2 乗継運賃制度の拡充


  (求められる乗継客の割高感の解消)
  我が国の現行の運賃は,いわゆる企業別交通機関別原価主義に基づいて設定されており,異なる企業の又は異なる種類の交通機関を乗継ぎ利用する場合には企業ごとに又は交通機関ごとにそれぞれの運賃が併算されるため,一般に乗継ぎ利用する旅客に割高感が生じている。特に,複数の大量公共交通機関が共存し,複雑なネットワークが形成されている都市交通においては必然的に乗継ぎ利用をする機会が多いため(後述の「乗継運賃制度導入のための調査研究」によれば,国鉄以外の鉄道同士の普通旅客の乗継人員比率は,首都圏55.4%,中京圏27.2%,近畿圏46.5%,3圏域計50.5%,国鉄も含めた鉄道同士の定期客の乗継人員比率は,首都圏64.0%,中京圏47.8%,近畿圏62.1%,3圏域計62.4%),乗継ぎ利用の際の運賃を併算額から割引く乗継運賃制度の導入,拡大が望まれていた。56年7月に運輸政策審議会から答申された「長期展望に基づく総合的な交通政策の基本方向」においても,乗継運賃の積極的な導入が提言されている。
  このような要望に応えて,56年度までに,札幌市営地下鉄と札幌市営軌道,営団地下鉄と東京都営地下鉄,国鉄と営団地下鉄(相互直通乗入れ区間),山陽電鉄と神戸高速と阪急・阪神(相互直通乗入れ区間),神戸高速と神戸電鉄(相互直通乗入れ区間),南海と大阪府都市開発(相互直通乗入れ区間)において乗継運賃制度が既に実施されている。
  (乗継運賃制度拡充に当たっての問題点とその対応)
  このように乗継運賃制度は徐々に導入,拡大されてきているが,これを更に拡充していくには,乗継運賃を適用する乗継ぎの形態,適用区間,割引額をどのようにするかという制度上の問題や,要員増,発券体制,自動集改札等の実施上の問題を解決していく必要があるとともに,乗継運賃制度導入に伴う減収,コスト増の補てんをどのような形で行うかという問題への対応が必要となる。
  このため,運輸省では56,57の両年度にわたって,これらの問題点を検討するため,学識経験者,事業者等を加えた委員会を設置し,調査研究を行ってきた。この調査研究では,まず乗継ぎの実態を明らかにするとともに,具体的なケースについてコストアップ及び割引額がどの程度運賃水準の上昇をもたらすかを検討し,さらに,これらの検討を踏まえ制度上及び実施上の問題点とそれに対する対応策について総合的な検討を行った。
  実際の乗継運賃制度の導入に当たっては,この研究の成果を生かしつつ,個々の事情を勘案し,公平な立場から合理的な乗継運賃制度の導入,拡大を図る必要がある。
  (望まれる乗継運賃制度の拡充)
  57年度においては,58年3月,福岡市営地下鉄1号線の全線開業にあわせて福岡市地下鉄と国鉄との相互直通乗入れ区間において普通旅客及び定期旅客について,また,同じく3月,名鉄の運賃改定時に名鉄と名古屋市営地下鉄との相互直通乗入れ区間において普通旅客について,新たに乗継運賃制度が導入された。
  また,58年9月6日,名鉄,西鉄を除く大手私鉄12社が運賃改定認可の申請を行ったが,今回の改定の際に,併せて次のような乗継運賃制度を導入したいとしている。

@ 対象旅客

  普通旅客

A 連絡切符を持たない旅客の取扱い

  直通乗入れ及びノーラッチ(改札口を通ることなく直接乗り継げる形態)に係る乗継ぎについては連絡切符を持たない旅客も対象とし,連絡ラッチ(改札口を1か所通過することにより乗り継げる形態)及びラッチ外連絡(改札口を出て改めて他社の改札口から入る形態)に係る乗継ぎについては連絡切符を持った旅客のみ割引の対象とする。

B 割引の対象となる乗継回数

  1回に限り割引く。

C 乗継ぎの形態

  直通乗入れ及びノーラッチを対象とし,この他にも一部試験的に実施する。

D 適用区間

  原則として接続駅から初乗り運賃区間相互間

E 割引額

  各事業者それぞれ10円引き(合計20円引き)

F 実施時期

  大手私鉄12社と大手私鉄12社以外の事業者との乗継ぎについては,当該相手事業者の割引は原則としてその事業者の最も早い運賃改定時から実施することとする。
  大手私鉄は,この乗継運賃制度の実施結果を見極めつつ,さらに,業務体制上の工夫を加え,将来はより広い接続形態にまで割引の範囲を拡大していくことを目指すとしているが,その他の事業者も含め,今後制度が拡充されていくことが望まれる。
  なお,異種交通機関であるバス〜鉄道の乗継ぎについても,札幌市,名古屋市,京都市,大阪市等で乗継運賃制度が導入されているが(札幌市,京都市,大阪市は普通旅客及び定期旅客,名古屋市は回数券旅客及び定期旅客を対象としている。),この拡充に当たっては,現在,制度上及び実施上の問題点について調査研究が行われている。


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