2 財政悪化の原因


  国鉄財政悪化の原因は,現象的には人件費をはじめとする諸経費の予想以上の増加や運賃改定の遅れ等により所期の収入があげられなかったことによるものと考えられるが,より本質的には,構造的ともいえる要因が相互に密接に関連しながら存在している。以下主な要因についてみれば,次のとおりである。

(1) 運賃

  国鉄の運賃について,どのような水準が適正,妥当であるかについては,国鉄の経営努力,他交通機関との運賃バランス,財政助成のあり方等の要素が介在するが,国鉄が独立採算性を建前とする企業体である以上,基本的には,その経費を賄いうる水準であることが原則であろう。しかし,これまで国鉄の運賃水準は物価政策上できるだけ低く抑えられてきておりその必要とする収入を確保するためには余りにも低い水準となっていたことに加え,運賃改定の実施時期が遅延を余儀なくされてきたこともあり,51年工1月に名目約50%の運賃改定が行われた。
  運賃改定後の輸送実績をみると,この大幅改定直後の旅行手控え,一般的な景気の回復の遅れによる輸送需要の低迷及び他の交通機関との競争関係の激化等のため,国鉄の利用状況には厳しいものがある。このような状況を踏まえれば,今後,国鉄財政の収支均衡を回復するためには,その時の経済社会情勢輸送需要の動向,他交通機関との関係等を考慮しつつ,一度に大幅な運賃改定を行うこととならないように,適時適切な運賃改定を行っていく必要があり,このため,その基本前提として,国鉄が自主的な経営判断のもとに運賃改定を行えるよう,運賃決定方式の弾力化を図ることが是非とも必要である。

(2) 地方交通線

  国鉄の経営悪化の状況を線区別の収支でみると, 〔2−4−2表〕のとおり,51年度で国鉄の244線区のうち黒字線が新幹線,山手線,高崎線の僅か3線であるのに対し,人件費すら賄えないものが214線にも達している。

  特に,いわゆる「地方交通線」の収支状況は,モータリゼーションの進展や高度経済成長に伴う過疎化の進行などによって輸送量が遂年減少し,大幅に悪化してきている。これら線区の赤字については,かつて国鉄の輸送市場における独占度が高かった時代のように主要幹線の黒字でそのすべてをカバーすることが難しくなっており,国鉄経営上の大きな問題となっている。ただ,この問題は地方の利用者に直接影響するところが大であることに鑑み,51年秋以来,運輸政策審議会において52年中を最終答申の目途として慎重な検討が続けられているが,とりあえず52年1月12日に今後の対策の方向についての中間報告があった。この中間報告では,ローカル線について特別の措置を講ずる必要がある路線については,地域住民の意見を反映させるための協議会を設け,以下の4つの案について,一定の期限内において地元のとるべき案を求めることにたっている。
 A案 運営の合理化の徹底,特別運賃,国・地方公共団体の助成により国鉄の路線として維持する。
 B案 民間事業著,第3セクタ,地方公共団体等に経営を移譲する。
 C案 路線敷を専用自動里道とし,国鉄バスを運行する。
 D案 既存道路の改修,国鉄パスを食むバスのサービス改善等により一般道路輸送に転換する。
  なお,52年度予算においては,地方交通線に対する暫定的な助成措置が前年度の172億円から490億円へと大幅に増額されている。

(3) 貨物

  我が国の国鉄貨物輸送量は,臨海工業地帯の発展により海上輸送への依存度が高まったこと,石炭,木材等の一次産品に対する輸送需要が減少する一方で,運賃負担力が大きく,迅速かつ機動的な輸送を必要とする二次産品が増加し,トラック輸送に適した分野が拡大したこと等のためにトンキロベースでみると45年度をピークに年々減少し,また全輸送機関に占めるシェアも35年度の39%から51年度の12%へ低下している。さらに,国鉄のストライキの影響等により荷主の国鉄離れが進んでいることも見逃せない。また,41年度以降8年間も運賃値上げが行われなかったため,46年度以降の輸送量の減少がそのまま収入減につながったが,49年度に運賃の値上げを行うことによって49,50年度は収入増となった。一方,作業量の減少に見合った要員体制の見直しが十分に行われなかったことをはじめとして,業務の合理化が進まなかったこともあって人件費を中心に経費が大幅に増大したため, 〔2−4−3表〕のとおり,貨物の赤字は遂年増大の一途をたどり国鉄赤字の相当分を占めるに至った。

  したがって,今後,国鉄貨物輸送については,その輸送量に見合った適正な輸送体制とすべく合理化を徹底的に推進することによって,企業家マインドに基づいて競争力を強化していく必要があろう。

(4) 合理化

  国鉄は,これまでも作業方式の改善や設備の機械化,近代化など経営の合理化を進めてきたが,一方,新幹線の路線延長や列車の増発等による業務量増,労働時間の短縮等による要員増があったため,結局要員規模の縮減は44年度から51年度までで4万4,000人余にとどまっている。しかし,現下の国鉄財政の状況及び今後の国鉄をとりまく環境を考慮すれば,国鉄の業務全般について徹底した合理化を行うことが,国鉄経営健全化のために不可欠と考えられる。


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