5 造船業の問題点


  わが国造船業は大型経済成長に支えられた計画造船の建造枠の拡大,自己資金船の大量発注があり,また,水準の高い造船技術や輸出入銀行を始めとする輸出金融体制の維持により輸出船の受注も順調で,現在約2年分相当の手持工事量を確保している。
  一方,わが国造船業の独走に甘んじていた西欧主要造船国は,造船業が国民経済上ないしは国防上必須の産業であるとの認識を新たにし,特に出遅れた超大型造船施設の整備を始めとして,企業の合併,集約化を通じての合理化,近代化に対し手厚い国家助成を講じており,これら諸国の造船業は着々と国際競争力をつけ,わが国造船業に対する巻返しを図りつつある。わが国造船業が現在の実力を今後も維持するためには,長期的展望にたつてこのような現状を正しく認識し,以下に略述する対策を講ずる必要があろう。
  まず第一は企業の徹底的な合理化である。43年度のわが国の主要造船所27工場の進水量は対前年度比7%増と伸びに鈍化傾向がみられ,また,起工量は7年ぶりに減少した。これは従来の過密操業から適正操業への移行という生産体制の転換といら事実を持つ一面,労働力需要の逼迫化傾向という事実をも有している。未だ労働集約型産業である造船業にとり生産規模の拡大に伴う労働力の充足は今後とも一段と困難になることが予想され,建造設備,生産工程,管理工程の省力化,機械化に将来とも最大限の努力を払つてゆく必要がある。
  第二に技術開発の促進がある。わが国造船業は大型船の開発,大量建造という部門では西欧造船諸国に先鞭をつけることができたが,LPG船,コンテナ船,客船等トン当り船価の比較的高い船種,従つて仕様の高度なものについては一歩遅れをとつているものと思われる。今後とも将来の輸送需要に即応した船種,船型の積極的な開発の推進が必要である。
  第三に輸出船建造資金量の確保がある。わが国造船業は輸出船の90%近くを占める延払い船の建造に際し,その建造資金の大半を輸出入銀行に依存している。OECDにおいて輸出船のための信用条件が統一されることを見越して,輸銀は44年度以降契約される輸出船に対する建造資金の貸出し金利を従来の4.0%から4.75%に引き上げるようになつた。これによりわが国造船業は国際的な延払い条件である頭金20%,期間8年,金利6%で船舶輸出を行なうことになつたが,少なくとも,わが国造船業が輸出産業の基幹として国民経済に寄与していくためには,わが国のみが国際競争の中で不利な立場に立たされることのないよう財政資金の確保を図る必要がある。
  第4は中小造船業の近代化である。
  わが国の中小造船業は,その大部分が企業体質の弱い中小企業で構成されており,経営の近代化,合理化,技術開発の面で立ち遅れ,生産性は低い。
  更に最近の労働力の逼迫化は,これまで低い生産性を低廉豊富な労働力でカバーしてきた中小造船業にとつて深刻な問題となつている。
  これがため,経営の近代化,設備の合理化,技術水準の向上等を強力に推進し,労働力の逼迫化に対処するとともに、企業構造の高度化を行ない企業体質の強化に努める必要がある。


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