第II部 国土交通行政の動向 

8 建設産業の活力回復

(1)建設産業の現状と構造改善の推進
1)建設産業の現状
 建設業は、住宅・社会資本整備の直接の担い手であり、国内総生産・全就業者数の約1割を占める基幹産業の一つである。しかし、平成19年度の建設投資見通しは、4年度のピーク時と比較して約6割の水準にまで急激に減少している。この間、ピーク時に約60万業者を数えた建設業の許可業者数は約1割強減少しているが、建設投資の急減のスピードは業者数の減少を上回っており、建設業は依然として過剰供給構造にある。
 
図表II-5-4-14 建設投資(名目値)、許可業者数及び就業者数の推移

図表II-5-4-14 建設投資(名目値)、許可業者数及び就業者数の推移
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2)「建設産業政策2007」
 こうした状況を受けて、国土交通省では、平成19年6月に「建設産業政策2007〜大転換期の構造改革〜(注1)」を取りまとめた。この中で、「産業構造の転換」、「建設生産システムの改革」、「ものづくり産業を支える「人づくり」の推進」を構造改革の柱に位置づけるとともに、ア)公正な競争基盤の確立、イ)再編への取組みの促進、ウ)技術と経営による競争を促進するための入札契約制度の改革、エ)対等で透明性の高い建設生産システムの構築、オ)ものづくり産業を支える「人づくり」を今後の建設産業政策の方向性として明らかにした。
3)経営事項審査の見直し
 経営事項審査は、公共工事の発注における企業評価の物差しであり、社会情勢が変化する中で、適時の見直しを行うことが必要である。
 このため、平成19年度には、完成工事高評価への偏重を是正し、完成工事高、利益、自己資本をバランスよく評価するよう評価項目を改正するとともに、生産性の向上や経営の効率化に向けた企業の努力を評価・後押しするよう新たな企業集団評価制度を創設する等、経営事項審査が公正かつ企業実態に即した評価基準となるよう見直しを行い、20年度から施行することとしている。

(2)公正な競争基盤の確立
 建設投資が急激に減少する中で、「技術力・施工力・経営力に優れた企業」が生き残り、成長することを促すためには、まじめに努力する者が損をすることのない公正な競争環境を整備することが重要である。このため、建設業における法令遵守を徹底することを目的として、平成19年4月に、地方整備局等に建設業法令遵守推進本部を設置するとともに、法令違反に関する情報を収集する窓口としての「駆け込みホットライン」を開設した。また、法律の不知による自覚のない法令違反行為を防ぐための「建設業法令遵守ガイドライン」の策定・周知を図るとともに、談合の廃絶のための営業停止期間の延長等法令違反行為に対するペナルティの強化等により、民間工事を含めた建設業法の遵守、下請適正取引の推進等に取り組んでいる。

(3)経営基盤の強化への取組みの促進
1)中小・中堅建設業
 (ア)建設業の新分野進出支援等
 地域の中小・中堅建設業は、地域経済・雇用を支える重要な産業であり、災害対応の担い手としても大きな役割を果たしている。また、最近では、これまで社会資本整備を通じて培った技術・ノウハウを活用して、担い手不足が深刻化している農林業、福祉等の分野へ進出するなど、地域に根付いたコミュニティ産業として地域の活性化にも大きく貢献することが期待されている。このため、中小・中堅建設業の経営基盤の強化に向けた経営革新の取組みを促進し、技術と経営に優れた企業が伸びる環境整備を進めていく必要がある。
 平成19年度においては、建設業の新分野進出を促進するため、公共施設の維持管理や地域産業の活性化等の地域ニーズに対する取組みを普及促進するとともに、新分野進出のための情報提供、経営診断、計画策定支援等関連するサービスを一元的に提供する「ワンストップサービスセンター」を各都道府県に設置し、関係省庁と連携して支援している。
 (イ)下請セーフティネット債務保証事業
 中小・中堅建設業者の担保力・信用力を補完し、工事途中での資金不足の発生等を防ぎ、さらに下請代金の支払いの適正化を図るため、「下請セーフティネット債務保証事業」を行っている。また、平成19年度には、同事業について、下請業者等が有する工事請負代金債権の流動化を促進するためファクタリング(注2)事業者を債務保証対象に追加する措置を講じた。
 
図表II-5-4-15 下請セーフティネット債務保証事業のスキーム図

図表II-5-4-15 下請セーフティネット債務保証事業のスキーム図

 (ウ)協業化・共同化の推進
 中小・中堅建設業者が、継続的協業関係の確保により経営力・施工力を強化するため、経常建設共同企業体の適切な活用を促進している。また、中小・中堅建設業者の組織化、事業の共同化を推進しており、事業協同組合等(注3)による共同事業の活性化や事業革新活動を促進している。
2)専門工事業
 専門工事業者は、建設工事を直接施工し、工事の品質確保に重要な役割を担っている。平成19年度は、専門工事業者の経営力向上を図るため、原価管理の徹底の促進等を内容とする専門工事業緊急再生事業を実施した。
3)建設関連業(測量業、建設コンサルタント、地質調査業)
 建設関連業は、建設投資が減少している中、業務成果の品質確保等を図るとともに技術力と人材を経営資源とする知的産業として、適正な競争市場への参加と新たな業務領域の拡大に取り組んでいる。国土交通省では、建設関連業の登録制度の適切な運用等を通じて、優良な建設関連業の育成と健全な発展に努めている。

(4)ものづくり産業を支える「人づくり」の推進
 建設産業は、技術者・技能者がその能力をいかに発揮するかによって生産の成否が左右されるものであり、「人」が支える産業である。しかし、建設産業就業者の労働条件等の悪化が進むとともに、就業者の高齢化が急速に進展しており、技術・技能の承継が困難になっている中、優秀な人材の確保・育成とその評価は、建設産業が魅力ある産業に転換する上で不可欠である。
 このため、熟練した直接施工能力に加え、技能の側面から一定の管理能力を有する中核的な役割を果たす技能者を基幹技能者として確保・育成を図っている。
 また、「建設技能承継モデル構築事業」として、熟練技能者やOBを指導役として活用した若手技能者の技能習得等に資する先駆的先導的な取組みへの支援を行っている。
 さらに、関係省庁や団体等と連携して、現場見学会、優秀な技能者や人材育成等に係る先進的で特色のある取組みを行う企業等に対する顕彰や、一般市民との交流イベント等による建設産業の理解促進につながる活動を展開している。
 
図表II-5-4-16 年齢階層別就業者数(構成比)の比較(平成19年)

図表II-5-4-16 年齢階層別就業者数(構成比)の比較(平成19年)
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(5)建設機械の現状と建設生産技術の発展
 我が国における建設機械の保有台数は、平成17年度で約96万台(注4)と推定されており、建設機械の購入者別の販売台数シェアで見ると、リース・レンタル業者が48%を占めており、建設業者の22%よりも高くなっている。また、建設機械施工技術者の技術力確保のため、「建設業法」に基づいた建設機械施工技士の資格制度があり、19年度までに1級・2級合計約16万人が取得している。
 建設業における死亡災害のうち、建設機械等によるものは約14%を占め、近年では建設機械の技術進歩により事故原因(注5)も変化している。このため、建設機械施工安全技術指針の改定、建設機械施工安全マニュアルの策定等をし、建設機械施工の安全対策を推進している。
 今後は、ICTを活用し、建設機械施工の生産性向上を図るとともに、完成後における施工状況の再現、施工履歴の確認等が可能となる施工現場の情報化を図り、施工の効率化及び品質の確保を推進する。

(6)建設工事における紛争処理
 建設工事の請負契約に関する紛争を迅速に処理するため、建設工事紛争審査会において紛争処理手続を行っている。平成18年度の申請実績は、中央建設工事紛争審査会では61件(仲裁8件、調停36件、あっせん17件)、都道府県建設工事紛争審査会では149件(仲裁18件、調停112件、あっせん19件)となっている。


(注1)http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/01/010706_6_.html
(注2)ある企業の売掛債権を、専門的知見を有するなど一定の要件を持つ会社に譲渡、売却して資金化すること
(注3)建設業の事業協同組合:4,789組合、協業組合:38組合、企業組合:147組合
(注4)主な機種:油圧ショベル約682千台、車輪式トラクタショベル約159千台、ブルドーザ約53千台
(注5)建設機械の小型化(狭小現場に対応させた小型バックホウ等)による重心位置の変化や、補助装置(障害物検知装置等)の不適切な使用等による事故等

 

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