3 自家用乗用車の使用実態


  公共輸送機関のみの交通体系のもとで移動しようとすれば,移動する二地点間を結ぶ適当な公共輸送機関の有無,最寄駅(又はバス停)までのアクセス時間及び労働の多寡,所要時間・運転間隔・運行時間帯の適否,運賃の多寡,乗り継ぎの良否等をまず頭に浮べる。これらのシステムは単純ではないし,しかも,公共の輸送機関であるから,必ずしも個々の移動に都合よく出来ているとは限らない。一方,自家用乗用車は,欲する時に利用できる,欲する場所へ欲する径路で行ける,高速で移動できる,荷物を持って(又は人をつれて)楽に移動できる,ドア・ツウ・ドアである,天候の影響が少ない,他人にわずらわされない等の特性を有している。元来,人間の移動の必要性は個々別々のものであって,自家用乗用車は,このような自由自在な移動需要を人間の肉体的な能力よりはるかに高次元で実現してくれるものであり,自家用乗用車の普及を推進する力は根強いものがある。とりわけ,人口が分散し,公共輸送機関の輸送網の目も粗く,また運行密度の低い地方においては,自家用乗用車の普及により,人々の移動能力及び半径は飛躍的に拡大し,地方の生活は,従来とはかなり異なったものとなってきている 〔2−3−12表〕

  しかし,全国の自動車の40%以上(うち首都圏だけで20%強)が四大都市圏に集中し,自動車の過密によるデメリットが表面化している大都市においては,公共輸送機関の発達もあって,前述の自家用乗用車のメリットは相対的に低下してきている。東京の環状7号線の内側における自家用乗用車の使用理由をみると,「荷物が多かったり,日中移動する回数が多いから」がトップで,都市内交通条件が悪化しても使用を続ける需要の性格を特徴付けている 〔2−3−13図〕。また,東京都において,自家用乗用車を持ちながら通勤通学に使用しない人々について,その理由をみると,「交通渋滞等で運転に労力を費したり,不快であるから」がトップで,以下「電車,バスの方が経費が安いから」「適当な駐車場がないから」「時間がかかるから」が上位を占めている。なお,「通勤通学に使うべきでないと思うから」をかなりの比率を示しており,注目される。

  自家用乗用車の使用目的についてみると 〔2−3−14図〕のとおりであり,45年の調査にくらべると,通勤用のシェアが増加し,業務用のシェアが減少しているが,これは世帯職業別普及率の推移とも一致した動きである。また,地方で普及するのにつれて,ドライブ・娯楽用のシェアが減少している。

  これを四大都市圏とその他の地域にわけて比較すると,四大都市圏は業務用及びドライブ・娯楽用のシェアが大きく,東京都は特にこの傾向が著しい。一方,その他の地域は通勤・送迎用及びその他のシェアが四大都市圏より大きくなっている。これらの相違は,両地域間の産業別人口構成,公共輸送機関の整備状況,生活態様等の相違に起因するところが大きいと思われる。四大都市圏において通勤・送迎用のシェアが相対的に低いのは,前述した大都市の事情を反映しているものである。
  大都市圏においてドライブ・娯楽用のシェアが比較的高いのは,都市型の生活と密接な関係をもっている。大都市においては,職住の分離・遠隔化が家族構成員間の生活時間のすれちがい現象を惹起しており,自家用乗用車によるドライブ又は家族旅行は,これら家庭のユニティの回復,家庭教育等に役立っていると思われる。また,移動自体が目的化したドライブは,恵れない都市の生活環境を補充し,自己充実の手段ともなっている。
  関連して,観光レクリエーションの利用交通機関についてみると,1泊以上の観光レクリエーションでは,依然として鉄道,バス利用が多いが,自家用車の比率が年をおって高まってきている 〔2−3−15表〕。日帰りレクリエーションにおいては乗用車が首位を占め,他を引き離している。

  次に,自家用乗用車使用の指標の推移をみると,実働1日1車当り走行キロ,実働1回1車当り走行キロ及び実働1回1車当り平均乗車人員は,いずれも年々減少してきており,保有台数の増加につれて,個々の車の使われ方が少なくなってきており,自家用乗用車の使用の個人化が進行していることを示している 〔2−3−16表〕

  家計に占める交通関係費の割合の推移をみると,交通費の割合は減少傾向にあるのに対し,自動車関係費の割合は逆に増大してきており,生活の中に占める自家用乗用車の役割が重要性を増してきていることがうかがわれる 〔2−3−17図〕。こうした傾向は特に町村部において顕著であり,自家用乗用車の普及の状況と照応している。なお,自家用乗用車の維持費については,1,600ccの車では年間で50万円程度かかると試算されており 〔2−3−18表〕,1,200ccの車では年間43万円程度と試算されている。


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