2 大都市におけるタクシー問題


(1) 大都市のタクシーの現状

  大都市におけるタクシーは,昭和42年度の東京都区部においては7.4億人(同地域の輸送人員合計の9.8%),また大阪市においては3.2億人(同地域の輸送人員合計の9.4%)を輸送しており大衆の足として日常生活に密着した公共輸送機関となつている。また最近運輸省がおこなつた「首都圏都市交通問題に関するアンケート調査」によると65%の人がタクシーを利用しており,1月平均の利用回数は6回であり,その利用目的も業務20%,買物25%,趣味・レジャー22%,通勤・通学13%と多岐にわたつている。
  また,タクシーを利用する理由としては,「目的地の近くまで行け便利」(36%),「所要時間が早い」(34%)という理由が圧倒的比率を占めている。しかし,一方,乗車拒否等サービスの低下は世論の厳しい批判を受けており,このまま何ら対策を講ずることなく放置すれば,タクシーが公共輸送機関としての使命を達成することが困難になるばかりでなく,タクシーが現在担つている輸送任務の規模および質からみて都市交通体系自体をも混乱におとしいれる可能性すらある。
  このような事態は,タクシー事業上の次のような問題が原因しているといつてよい。
 @ サービスを販売する場所が固定しないため,管理者の眼が届きにくいと同時に,サービスを独立的に販売する運転者に対する直接的な規制手段に乏しい。
 A 労働市場逼迫の現状において,タクシー事業については労働環境に恵まれない割に,運転者の労働条件が低水準であるため,良質な運転者の確保が困難である。
 B 労務管理の面で立ち遅れている事業が多く存在する。
 C 道路交通混雑が年々激化し,昼間都心部におけるタクシーの運行能率が低下している。
  したがつて,タクシーのサービスの改善のためには,乗車拒否等の取締りを強化すべきことはもちろんであるが,根本的解決策として乗車拒否やその他のサービスの質の低下の原因を除去する必要がある。

(2) 大都市のタクシー・サービスの改善対策

  運輸省は,昭和44年8月28目「大都市におけるタクシー・サービスの改善対策」をまとめ,これを各陸運局へ通達したがその対策の骨子は次のとおりである。
 イ 東京,大阪にそれぞれ「タクシー近代化センター」を設立し,タクシー・サービスの改善に関する対策を総合的に実施する中核機関とする。
  「タクシー近代化センター」の経費は原則として事業者が負担することとし,次のような業務を行なう。
 (イ) 法人タクシー運転者は登録制とし,「タクシー近代化センター」に登録させるとともに,乗車拒否等で登録を取り消された運転者は,法的措置をまつて,登録の取り消された事業区域内で一定の期間,タクシーに乗務できないこととする。
 (ロ) 街頭における適正な営業を確保するため,街頭指導車,街頭指導員を置く。
 (ハ) タクシー運転者の養成のため,研修所を附属させる。
 (ニ) タクシー運転者のための住宅,食堂等の福利厚生施設を整備する。
 ロ 自動車運転者の労働時間等の改善基準を定めた労働省2・9通達の全面実施を確保するため就業規則の写しの提出を許認可の際の条件とする等,労働条件の改善を図る。
 ハ タクシー事業の経営を改善するため,タクシー事業近代化計画の策定等により事業の高度化を図る。
 ニ 個人タクシーの組織体制を整備する。
 ホ 無線タクシーを増強するとともに,専用電話の設置等により利用の簡便化を図る。
 ヘ 時間距離併用メーターの導入,深夜早朝割増の設定等運賃制度を改善する。
 ト 乗合バスの優先通行,路線の再編成,深夜バスの運行等大量輸送機関の整備によりタクシー需要を調整する。
 チ 運転者の確保の見通しのある場合においては,随時増車を行ない輸送力の増強を図る。
  これらの対策中,立法措置その他の特別の措置を必要とするものは,所要の措置がとられた後逐次実施するが,そのほかのものについてはできるだけ早急に実施する。
  タクシー・サービスの改善は単に行政当局のみではなく,広く事業者,運転者,利用者が一体となつて取り組んでいかなければならない問題であり,関係者が相協力して問題の解決へ邁進することが望まれる。


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