3 国際協力の拡充


(1) 発展の基礎となる運輸部門

  運輸施設は発展途上国の経済,社会の基盤として重要性が高いため協力要請も多く,我が国の対外経済協力において大きな割合を占めており,その一例を示すと 〔3−4−1図〕, 〔3−4−2図〕のようになる。

  発展途上国における運輸基盤施設の整備に対する協力は
 @ 一次産品等の物流の促進,人や情報の交流の活発化を促し,発展途上国の均衡ある発展,民政安定の視点から極めて重要であること
 A 建設後の運営等のための雇用効果が高く,また,広く国民の目に触れるのでPR効果が高いこと
 B 国際的な物流ネットワークの形成に資するものであり,また,我が国の海上輸送路沿岸諸国に対する経済協力により海上輸送路に支障が生じないような環境の醸成が期待される等,我が国の輸出入物資の安定輸送の確保に資することが大きいことから重要な意義を有している。

(2) 進む運輸部門経済協力

  我が国はこのような観点から運輸部門プロジェクトに対して協力等を行っているが,現在進行中のプロジェクトあるいは構想のうち大規模なものとしては 〔3−4−3図〕に示すようなものがあげられる。
  運輸部門経済協力の概要は次に示すとおりである。

 ア 資金協力

      59年度は新たに協力を開始したインドネシアのウジュンパンダン造船所拡張計画,中国の衡陽・広州間鉄道拡充計画等を含め22件に対し総額877億円(貸付契約ベース)に及ぶ円借款が供与された。また無償資金協力としてはフィリピンの国立航海訓練所拡充計画,西サモアの国内輸送力増強計画等16件に対し109億円が供与された。
      特に中国は最近,最大の円借款受取国(支出純額ベース)となっているが,このうち大部分は運輸案件(鉄道,港湾)に対するものとなっており,運輸部門における関係が深まっている 〔3−4−4図〕

 イ 技術協力

      発展途上国の運輸基盤施設を整備するためには,計画から実施,完成後の維持,管理までの各段階で適切な指導,助言を行う必要がある。運輸省は59年度,新たに調査に着手した中国の上海都市間快速鉄道建設計画,タイの港湾浚渫船隊整備計画等を含め合計47件について国際協力事業団を通じてフィージビリティの有無の把握等の調査を行い,また,同事業団を通じ23か国に長期76名,短期125名の専門家を派遣し,53か国から359名の研修員を受け入れた。

 ウ 注目される運輸プロジェクト

      上に述べたような各種協力のほか,特記すべきプロジェクト等は,次のとおりである。

 (ア) パナマ運河代替案調査に対する協力

      パナマ運河は建設後約70年が経過し,運河施設の老朽化や能力不足が懸念されるため,代替運河建設等の構想が検討され,60年9月には日,米,パー国で組織する調査委員会を設立して本格的なフィージビリティ調査を実施することに合意した。フィージビリティ調査では,現運河の拡張,新運河の建設等の実現可能性について検討することとなるが,パナマ運河は我が国への海上輸送に対して大きな影響をもっており,また,我が国の技術を生かす場でもあるため,運輸省としても調査に積極的に協力することとしている。

 (イ) アジアポート構想

      アジアポート構想とは,ブラジルを中心とする南米諸国の鉱物資源及び農産物を,アジア地域に低廉なコストで供給するため,南米側の輸出回廊の整備を図るとともに,アジア地域に中継備蓄基地としての大型港湾「アジアポート」を建設し,南米との間の大型船舶による輸送を行う計画である。
      運輸省では,長期的視点に立脚した本構想の実現可能性及び実現のための条件整備の方向付けに主眼をおいて検討しており,59年5月のブラジル大統領と我が国首相との会談においても,今後両国間で本構想について継続的に協議を進めていくことが確認されている。

 (ウ) 中国との交流

      中国が我が国にとって最大の円借款受取国となり,その過半が運輸案件であるため,中国の交通運輸関係者との交流が拡大している。60年5月には鉄道技術等の交流を促進するため第1回日中鉄道協力専門家フォーラム,同年7月には第4回日中閣僚会議が開催され,中国鉄道部及び交通部との間で今後の鉄道,港湾等の分野での協力のあり方等につき意見交換を行ったほか,交通部との間で定期的に事務レベルの協議を行うことが合意された。また,気象分野では,中国国家気象局との間に天気予報の精度向上に関する実施取決めが60年6月に調印され,さらに,60年9月には運輸大臣が訪中して従来の協力に加え,新たに船舶解撤の分野での協力について話し合い,10月には,中国交通部所属の海難救助船が,東京,神戸及び広島を訪問し,海難救助の分野での意見・情報の交換を行うなど協力関係が緊密化している。

(3) 先進国との国際協力

  欧米先進国との間においても科学技術分野における協力の要請が高まっており,運輸に関しては,鉄道,海洋開発,船舶,電子航法,港湾,気象等各分野において,二国間,多国間の情報交換,技術交流等の国際協力が促進されている。特に米国が進めてきたボストン〜ニューヨーク〜ワシントン間の鉄道の所要時間短縮,最高速度向上のための改良計画(北東回廊改良計画)に対しては,米国からの要請により53年以降我が国から鉄道技術協力を実施してきた。本協力は,60年9月に終了したが,米国から高く評価されている。

(4) 今後の課題

  運輸部門における経済協力等の国際交流を円滑に推進するためには,相手国の問題意識を的確に把握し,その上で運輸政策に関する相互理解の増進等を図っていくとともに,特に経済協力については,長期的な視点に立って,相手国にとって望ましい協力を進めていく必要がある。このため,運輸政策の相互理解,調整を図っていく観点から,ハイレベルでの交流を今後とも積極的に展開していくこととしている。
  また,運輸関係施設整備に対する協力は,その建設段階のみならず,運営,管理等についてもアフターケアを行う必要が高いこと,また,沿岸海運のように多国間にまたがる協力の必要性のあることから,運輸省は予算措置を講じ59年度より運輸関係国際協力の事後調査,60年度より多国間にわたる運輸案件調査を開始し,今後の効果的な協力のあり方を探っている。
  さらに,観光地の開発,受入れ体制の整備等観光分野における協力は,相手国にとって雇用の増大,外貨の獲得に直接つながるだけでなく,我が国にとっても,これらの協力に伴って生ずる海外への観光客の増大が,いわゆる黒字減らしにも役立つため,積極的に推進していく必要がある。


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