2 貨物輸送の動向


(1) 国内輸送

 ア 58年度の概況

     (国内貨物輸送にも回復のきざし)
      我が国経済は58年1〜3月期を底に第2次石油危機以降の長い不況から脱し,緩やかながらも着実な回復過程をたどったが,このような中で,58年度の国内貨物輸送の動向をみると, 〔8−1−14表〕のとおり,総輸送トン数は56億8,340万トン,対前年度比(以下同じ)1.1%減と3年連続して減少したものの,総輸送トンキロは4,223億トンキロ,1.3%増と4年ぶりに前年度を上回った。

      58年度の特徴としては,内航海運が4年ぶりに前年度を上回ったこと,航空が引き続き大幅な伸びを示していること,国鉄が大幅な減少を続けていること等があげられる 〔8−1−15図〕

      このような貨物輸送動向の背景としては,製品の小型・軽量化という構造的要因が存在する一方で,58年度を通じて我が国経済が緩やかながらも着実な回復過程をたどり,特に58年度下期以降の内需の回復や停滞を続けていた素材型産業部門の底入れの動き等が貨物輸送の増加要因となったと考えられる。

 イ 輸送機関別輸送動向

     (国鉄は大幅に減少)
      輸送機関別に輸送動向をみると,国鉄は,輸送トン数が11.9%減,輸送トンキロが10.4%減となり,依然として長期にわたって低落傾向が続いている。品目別(トン数ベース,以下同様)にみても, 〔8−1−16表〕のとおり,すべての主要品目で減少しているが,特に工業用非金属鉱物,窯業品の減少が目立っている。

     (堅調な営業用自動車と低落傾向の自家用自動車)
      自動車(カーフェリーを利用したものを含み,軽自動車によるものを含まない。)は,輸送トン数で0.9%減と3年連続の減少となったが,輸送トンキロでは3.1%増と増加傾向が続いている。これを営業用,自家用別にみると,営業用自動車は,輸送トン数で3.6%増,輸送トンキロで6.7%増となり,増加傾向が続いている。品目別では,特種品,食料工業品等で増加し,砂利・砂・石材,鉄鋼等で減少した。これに対して自家用自動車は,輸送トン数で3.3%減,輸送トンキロで2.9%減となり,輸送トン数,輸送トンキロとも56年度以降3年連続の減少となった。品目別では,金属製品,食料工業品等で増加し,砂利・砂・石材,特種品等で減少している。なお,軽自動車による輸送量をみると,58年10月の1か月間で輸送トン数は1,267万トン(対前年同月比0.7%増),輸送トンキロは1億5,052万トンキロ(同22.5%増)となっており,それぞれ登録自動車の輸送量の2.9%,0.9%に相当している。このうち自家用軽貨物車の割合はトン数で96.8%,トンキロで89.6%となっている。
     (内航海運は4年ぶりの増加)
      内航海運は,輸送トン数で0.1%増,輸送トンキロで1.4%増と4年ぶりに前年度を上回った。品目別では,工業用非金属鉱物,窯業品等で増加し,鉄鋼等で減少した。
     (航空は引き続き大幅な伸び)
      航空は,輸送トン数で10.6%増,輸送トンキロで11.2%増と増が続いている。このうち,幹線は輸送トン数で7.8%増,輸送トンキロで8.4%増,ローカル線はそれぞれ17.1%増,13.0%増となり,昨年度に比べローカル線の伸びが目立った。品目別では食料品,機械,魚介類等が増加している。
      次に,営業倉庫の取扱量をみると,普通倉庫の入庫量は対前年度比6.8%増の1億6,581万トンとなり,特に年度後半以降,景気回復に伴い増勢を強めた。品目別では,窯業品,繊維工業品を除くほとんどの品目で増加し,特に化学工業品,紙パルプの増加が目立っている。一方,平均月末在庫量は,危険品倉庫,野積倉庫等で増加したため7.1%増と3年ぶりに増加に転じた。また,冷蔵倉庫の入庫量は,4.0%増の1,030万トン,平均月末在庫量は3.6%増となった。
      この結果,58年度の輸送機関別国内貨物輸送トンキロ分担率は,前年度に比べ,国鉄,自家用自動車が減少したのに対し,営業用自動車が増加し,内航海運は同一であった 〔8−1−17図〕

     (貨物輸送は年度後半にかけて回復)
      以上のような輸送動向について,さらに四半期別の動向を見ると 〔8−1−18図〕, 〔8−1−19図〕,国鉄は年度を通じて減少傾向を続けたが,特に59年1〜3月期には,59年2月の貨物輸送合理化を中心としたダイヤ改正の影響で,トン数で対前年同期比17.9%減,トンキロでは同23.5%減の大幅な減少となった。

      自動車は,トンキロベースでは58年7〜9月期に対前年同期比で減少したもののほぼ一貫して増加し,トン数ベースでは年度後半以降増加に転じた。営業用,自家用別にみると,営業用自動車はトン数,トンキロとも対前年同期比で年度を通じて増加し,特に58年10〜12月期以降は内需の回復を含めた景気回復の本格化に伴い増勢を強めた。品目別では,鉄鋼,工業用非金属鉱物,食料工業品等での増加が目立っている 〔8−1−20図〕。これに対して自家用自動車は,住宅建設の不振,公共投資の伸び悩み等もあって,輸送量の3分の1近くを占める砂利・砂・石材の輸送量が年度を通じて減少したため,トン数,トンキロとも,58年度を通じて対前年同期比で減少を続けた。

      内航海運は,トン数,トンキロとも対前年同期比で56年4〜6月期以降減少を続けていたが,トン数は58年7〜9月期から,トンキロは58年10〜12月期からそれぞれ増加に転じた。これは年度後半以降の内需を含めた景気回復の本格化や厳冬による石油製品需要の増加等によるところが大きいと思われる。品目別では,非金属鉱物,原油,石油製品が年度後半にかけて増加したのが目立っている 〔8−1−21図〕

      航空は,トン数,トンキロとも年度を通じて増加し,特に年度後半に入り景気回復が本格化するに伴い,幹線,ローカル線とも増勢を強めた。
      以上のように,我が国経済の回復とテンポを合わせて営業用自動車,内航海運,航空を中心に58年度下期以降輸送活動は回復してきており,総輸送トン数,総輸送トンキロとも58年10〜12月期,59年1〜3月期と,55年度以来初めて2期連続して前年同期の水準を上回った。

 ウ 景気回復期の輸送動向

     (前回の回復期を下回った貨物輸送増加率)
      ここで,前回の景気回復期(52年10〜12月期以降)における輸送動向と今回の景気回復期における輸送動向を比較してみると 〔8−1−22図〕のとおり,前回,今回とも景気の回復にテンポを合わせて総輸送トン数,総輸送トンキロとも増加傾向を示しているが,対前年同期比伸び率を比較すると,景気の谷から1年後の実質GNPの水準は対前年同期比で前回5.4%増,今回5.5%増と経済全体の回復テンポは今回,前回ともほぼ同一であるのに対し,輸送活動はトン数,トンキロとも今回の方が伸び率が小さくなっている。

     (景気回復の要因-前回は公共投資,今回は輸出)
      この原因の一つとして,今回及び前回の景気回復期における最終需要項目別の寄与度の違いがあげられよう。
      すなわち,前回の場合,国内貨物誘発力の大きい公的固定資本形成や民間住宅投資の寄与度が今回に比べて大きく,建設材を中心とした重量貨物の増加が輸送活動の伸びに大きく寄与したと考えられる。
      一方,今回の景気回復期においては,国内貨物誘発力が相対的に弱い輸出の寄与度が大きく,特に58年度前半は外需依存型の景気回復過程をたどった。年度後半に至って民間設備投資を中心に内需も回復傾向を示し始めたが,国内貨物誘発力の大きい公的固定資本形成,民間住宅投資の寄与度は依然としてゼロまたはマイナスとなっており 〔8−1−23図〕,品目別の輸送動向をみても建設材関連の重量貨物には明確な増加傾向が見られない 〔8−1−24図〕。この結果,総輸送量(トン数,トンキロ)の動向も内需の回復に合わせて58年10〜12月期,59年1〜3月期と対前年同期比で増加したものの,伸び率をみるとトン数,トンキロとも前回の水準よりも小さく,特にトンベースの伸び率は前回を大きく下回っている。

 エ 増加を続ける総合輸送活動指数

      近年,GNPの伸びに比較して貨物輸送量の伸びが鈍化,減少するなど,従来と異なる傾向が見られる。しかしながら,各輸送機関別の輸送量(トンキロ)をそれぞれが創出する付加価値額のウエイトにより評価し総合化した総合輸送活動指数でみると,トンまたはトンキロベースの総輸送量が減少した時期においても,依然として増加傾向を保っている 〔8−1−25図〕。これは,営業用自動車の単位輸送量当たりの付加価値額が大きいため,輸送トンキロ分担率では23.6%(55年度)であるのに対し付加価値のシェアでは53.2%と大きく,他の輸送機関の輸送量が減少しているときにも付加価値額が順調な増加を示しているからである 〔8−1−26図〕

      なお,58年度においても総合輸送活動指数は,対前年度比2.9%増となっており,総輸送トンキロの伸び(1.3%)を上回っている。

(2) 国際輸送

 ア 世界の輸送活動

     (世界の海上荷動き量は4年連続減少)
      1983年の世界経済は,年初以来のアメリカを中心とした景気の回復により,地域間格差はあるものの第2次石油危機以降の長期不況から抜け出し,回復基調にあった。このような中で83年の世界の海上荷動き量は,対前年比2.6%減の31億6,500万トン(推計値)となり,世界景気の回復に伴い下げ止まった感はあるものの4年連続の減少となった 〔8−1−27図〕。また,トンマイルベースでは,同3.8%減の13兆1,800億トンマイル(推計値)となり,72年の水準まで下落した。品目別(トンベース)にみると,原油は,全体では4年連続の減少となったものの83年後半からは世界景気の回復に伴い海上荷動き量は増加に転じている。また,日本及び西欧諸国における鉄鋼生産の低迷により,鉄鉱石,石炭は昨年に引き続き減少した。

      なお,世界における我が国輸出入貨物の海上荷動き量(トンマイルベース)のシェアは26.3%となり,前年に比べ1.2ポイント増加した。このうち,原油,鉄鉱石,石炭及び穀物のシェアはそれぞれ19.1%,49.6%,43.3%,23.9%であった。
     (世界の国際航空貨物は2けた台の大幅な伸び)
      また,近年増加を続けている世界の国際航空貨物輸送量(不定期を除く)の動向をみると,世界景気の回復を背景に対前年比10.1%増(トンキロベース)と4年ぶりに2けた台の大幅な伸び率を示した。このうち,我が国のシェアはICAO加盟国152か国中第3位の8.7%であった。

 イ 我が国をめぐる輸送活動

     (我が国の海上貿易量は輸出で増加,輸入で減少)
      58年(度)の我が国をめぐる海運及び航空による国際貨物輸送活動をみると,まず58年(暦年)の外航海運による我が国の国際貨物輸送量(トンベース)は,輸出は世界景気の回復に伴い増加に転じ,8,317万トン,対前年比9.6%増となった 〔8−1−28表〕, 〔8−1−29図〕。品目別にみると,鉄鋼,セメント,機械類及び電気製品等の主要品目がそれぞれ8.5%,26.2%,4.2%,8.2%増加した。地域別には,アジア向けが大きく伸びた一方,対外債務問題をかかえている中南米向けは減少した。ドルベースでみると,我が国輸出額の約3割を占める北米向けの伸びが前年比18.5%増と目立っている。
      一方,輸入は,内需の回復が58年後半以降になったこともあり,5億4,736万トン,対前年比2.1%減と55年以降4年連続の減少となった。品目別にみると,鉄鉱石及び石炭は鉄鋼生産の減少からそれぞれ10.4%,5.5%減少し,木材も長引く住宅建設の不振を受けて2.8%の減少となった。油類は,原油が減少を続けたものの重油等石油製品が増加したため,対前年比0.2%の増加となった。地域別のシェアは中近東,アジア,太洋州,北米の順となっており,ここ数年大きな変化はみられない。

     (年後半にかけて輸出入とも増加)
      さらに,輸出入の動向を四半期別にみると,輸出は我が国経済が世界景気の回復に伴って,外需依存型の回復過程をたどったため,58年を通じて順調に増勢を強めた。一方,輸入は,58年7〜9月期までは減少傾向で推移したものの,10〜12月期に入ると国内景気,特に内需の回復に伴い,鉄鉱石,石炭,原油等の主要品目を中心に増加に転じ,前年同期比8.4%増と回復に転じた 〔8−1−30図〕

      我が国商船隊(外国用船を含む)の輸送活動をみると,輸出は,肥料を除くほとんどの主要品目で増加し,対前年比4.1%増の4,263万トンとなった。輸入は,油送船輸送量は増加したものの,定期船,不定期船の輸入量が減少したため,同1.4%減の3億8,187万トンとなった。この結果,我が国商船隊の積取比率は,輸出が2.8ポイント減の51.2%,輸入は0.6ポイント増の69.8%となった。このうち,日本船の輸送量をみると,輸出は対前年比1.3%の増加,輸入も6.0%の増加となった。この結果,日本船の積取比率は,輸出が1.7ポイント減の20.8%,輸入は3.4ポイント増の43.8%となった。また,三国間については,極東/北米航路での伸び等から同5.6%増の8,286万トンとなった。
     (我が国国際航空貨物は大幅な伸び)
      次に,58年度の国際航空による我が国の貨物輸送量をみると,輸出はトン数ベースで41万トン,対前年度比30.7%増,ドルベースでも156億ドル,同33.9%増と世界景気の回復を背景に大幅に増加し,輸入も国内景気の回復に伴いトン数ベースで対前年度比19.9%増の32万5,000トンとなり,ドルベースでも同26.6%増の149億ドルと再び増加に転じた 〔8−1−31表〕, 〔8−1−32図〕。品目別(ドルベース)にみると,輸出では,事務用機器,通信機器類,半導体等が高い伸びを示し,輸入では半導体,航空機等の伸びが目立っている。このうち我が国航空企業による輸送量(トンベース)をみると,輸出は対前年度比28.5%増,輸入も同14.6%増となった。これにより,我が国航空企業による積取比率は,前年度に比べ輸出が0.7ポイント減の35.7%,輸入は1.9ポイント減の39.5%となった。

     (総貿易額の1割を越えた航空貨物)
      以上のような輸送動向により58年度の我が国貿易に占める航空貨物の割合は,トンベースでは依然として1%にも満たないものの,ドルベースでは輸出が10.2%,輸入が11.6%,輸出入額を合わせた総額では10.8%となり,総貿易額の1割を超えるに至った 〔8−1−33図〕。このような航空貨物の増加の背景としては,58年以降の内外景気の回復という短期的要因に加え,重厚長大型から軽薄短小型の製品が主流になりつつある産業構造の変化や消費構造の高級化,多様化等を反映し,貿易品目の中でも航空輸送に適した小型軽量または高付加価値で運賃負担力がある品目の割合が増加してきていることがあげられよう。58年度の品目別シェアを見ても,輸出入とも小型軽量で運賃負担力のある機械機器類の割合が大きく,これらの航空化率も増加傾向を示している 〔8−1−34図〕


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