平成4年度 運輸白書

トピックで見る運輸の1年



●リフト付路線バスの導入開始(3.11〜)
 これまでもバスの乗降を容易にするための低床化が進められていたが、車椅子のまま乗降できるように電動式リフトをつけた路線バスが、大都市において導入され始め、お年寄りや体の不自由な人にとって路線バスが利用しやすくなってきている。
 平成3年11月に大阪市においてリフト付路線バス1両が導入されたのを皮切りに、同年12月には京都市において2両、4年1月には大阪市において10両、横浜市において1両、同年3月には神戸市において2両、横浜市において3両、東京都において8両の導入がなされ、合計で27両(4年4月現在)となっている。
 また、こうしたリフト付バス以外にも、例えば東京都においては、床の高さが55cmの超低床型のバスも8両導入されている。


リフト付バス

●温室効果気体の立体的な観測網等の整備(4.1〜)
 気象庁は、二酸化炭素を中心とした温室効果気体の大気上層から海洋深層までの立体的な観測網を、世界にさきがけて整備することとなった。
 平成5年1月から、気象ロケット観測所(岩手県三陸町)に続いて、太平洋上の孤島である南鳥島において新たに二酸化炭素の観測を開始する。また、4年1月からは、海洋気象観測船による西太平洋での洋上大気及び表面海水中の温室効果気体の観測について、範囲を海洋表層から深層にまで拡大したほか、民間定期航空機による上層大気中の温室効果気体の定常観測を開始している。
 なお、エルニーニョ現象等の大規模海洋変動等の監視・予測を行うため、4年4月に「エルニーニョ監視センター」を気象庁に開設した。


定期航空機を利用した上層大気中のCO2観測


二酸化炭素の観測を開始する南鳥島


海洋気象観測船による観測(凌風丸)

●「海上における遭難及び安全の世界的な制度」(GMDSS)の導入と実施体制の確立(4.2.1)
 平成4年2月1日、「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」の改正条約が発効し、GMDSSの導入が全世界的に開始された。
 これは、従来のモールス符号を用いた遭難・安全通信制度に代わって、人工衛星を介し広範に届く電波を利用するなどによって、いかなる海域からでも船舶が陸上に救助要請をすることができるようにするとともに、陸上からの海上安全情報を適切に受信できる体制を確立するものであり、これにより迅速・的確な捜索救助が可能となった。


GMDSS関連施設運用中の海上保安庁職員

●田沢湖・奥羽線盛岡〜秋田間新幹線直通運転化工事着工(4.3.13)及び北陸新幹線石動〜金沢間着工(4.8.27)
 平成4年3月13日に田沢湖・奥羽線盛岡〜秋田間について新幹線直通運転化工事の着工式が行われた。新幹線直通運転化工事としては4年7月に開業した奥羽線福島〜山形間に続くものであり、これが完成すると、現行の東京〜秋田間の所要時間約4時間半が4時間程度にまで短縮されることになる。
 また、整備新幹線のうち、既に着工している北陸新幹線高崎〜長野間、東北新幹線盛岡〜青森間、九州新幹線八代〜西鹿児島間に続き、4年8月27日には北陸新幹線石動〜金沢間について着工した。


田沢湖・奥羽線盛岡〜秋田間新幹線直通運転化工事着工式


北陸新幹線石動〜金沢間着工式

●東海道新幹線「のぞみ」運行開始(4.3.14)及び奥羽線福島〜山形間新幹線直通運転開始(4.7.1)
 平成4年3月14日、東海道新幹線東京〜新大阪間において300系車両「のぞみ」の運行が開始された。「のぞみ」は最高速度270km/hで走行し、東京〜新大阪間を2時間30分で結ぶこととなった。
 また、4年7月1日には、在来線、新幹線両区間の走行が可能な400系車両「つばさ」による奥羽線福島〜山形間の新幹線直通運転が開始された。これにより、東京〜山形間が直通で最短2時間27分で結ばれた。

東海道新幹線「のぞみ」


山形新幹線「つばさ」

●安全で快適な車社会の形成をめざして運輸技術審議会から「自動車安全基準の拡充強化目標」について答申(4.3.31)
 近年の車社会が第2次交通戦争とも言うべき厳しい事態を迎えているなかで、運輸技術審議会において、衝突事故発生時に車内で死亡する人が多い、高速走行での交通事故が多いといった近年の事故の特徴を踏まえ、自動車の安全確保のために必要な技術的方策について検討を進めてきた。
 その結果、平成4年3月に、車体構造を含めた自動車全体の衝撃吸収性能の向上、シートベルト非着用時の警報装置の導入、アンチロックブレーキの義務付け対象の拡大、高速走行時の制動能力の向上などを内容とする「自動車安全基準の拡充強化目標」を定めた答申が出されたことから、今後これを踏まえ必要な安全対策を計画的に推進することとしている。

前面衝突試験の模様

●テクノスーパーライナーの実海域模型船の建造に着手(4.4〜)
 平成元年度から貨物積載重量1,000トン、速力50ノット(時速93km)の性能を目標として始められたテクノスーパーライナー(新形式超高速船)の研究開発は、4年目を迎え着実に進捗している。将来この超高速船が実現すれば、貨物のトラック輸送から海上輸送へのモーダルシフトに大きく貢献すると期待されている。
 これまで船型、構造、推進装置、船体姿勢制御システムなどの要素技術に関する研究が水槽実験やシミュレーションによって進められており、4年度中にはこれらの結果がとりまとめられる予定となっている。
 また、これらの研究結果を実際の海象条件で検証評価するため、6年度には、実海域模型船実験を実施することとしており、4年度からこれに使用する模型船2隻の建造に着手している。

水槽実験による波浪中抵抗の測定


シミュレーションによる船体航走姿勢の検証

●日・EC運輸ハイレベル協議実施(4.4.2)
 平成4年4月2日、東京において、コールマンEC委員会第7総局長を迎え、日・EC運輸ハイレベル協議が開催された。
 協議では、ガットウルグアイラウンドの展望、EC統合を控え推進されている共通運輸政策の策定状況、関西国際空港を始めとする我が国の国際空港の整備状況などについて意見交換が行われた。
 運輸ハイレベル協議は、主要国運輸当局首脳と密接な意思疎通を図ることにより運輸行政を円滑に推進するため、4年度より運輸審議官と諸外国の次官クラスとの間で、意見交換、政策調整を定期的に実施しているものである。
 国際経済における相互依存関係の深まりに伴い、運輸分野においても、諸外国と調整を要するさまざまな問題が続出しているため、運輸省では今後とも運輸ハイレベル協議を積極的に推進していくこととしている。

日・EC運輸ハイレベル協議

●国際船と海の博覧会への公式参加(4.5.15〜8.15)
 コロンブスのアメリカ大陸到達500周年を記念して、その生誕の地であるイタリアのジェノヴァで、平成4年5月15日から8月15日まで、博覧会条約に基づく特別博覧会である「国際船と海の博覧会」が、「船と海」をテーマに開催され、48カ国、6国際機関が参加した。
 我が国からは、運輸省が中心となり参加し、旧青函連絡船「羊蹄丸」を改造したフローティング・パビリオン、日本ブース(宮城県、東京都、横浜市、愛知県、大阪府、大阪市、神戸市の7自治体の出展)及びジャパンデイ(7月15日)を中心とする催事を通じ、「船と海」のテーマのもとに「素顔の日本」を紹介することに努めた。
 日本館は、新聞にも度々取り上げられるなど大変人気を博し、多くの入場者が来館し、日本とイタリア及び世界各国との交流の発展に大きく寄与し、極めて大きな成果を収めた。

博覧会の会場(手前の船が羊蹄丸)


人気の日本館は長蛇の列


熱心に展示に見入るイタリアの子供たち

●地域の伝統芸能などの活用や外国人観光客向けのホテル・旅館の整備による新たな観光振興の展開(4.5,6)
 踊り、太鼓、田楽などの地域の伝統芸能や風俗慣習を活用することは、観光の振興と外客の誘致に効果的であることから、第123回国会において成立した「地域伝統芸能等を活用した行事の実施による観光及び特定地域商工業の振興に関する法律」に基づき、地域の伝統芸能や風俗慣習を活用した観光イベントに対して、同法に基づく支援事業実施機関を通じて資金提供や情報提供を行うなど適切な支援を図っていくこととしており、このような中で、運輸省及び通商産業省は、(財)地域伝統芸能活用センター(仮称)を設立することとしている。
 また、近年の訪日外国人旅行客数の増大などにより、訪日外国人の宿泊ニーズが多様化してきていることから、同国会において改正された新「国際観光ホテル整備法」に基づき、ホテル・旅館の登録基準の見直しや情報提供制度の創設等を行い、外国人旅行客へのサービスの向上を図ることとしている。

郷土色あふれる伝統芸能


国際観光ホテル

●「人と地球にやさしい港湾の技術をめざして−港湾の技術開発の長期政策−」策定(4.6.17)
 運輸省は、運輸技術審議会答申「21世紀を展望した運輸技術施策について」(平成3年6月)などを踏まえて、21世紀初頭をめざした我が国の港湾技術の開発の促進に必要な政策を、「港湾の技術開発の長期政策」として取りまとめ、4年6月17日に発表した。
 これは、近年の地球レベルでの環境問題の深刻化、経済活動のグローバル化などを踏まえ、@人と地球にやさしいウォーターフロントの形成、A人と情報の国際交流と世界への貢献を目指して、港湾空間の質の向上、高能率ターミナルの建設、港湾工事の省力化など10の重点技術開発課題を選定するとともに、今後の港湾技術開発の推進方策を示したものである。

水中ロボットの開発と自動施行

●新千歳空港新ターミナル地区供用開始(4.7.1)
 平成4年7月1日、新千歳空港整備の第U期計画である新ターミナル地区の整備が完了し、新たに供用を開始した。
 この新ターミナル地区は、大きく分けてエプロン、旅客ターミナル地区、貨物ターミナル地区などからなる。特に、我が国初の半円形である旅客ターミナルビルには、プラザ、ホテルなどの各種サービス施設が利用者に親しみをもってもらえるよう工夫をこらして整備されている。また、供用開始にあわせて、ターミナルビル地下に新千歳空港駅が開業し、JRが直接乗り入れるとともに、国道からのインターが整備されるなど空港アクセスも一層便利なものとなった。
 このように新ターミナル地区は、北海道における拠点空港としてふさわしいものに生まれ変わり、地域の発展に大いに貢献することが期待されている。

新千歳空港新ターミナルビル


JR新千歳空港駅

●「海の記念日」盛大に実施(4.7.20)
 近年、身近な海辺の散策からヨットや水上バイク、さらには豪華客船によるクルーズまで、さまざまな海洋レジャーが広く普及し、多くの国民が海に親しむようになってきている。このような状況のなかで、昭和16年に制定された7月20日の「海の記念日」も、平成4年で52回を数え、国民的行事として多くの人々の参加のもと盛大に行われている。
 なお、4年の「海の記念日」は、全国で各種の記念行事が行われたが、日本女性で初めてヨットによる世界一周単独無寄港航海に成功した今給黎教子さんも、海事思想の普及に多大な貢献を行ったとして運輸大臣から表彰された。

運輸大臣から表彰を受ける今給黎教子さん

●民間航空再開40周年記念事業「空の日」(4.9.20)、「空の旬間」(4.9.20〜9.30)
 平成4年は、昭和27年の民間航空再開から40周年にあたる。この40年間に我が国の航空は目覚ましい発展を遂げ、人と人、地域と地域、国と国とを結ぶ基幹的交通機関として定着するにいたっている。
 40周年を機に、民間航空の再開とその後の発展に貢献された方々に感謝し、現在の発展を祝い、今後の一層の安全と成長を祈念するとともに、広く国民一般に航空行政及び航空サービスに対する理解と支持を得ることを目的として、民間航空再開40周年記念事業行われた。
 9月20日の航空日を、よりソフトなイメージの「空の日」と呼ぶこととし、「空の旬間」を設け、「もっと感動、空はフロンティア」をキャッチフレーズに、記念式典、航空国際フェスタ '92、記念論文募集、空の日芸術賞の創設、各地の空港等での施設見学、一日空港長など多彩な行事が全国的に行われた。

第40回「空の日」記念式典において挨拶する運輸大臣

●実用型メタノール自動車市販開始(4.11〜)
 メタノール自動車は、アルコールの一種であるメタノールを燃料としているため、排気ガスに黒煙がほとんど含まれず、窒素酸化物についても従来のディーゼル車と比較して約2分の1であり、環境にやさしい低公害自動車として期待されている。これまでの実用市内走行試験の結果、実用に耐えうる信頼性、安全性が確認されたことから、平成4年秋に2t積み小型トラック等が一般ユーザー向けに市販される見通しとなった。
 メタノール自動車の普及にあたっては、燃料供給や車両価格がネックとなっていたが、4年6月、板橋区により大型メタノールスタンド(10kl)が設置されたほか、車両導入にあたっての優遇措置として、税制上の特別措置に加え、(社)全日本トラック協会による300台分のリース料補助制度が創設されている。
 今後は、これらを活用しつつ、集配用トラックを中心にメタノール自動車の本格的普及をめざすこととしている。

メタノール自動車(板橋区)



平成4年度

目次