4 運輸部門の省エネルギー・石油代替エネルギー利用対策


  運輸部門におけるエネルギー消費の特徴は,流体エネルギーへの依存度が高いことである。石油に代表される流体エネルギーは,エネルギー密度が高く制御が容易なため,輸送機関という移動消費源にとって特に適したものである。しかし,このような輸送機関の流体エネルギー依存性の強さは,一方で,石油代替エネルギーの導入に対し大きな障壁となっており,また,移動消費源であるため省エネルギー機器や石油代替エネルギー機器を付加することが極度に難しくなっている。
  しかし,我が国経済社会が構造的な省エネルギー化,脱石油化の変化の過程にある現在,ひとり運輸部門のみがエネルギー・石油の多消費を続けてゆくことは許されない。更に,前述のとおり,特に運輸部門は軽質石油製品に対する依存が高く,中長期的には特に軽油など中間留分の石油製品を中心に需給の逼迫が懸念されることから,運輸部門においても,省エネルギーの推進,石油代替エネルギーの導入を環境の保全等に留意しつつ積極的に推進する必要がある。

(1) 省エネルギー対策の推進

  運輸部門の省エネルギーを図るためには,省エネルギー機器の開発,普及,各輸送機関の輸送効率の向上を進めることによる個別の輸送機関における対策と,輸送効率の良い大量公共輸送機関へ輸送需要を誘導することによるエネルギー面より見た効率的な交通体系の形成の両面から諸対策を進める必要がある。
  まず,省エネルギー機器の開発,普及に関しては,@自動車におけるタイヤ,エンジンの改良,車体の軽量化等による燃費の改善,A鉄道における回生ブレーキ付きサイリスタチョッパ車,アルミ製軽車両の導入,B船舶における船型の改善,廃熱の有効利用,コンピューター制御による省エネ型エンジンの開発など省エネルギー船の開発・導入,スターリング機関,半没水船の開発,C航空における燃料消費効率の良い機材の導入,燃料節減にとって最適な速度,高度,エンジン推力等の飛行方式をコンピューターにより設定するシステムの導入等が進められているが,今後とも一層の推進を図っていく必要がある。また,ガソリン乗用車については,「エネルギーの使用の合理化に関する法律」に基づき,60年度に生産される車の燃費改善目標が既に設定されているが,今後は60年度以降の燃費改善目標の設定や,更に燃費改善の対象車を大型車や,ガソリン車以外の車に拡大することについても環境対策に配慮しつつ検討する必要があろう。
  次に,輸送効率向上等のための対策としては,@鉄道については,需要の動向等に適切に対応した効率的な列車ダイヤの設定や列車編成長の見直し,A船舶については,輸送ロットを勘案した船型の大型化,経年劣化によるエネルギーロスを減少させるための船舶の近代化,配船の効率化等の推進,B航空については,利用率の低い航空便の冬期減便,運行方式の改善等を今後とも進める必要がある。また,省エネルギーの観点からはトラックを大型化することが有利であるので,環境,安全問題等に配慮しつつ,総重量規制の緩和についても検討を進めることが必要である。
  しかし,個別の輸送機関による省エネルギー対策には自ら限界があり,今後の輸送需要の動向にかんがみ,人と物の円滑なモビリティを確保しつつ,省エネルギーを進めていくためには,基本的にはエネルギー消費効率の良い輸送機関の活用を中心とした省エネルギー型の交通体系への転換を推進していくことが必要と考えられる。
  このため,都市における旅客輸送,特に通勤,通学輸送等の分野においては,自家用車等からエネルギー効率の良い大量公共輸送機関へ輸送需要を誘導することが望ましく,そのためには公共輸送機関の輸送サービスについて質的,量的に整備,充実を図る必要がある。運輸省は,鉄道輸送におけるラッシュ時の輸送力増強,地下高速鉄道網等の整備,車両の冷房化等を推進しており,バス輸送においてもバス乗継ターミナルの整備,新住宅地バス路線の開設など需要に適切に対応したバス路線網の再編成・整備,バスロケーションシステムの整備等を推進しているところであるが,今後とも一層,陸上公共輸送機関のサービス改善と整備を進めていくこととしている。
  また,地域間貨物輸送についても,鉄道については,フレートライナー等の輸送網の再編成,利用者の需要に対応できる運行体制の検討,また,トラックについては鉄道,海運等との連携による協同一貫輸送の推進を図る必要があると考えられる。

(2) 石油代替エネルギー利用対策の推進

  前述のごとく輸送機関への石油代替エネルギーの導入は極めて困難であり,開発のためには巨額の投資と長いリードタイムを必要とするが,国際的に石油供給情勢の先行きが不透明であることを考えると是非とも開発しておかねばならぬことである。
  石油代替エネルギー利用の具体的な例としては,電気自動車,アルコール自動車・石炭焚き船,帆船,原子力船,水素自動車,水素飛行機の研究,開発,普及がある。最近の成果として,55年9月に帆装タンカーが完成したが,この船は補助動力として帆を装備し,コンピュータによって帆・機関等を連動して制御するほか,船型の改良,機関の排熱の利用等によって,従来の同型船に比較して約50%の燃費節減を達成している。電気自動車は,蓄電池の開発等の課題があるものの,一次エネルギーの選択が自由であるので,今後発電所の脱石油化が進むことを考慮すると,有力な石油代替エネルギー輸送機関と考えられる。石炭焚き船は,実用化に向って既に第一歩を踏み出しているが,今後我が国への導入のための環境対策等諸条件の整備について検討する必要があろう。


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