3 観光資源と国土美化


  今日の観光旅行者にとつては,観光対象となるものの範囲は,きわめて広い。たとえば,文化財やすぐれた自然の風景地はもちろん,観光旅行の目的である親ぼく,休養,見物,スポーツ等の対象となるもの,いわば,この世の中に存在するほとんどすべての事物事象が観光対象となりうる。一方,先に述べた観光基本法は,観光資源の保護,育成および開発を図るため,国が必要な施策を講ずべきこととしているが,ここでいう観光資源は,一定の限界があり,観光対象のうち,きわめて限られた人々だけが興味の対象とするものやそのものの性質上人々の見物等の対象となりえないようなものは,これに含まれない。観光資源に対する国の施策としては,自然公園法,温泉法,文化財保護法,森林法等による各種の法規制がある。これらの法律の多くは,観光以外の目的りためのものであるが,これが結果的には,観光資源り保護育成および開発に役立つている。
  最近,産業観光とよばれて近代的な設備を有する工場や.伝統的な技術の残つている工場を見学する観光旅行が盛んになりつつあり,産業に関ずる観光資源が一般に注目されるようになつてきた。外審を対象とする産業観光については,すでに述べたが,日本人を対象とする産業観光の受け入れ体制は,すでに,一部の地方公共団体を中心として整備されてきている。
  これは,日本人を対象とする場合は,書語障壁,休憩施設等の問題の起り得ないこと,修学旅行の場合の工場見学の希望が強く,そのため多くの場合団体としてまとまつていて扱いやすい等の理由によるものであろう。
  大阪市,名古屋市等では産業観光専門の観光バスを運行しており,その他神奈川県,神戸市,北九州市等でも日本人を対象に産業観光の受け入れ体制がじょじょに整備されてきており,その利用客も修学旅行の学生生徒を中心にかなり増えてきている。
  しかし,全国的にみると,産業観光に関する受け入れ体制は,きわめて貧弱かつ,未整備であるといつてもよい状況にあり,すでに述べたように外客を対象とするものを中心に今後の施策がまたれるところである。
  観光資源の保護の一態様として,観光地の美観風致の維持を図るための国土美化の問題がある。古くは,昭和10年頃鉄道省の外局である国際観光局の提唱により,また,戦後には,社団法人全日本観光連盟,旧日本観光協会,財団法人新生活運動協会,地方公共団体簿により国土美化運動が推進されてきた。
  なお,国土の美化については,昭和37年4月27日衆議院本会議で,国土を美しくする決議がなされたが,この決議においても,屋外広告物の禁止,整理,騒音の防止,衛生,清掃設備の改善充実,じんかい処理機構の充実を決議しているほか,自然美保護,公共物保護,旅行道徳思想および環境美化思想のこう場等を図ることも決議している。


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