3 大都市交通対策


  大都市圏における人口の集中は,近年鈍化の傾向がみられるものの依然として著しいものがあり, 〔2−1−32図〕のとおり,首都圏中京圏及び阪神圏の三大都市圏の人口は,51年度末で全国人口の46.2%を占めている。

  また,都心部の事業所化,宅地の取得難等に伴い,人口分布のドーナツ化現象が顕著となっており,東京圏及び大阪圏の例でみると, 〔2−1−33図〕のとおり,人口増加率が最も高い地帯は,35〜40年には,東京圏では都心から20〜30キロメートルの地帯,大阪圏では同10〜20キロメートルの地帯であったが,40〜45年には東京圏45〜50年には大阪圏で,10キロメートル外側の地帯に移動している。また,両地域とも,最高増加地帯の内側では都心に近づくに従い,また,外側では都心から遠ざかるにつれ,それぞれ増加率が低下する傾向が認められる。特に,都心の0〜10キロメートル地帯においては,東京圏では既に35〜40年に,大阪圏でも45〜50年には,人口減少を示している。

  このような現象は,都市交通にもさまざまな影響を及ぼしている。
  三大都市圏における旅客輸送人員の推移をみると, 〔2−1−34図〕のとおり,域内輸送量は増加を続けている。次に,輸送機関別分担率の推移をみると,最近5か年間では自家用乗用車及び地下鉄がシェアを拡大し,国鉄及び民鉄が横ばいで,バス,タクシー等が減少傾向となっている。

  大都市における道路の混雑は依然改善されず,例えば,東京都の例では, 〔2−1−35図〕のような交通渋滞を発生させている。

  こうした道路混雑は,都市におげる自動車交通に大きな影響を与えており,自家用乗用車の輸送人員の推移をみても上述のとおり,近年そのシェアを拡大しているものの,駐車規制措置等の影響もあってその拡大幅は減少している。特に,都市圏の中心部(東京都区部,大阪市及び名古屋市)でみれば, 〔2−1−34図〕のとおり,自家用乗用車のシェアは横ばいで,頭打ち傾向がみえている。
  また,道路交通の混雑は,バス,タクシー等の公共輸送機関の運行効率にも大きな影響を与えている。従来は,都市の交通量の増大に対して,道路を整備し,道路容量をふやすことによって対応しようとしてきたが,結局,大都市におげる道路整備はスペースの確保難と,生活環境保全の見地からの抑制が強まり,非常に困難となってきており, 〔2−1−36表〕のとおり,最近5か年間では自動車1台当たりの道路実延長及び道路総面積もほとんど横ばいで推移している。

  そこで,40年代に入ると,自家用乗用車利用の適正化を図り,公共輸送機関を重視した交通空間有効利用型,低公害型(総量において),事故寡少型の交通体系としていくための施策が推進されてきている。近年は,特に,自家用乗用車については,従来から燃費の改良,小型化等の自動車自体の省エネルギー対策が進められてきたが,一般には,ロードファクターが高い場合の鉄道,乗合バス等に比し, 〔2−1−18図〕のとおり,エネルギー効率が低いため,省エネルギーの観点からも以上の要請が強まってきている。また,その内容も今後の国民生活水準の向上と,生活の質的向上を重視する国民意識の変化もあって,よりサービスレベルの高いものが要請されている。
  まず,鉄道に関しては,大都市圏への人口集中とドーナツ化現象の継続に伴い,都心部と郊外を結ぶ通勤を主体とした高速鉄道による旅客輸送量は増大の一途をたどるとともに,平均輸送距離も長距離化の傾向がみられる。
  このような輸送需要の動向に対応して都心部と郊外を結ぶ高速鉄道の整備を進める必要があり,国鉄に対する工事費助成,地下鉄等の建設に関する補助,日本鉄道建設公団による国鉄新線の建設及び民鉄のための新線建設・線増,民鉄に対する開銀融資等の措置を講ずることにより,地下鉄建設在来通勤線の線増,長編成化,ニュータウン鉄道の整備等輸送力の増強が図られてきている。
  また,高速鉄道の整備にあたっては,できるだけ地下鉄と郊外鉄道との相互乗入れ運転を実現し,急行運転による高速化を図る等,利用者に対する利便の向上を図ることに努めている。このほか,都市高速鉄道の利便度の向上,利用促進策として,夏季における車両及びホームの冷房化,運行間隔の短縮,エスカレーターの設置緩行・急行同一ホーム化等の乗降施設,乗り継ぎ施設の改善などの施策が推進されている。こうした施策の推進にあたっても,都市における交通空間の有効利用,環境保全,経済効果等と最近問題になっているエネルギー効率の観点を総合的に勘案する必要がある。
  このような整備が図られてきた結果,主要区間におけるラッシュ時の輸送力は, 〔2−1−37図〕のと1おり,大幅に増加し,また,混雑率は41〜51年度の10年間に,国鉄線(東京付近)で261%から245%へ,大手民鉄線で231先から199箔へと改善され,車両の冷房化率(大手民鉄14社)も年々向上し,41〜51年度の間に6.1%から39.6%となった。

  しかしながら,ラッシュ時における混雑率は,一部の区間においては,なお高水準にあり,こうした区間については,一層の輸送力増強を図る必要があるが,最近においては,沿線地域における環境保全の要請,用地取得難,建設費の高騰等による資金調達難など,その整備に関する制約が多くなってきている。
  次に,市民の足として日常生活においてきめ細かなサービスを提供するバス,タクシーの改善について種々の指針を示したものとしては,46年の運輸政策審議会の「大都市交通におけるバス,タクシーのあり方及びこれを達成するための方策」についての答申がある。この答申に基づいて大都市バス,タクシー改善対策を策定し,バスの輸送力の改善,バスの信頼性の回復,バスの乗り継ぎ機能の強化及びタクシー輸送の改善を図ってきている。これまでに具体的に実施された主な施策としては,バス路線網の再編成,終車の延長及び 〔2−1−38図〕に示すように深夜バスの運行,新住宅地バス路線の開設,駅前広場の再開発等によるパス,鉄道の乗り継ぎ機能の強化, 〔2−1−39図〕に示すようにバス専用・優先レーンの設定,低床・広ドア等の都市用バスの開発及び運行,停留所標識等の整備,バスロケーションシステムの開発,バス優先信号の導入等があげられる。

  このほか,電話によるデマンドシステムとロケーションシステムやフリー降車の組合せにより,乗合バスの輸送サービスのレベルを自家用乗用車に近づけようとする試みなどが東京,大阪などを中心に検討,実施されている。
  また,タクシーについても,サービスの改善を図るため,終バス後の足の確保のための乗合タクシーの導入,無線タクシーの増強,タクシー乗り場の整備等を進めてきたほか,東京,大阪ではタクシー近代化センターが中心となって,街頭指導,タクシー運転者の研修,忘れ物・苦情処理体制の強化に努めてきている。


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