2 収支状況および財務状況


(イ) 好調な需要に支えられた日本航空(株)の昭和38年度(第14期)収支は乗員訓練費等の繰延費用4億6000万円余の特別償却を行なつた後で15億2600万円の純利益を計上した。利益金の金額は,国内幹線の運営によつてあげたものであるが,毎隼8億円から9億円程度の欠損(37年度は,南回り欧州線の開設,米国のドル防衛策,外貨収支の悪化に伴う日本人渡航制限など多くの影響を受け,さらに大幅な赤字を計上した。)を出していた国際線収支が,今期においては約7500万円の欠損に止まつたことは特筆されるもので,事業全体の収支改善の要因となつた。
  収支状況は, 〔III−16表〕のとおりであるが,国際線についてみると,昭和29年2月に東京-サンフランシスコ線および東京一沖縄線の運営を開始して以来満10年を迎え,この間業績も飛躍的に向上し今期の営業収入においては,営業開始以来初の200億円台をあげることとなつた。国際線事業全体の総収入においては,対前年度比37%増の251億4900万円を計上した。
  このうち,主要収入源である旅客収入が37%,手荷物が96%,郵便物が22%,貨物が15%とそれぞれ順調な増加率を示している。これを営業路線別にみると,日本航空の主要路線である太平洋においては,当初予定を約8億円余り上回る127億6500万円の路線収入をあげた。つぎに欧州線であるが,極東-欧州間を結ぶ最短路線である北回り欧州線は,上期において36年6月開設以来はじめて採算べースに乗り,また,世界の主要航空会社が運航して,営業面の競争がきわめて激烈な南回り欧州線も昨年10月就航機をCV-8別型機からDC-8型機に切り換え,競争力の強化を図つた結果,南北両路線合計で64億9000万円をあげ,予定収入を6億円余も上回つた。
  東南アジア線及び沖縄線については,東南アジア線が予定より3億円増収の43億5400万円となつたが沖縄線の収入は,予定より約8500万円の減収で,4億2800万円の水揚げにとどまつた。
  他方費用の面においては,総経費が252億2400万円で対前年度比は19%増に止まり,年度頭初の予定費用より2億円の支出増であつた。
  このうち,主な費用項目では,航行費が3%,整備費5%,運航管理費27%,貨客サービス費27%,一般管理費および販売費22%の対前年度増である。
  次に,昭和37年までの日本航空(株)の収益状況について収益性の面から欧米航空会社と比較することとしたい。 〔III−17表〕及び 〔III−18表〕によつて明らかなように,36年までの航空事業の採算性は,逐年悪化しており36年において北米10社の合計で117億円,また,欧豪10社の合計では実に303億円という大幅な赤字を計上した結果,20社の総費用に対する利益率は,昭和30年以来はじめてのマイナス数値を出した。
  特に36年,37年には,世界の各航空会社が莫大な資金を投入し大型ジェット機を入手した結果,輸送力は飛躍的に増大したにもかかわず,景気の停滞から輸送需要の伸びが鈍化し,いわゆるオーバーキャパシティーの事態を招来して,各社間に激甚な過当競争を現出した。このため,ほとんどの航空会社が採算割れとなり,企業財政の面に深刻な打撃を蒙つたことがうかがえる。
  しかしながら各社は,この打開策として企業の合理化による原価の低減につとめ,早くも37年には業績向上のきざしを示し,38年には,ざらに著しい好転を予想するまでに至つた。
  このように欧米の主要航空会社は,過剰な輸送力に悩まされながらも世界経済の活況に伴う旅客の増大と低コストによる輸送に支えられて,多少収支の改善を行なつたのであるが,一方,日本航空の場合は 〔III−19図〕および 〔III−20図〕にみるとおり低コストの輸送によるよりも,むしろ,高い利用率に支えられて収支改善を行なつており,営業利益率は欧米航空会社より相当優れている。しかしこの優位な営業利益率にもかかわらず,事業全体でみた純利益率は低くその較差が大きいことは,日本航空(株)の営業外費用(主として金利)の負担が,その営業規模に比してきわめて大きいためで,ちなみに営業経費に対する支払利子額は 〔III−21表〕のとおり年々上昇しており,38年度では7%に近い。これを欧米航空会社の4%程慶の利子負担率に比較すると,いかに経営収支のうえに大きな負担となつているかがうかがえる。仮に,この比率が外国航空会社なみの4%として,日本航空(株)の38年度利子負担額を算出すると約13億4000万円となり,22億8900万円の利子額から9億5000万円程度改善されることとなる。

(ロ) 以上の収支状況に対し,同社の財務状態は,次の表のとおりである。これでみると,前年度の28億円余の収支差損から,一躍15億円余の黒字に転じた結果,繰越欠損は,26億円から9億8000万円へと大幅に改善され,流動比率も37年度末の100.1%から144.3%へと向上している。
  一方,航空機購入代金,既借入金返済等に充当するため,社債が約18億円,長期借入金が約69億円増えたために,固定負債全体で約100億円の著増をきたした。日本航空(株)ば,路線の整備拡充のために年々機材を増強しなければならず,そのためには,巨額の資金を要するが,現状では,他人資本に頼らざるを得なかつたものである。
  しかし,このように負債が増えた結果,同社の利子負担が経営上大きな負担となつていることば,前述のとおりである。
  また,繰延勘定の大部分を占める開発費は,そのほとんどが乗員訓練費であるが,これについては後述する。


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