参考資料 

(4)既存復興関係事業の改良・発展

 今後の津波対策は、これまでの防波堤・防潮堤等の「線」による防御から、河川、道路、まちづくりも含めた「面」による「多重防御」への転換が必要である。このため、既存の枠組みにとらわれない総合的な対策を進めなければならない。例えば、道路や鉄道などの公共施設の盛土を防災施設である二線堤として位置付けるべきである。学校や鉄道の整備にあたっても「減災」の観点を組み入れるなど、これまでにない発想で地域の安全度を高めていかなければならない。
 さらに、防波堤・防潮堤の整備事業、防災集団移転促進事業、土地利用規制などの既存の手法についても、一つ一つ今回の震災からの復興に適用できるかどうかの検証を行い、必要に応じて改良を施すことが求められる。
 防波堤・防潮堤については、比較的頻度の高い津波、台風時の高潮・高波などから陸地を守る性能を持ったものとして再建する。今回の災害のような大津波に際しては、水が乗り越えても倒壊はしない粘り強い構造物とすることについての技術的再検討が不可欠である。
 現在、住宅だけを移転させる「防災集団移転促進事業」を地域の実情に即して、多様な用途の立地が可能となるよう総合的に再検討し、より適切な地域づくりが実現できる制度に発展させる必要がある。また、住宅の高台移転や平地での再建・中高層化を図るため、宅地造成、低廉な家賃の住宅供給、公共公益施設の整備等を総合的に支援せねばならない。当然のことながら、住宅自立再建のための支援等も重要である。
 土地利用規制については、これまでの建築基準法第39条注1(災害危険区域の指定)や同法第84条注2(被災市街地における建築制限)による制限に加え、土地利用規制と各種事業とを組み合わせた「多重防御」を実現する必要がある。そのため、これらによる規制が地域・まちづくりと調和した内容となるように、規制内容の柔軟な見直しが円滑に行われるような新たな仕組みを考えるべきである。
 なお、必要な公的事業として土地を買収する場合を除き、公的主体が被災地の土地を買い上げることには、公的負担で利用価値の乏しくなった土地を取得するという難点と、被災者が他の地域に移転した場合、地域の再生や復興には直接つながらないという難点があることに留意したい。
 このように、復興関係事業を推進するためには、ハード・ソフトの施策を総動員し、地域づくり全体で津波に対する安全を確保するための制度を検討しなければならない。


注1 「建築基準法第39条」では、津波、高潮、出水等による危険が著しい場所を地方公共団体が条例で災害危険区域に指定し、その区域内における住居の建築禁止、構造や地盤面の高さに関する制限などの建築制限を条例で規定することができる。
注2 「建築基準法第84条」では次のように規定している。
被災地における市街地の健全な復興の支障となるような建築を防止するため、災害が発生した日から1ヶ月以内の期間においては、特定行政庁(建築確認に関する事務を行う「建築主事」を置く地方公共団体の長)は区域を指定し、期間を限って、その区域内における建築物の建築を制限・禁止することができる。なお、最長で2ヶ月まで延長可能であるが、東日本大震災により甚大な被害を受けた市街地を所轄する特定行政庁は、災害発生の日から6ヶ月(延長の場合、最長で8ヶ月)以内の期間に限って、指定した区域の建築を制限・禁止できる。


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