1 自動車排出ガス


(1) 自動車排出ガスの現状

  自動車排出ガスによる大気汚染については,一酸化炭素汚染のほか,最近において鉛公害とか炭化水素,窒素酸化物およびこれらにより形成される光化学スモツグとかが新たに自動車排出ガスに起因する公害として,さらに,浮遊ふんじん,デイーゼル黒煙等も自動車公害として取り上げられ,これらの汚染物質について,その濃度と持続時間とによる人体,動植物等への有害度を究明し,自動車排出ガス全般につてい総合的な防止対策を確立する必要が生じている。このような状態において,現在まで次のような措置が講じられている。

(2) 一酸化炭素の環境基準

  一酸化炭素については,早くから汚染状況と有害性とが把握されており,政府は45年2月20日の閣議において,公害対策基本法第9条に基づき,人の健康を守るための環境汚染の許容限度を示す行政上の目標として,つぎのような一酸化炭素の環境基準を制定した。

 ○ 環境基準

      人の健康に関する一酸化炭素の環境基準は,一酸化炭素による影響の特性にかんがみ年間を通じて常につぎのイおよびロの条件が維持されるものとする。
      イ,連続する8時間における1時間値の平均は,20ppm以下であること。
      ロ,連続する24時間における1時間値の平均は,10ppm以下であること。
      しかるに,交通量の激しい大都市交差点附近等においては,この基準値を上まわる日が増加する傾向にあり,環境基準達成のための排出規制等の対策が急がれている現状である。

(3) 排出ガス規制

  自動車から排出されるばい煙,悪臭ガス,有害ガス等については,道路運送車両法の保安基準(運輸省令)により規制されているが,昭和43年の大気汚染防止法の制定と相まつて自動車排出ガス量の許容限度について規制を強化した。

 イ, 現行の規制

      45年7月に保安基準等関係省令を改正し,一酸化炭素については 〔I−(II)−37表〕のとおり規制が強化されることとなり,この結果,世界でもはじめての使用過程車に対する本格的規制が行なわれることとなつた。その他,ガソリン又は液化石油ガスを燃料とする普通自動車並びに小型自動車及び軽自動車(二輪自動車を除く。)にブローバイ・ガス還元装置の備え付け義務(新型車は45年9月1日から,継続生産車は46年1月1日から。)が課せられることとなつた。

 ロ,今後の規制方法の検討

      新車に対する規制としては,現在排出濃度の最高を規制するいわゆる最高値規制を行なつているが,さらに平均値規制(各型式毎の生産車の排出濃度の排出濃度の平均を規制値以下とする方式)も行うこととしている。また,排出ガス中に含まれる一酸化炭素の容量比率による濃度を規制する方式から,重量規制(単位走行距離当りに排出される一酸化炭素の重量の規制)に移行することも検討している。
      さらに,光化学反応によるスモツグの発生を抑制するため,ブローバイ・ガス以外の炭化水素及び窒素酸化物についても具体的な排出規制を行なうべく,測定方法等の検討を行なつている。

(4) 自動車排出ガス点検整備

  整備不良による自動車排出ガスの多量の発生を防止するため,排出ガス対策点検整備要領を定め,同要領に規定する項目について点検整備を実施するよう指導してきたが,本年7月に排出ガス対策にかかわる点検項目を充実強化し,8月からのアイドリング時の一酸化炭素濃度規制に伴い,自動車使用者に対して自動車排出ガス中の一酸化炭素に関する点検整備の実施を徹底するとともに,自動車整備工場等に対しては測定器の設置,整備技術の向上等排出ガス中の一酸化炭素に関する点検整備の実施体制の充実を図るよう指導している。

(5) 自動軍用ガソリンの鉛害対策

  45年5月から6月にかけ,東京都内牛込柳町交差点等における鉛汚染が著しいのに対処して,自動車用ガソリンの当面の鉛害防止対策をつぎのとおり推進している。すなわち,使用過程車に対して加鉛量の少ないガソリンの利用を指導するとともに,ガソリンの無鉛化を早期に実現するためエンジンについての対応策を推進し,あわせて鉛の排出規制に必要な測定方法についても開発を進めている。

(6) 自動車排出ガス対策基本計画

  一般に大気汚染は複雑な要因により形成されており,現状ではその実態が十分に把握されておらず,現存するデータをもとにしてこれまでの諸対策が進められてきた。しかしながら,有効な排出ガス対策を推進するためには,広い視野と長期の見通しにたつて科学的根拠に基づいた自動車排出ガス対策を樹立し,これを総合的な交通対策と公害対策の一環として効率的に推進する必要がある。
  そのため,44年12月から運輸大臣の私的諮問機関である運輸技術懇談会自動車部会において,これら長期的な自動車排出ガス対策の基本計画を審議し,さらに45年7月発足した運輸技術審議会自動車部会において継続して審議を行なった結果さる7月22日運輸技術審議会諮問第4号――自動車の安全確保および公害防止のための技術的方策について――の中間答申としてつぎのような概要の自動車排出ガス対策基本計画が取りまとめられた。
  イ,自動車排出ガスとして,一酸化炭素のほか,窒素酸化物,炭化水素,鉛化合物等を取り上げ,特に光化学スモツグ,自動車排出ガスの拡散等大気汚染の実態を科学的に究明する。
  ロ,昭和48年および50年の二段階に分けて,自動車排出ガスの低減目標を設定した。なお,これは,東京都における自動車排出ガス総量を50年において38年相当量とし,同じく55年において36年相当量とすることを目標としたものである。
  ハ,この目標を達成するため,新車の排出規制を重量規制により段階的に強化し,使用過程車についても,新車に相応した規制を加える。
  ニ,防止対策については,現用内燃機関の改良のほか,排出ガス清浄装置,無公害自動車の開発を中心とし,都市計画,交通体系の整備の面においても配慮すべきであり,さらに,対策の推進については,総合的調整,国の助成措置および国際的協力が必要である。

(7) 試験研究体制の充実

  自動車排出ガス対策に必要な技術に関する試験研究体制の充実強化と新型自動車の専門的審査等を行なうため,昭和45年7月に船舶技術研究所の陸上部門を分離独立し,新たに交通安全公害研究所(予算3億6,500万円,人員55名)を設立し運輸行政に密着した現実的な技術課題の試験研究等に当つている。
  特に公害関係については,交通公害部が中心となり,自動車排気ガスの評価試験法や有害ガス防除に関する研究,自動車の運転条件と排出ガスの排出状況変化に関する研究,鉛除去等に関する研究を行なつているほか,今後は自動車排出ガス対策基本計画遂行のために必要な諸研究を充実強化することとしている。


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