1 気象情報による利便の向上


(1) 気象監視体制の強化

  適切な気象情報を提供するためには,大気の状態を的確,迅速に把握することが不可欠であり,気象庁は,気象衛星観測,レーダー気象観測,地上気象観測,高層気象観測,海上気象観測を行っている。
  (威力を発揮している静止気象衛星)
  現在,静止気象衛星は,昭和56年に打ち上げられたGMS-2(ひまわり2号)が赤道上空約3万6,000キロメートルの宇宙空間から観測を行っている。GMS-2により,地球の4分の1の範囲を常時監視することができ,広大な洋上で台風の発生・発達・移動の状況を時々刻々把握できるなど気象の監視に威力を発揮している。GMS-2の雲画像は,気象官署のほか報道機関を通じて全国民に情報提供が行われ,国際的にも東南アジアの各国など18か国26局で受画利用されている。このシステムを維持するためには,59年度にGMS-3を打ち上げる必要があり,57年度には衛星本体の製作等を宇宙開発事業団に委託した。また,静止気象衛星資料の即時利用の推進のため,57年度には,沖縄気象台,福岡管区気象台に衛星画像受信装置及び自動解析装置を整備し,58年度には,本庁,大阪,仙台,札幌管区気象台にも整備する計画である。
  (デジタル化が進むレーダー)
  レーダーは,雨粒等による電波の反射を利用して降水の強さを遠隔測定する測器で,全国20か所で観測が行われている。こぐの観測データの迅速な伝達とコンピュータ処理を可能にするためレーダーエコーのデジタル化を逐次実施しており,57年度までに,名古屋,福井,新潟レーダーについて整備を終え,58年度には,富士山レーダーのデジタル化による運用を開始する予定である。
  (有効性増すアメダス)
  アメダス(AMeDAS:地域気象観測システム)は,全国約1,300の有線ロボット気象計による気象データを電電公社回線を利用して1時間ごとに自動的,即時的に集配信し,また,随時照会に応答するシステムである。近年,長崎豪雨や山陰豪雨のように,短時間に局地的に集中する豪雨による災害が目立ってきており,アメダスの有効性は一層増大している。大雨警報は着実に改善されてきており,57年度の警報の出し遅れ・空振り率は5年前に比し半減している。57年度には,効率的,経済的にデータの集配信を行うため,電電公社のパケット交換サービスを導入し,また,雨量実況等の照会機能を増強するなどして各方面からの要望に応えている。また,このシステムの一環として,超音波利用の積雪深計を展開中で,57年度には,豪雪地帯25か所に整備を行った。

(2) 新しい種類の気象予報

 ア きめ細かい予報

      地域的,時間的に細分された量的な気象予報に対する社会の強い要求に応えて,気象庁は,予測技術の基調となる大気の物理モデルの開発と局地気象予報のための天気翻訳モデルの開発を推進してきた。

 (ア) 降水確率予報

      特定の地域に予報期間内に1ミリ以上の雨が降る確率を予報するもので,55年6月,東京地方を対象として実験的に開始し,その後,予報対象時間,発表対象地域の拡大を図り,58年3月から全国都道府県において,当日の9-15時,15-21時,翌日の9-21時の期間の発表を開始した。

 (イ) 降水短時間予報

      向こう数時間の降水を予報するもので,東京地方を多摩西部,多摩東部,23区の3つの地区に分け,1ミリ以上の降水の有無を16-18時,18-21時の時間帯を対象として57年7月から予報している。今後,一般の利用効果と予報精度の評価を行いながら対象地域の拡大を計画している。

 (ウ) 予報・警報の地域細分

      これまでの天気予報は,行政的な地域区分に対応して発表されてきたが,よりきめ細かい情報提供を行うためには,その地域内の気象特性や地形の影響等を考慮して,更に地域を細分して予報することが必要で,実施可能な地域から逐次新しい地域細分による予・警報の発表を行っている。
      特に警報の場合は,58年の10月から警報の内容のうち,「いつ」「どこで」「何が起るか」を簡明に表現し,効果的な周知方法をとることとした。

 イ 台風の進路予報の表現

      台風の中心の予想位置にはある程度の誤差を伴うが,これまでの扇形表示では,移動速度についての誤差を示すことができなかった。これを改善するため,57年6月から台風の中心の進路予報を最も確からしい中心位置と予報円(予報の平均誤差を示す円)で表示する方式に改めた。予報円は,その円内に台風の中心が入る確率が約60%となる大きさの円に相当している。

(3) 航空気象情報

  (強化される航空気象監視体制)
  空港に関する気象監視体制については,地上観測測器,風向風速計,雲高測定器,滑走路視距離観測装置,降雨計等基本的測器の改良・更新・増設,基幹空港への空港気象レーダーの設置(58年度には鹿児島に計画中)等を行っている。また,国際民間航空機関(ICAO)勧告方式に準拠して離着陸運航のための2分間平均風観測を58年度から導入することを計画している。空域に関する監視体制については,航空機気象報告の収集の強化,各種気象資料の利用の改善等により・ICAO地域航空協定に基づく東京及び那覇飛行情報区空域並びに気象庁が独自に行う国内空域それぞれの気象監視の強化を進めている。

(4) 海洋気象情報

  (進む即時的な海洋情報の提供)
  海洋気象サービスの一環として気象庁は,西部北太平洋及び南半球を含む西太平洋の海面水温実況図を毎旬1回,また,日本近海の海流と表層(100メートルの深さ)水温の実況図を毎月1回無線模写(FAX)放送してきたが,即時的な海洋情報に対するニーズの高まりに応え,58年7月から海流及び表層水温の実況図の通報回数を3回に増やすとともに,放送図の海域を拡大した。
  波浪については,気象庁では西部北太平洋域についての外洋波浪図(実況及び24時間予想)をFAX放送してきたが,沿岸における波浪予報の需要に応えるため,57年度から主要港湾を含む12の沿岸の特定海域について波浪を予測し,沿岸波浪図(実況及び24時間予想)として気象官署へ向けて送画している。


表紙へ戻る 次へ進む