第2節 自然災害対策 

1 災害に強い安全な国土づくり

(1)治水対策
 我が国は、国土の約1割の洪水氾濫域に、人口の約半分、資産の約3/4が集中しており、洪水氾濫に対する潜在的な危険性が極めて高い。これまでに洪水を安全に流下させるための河道の拡幅、堤防、放水路等の整備や、洪水を一時的に貯留するダムや遊水地の整備等の治水対策を進めてきたことにより、治水安全度は着実に向上してきているが、海外の先進国と比較すると、目標とする安全度や施設等の整備率は、依然として、低い状況にある。
 また、過去30年では、時間雨量50ミリを超えるような大雨の発生回数が増えており、平成21年には、平成21年7月中国・九州北部豪雨や台風第9号において時間雨量100ミリを超える降雨により、各地で甚大な被害が生じた。このため、災害を未然に防ぐための治水施設の整備とあわせて、万が一災害が発生した場合にも被害を最小にとどめるための減災対策を進めていく必要がある。
 
図表II-6-2-1 平成11年〜20年 水害・土砂災害の発生件数

図表II-6-2-1 平成11年〜20年 水害・土砂災害の発生件数

 
図表II-6-2-2 1時間降水量50mm以上の年間発生回数(1,000地点あたり)

図表II-6-2-2 1時間降水量50mm以上の年間発生回数(1,000地点あたり)
Excel形式のファイルはこちら

 
図表II-6-2-3 首都圏の土地利用の状況

図表II-6-2-3 首都圏の土地利用の状況

 
平成21年台風第9号による佐用川の被害状況

平成21年台風第9号による佐用川の被害状況

 
図表II-6-2-4 各国の治水対策

図表II-6-2-4 各国の治水対策
Excel形式のファイルはこちら

1)予防的な治水対策
 水害が発生すると、多くの人命・財産が失われ、地域の経済活動に甚大な影響を与えるだけでなく、被災地の復旧・復興にも多大な時間と費用を要する。このため、水害を未然に防ぐために河川整備基本方針及び河川整備計画に基づき、堤防の築造、河道掘削、遊水地、地下調整池等の治水施設の整備を計画的に進めている。また、既存ダムの再開発や複数ダムにおける容量再編等により既存施設を有効に活用している。さらに、既設の堤防については、洪水時における浸透破壊や地震に対する安全性の点検を実施し、強度が不十分なものについては、強化対策を推進している。
2)水害の再発防止対策
 近年、甚大な水害を受けた地域においては、同規模の洪水で再び被災することがないよう、河川の流下能力を向上させるための河道掘削や堤防整備等の河川改修工事、内水氾濫を防ぐための排水機場の整備等の対策を短期集中的に実施し、洪水への不安解消に努めている。
3)洪水氾濫が発生した場合の減災対策
 河川が氾濫した場合にも被害を最小限にする減災対策を推進するため、輪中堤や二線堤等の整備、ハザードマップの整備、水位・雨量情報、洪水予測等の防災情報の高度化を図るなど、ハード・ソフト一体となった対策を地方公共団体等と協力して進めている。
4)河川の適切な管理
 整備された河川管理施設等が洪水時等に本来の機能を発揮することができるよう、河川や施設等の状況をモニタリングし、その変化に応じた適切な管理を実施している。また、今後、老朽化した堰や水門、排水機場等の河川管理施設数が増加することから、施設の長寿命化を図るため、維持管理計画に基づく施設の計画的な維持更新を推進する。

(2)都市型水害対策
1)流域一体となった総合的な治水対策の推進
 都市部において浸水による都市機能の麻痺や地下街の浸水被害を防ぐため、河川管理者、下水道管理者及び地方公共団体が協働し、「特定都市河川浸水被害対策法」に基づく流域水害対策を推進している。
2)雨水の貯留・浸透の推進
 都市部の浸水被害を軽減させるため、雨水の排除のほか、地域全体で雨水の流出抑制を目的とした貯留・浸透に取り組むことが重要である。このため、雨に強い都市づくり支援事業や流域貯留浸透事業等により、地域の関係主体が一体となって、雨水の流出抑制や民間による被害軽減対策を推進している。
 
図表II-6-2-5 流域一体となった総合的な浸水対策の推進

図表II-6-2-5 流域一体となった総合的な浸水対策の推進

3)計画規模を上回る集中豪雨等への対応
 都市化の進展による雨水の浸透量の減少や、近年の下水道の計画規模を大きく上回る集中豪雨の多発、地下街・地下室等の設置といった土地利用の高度化等により、都市部の内水氾濫の被害リスクが増大している。このため、平成21年度は下水道浸水被害軽減総合事業を創設し、関係主体が一体となって、雨水貯留浸透施設の整備等の流出抑制対策に加え、内水ハザードマップの作成・公表等の総合的な浸水対策を推進している。
4)大都市の壊滅的被害の防止
 流域に人口・資産等が高密度に集積している荒川(東京都区域)、淀川(大阪府区域)等の大河川において、堤防が破堤した場合の壊滅的被害の発生を回避する高規格堤防(スーパー堤防)整備や、堤防拡幅等による堤防強化対策を実施している。

(3)できるだけダムにたよらない治水
 人口減少社会、少子高齢化、さらには厳しい財政という3つの制約要因の中で、「できるだけダムにたよらない治水」への政策転換を進めるとの考えに基づき、今後の治水対策について検討を行う際に必要となる、幅広い治水対策案の立案手法、新たな評価軸及び総合的な評価の考え方等を検討するとともに、さらにこれらを踏まえて今後の治水理念を構築し、提言することを目的として、平成21年12月から「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」を開催している。同会議では、22年夏頃に中間とりまとめを公表し、これを踏まえて個別ダムの検証が行われる予定である。また、同会議では引き続き今後の治水理念について議論を深めるとともに、23年夏頃に提言を取りまとめる予定である。

(4)土砂災害対策
 我が国では、集中豪雨や地震等に伴う土石流、地すべり、がけ崩れ等の土砂災害が、過去10年(平成12〜21年)の年平均で約1,000件以上発生しており、多大な被害を与えている。また、自然災害による犠牲者のうち、土砂災害によるものが大きな割合を占めている。このため、特に対策の必要な重点箇所に対する砂防施設整備や、自助、共助、公助による安全かつ的確な警戒避難体制の整備等、土砂災害による犠牲者を減らすための、ハード・ソフト一体となった効率的な土砂災害対策を推進している。
1)根幹的な土砂災害対策
 荒廃した山地を源流域に持つ河川は、そこから流れ出す土砂により流域全体に渡って甚大な被害をもたらす。このような土砂災害から国土を保全し人命保護を図るため、砂防関係施設の整備を推進している。
2)土砂災害発生地域の緊急防災対策
 土砂災害発生箇所及び周辺地域を含めた集中的な砂防関係施設の整備により、近年甚大な土砂災害が発生した地域の再度災害防止対策を推進している。
3)災害時要援護者を守る土砂災害対策
 病院、老人ホーム、幼稚園等の災害時要援護者関連施設が存在する危険箇所について、砂防堰堤等の土砂災害防止施設を重点的に整備している。
4)都市山麓における土砂災害対策
 都市域における土砂災害に対する安全性を高め、緑豊かな都市環境を創出するため、市街地に隣接する山麓斜面に一連の樹林帯(グリーンベルト)を形成することを推進している。平成21年度は、六甲地区(兵庫県)等19地区において実施している。
5)里地里山地域における土砂災害対策
 里地里山地域においては、荒廃流域を復元し斜面からの土砂流出を抑制するための対策を推進し、自然環境や生物多様性の保全を図っている。
6)土砂災害防止法の推進
 (ア)土砂災害警戒区域等の指定の推進
 「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(土砂災害防止法)」に基づき、土砂災害が発生するおそれのある土砂災害警戒区域を指定し、当該区域における警戒避難体制の整備を図るとともに、著しい災害が発生するおそれのある土砂災害特別警戒区域において、特定の開発行為の制限、建築物の構造規制等のソフト対策を講じている。また、警戒避難のためのガイドラインや事例集を示し、市町村の土砂災害に対する警戒避難体制の整備を支援している。
 (イ)危険住宅の移転の促進
 崩壊の危険があるがけ地に近接した危険住宅については、がけ地近接等危険住宅移転事業の活用等により移転が促進されている。平成20年度は、この制度により危険住宅40戸が除却され、危険住宅に代わる住宅31戸が建設された。

(5)火山砂防対策
1)活発な火山活動に伴う土砂災害への対策
 噴火等の活発な火山活動に伴う火山泥流や土石流等の広域的かつ大規模な土砂災害への対策として、砂防堰堤等の整備を実施している。桜島では、平成21年は活発な噴火活動が続き、9月以降は弱い降雨強度及び少ない連続雨量でも土石流が発生する傾向にあるため、継続的に監視・観測及び砂防堰堤の除石等を実施している。また、浅間山では中規模噴火がいつ発生してもおかしくない状況であり、今後噴火活動が活発化した場合に必要な緊急対策を円滑に行うための調査を22年度から実施する。
 
浅間山 平成21年2月

浅間山 平成21年2月

2)火山噴火緊急減災対策砂防計画の策定
 火山噴火時の土砂災害による被害を軽減するため、関係機関と連携して火山ごとに、緊急ハード対策の施工やリアルタイムハザードマップによる危険区域の設定等の緊急対応等、ハード・ソフト対策からなる火山噴火緊急減災対策砂防計画の策定を推進している。

(6)津波・高潮・侵食等対策
1)総合的な津波・高潮対策の推進
 インド洋大津波や米国のハリケーン・カトリーナによる大規模な被害を受けて、ハード整備とソフト対策を合わせた総合的な津波・高潮対策を推進している。平成21年度は、海岸堤防等老朽化対策緊急事業により、老朽化調査、老朽化対策計画の策定、計画に基づく対策工事を一体的に推進している。
2)高波災害への対応
 平成20年2月の富山県等における激しい高波による浸水被害等の発生を受け、災害発生のメカニズムの検証や今後の対策のあり方等の検討を行い、ハード・ソフト両面に渡る高波災害対策に係る考え方を踏まえ、関連施策を推進している。
3)海岸侵食対策の推進
 土砂供給量の減少、各種構造物の設置等による沿岸方向の土砂の流れの変化等様々な要因により全国各地で海岸侵食が生じ、特に近年は早いペースで侵食が進行している。河川、海岸、港湾、漁港等の各事業者と連携し、異常堆積土砂の除去対策と合わせ海岸侵食対策を推進している。
4)港内における船舶津波対策の推進
 全国の「港則法」の特定港(84港)を中心に「船舶津波対策協議会」を設置しており、関係機関の協力の下、各港において船舶津波対策の充実を図っている。

(7)気候変動への対応
 地球温暖化に関しては、気温が上昇し、大雨の頻度の増加、台風の強度の増大、海面水位の上昇等が予測されているため、今後20年から30年の間に実施される緩和策の規模に関わらず、洪水や土砂災害、高潮災害等の悪影響を低減するための適応策が必要である。治水対策や港湾政策においては、関係機関等が役割分担しつつ、長期的視点に立った予防的な施設の整備に加え、地域づくり・危機管理等を中心とした適応策の実施により、災害に適応した強靱で持続的な社会を目指していく。

(8)地震対策
1)住宅・建築物の耐震・安全性の向上
 改正「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」に基づき、国の基本方針において、住宅や多数の人が利用する建築物の耐震化率を平成15年の75%から27年までに少なくとも9割とする目標を定め、建築物に対する指導等の強化や計画的な耐震化の促進を図っている。21年度は、住宅・建築物安全ストック形成事業において、住宅・建築物の耐震改修に係る補助率の引き上げ等の拡充や、地方公共団体の持続的取組みに向けた体制整備に寄与する事業に対する助成を行うとともに、住宅に係る耐震改修促進税制について適用期限を5年延長するなど、住宅・建築物の耐震化の促進を支援している。
2)宅地耐震化の推進
 大地震時における盛土の滑動崩落による被害を軽減するため、新規盛土宅地については改正「宅地造成等規制法」等により技術基準が強化されており、既存宅地については宅地耐震化推進事業により、造成宅地防災区域の指定等に必要な調査や防止工事を実施している。
3)被災地における住宅・建築物及び宅地の危険度判定の実施
 住宅・建築物においては、余震による被災建築物の倒壊等の二次災害を防止するため、被災後速やかに応急危険度判定を実施できるよう、業務マニュアルの整備や全国連絡訓練等により都道府県と協力して体制整備を図っている。宅地においては、二次災害を防止し住民の安全確保を図るため、被災後に迅速かつ的確に危険度判定を実施できるよう業務マニュアルを整備する等、都道府県・政令市から構成される被災宅地危険度判定連絡協議会と協力して体制整備を図っている。
4)密集市街地の緊急整備
 防災・居住環境上の課題を抱えている密集市街地の早急な整備改善は喫緊の課題である。都市再生プロジェクト第三次決定及び住生活基本計画(全国計画)において、特に大火の可能性が高い危険な密集市街地(重点密集市街地、東京・大阪各約2,000ha、全国約8,000ha)を重点整備し、平成23年度までに最低限の安全性を確保することとされている。この実現に向け、国土交通省では、(ア)幹線道路沿道建築物の不燃化による延焼遮断機能と避難路機能が一体となった都市の骨格防災軸(防災環境軸)や避難地となる防災公園の整備、(イ)防災街区整備事業、住宅市街地総合整備事業等による老朽建築物の除却と合わせた耐火建築物等への共同建替え等による、密集市街地の防災性の向上と居住環境の整備を推進している。
 
図表II-6-2-6 防災環境軸

図表II-6-2-6 防災環境軸

5)オープンスペースの確保
 防災機能の向上により安全で安心できる都市づくりを図るため、地震災害時の復旧・復興拠点、生活物資等の中継基地等となる防災拠点や周辺地区からの避難者や帰宅困難者を収容し、市街地火災等から避難者の生命を保護する避難地等として機能する防災公園等の整備を推進している。また、防災公園と周辺市街地の整備改善を一体的に実施する防災公園街区整備事業を外語大跡地公園(東京都)等9地域で実施している。
6)総合的な耐震安全性を確保した防災拠点官庁施設等の整備の推進
 総合的な耐震安全性の確保の観点から平成21年度は、災害応急対策活動に必要な官庁施設及び一般官庁施設について、その耐震性の現況及び今後の耐震化の目標を公表するとともに、中央合同庁舎第1号館本館(霞が関地区)等の耐震対策を推進している。
7)公共施設等の耐震性向上
 河川事業においては、河川構造物の耐震性能の一層の向上を図るため、いわゆるレベル2地震動(関東地震や兵庫県南部地震級の地震動)を踏まえた耐震点検・対策を推進している。
 海岸事業においては、海岸耐震対策緊急事業により、ゼロメートル地帯等に地域中枢機能集積地区を有する海岸の耐震対策を緊急的に実施している。
 道路事業においては、地震による被災時には、円滑な救急・救援活動、緊急物資の輸送、復旧活動に不可欠な緊急輸送道路を確保するため、緊急輸送道路のうち、広域応援部隊等が移動するための県庁所在地間を結ぶ道路について、橋梁の重大な損傷を防止する対策を実施している。
 港湾事業においては、大規模地震発生時に避難者や緊急物資等の輸送を確保するため、基幹的広域防災拠点や耐震強化岸壁を整備するとともに、緊急輸送ルートに接続する臨港道路の耐震補強、緑地等のオープンスペースの整備を推進している。
 空港事業においては、地震災害時の空港機能の確保を図るため、東京国際空港(羽田)、仙台空港、新千歳空港・新潟空港・大阪国際空港(伊丹)等の耐震化を実施している。
 下水道事業においては、防災拠点等のトイレ機能や処理場の消毒機能等地震時に下水道が果たすべき機能を確保するため、平成21年度は下水道総合地震対策事業を創設し、防災拠点等と処理場とを接続する管きょや水処理施設等の耐震化等を重点的に実施している。
8)大規模地震等に対応する土砂災害対策
 平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震により発生した河道閉塞(天然ダム)への対策として、河道掘削等の応急対策に引き続き、21年度より直轄特定緊急砂防事業を実施している。
 また、このような災害の頻発を受け、21年12月に有識者等により提言された「特殊な土砂災害等の警戒避難に関する法制度について」等に基づき、実際に天然ダム等が発生した場合の危機管理体制の構築等、首都直下地震、東南海・南海地震等の将来起こり得る大規模地震等に起因する大規模な土砂災害から被害を軽減するための土砂災害対策を推進している。

(9)雪害対策
1)冬期道路交通の確保(雪寒事業)
 「積雪寒冷特別地域における道路交通の確保に関する特別措置法」に基づき、安全で安心な生活を支え、地域間の交流・連携を強化するため、道路の除雪・防雪・凍雪害防止の事業(雪寒事業)を進めている。また、豪雪時における通行止めや除雪状況等の情報の共有及び提供の一元化、除雪の効率化等を図るため、道路管理者等の関係機関による情報連絡本部の設置を進めている。
2)豪雪地帯における雪崩災害対策
 全国には、約21,000箇所の雪崩危険箇所があり、集落における雪崩災害から人命を保護するため、雪崩防止施設のハード整備を推進している。
3)消流雪用水導入事業の実施
 豪雪地帯において、治水機能の確保と合わせ、水量の豊富な河川から市街地を流れる中小河川等に消流雪用水を供給するための導水路等の整備を実施している。


テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む