第I部 進行する地球温暖化とわたしたちのくらし〜地球温暖化対策に向けた国土交通行政の展開〜 

1 洪水・土砂災害リスクの増大

(1)洪水や土砂災害の被害を受けやすい国土

(洪水被害を受けやすい国土)
 我が国の国土は、地形、地質、気象等の面できわめて厳しい条件下にある。全国土の約7割を山地・丘陵地が占め、地震や火山活動も活発である上に台風や豪雨等に見舞われやすい。河川は急勾配であり、降った雨は山から海へと一気に流下することから、洪水の危険性が高い。さらに、洪水時の河川水位より低い約1割の土地に、全人口の約2分の1、総資産の約4分の3が集中しており、洪水の影響を受けやすい状況である。
 このような国土条件を克服するために治水対策を進めてきたが、依然として十分とは言えない状況である。例えば、大河川においては30〜40年に一度程度、中小河川においては5〜10年に一度程度発生する規模の降雨に対応できる治水安全度を当面の目標としているが、現在はその約6割程度の整備状況にとどまっている。
 
図表I-1-2-2 関東地方及び近畿地方の標高

図表I-1-2-2 関東地方及び近畿地方の標高

(土砂災害の被害を受けやすい国土)
 また、前述した国土条件により、土石流・地すべり・がけ崩れといった土砂災害の危険度も高い。さらに、新たな宅地開発が進むにつれて、土砂災害の発生するおそれのある危険な箇所も増加している。例えば、広島市佐伯区では、宅地開発により住宅地が山麓まで及んでおり、平成11年6月の豪雨により、当該住宅地が土石流・がけ崩れの被害を受けた。このような国土の脆弱性等を背景として、毎年平均で1,000件程度の土砂災害が発生しており、近年は以前に比べて発生件数が増加している。
 
開発により山麓にまで及んだ住宅地と住宅を襲った土石流

開発により山麓にまで及んだ住宅地と住宅を襲った土石流
 
図表I-1-2-3 土砂災害発生件数の推移

図表I-1-2-3 土砂災害発生件数の推移
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(2)集中豪雨の増加による将来の洪水・土砂災害リスクの増大
(集中豪雨の増加)
 (1)で述べたような洪水・土砂災害は集中豪雨等の大雨によって引き起こされるが、過去30年間の降雨の状況を見ると、1時間に50mmを超えるような雨や、1日に200mmを超えるような雨の回数が増加している。
 IPCCの第4次評価報告書によれば、今後、大雨の頻度は引き続き増加する可能性がかなり高いと予測されている。気象庁では、日本においても、100年後と現在とで比較すると、200mm以上の日降水量の年間日数は、ほとんどの地域で増加すると予測し、また、最大日降水量(年間で一番降水量が多い1日の降水量)は多くの地域で1.1〜1.3倍に増加するとしている。
 
図表I-1-2-4 アメダスでみた大雨発生回数の長期変化(1976〜2006年)

図表I-1-2-4 アメダスでみた大雨発生回数の長期変化(1976〜2006年)
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図表I-1-2-5 降水量の変化の予測(2081〜2100年の平均値と1981〜2000年の平均値の比較)

図表I-1-2-5 降水量の変化の予測(2081〜2100年の平均値と1981〜2000年の平均値の比較)

(将来的な治水安全性の低下)
 降水量の変化は河川の治水安全度に影響を及ぼす。例えば、荒川では、200年に一度程度発生する規模の降雨に対応できる治水安全度(1/200)(注1)を目標として整備が行われており、現在の整備状況では約1/30の治水安全度となっている(注2)。しかし、関東地域では100年後に最大日降雨量が約1.1倍になると予測されている。このような降雨量の増加を元に100年後の治水安全度を試算すると、現在目標としている治水安全度(1/200)は1/120に、また、現在整備済の治水安全度(約1/30)は今後の整備を考慮しないと約1/20に低下することとなり、はん濫や浸水の頻度が増加する可能性がある。一方、政府の中央防災会議では、主要河川において、万が一、堤防が決壊した場合の浸水域について試算を行っている。それによると、例えば荒川の堤防が決壊した場合、最悪のケースでは、都心部にまで影響が及ぶと予測されている。
 
図表I-1-2-6 100年後の降雨量の変化が荒川の治水安全度に及ぼす影響

図表I-1-2-6 100年後の降雨量の変化が荒川の治水安全度に及ぼす影響
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図表I-1-2-7 荒川が決壊した場合の浸水想定

図表I-1-2-7 荒川が決壊した場合の浸水想定

(将来的な土砂災害の危険性の増大)
 また、土砂災害についても発生の危険性が高くなり、現在想定されている危険箇所以外での土砂災害の発生や深層崩壊の増加により、崩壊する土砂量の増大、土石流等の到達範囲の拡大も想定される。さらに、雨の降り始めから崩壊が発生するまでの時間が短くなることも考えられる。


(注1)○年に一度発生する規模の降雨に対応できる治水安全度は「1/○」と表される。例えば、治水安全度1/200は200年に一度発生する規模の降雨に対応できる整備水準である。
(注2)現在の整備状況は、荒川の基準地点(岩淵(東京都北区))において評価したものである。

 

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