1 自動車排出ガス


  自動車排出ガスによる大気汚染については,一酸化炭素汚染のほか,最近において鉛公害とか炭化水素,窒素酸化物およびこれにより形成される光化学スモツグとかが新たに自動車排出ガスに起因する公害として,さらに,浮遊ふんじん,デイーゼル黒煙等も自動車公害として取り上げられ,これらの汚染物質について,その濃度と持続時間とによる人体,動植物等への有害度を究明し,自動車排出ガス全般について総合的な防止対策を確立する必要が生じている。このため,政府においても一酸化炭素の環境基準を制定する等の施策がとられてきているが,具体的な規制方法として現在までに次のような措置が講じられている。

(1) 排出ガス規制

  自動車から排掛されるばい煙,悪臭ガス,有害ガス等については,「道路運送車両の保安基準」により規制されているが,43年の大気汚染防止法の制定と相まつて自動車排出ガス量の許容限度についてさらに規制を強化した。

 イ 現行の規制

      45年7月に保安基準等関係省令を改正し,一酸化炭素について 〔I−(II)−32表〕のとおり規制が強化された。この結果,世界でもはじめての使用過程車に対する本格的規制が行なわれている。その他,炭化水素を規制するために,ガソリンまたは液化石油ガスを燃料とする普通自動車ならびに小型自動車および軽自動車(二輪自動車を除く。)にブローバイ・ガス還元装置の備付けを義務づけ,新型車は45年9月1日から,継続生産車は46年1月1日から実施している。

      さらに,新車に対する規制としては,これまで排出濃度の最高を規制するいわゆる最高値規制を行なつてきたが,各型式ごとの生産車の排出濃度の平均を規制する平均値規制を46年4月1日から行なつた。

 ロ 今後の規制方法の検討

      現在の一酸化炭素規制においては,排出ガス中に含まれる一酸化炭素の容量比率による濃度を規制する方式をとつているが,重量規制(単位走行距離当りに排出される一酸化炭素の重量の現制)に移行することを検討している。
      さらに,光化学反応によるスモツグの発生を抑制するため,ブローバイ・ガス以外の炭化水素および窒素酸化物についても具体的な排出規制を行なうべく,測定方法等の検討を行なつている。

(2) 自動車排出ガス点検整備

  整備不長による自動車排出ガスの多量の発生を防止するため,排出ガス対策点検整備要領を定め,点検整備を実施するよう指導してきたが,45年7月に排出ガス対策等にかかわる点検項目を充実強化し,8月からのアイドリング時の一酸化炭素濃度規制に伴い,自動車使用者に対して自動車排出ガス中の一酸化炭素に関する点検整備の実施を徹底するとともに,自動車整備工場等に対しては,測定器の設置,整備技術の向上等排出ガス中の酸化炭素に関する点検整備の実施体制の充実を図り,キヤンペーン等も行ない,体制の充実を推進している。

(3) 自動車用ガソリンの鉛害対策

  45年5月から6月にかけて問題となつた東京都内牛込柳町交差点等における鉛汚染に対処して,自動車用ガソリンの当面の鉛害防止対策として使用過程車に対して加鉛量の少ないガソリンの利用を指導するとともに,ガソリンの無鉛化を早期に実現するためエンジンについての対応策を推進し,あわせて鉛の排出規制に必要な測定方法についても開発を進めている。

(4) 自動車排出ガス対策基本計画

  一般に大気汚染は複雑な要因により形成されており,有効な排出ガス対策を推進するためには,広い視野と長期の見通しにたつて科学的根拠に基づいた自動車排出ガス対策を樹立し,これを総合的な交通対策と公害対策の一環として効率的に推進する必要がある。
  そのため,運輸技術審議会自動車部会において長期的な自動車排出ガス対策の審議を行なつた結果,45年7月「自動車の安全確保および公害防止のための技術的方策について」の中間答申としてつぎのような概要の自動車排出ガス対策基本計画が取りまとめられた。

 イ 自動車排出ガスとして,一酸化炭素のほか,窒素酸化物,炭化水素,鉛化合物等を取りあげ,とくに光化学スモツグ,自動車排出ガスの拡散等大気汚染の実態を科学的に究明する。

 ロ 48年および50年の二段階に分けて,自動車排出ガスの低減目標を設定した。なお,これは東京都における自動車排出ガス総量を50年において38年相当量とし,同じく55年において36年相当量とすることを目標としたものである。

 ハ この目標を達成するため,新車の排出規制を重量規則により段階的に強化し,使用過程車についても,新車に相応した規制を加える。

 ニ 防止対策については,現用内燃機関の改良のほか,排出ガス清浄装置,無公害自動車の開発を中心とし,都声計画,交通体系の整備の面においても配慮すべきであり,さらに,対策の推進については,総合的調整,国の助成措置および国際的協力が必要である。

(5) 試験研究体制の充実

  自動車排出ガス対策に必要な技術に関する試験研究については,交通安全公害研究所において自動車政府に密着した現実的な技術課題の試験,研究等が行なわれている。とくに公害関係については,同研究所の交通公害部が中心となり,自動車排出ガスの評価試験法や,有害ガス防除に関する研究,自動車の運転条件と排でガスの排出状況変化に関する研究,鉛除去等に関する研究を行なつているほか,今後は自動車排出ガス対策基本計画遂行のために必要な諸研究を充実強化することとしている。


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