第4章 外航海運及び造船業の再構築をめざして

 ○ 近年,我が国海運をとりまく事業環境は極めて厳しく,運賃水準の低迷,円高の進展等により,邦船社の航路採算は著しく悪化している。このため,企業としては減量・合理化等の経営改善措置を実施しており,政府としても企業努力が実を結ぶための環境整備を図っていく。
 ○ 厳しさを増す船員雇用情勢に対処するため,就職斡旋の強化,外国船の職域開拓,船員教育訓練の充実等の船員雇用対策を推進する。
 ○ 船員制度の近代化を促進するため,62年10月,世界で最も少数精鋭化された乗組み体制(11名程度)をめざすパイオニアシップ実験を開始した。
 ○ 世界的な新造船需要の減退,第三造船諸国の台頭等に伴う造船不況対策のため,経営安定法に基づき62年度中に現有年間生産能力の20%程度の過剰設備を処理するほか,受注の共同化等事業提携の促進を図る。
 ○ 深刻な不況に悩む海運・造船両海事産業がレジャー産業等新分野への展開を図っており,運輸省もこれを側面的に支援していく。
 第4章の要旨
 1. 近年,我が国海運をとりまく事業環境は極めて厳しく,なかでも北米定期航路においては,運賃水準の低迷,急速な円高の進展等により,邦船杜の航路採算は悪化しており,今後とも一層の減量・合理化を進めるとともに,市場構造の変化に対応した適切な事業展開を図る必要がある。
  昭和61年度の海運助成対象企業の営業収益は対前年度比26.2%の大幅減収となった。特に,61年度の営業損益は円高の影響により960億円程度悪化したと推計され,今後,企業としては,為替リスクヘッジ方策等に真剣に取り組むとともに,長期的な円高・ドル安の定着傾向に対応して,思い切ったコスト削減策を講じる必要がある。
 2. 61年12月,海運造船合理化審議会海運対策部会小委員会中間報告として船員雇用問題への対応を含む緊急対策が提言された。海運企業においても,労使の合意に基づく緊急雇用対策が62年4月から開始されているが,政府としても,就職斡旋,外国船の職域開拓等の船員雇用対策を強化してきた。さらに,62年5月船員中央労働委員会から答申のあった「船員雇用対策の基本方針」に沿って,今後,船員制度の近代化,船員教育訓練の充実等の施策を一層推進するとともに,船員の円滑な陸上職域への転換も図ることとしている。
  日本商船隊がその競争力を回復するには,このような船員制度の近代化等を含め,労使が協力してあらゆる努力をすべきである。国としても,このような努力が実を結ぶような環境整備に努める必要がある。
 3. 我が国造船業界は,世界的な新造船需要の低迷,第三造船諸国の台頭,60年秋以降の円高等により極めて厳しい状況に置かれている。このため,政府では62年4月に制定された特定船舶製造業経営安定臨時措置法により,計画的な設備の処理及び事業提携を促進することとし,造船業の再構築を推進している。また,これに併せて船舶解撤事業,官公庁船の代替建造の促進等各種需要創出対策を実施するとともに,造船における欧州及び韓国との対話を進めている。
 4. 近年の円高基調,産業構造の転換の流れのなかで,深刻な不況に悩む海運・造船両海事産業においては,経営の安定化,収益構造の改善を図るため,レジャー産業等新分野への展開による事業経営の多角化を推進していくことが重要な課題となっている。


第1節 外航海運の再構築

第2節 船員対策の推進

第3節 造船業の再構築

第4節 海事産業の新分野への展開