働きかけて自家用車から公共交通への転換を図るモビリティマネジメントや、公共交通機関での通勤を促進するエコ通勤の取組みも各地で実施されている。また、モノの移動という観点では、環境に優しい鉄道や船舶により輸送された製品であることを示すエコレールマークやエコシップマーク等の取組みが行われている。
 
図表116 エコレールマークとエコシップマーク

図表116 エコレールマークとエコシップマーク

 地域全体で面的な対策を行うことも、低炭素社会の実現には欠かせない。
 先にみたような、歩いて暮らせるまちづくりや公共交通の再生を図るとともに、都市内での移動をサポートするため、自転車を効果的に活用するコミュニティサイクル(注10)の推進に取り組んだり自転車道を整備したりすることも大切である。また、電気自動車等の環境対応車の活用に向けた次世代型のまちづくりなど、環境負荷を軽減する取組みも始まっている。さらには、都市緑化など吸収源対策も推進している。
 
図表117 低炭素社会の実現に向けて

図表117 低炭素社会の実現に向けて


(注1)第1章第2節3.図38参照。
(注2)例えば、20代の人々で現在住んでいる地域に住み続けたい人の割合は、三大都市圏の主な都市で77.2%、三大都市圏の市町村で44.8%、地方圏の主な都市で48.8%、地方圏のその他の都市で31.5%、地方圏の町村部にて45.0%となっており、それぞれの区分において最も高い割合を占めている。
(注3)集まって住んでいる地域とは、ここでは、人口集中地区を少なくとも一部にもつ市区町村を指す。
(注4)人口集中地区を全くもたない市区町村を指す。
(注5)通勤・通学や友人と会うなどの生活活動については、地域差があまりみられなかった。
(注6)歩いて暮らせるまちづくりに向けた取組みについて、有効だと思うものは、「徒歩や自転車でいける範囲に、日常生活に必要な商店や診療所などの施設を集める」が71.8%、「鉄道やバスなどの公共交通機関の整備・維持を行う」が60.5%となり上位を占めている。
(注7)歩いて暮らせるまちに暮らしてみたい理由は、「高齢期など自動車を利用できない際にも安心して生活できる」が79.7%、「自動車の利用を減らし、環境への影響を減らすことができる」が61.2%、「まちを楽しく歩くことができる」が56.4%となり上位を占めている。
(注8)「歩いて暮らせるまちに暮らしてみたい」との考え方にあてはまると答えた人は、日常的な買い物を1km未満の距離で行う人は80.0%、1km以上5km未満は73.4%、5km以上は70.5%となっている。
(注9)都市中心部などでは、都市公園など公的空間による緑の確保のみならず、市街地の大半を占める建築敷地を含めた緑化を推進するため、都市計画で緑化を推進する必要がある区域と定められた地域内において建物の新築、増改築を行う場合に、5〜25%の緑化(敷地内の植栽、屋上・壁面緑化)を義務づける自治体もある(緑化地域制度。名古屋市、横浜市において施行。東京都世田谷区では2010年10月より施行予定。)。例えば名古屋市では、2000年から2005年まで、約37ha/年の緑地が失われていたところ、緑化地域制度を導入した2008年からの1年間においては約50haの緑地が新たに創出されており、一定の効果を上げていることがうかがえる。緑の確保により、心地よい空間の創造のみならず、ヒートアイランドの緩和など多面的な効果が期待できる。
(注10)都市内に複数配置されたサイクルポート(自転車の貸出拠点)において、事前登録をすれば誰でも自由に貸出・返却できるシステムのこと。


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