1 再建監理委員会の「国鉄改革に関する意見」


  60年7月26日,再建監理委員会は,「国鉄改革に関する意見」と題する意見書を内閣総理大臣に提出した。
  同委員会は,前述のとおり,臨時行政調査会第3次答申を受けて制定された再建臨時措置法に基づき国鉄事業の抜本的な改善策を策定することを主たる任務として発足した委員会であり,この「意見」は,発足以来2年余り,延べ130回を超える審議を重ねた同委員会のいわば基本答申ともいうべきものである。
  以下その主な内容について述べることとする。

(1) 改革の基本的な考え方

  「意見」では,将来の交通需要を見通した上で鉄道について,都市間及び都市圏輸送を中心に「今後とも我が国の交通体系の中で重要な役割を担うことが期待されている。」としている。しかし,同時に,国鉄の現行経営形態そのものに内在する問題点を指摘し,その改革を抜きにしてこのような国民の期待に十分応えることはできないということを明らかにしている。
  すなわち,「公社という自主性の欠如した制度の下で全国一元の巨大組織として運営されている」国鉄の現状の下では,鉄道事業を取り巻く環境の変化に的確に対応し,地域のニーズを適切にくみ上げ,これに即応した経営の変革や生産性の向上を自主的に進めていくことは極めて困難であり,このことが国鉄経営の破綻をもたらした最も大きな原因であるとしている。そしてこの点にメスを入れなければ,過去数次にわたる経営改善計画において採られたような長期債務の処理やその他の施策を講じたとしても真の意味での再建は不可能であり,将来にわたって健全な活力ある経営を続けていくことができる姿に再生したことにはならないとしている。
  「意見」では,このような考え方に基づき,構造的に経営形態を変革するための「分割・民営化」を提言している。この「分割・民営化」は,国鉄の事業の現状と将来についての前述の基本認識の下で打ち出された今回の改革の基本理念であり,国鉄の事業を将来活力あるものとし,国民の期待に応えていけるものとするために是非とも実現しなければならない課題であるということができよう。

(2) 効率的な経営形態の確立

  「意見」において示された新しい経営形態の具体的な内容は,次のとおりである 〔2−2−1図〕

 ア 分割

      国鉄の旅客部門について,北海道,四国,九州の3島を分離し,本州を3分割することとする。また新幹線については,本州3社間の収益調整を図るとともに,基幹的交通機関としての国土の均衡ある発展等に果たす役割にかんがみ,利用者間の負担の均衡を図る等のため4新幹線を一つの主体に一括して保有させることとしている。なお,これらの分割に当たっては旅客の流れとの適合や,分割に伴う技術上の問題の最小化といった観点を重視し,地域的にも自然な形の分割となるよう配慮している。
      また,各旅客鉄道会社については,将来にわたって安定的な経営を維持し得る基盤を整備する必要があるとし,このため,発足時においていずれの会社も採算がとれるよう収益調整措置を講じることとし,この収益調整措置については,本州については前述の新幹線一括保有方式の採用により,3島については長期債務の引継ぎの免除及び基金の設定により,行うものとする。なお生じる収益差については,政府において微調整の具体的方法を検討すべきものとする。
      国鉄の貨物部門については,旅客部門から分離し,独立した事業体とする。

 イ 民営化

      新会社ができるだけ経営の自主性を発揮し得る形態とする。具体的に旅客鉄道会社及び鉄道貨物会社については,当初は国鉄が100%現物出資の特殊会社とし逐次株式を処分し,純民営会社化を図る。
      労働関係については,労働組合法及び労働関係調整法によることとする。なお,現行の労働関係調整法による公益事業に関する取扱いのほかに,労使紛争の迅速な解決のための特別の仕組み等が必要かどうかについては,政府において検討の上決定する。

 ウ その他

      旅客鉄道会社が引き継ぐ路線は,特定地方交通線を除く全線区とし,現在法律に基づき実施され,また実施が予定されている特定地方交通線対策は強力に推進すべきものとする。
      整備新幹線は,21世紀に向けての高速交通手段として地域住民の要望が極めて強いが,現在の計画によれば膨大な投資を必要とし,また新会社の経営に大きな影響を及ぼすことが予想され,この問題については,予想旅客需要と投資の均衡在来線の収支に与える影響,財源問題,技術開発によるコスト低減の可能性等を考慮に入れで慎重に判断することが必要である。

(3) 国鉄改革に際して解決すべき諸問題

  以上の経営形態への移行を実施するためには,あわせて民間並みの生産性を前提とした効率的な要員体制に改め,巨額の債務について適切な処理を行い新会社について健全な事業体としての経営基盤を確立する必要がある。このため,要員合理化に伴って生じる余剰人員問題及び長期債務等の処理について以下のような措置を講じる。なお,長期債務等の処理に際しては,現下の厳しい財政事情にかんがみ,公債に依存することなどを安易に行うべきではない。

 ア 余剰人員対策

      新経営形態移行に際しての国鉄余剰人員の規模は,62年度首実員(約27万6千人)から適正要員規模(約18万3千人)を引いた約9万3千人と見込まれる。
      この余剰人員対策としては,新経営形態への移行までの間に国鉄において2万人程度の希望退職の募集を実施し,移行に際し,旅客鉄道会社に経営の過重な負担とならない程度の約3万2千人(鉄道旅客部門適正要員規模の2割)の余剰人員を移籍させ,残る約4万1千人については「旧国鉄」が雇用を継続し,3年を限度として全員が再就職できるよう万全を期することとする。
      対策の内容としては,希望退職の募集について退職時の特例給付等の措置を講じ,「旧国鉄」においては再就職までの生活の安定に配慮しつつ職業指導,教育訓練,就職斡旋等を実施することとし,これらの者の雇用の場の確保について国鉄関連企業,国・地方公共団体等の公的部門,一般産業界の協力を得てこれを進める必要がある。特に,公的部門には,採用数の一定割合を雇用の場として提供すること等の措置を求める。さらに,政府は,対策本部の設置,所要の立法措置を含む強力な支援体制をとることとする。

 イ 長期債務等の処理

      新経営形態移行に際し処理すべき国鉄長期債務等の総額は,約37兆3千億円となると見込まれる。
      この処理については,新事業体において,最大限の効率的経営を前提に,当面収支が均衡し,かつ,将来にわたって健全な経営ができる限度の長期債務等を負担するものとし,なお残るものについては,「旧国鉄」に残置することとする。この残置債務等については,用地の売却等による自主財源を可能な限り充当することとするが,最終的に残る約16兆7千億円の長期債務等の処理に当たっては国民に負担を求めざるを得ない。この場合財源所要額が極めて大きいことから,国鉄事業再建のためには,長期債務等の処理のための新たな財源・措置を講じることが必要であり,国は,長期的視点に立った総合的かつ全国民的な処理方策を検討・確立すべきである。

(4) 改革の時期

  国鉄の分割・民営化は,62年4月1日に実施する。


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