2 財政悪化の原因


  国鉄財政悪化の原因は,現象的には人件費をはじめとする諸経費の予想以上の増加や運賃改定の遅れ等による所期収入があげられないことによるものと考えられるが,より本質的には構造的ともいえる要因が相互に密接に関連しながら存在していることを見逃すことはできない。以下主な要因についてみれば,次のとおりである。

(1) 運賃

  国鉄の運賃について,どのような水準が適正,妥当であるかについては,国鉄の経営努力,物価に与える影響,他交通機関との運賃バランス,財政助成のあり方等の要素が介在するが,国鉄は独立採算性を建前とする企業体である以上,基本的には,その経費を賄いうる水準であることが原則であろう。しかし,これまで国鉄の運賃水準は,物価政策上できるだけ低く抑えられてきており,その必要とする収入を確保するためには余りにも低い現状となっている。このため,51年11月に50%の運賃改定を行ったが,これによってもなお,51年度の経費を賄うこともできない状況にある。
  また,健全経営の維持のためには,その時々の経済情勢の変化に応じて運賃を変更することができるよう現在の法定制度を弾力化すべきだとの提案も多くなされており,他の主な公共料金との比較からも現在の国鉄運賃の決定方式について再検討することとしている。

(2) 地方交通線

  国鉄の経営悪化に伴い,線区別の収支をみても50年度で国鉄の244線区のうち黒字線が新幹線,山手線,高崎線の僅か3線であるのに対し,人件費すら賄えないものが218線にも達している 〔2−5−2表〕

  特に,いわゆる「地方交通線」の収支状況は,モータリゼイションの進展や高度経済成長に伴う過疎化の進行などによって輸送量が逐年減少し,大幅に悪化してきている。これら線区の赤字については,かつて国鉄の輸送市場における独占度が高かった時代のように主要幹線の黒字でそのすべてをカバーすることが難しくなっており,国鉄経営上の大きな問題となっている。これまで企業経営の観点から線区を廃止すべきであるという提案がなされているが,地元との調整の困難さによって,特に最近はその実があがっていない状況にある。今後の地方交通線の取扱いについては,国民のコンセンサスを得るよう十分な検討が必要であろう。

(3) 貨物

  30年代後半からエネルギー革命や産業構造の変革が進むとともに,トラックの進出や臨海工業地帯の急速な発展により,流通構造や産業立地が大幅に変化したが,この影響を受けて国鉄貨物輸送量は45年度をピークに大きく減少し,特に,他の競争機関との関係においては,そのウエイトは一層大幅に低下して50年度では全貨物輸送量の約13%を占めるに過ぎなくなった。さらに,最近では,ストライキの影響等により荷主の国鉄離れが進んでいることも見逃せない。また,41年度以降8年間も運賃値上げが行われなかったため,46年度以降の輸送量の減少がそのまま収入減につながり,一方,業務の合理化が進まなかったこともあって人件費を中心に経費が大幅に増大したため,貨物の赤字は逐年増大の一途をたどり国鉄全赤字の相当部分を占めるに至った 〔2−5−3表〕
  今後は,このような状況を踏まえ,物流体系における国鉄の役割,国鉄の再建等との関連を考慮しつつ,直行輸送体制の整備,その他鉄道の貨物輸送の特性を発揮できる分野を中心とする国鉄貨物輸送体制の再編,整備について十分検討する必要があろう。

(4) 合理化

  国鉄は,これまでも作業方式の改善や設備の機械化,近代化など経営の合理化を進めてきたが,一方新幹線の延長や列車の増発等による業務量増,労働時間の短縮などによる要員増があったため,結局要員規模の縮減は44年度から50年度までで約4万4千人となっており,48年度から始まった財政再建計画においても縮減予定を大幅に下回っている。しかし,現下の国鉄財政の状況及び今後の国鉄をとりまく環境を考慮すれば,国鉄の業務全般について徹底した合理化を行うことが,国鉄経営健全化のために不可欠と考えられる。
  このため,例えば設備の改良,輸送方式の近代化等を行うことは勿論,貨物部門の効率化等について徹底した見直しが必要であろう。


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