1 均衡ある発展に向けて


(1) 国際化をめざして

  現在,国際社会の相互依存関係は緊密度を高めており,今後この度合は更に一層強まっていくものと考えられ,我が国は国際社会の一員として,なお一層の国際化の努力が望まれる。現在我が国が当面している大きな課題は,我が国の大幅な経常収支の黒字を是正する等,国際経済の調和ある発展に寄与することである。これらの観点からも国際社会への貢献を果していくため経済・技術協力を通じて発展途上国の経済社会の発展を支援していくことが期待される。また,国際的な人の相互交流を図ることによって,経済面のみならず文化的・社会的面においても国際化を進めることが併せて望まれる。
  運輸行政もこのような要請に応えて,次のように取組んでいる。
  (人の交流の促進)
  我が国をめぐる国際的な人の交流の現状をみると,最近,日本人海外旅行者の絶対数は年間550万人と大きくなってきたが,国際的にみると,他の先進諸国に比べ総人口に対する外国旅行者数の比率は,まだまだ低い水準にあり,また,行先の大宗もハワイ,グアム,近隣アジア諸国・地域に限られている。訪日外客数も,近隣のアジア諸国と比較しても低い水準にあるといえる。
  運輸省としては,昭和61年度,初めて500万人を超えた日本人海外旅行者数を概ね5年間で1,000万人にする海外旅行倍増計画(テン・ミリオン計画)(P.103参照)を積極的に推進している。この施策により海外旅行をする我が国国民に円高の利益を享受する機会を増大させるとともに,日本人旅行客を受け入れる諸外国の旅行収支の改善を通してこれら諸国の外貨収支の改善に貢献するとともに,観光に関する国際協力を多角的に進めることにより,諸外国との国際関係の改善に貢献したいと考えている。旅行目的も業務や観光のほか,研修,文化,科学交流等の諸分野に広げることにより国際交流の層を厚くする必要がある。
  他方,訪日外客の日本旅行を容易にするため,我が国観光の宣伝活動に一層の工夫をするとともに,外国人が日本国内を自由に一人歩きできるよう国際観光モデル地区の整備等その対策を進めている。さらに外国人が多数参加する国際会議等を推進するため「国際コンベンション・シティ構想」(P.110参照)を打ち出し,併せて地域振興の大きな柱にしたいと考えている。
  (物流の促進)
  現在,国際経済の相互依存関係が高まり国際分業は更に進展し,貿易活動も更に多様化し,製品輸入も増加しつづけると見込まれる。これらの動きを反映し輸送ニーズも多様化・高度化してきている。このようなニーズは,厳しい競争条件の下にある製造業の物流コストを切りつめながら,迅速な輸送を求めるニーズの高まりと相まって,海上輸送,航空輸送という従来からの単独輸送より,複数の輸送機関を組み合わせて一貫して輸送する国際複合一貫輸送(P.282参照)の利用を促すため,これらの輸送が大きな進展を見ている。特に小口貨物については,戸口から戸口まで輸送する国際宅配便が急速に進展している。このような動向は今後とも一層強まるものと見込まれる。運輸省としても,これらの動向に対応し,消費者保護の見地から必要な指導,育成を行っていくこととしている。また,輸入の促進の見地から国際宅配便を利用した個人輸入を促進するよう努力してきたが,今後ともこの国際産直システム(P.286参照)の内容の充実を図っていくこととしている。
  (空港,港湾等関係施設の整備)
  このように,今後,世界の人的交流及び物流は一段と進展していくものと考えられるが,日本を中心として,日本とアジア諸国・地域,日本と米国諸地域との交通需要は,世界の他地域に比べて,一段と発展して行くものと見込まれる。これに応じ,特に我が国が航空交通の要衝となっていることにかんがみ,その基盤である空港の整備が急務である。現在,東京・大阪国際空港は既に能力の限界に達しており,新東京国際空港も60年代半ばには限界に達するものと予想され,関西国際空港の整備新東京国際空港の整備及び東京国際空港の沖合展開の3大プロジェクトを予定通り完成することが急務である。また,国際物流のニーズに対応して港湾についても,東京,大阪,伊勢の各湾及び地方の拠点的港湾の整備を進めて行く必要がある。
  (国際協調の推進)
  近年,開発途上国からの日本に対する経済協力の期待は,多様化するとともに一段と高まりをみせている。
  鉄道,港湾,空港等の運輸施設の整備は開発途上国の経済発展の基盤であり,中国の例にみられるように日本としては,これら各国の要請に応じ,大規模な鉄道,港湾プロジェクトの資金協力・技術協力を行ってきている。今後とも,これらプロジェクトの協力を推進していくほか,開発途上国の運輸の分野における人材育成に寄与するため,専門家派遣,研修員受入,機材供与等の協力も拡充していくなど相手国の自助努力を支援し,長期的視野に立って相手国にとって望ましい協力を進めていくよう配慮していくこととしている。

(2) ゆとりある生活のために

  我が国の経済発展と国民の所得の増加の成果は必ずしも国民生活の質の向上に反映されているとは言い難い状況であり,また首都圏を中心として地価高騰などにより居住水準は低水準にあって,国民の不満足感が強い。また,長時間労働が生活の豊かさを限害していることも指摘されている。今後は,我が国の経済発展を国民の生活水準の向上・充実に向けていくことが要請される。このため,運輸省としては交通施設の整備によって特に居住水準に問題がある大都市圏における国民の生活をより豊かにするとともに,労働時間の短縮による国民の自由時間の増大に備えて,国民が利用しやすい旅行環境や宿泊施設等余暇活動基盤の整備に努めていく。
  (交通網の整備拡充)
  幹線交通の分野では,63年春には,青函トンネル,本四連絡架橋(児島・坂出ルート)が開通し,国土の一体化が一段と進展するが,今後,現在限界にきている首都圏・近畿圏の各基幹空港の拡充を図るほか,一般空港の整備,高速道路等高速交通網の拡充等を進め,できるだけ一日交通圏の拡大を図っていく必要がある。整備新幹線については,国土の均衡ある発展,地域格差の是正に資するものとしてその建設が望まれているが,この問題については,60年8月政府・与党間の申合せにより設置された「整備新幹線財源問題等検討委員会」において着工の前提条件について検討を行っているところであり,その結論を得て適切に対処することとしている。
  地方圏においては,既存の鉄道,パス等の交通の充実を図ることは勿論であるが,これに加え高速交通機関の利便性の全国均等化を図るとともに地域間の連携を深めるため,ヘリポートを含む小型機用飛行場を利属したコミューター航空(P.183参照)等地域航空システムの導入,幹線道路間の連絡道路又は幹線道路へのアクセス道路の建設など,地域における交通網の形成・充実を行う必要がある。
  (大都市問題への対応)
  大都市圏特に東京圏においては,地価の高騰通勤・通学ラッシュなど,生活環境面での歪みが顕在化し,これの対策が大きな課題となっている。運輸の分野では,特に都市鉄道の整備・充実,バスサービスの充実による輸送力増強(複々線化・長編成化,新線建設,輸送の高速化・多頻度化)による通勤・通学難の解消と利便の向上と通勤・通学圏の拡大(土地需要の分散)策の推進が必要である。
  鉄道の整備については,60年7月の運輸政策審議会の答申を踏まえ東京における整備が進められているが,答申で定める予定路線のうちこれまで埼京線(大宮-新宿間)など約60qが整備されている。また大手民鉄各社は,62年度より第7次輸送力増強等投資計画(62年度-66年度)をスタートさせており,更に,62年10月には,関東大手民鉄5社が複々線化等の工事を実施するため,「特定都市鉄道整備促進特別措置法に基づき,特定都市鉄道整備事業計画の認定申請を行ったところであるが,これは,工事費の一部を運賃に上乗せし,その増収分を非課税で積み立て工事費に充当するもので,工期は10年間を見込んでおり,完成すれば輸送力増強に大きな貢献がなされる。
  次に土地供給については,東京湾臨海部について従来から埋立等により土地の造成・供給を行ってきたところであり,現在,横浜港みなとみらい21計画東京港竹芝地区再開発計画等において港湾民活事業制度を活用して臨海部の高度利用を進めている。今後とも,未利用地の利用,工場跡地等の利用転換,埋立等により土地の供給・高度利用を図っていくこととしている。
  土地対策としては,このような供給面の対策のほか,需要面の分散・緩和等をも進める必要があり,この面からも東京圏において業務核都市等の育成に資する交通体系の整備を図る必要がある。
  旧国鉄用地の処分については,当面の地価対策が国家的緊急課題であることにかんがみ,国鉄改革のための施策との整合性を図りつつ,慎重な検討を行った上で進めていくこととしている。
  また,住空間の拡大による豊かな都市生活の一助とするため,大都市住宅内の当面は使用しない家庭用品等を過疎地域等に保存するフレイトビラ構想(P.280参照)を推進している。
  (地域の活性化)
  地域の活性化を図るためには高速交通体系へのアクセス及び地域内・地域相互間の交通ネットワークの整備・充実を図ることが必要であるが,それとともに国民の自由時間の増加や文化,科学等の国際的・国内的交流の活発化に対応し,リゾート地域の整備及びイベント事業の推進を図り,地域の活性化に資するとともにゆとりある生活の環境をつくることが重要である。運輸省としては,62年度に制定された「総合保養地域整備法」を活用しリゾート地域注)の整備を進めるとともに,海洋性レクリエーションのためのマリーナ,日帰り又は週末滞在型レクリエーションのための中規模観光レクリエーション地区(家族旅行村)注)を積極的に整備する方策を進めている。また,イベントについては,61年から主要港湾都市の持ち回り方式(北九州,門司,神戸,名古屋,横浜等)の海の祭典等をも含め,各地における各般のイベントの充実を進めるほか,国際的な会議,展示会などを開催するコンベンション・シティ(P.11O参照)も積極的に育成していく。

(3) 社会資本の充実と民活プロジェクトの推進

   我が国は,その経済構造を内需主導型に転換するとともに,経済活動の成果,高水準の貯蓄を活用して国民生活の質的向上を図っていく必要がある。運輸の分野においては,港湾,空港,鉄道等の社会資本の形成やリゾート地域の整備を,民間資金及び民間ノウハウを活用して整備する必要がある。関西国際空港の株式会社方式による建設,国鉄の民営化,日本航空の民営化などは,その適例といえよう。この他,臨海部の開発等については,61年制定の「民間事業者の能力の活用による特定施設の整備の促進に関する臨時措置法」,62年制定の「民間都市開発の推進に関する特別措置法」及び「総合保養地域整備法」(以下,それぞれ民活法,民都市法,リゾート法と記す。)といった民間活力導入のための法制度(これらの制度では港湾関係施設,リゾート地域などの整備のため民間の資金活用がなされた場合,税制優遇措置や財政投融資等の行政措置を講ずる途を開いている。)を活用するとともに,大都市における鉄道新線の建設についても今後更に利子負担を軽減する等の措置を講じ,民活プロジェクトを推進することとしている。ただ,民活事業は,民間の発意によりプロジェクトが推進されるものであり,採算性の検討等関係者間の合意形成に時 間を要すること等の理由から,大都市圏においては東京港竹芝地区,横浜港みなとみらい21地区,大阪港南港地区等において,民活プロジェクトを推進する第三セクターが設立され一部事業に着手しているなど着実に進展が図られているものの,地方圏においてはプロジェクトとして具体化がなかなか進まない状況にある。今後更に民間活力を活用していく方策について検討していくことにより新たなプロジェクトの推進を図っていく必要がある。
  なお,社会資本の整備というハード面の施策に関連して,観光情報システムの整備,各種割引料金の設定,利用実態に合わせたダイヤの設定など利用者利便の向上のソフト面の方策もますます重要になる。

(4) 新しい展開を遂げる運輸事業

  (企業の活性化と行政改革)
  近年,我が国は,経済環境の変化,国民の価値観,生活様式の多様化等により急速な変貌を遂げている。このような潮流に対応するため,運輸の分野においても,企業の活性化及び健全な発展を通じて,より良質なサービスや新しいサービスを提供していくことが求められている。
  行政改革の一環として国鉄の分割・民営化,日本航空の完全民営化等を実現した。これは,明治5年以来100有余年にわたり我が国の基幹的輸送機関としての役割を果たしてきた国鉄及び昭和28年以来30有余年にわたり我が国民間航空の発展にその使命を果たしてきた日本航空の経営形態を抜本的に見直し,民営化することにより自主的かつ責任ある経営体制を確立させる等,最大限にその活性化を図るべく行われた措置である。これらの企業を含めた我が国の運輸事業においては,今後安全の確保を維持し,企業としての活力を十分発揮しつつ発展することが期待される。なお,国鉄改革についてはその長期債務の処理,日本国有鉄道清算事業団職員の再就職対策,日本鉄道共済年金対策という残された大きな課題があり,今後とも鋭意これらの課題に取り組んでいくこととしている。
  (新しいニーズへの対応)
  また,運輸事業としては,多様化し,個性化する消費者の嗜好や新しいニーズに対応していくことが必要となっている。
  例えば,鉄道業においては,最近における周辺住民のライフスタイルの多様化に適合し,地域社会に対するサービス機能を充実させるために,安全運行や輸送力増強といった鉄道本来の基本的施策と併せて,従来からの不動産,レジャー,流通などの分野に加え,駐車場,カルチャースクール,CATV,各種コンサルタント,交通情報提供,宅配便受付やレンタル等を行う駅複合斡旋サービスといった多種多様なサービスを展開している事業者が増えている。これらの多種多様なサービスの展開を図るうえで,より利便性の向上を進めるための情報化に対する努力が行われている。また,宅配便事業者の産地直送への進出のように,他の産業との連携を強め,きめ細かくニーズに対応して新規の需要創出を図ることも行われてきている。運輸省としてもこのような動きが健全に発展するよう,所要の施策を講じていく必要がある。
  (規制の緩和)
  また,運輸事業における諸規制については,利用者利便の増進,安全の確保の観点などから行われているものであるが,事業の活性化の観点から常に見直しを行い所要の緩和策等をとっていく必要がある。61年6月の運輸政策審議会答申を踏まえた航空企業間の競争促進等の運営体制の見直し,同年12月の鉄道事業法の制定等はかかる観点を盛りこんだものであるが,今後も情勢の変化等に応じて所要の検討を加えていくこととしている。

注) リゾート地域:良好な自然条件を有する広域的な地域(最大15万ha程度)において,広く国民が余暇を利用して滞在しつつスポーツ・レクリエーション活動,教養文化活動等の多用な活動を行うことが出来る地域であり,民間活力を活用して整備を図るもの
注) 家族旅行村:家族が恵まれた自然環境の中で手軽な観光レクリエーション活動を楽しみつつ保養することが出来る家族のためのレクリエーション地区(30〜50ha)であり,地方公共団体が主体となって整備したもの


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