1 宅配便


(1) 宅配便の現状

  (郵便小包を上回った宅配便)
  運輸省が行った調査によれば,トラックによるいわゆる宅配便は,昭和49年から本格的に行われるようになったが,特に最近2,3年,トラック運送事業者の参入が相次ぎ,57年度の宅配便取扱個数は全体で1億7,000万個に達し,郵便小包の取扱個数を上回るに至っている 〔1−6−8図〕

(2) 宅配便の成長の要因

  (質の高い輸送サービスを提供)
  宅配便のこのような成長の要因としては,主として次の点を挙げることができる。
  @ 電話1本で集貨に来てくれるほか,米穀小売店,コンビニエンスストア等を取次店として組織することにより,一般消費者の身近な所での受付け体制を整備したこと。
  A 大型ターミナルの建設,高速自動仕分け機の設置,集配車への無線システムの導入等により,迅速な輸送体制を整備するとともに,所要日数を明確にしたこと。
  B 自社路線網を中心に,連絡運輸等により広域ネットワークを整備したこと。
  C 運賃を個建て,確定額,地帯制とすることにより,単純化したこと。
  このように,質の高い輸送サービスを利用者に利用しやすい形で提供したことにより,路線トラックが従来から輸送していた小量物品に加えて,国鉄手小荷物及び郵便小包に依存していた一般消費者の小量物品が宅配便に移行するとともに,小量物品の潜在的な輸送需要が掘り起こされた結果,宅配便は急成長を遂げてきたと考えられる。

(3) 宅配便の成長による影響

  (小量物品輸送は競争激化)
  このような宅配便の成長は,トラック運送事業者の宅配便部門への新規参入の増加をもたらし競争が激化しているため,各事業者は競争力の強化に力を注いでおり,集貨力の向上を図るための取次店の獲得競争,全国ネットワーク整備のための事業者の系列化などの現象が起こっている。また,これと競争関係にある国鉄手小荷物及び郵便小包に対しても,そのサービス改善に大きな影響を与えており,小量物品輸送の分野は競争が激化している。
  (進むサービスの多様化)
  また,各事業者はサービスの充実による競争力の強化を図っており,一部の事業者は,宅配便のシステムを利用してゴルフ,スキー用具の輸送,海外旅行荷物の空港,自宅間の輸送,地方名産品の消費者への直送販売等を行い,サービスの多様化を図っている。他方,荷主の側でも生鮮食料品の生産者,贈答品メーカー等が宅配便を利用して消費者への直送販売を行う例もみられる。このように宅配便の発達は,無店舗販売等を促進し,従来の流通形態の変化を促しているともいえよう。さらに,将来的には,キャプテンシステム,CATVなどニューメディアの発展に伴い,ホームショッピング等が普及することも予想されており,宅配便はその際の有力な輸送手段となることが予想される。

(4) 宅配便の運賃制度

  (新しい宅配便運賃の認可)
  宅配便は路線トラック運送事業の一形態であるため,従来は路線トラック運送事業の運賃が適用されていた。しかし,宅配便については,利用者が運送契約に不慣れな一般消費者である場合が多いこと,輸送サービスの質が異なること,貨物が軽量であること等から,路線トラック運送事業の運賃を適用することは必ずしも実情に合っていないとの指摘があり,57年11月の行政管理庁の勧告及び58年3月の臨時行政調査会の最終答申においても,宅配便の運賃については,「輸送サービスの内容等に対応したものを定め得るようその在り方について検討する必要がある。」とされた。
  運輸省としては,このような状況にかんがみ58年4月省内に学識経験者等を含めた宅配便運賃制度研究会を発足させ,宅配便の運賃制度のあり方について検討を行ったが,同年7月6日報告書がまとめられた。同報告書は,宅配便の運賃制度を検討するに当たっての基本的考え方として,一般消費者の保護に資するものであること及び事業者の創意工夫が活かされるものであることの2点を挙げ,宅配便の特性に合った運賃制度の設定を提唱するとともに,基本的なサービス内容の利用者への周知徹底,延着,紛失等の事故防止,苦情処理体制の確立等について,宅配便事業者に対する指導の徹底の重要性を指摘している。
  運輸省は,この研究会報告を受けて次のような「宅配便運賃認可基準」を策定し,これに基づき各事業者から申請のあった宅配便運賃を認可した。

 ア 宅配便運賃の適用範囲

      重量30キログラム以下の1口1個の貨物で,特別の名称を付して商品化された輸送サービスである○○便扱いのものとする。

 イ 宅配便運賃の認可申請

      各事業者の申請した宅配便運賃の内容がこの「認可基準」の範囲内であれば原則として各事業者は原価計算書を省略できることとする。

 ウ 宅配便運賃の基準

      @ 運賃は個建て,確定額とする。
      A 地帯制とし,地帯区分は原則として事業者の任意とする。
      B 運賃の重量区分(重量のキザミ)は原則として事業者の任意とする。
      C 運賃の額は「宅配便基準運賃表」の上限額と下限額との範囲内とする。
      D 持ち込み減額等の一定額の減額制度及び回数割引等の割引制度を設けることができることとする。
      これらの措置により,宅配便の運賃は,従来に比べ特に軽量貨物に対応した運賃が定められたため,今後,宅配便需要が一層拡大することが予想される。

(5) 宅配便輸送の問題点とその対策

  (安心して利用できる宅配便輸送へ)
  宅配便は,前述のように利用者の広い支持を受け急成長を遂げてきているが,その普及とともに利用者からの苦情,要望等も増えてきている。具体的には,荷物の延着,紛失,破損等の事故,事故の際の補償等をめぐって,利用者から寄せられる苦情が増加しており,また,荷受人不在の場合の措置,接客態度その他のサービス改善についての要望もみられる。
  このような状況を踏まえ,運輸省は,57年10月,利用者にとって一層安心して利用できる宅配便輸送の実現を図るため,事故の防止措置,サービスの内容の利用者への周知,事故の場合の事後処理,取次店・集配員等に対する指導・研修等について業界としての対応策を検討の上,その検討結果を報告するよう社団法人全日本トラック協会に対して通達した。
  これを受けて同協会は,宅配便輸送サービス対策研究会を設置して検討を行い,58年9月運輸省に対して報告書を提出した。同協会及び各事業者にあっては,報告書の趣旨に沿って,今後早急に個々の対策について更に検討を行い,具体的な対策を実施することにより,利用者が安心して利用できる宅配便輸送の実現に努めることが期待される。
  なお,運輸省は,宅配便運賃の設定の認可に当たっても,各事業者に対し利用者保護の徹底を期するよう通達を行った。
  宅配便はトラック輸送の中でも比較的新しい輸送商品であり今後ともその健全な発達を図っていく必要があるが,そのためには,このような諸問題を解決し,利用者の信頼を更に高めていくことが必要である。


表紙へ戻る 次へ進む