2 地方交通の維持・整備


(1) 地方交通の現駅と課題

  (公共交通機翼の確保が重要な課題)
  地方においては,各種の施設が遠隔地に所在していることも多く,星の確保は毎日の生活に欠くことができないものである。近年は全国的にマイカーの普及が進展しているなかで,特に地方における普及のテンポが著しい。三大都市圏とその他の地域について,人口当たりの自動車保有台数の50年から60年への変化をみると,三大都市圏では61%の伸びであるのに対し,その他の地域では76%と高い伸びを示しており,1世帯当たり保有台数でも60年においては三大都市圏の0.80台に対し,その地の地域では1.13台となっている 〔5−2−8表〕

  地方におけるこのようなマイカーの普及は,人々の生活を便利なものにする面があるが,一方で,バス等公共交通機関の利用者の減少をもたらしている 〔5−2−9図〕

  このため,地方では公共交通機関の維持が困難となっており,公共交通機関を利用せざるを得ない人々の足の確保が重要な課題となっている。
  (地域交通計画を指針とした地域交通整備の推進)
  このような状況に対応して地方における交通の維持・整備を図るためには,まず,行政,交通事業者,利用者の行動指標として,地域の実情を勘案して長期的な視野に立った総合的な対策を提示する交通計画を,地域ごとに策定する必要がある。運輸省では56年以来,地方運輸局長が地方交通審議会に諮った上で,原則として都道府県単位に長期的な展望に立って地域交通の在り方を示した地方交通計画を策定してきており,既に37地域で計画が策定されている。運輸省としては,この計画を指針として地域交通の維持・整備に努めている。
  また,60年度からは,地方交通審議会の各都道府県部会を常設の機関として活用し,地域の意向をより的確に把握し,これを反映したきめ細かな地域交通行政を推進している。

(2) 中小民鉄及び地方バスの維持・整備

  (苦しい経営状況にある中小民鉄,地方バス)
  中小民鉄及び地方バスは,地域における生活基盤として必要不可欠なものである。しかしながら,輸送人員が60年度において,中小民鉄約3.2億人(対前年度比0.3%減),地方バス(三大都市圏を除く。)約34億人(同4%減)と減少し 〔5−2−10図〕,運賃収入が伸び悩んでいる一方,人件費等の諸経費が増加し,極めて苦しい経営を余儀なくされている。

  (中小民鉄の維持・近代化の促進)
  中小民鉄は,経営改善を図りその維持に努めているものの,大部分の事業者が赤字経営となっているが,地方交通に重要な役割を果たしている。このため,国としても,地方公共団体と協力して,その運輸が継続されないと国民生活に著しい障害が生じる鉄道について,経常損失額に対し補助(欠損補助)を行うとともに,設備の近代化を推進することにより経営改善,保安度の向上又はサービスの改善効果が著しいと認められるものに対し,設備整備費の一部を補助(近代化補助)している。
  61年度においては,34社に対し約8億円の国庫補助金を交付した 〔5−2−11表〕

  (経営改善への努力が望まれる地方バス)
  地方バスは,地域住民の足として重要な役割を担っているが、これらの多くは過疎化の進行,マイカーの普及等により輸送需要が年々減少しているため,事業運営の合理化等の経営改善努力にもかかわらず,大部分の事業者が赤字経営を余儀なくされ,路線の維持が困難になっている。このため運輸省は,バス事業者に対し,車両の冷房化,フリー乗降制の導入等サービスの改善による利用客の維持・増加や,地域の実精に応じた路線の再編成による運行の効率化等,自主的経営努力を指導するとともに,それらの経営改善努力を前提として助成措置を講じ,バス事業の自立と地域住民の足の確保に努めている。
  この助成措置は,住民生活にとって必要不可欠な路線の経常損失額及び車両購入費について,都道府県がバス事業者に対して行う補助の一部を国が補助(生活路線維持費補助)するものである。なお,これらの路線のうち利用者が極端に少ないいわゆる第3種生活路線(平均乗車密度5人未満の路線)は,乗合バス路線として維持していくことが困難であるため,欠損補助を一定期間に限って行うとともに,その間に路線の再編成,廃止等の整理を進めることとしている。
  また,バス路線の廃止後においても,市町村又は市町村の依頼を受けた貸切バス事業者が代替バスを運行する場合には,代替バスの購入費等について,都道府県が行う補助の一部を国が補助(廃止路線代替車両購入費等補助)することにより,地域住民の足の確保を図っている。
  なお,61年度においては,バス事業者168者,326市町村等に対し約98億円の国庫補助金を交付した 〔5−2−12表〕

(3) 国鉄特定地方交通線の転換等

  (進む国鉄特定地方交通線の転換)
  鉄道による輸送に代えてバス輸送を行うことが適当な路線として選定された国鉄特定地方交通線は,62年10月末までに35線1,265kmがバス輸送に転換されるとともに,20社23線599kmが第三セクター等地元が主体となって経営する鉄道に転換されている。
  (一層の経営努力が必要なバス転換線)
  バス輸送は,停留所の数が増加すること,需要実態に合わせた運行系統や運行回数の設定が可能となること等から,国鉄当時に比べて利便性は増加していると考えられる。ただ,地域の全般的な過疎化の進行,モータリゼーションの進展等のため輸送人員が引き続き減少している場合が多い。
  経営成績については,国鉄線当時と比べて経費が大幅に減少したため,バス転換したすべての線区において赤字額が大幅に縮小し,一部路線では黒字となっている。
  なお,転換後のバス輸送において赤字が生じた場合,開業後5年間はその全額を国が補助することとなっているが今後とも,一層の経営努力を重ね,地域の発展と住民の足の確保に努める必要がある 〔5−2−13表〕

  (地元の一層の協力が求められる鉄道転換線)
  鉄道転換線は,地元の要請に基づいて設立された第三セクター等により運営されており,列車の運行回数が増加するなど利便性は高まっているが,その経営はおおむね苦しい状況にある。
  開業後1年以上の実績が明らかな11社についてみると,転換前と比較して3社については旅客輸送人員が増加しているのに対して,8社は減少している。これは,開業ブームによる時的な輸送需要の増大が沈静化したこと,また,モータリゼーションの進展等のため厳しい競争下にあること等が原因であると考えられる。
  収支状況についてみると,運賃を適正化したことにより収入が増加していること,国鉄退職者を大量に採用していることから人件費が低いこと,施設を国鉄(62年4月以降は清算事業団に移行)から無償譲渡等されていることから資本費負担が低いこと等により,国鉄線当時と比べれば大幅に改善されているものの,61年度においては11社中8社が経常損失を出していることから,必ずしもその見通しは明るくない 〔5−2−14表〕

  各社とも経費の削減,イベント列車の運行による増収を図るなど経営努力を行っているが,地域のための鉄道という本来の目的を達成するためには,事業者における一層の経営努力はもちろんのこと,旅客誘致等に対する地元関係者の積極的な協力が不可欠である。
  (地方鉄道新線の状況)
  地方鉄道新線(日本鉄道建設公団が国鉄新線として建設していた路線で56年から工事が凍結されていたもののうち,地元自治体等が主体となった第三セクターが経営することとなり工事を再開したもの)は,現在までに三陸鉄道(久慈・宮古間及び盛・釜石間,107.6km,既開業区間を含む。),鹿島臨海鉄道(水戸・北鹿島間,53km)及び野岩鉄道
  (新藤原・会津高原間30.7q〉の3社が開業している。
  このうち,首都圏に近接し,観光客にも多く利用され,比較的好調に推移している野岩鉄道の現状をみることとする。
  (野岩鉄道会津鬼怒川線の状況)

 ア 会津鬼怒川線の概要

      会津鬼怒川線は,東武鬼怒川線の終点,新藤原駅から鬼怒川・男鹿川沿いに北上し,会津鉄道(株)会津線(国鉄会津線)の会津高原駅に至る30.7kmの単線電化区間で,東武鉄道路線を通じて東京(浅草)と直結している。沿線には,日光国立公園に属する景勝地が点在するほか,鬼怒川・川治・川俣・湯西町温泉といった温泉郷が連なり,また,高杖スキー場があるなど,年間を通じた観光・行楽地となっている。

 イ 開業後の輸送実績

      会津鬼怒川線は61年10月に開業したが,開業後半年間の輸送実績は61万人強と,計画を39%も上回る好調な滑り出しとなった。なかでも,同線の観光路線としての性格を反映して大層を占める定期外客は計画の倍近い輸送実績となり,定期客の不調を補って余りある状況となった、同線と連絡している東武鬼怒川線の同期間の輸送量も対前年同期比37%増となっている 〔5−2−15表〕

      このように好調な輸送実績の背景には,新型車両の投入による東京との直通運転マスコミによるPR,東武との共同宣伝などがあげられるが,最も基本的なことは,首都圏と近接した上質な観光地が,首都圏と直結した鉄道サービスの開始により,観光地としての真価を発揮し始めたという点にあると思われる。

 ウ 沿線に及ぼした効果

 (ア) 開通によって次のような種々の変化が生じ,直接的には,大幅な人流(特に観光客)の増大という効果が生み出された

      開通によって次のような種々の変化が生じ,直接的には,大幅な人流(特に観光客)の増大という効果が生み出された。特に温泉の入込状況では開業後半年間の対前年比で鬼怒川温泉の15%増から南会津地医の湯野上温泉73%増と昨今の温泉ブームを割り引いても驚異的な伸びを示している。
     (ア)東京から会津高原に行く場合,従来5時間程度を要していたが,3時間15分に短縮された。
     (イ) 浅草〜会津高原間(特急利用)は片道2,900円で,従来の郡山,会津若松経由の場合の10,000円と比べて7,100円安くなった。
     (ウ) 従来の国道利用に比べ安全性,低廉性,確実性,快適性が向上し,人流の移動抵抗が低減した。
     (エ) 東京〜福島〜新潟のトライアングルの中間に割り入った形の交通ネットワークを形成し,円滑かつ広範な八流を実現した。
     (オ) 東武鉄道との直通運転会津鉄道(株)のほか会津乗合,東武等のバスとのダイヤ調整等が図られたことによって移動の連続性が確保され,また,それらを前提として周遊切符等の企画商品が生み出された。
     (カ) 山深い袋小路のイメージを払拭させ,首都圏に近い上質の観光地として,沿線住民に自信を持たせ,人流の呼び込みを積極化させた。

 (イ) 派生的効果

      上記観光客を中心とした人流の増大により以下のような効果が現れてきている。
     (ア)入込者の急増に対応した形で各温泉街を中心として町の活性化が図られている。具体的には公開コンペによる斬新な駅舎の建設,ホテル,旅館等の新設改築,スキー場の整備等である。
     (イ)国,県,沿線自治体,民間において各種地域開発構想等が策定され,一部は実施に移されている。具体的には,国際観光モデル地区の指定,会津鬼怒川地域整備計画調査の実施(以上,国),栃木リゾート構想での位置付け(県〉,鬼怒川川治温泉観光(株)(第三セクター)の設立等である。
     (ウ)63年度秋には塩原温泉郷に通じる国道400号線の尾頭トンネルが開通し,栃木県東部地域や東北縦貫道,東北新幹線との接続が容易となることから,鬼怒川・川治温泉と会津,塩原・那須高原等の周辺観光ルートの設定が可能となった。
     (エ) 沿線の地域振興策等が本線の開通を契機に実施されることとなった。具体的には,藤原町での史跡散策路の整備,水性植物園等の整備計画を策定,実施中である。

(4) 離島航路対策

  (離島航路の現状と国の助成)
  我が国には有人島が420余あり,住民の必要不可欠な生活の足として重要な役割を果たしている離島航路は,陸の孤島と呼ばれる僻地に通う準離島航路を含めて,62年4月現在380航路あるが,これら離島航路の多くは,輸送需要の低迷,諸経費の上昇等により赤字経営を余儀なくされている。
  このため,国は離島航路の維持・整備を図るため,従来から地方公共団体と協力して,離島航路のうち定の要件を備えた生活航路について,その欠損に対し補助を行ってきており,61年度においては,117事業者,123航路に対し約29億円の国庫補助金を交付した 〔5−2−16表〕
  (必要な経営改善方策の積極的実施)
  離島航路の経営状況は,61年度は燃料費の大幅な減少もあり若干の収支改善をみたものの,将来的には輸送需要の減少,諸経費の上昇等により経営は悪札することが予想される。また,このような状況に加え,近年においては離島住民の生活基盤の充実を図るため,離島航路就航船舶の高速化,フェリー化等生活水準に見合ったサービス水準の高度化の要請が強まっているが厳しい財政事情の中で,これらの要請に応え,今後とも生活航路としての離島航路を維持していくためには,一層の経営合理化,効率化等を図る必要がある。このため,59年度から61年度にかけて行った離島航路経営改善のための調査・検討結果を踏まえ経営改善措置を積極的に講じていくこととしている。

(5) 本州四国連絡橋の建設に伴う旅客船対策

  本州四国連絡橋の児島・坂出ルートは,63年4月10日に供用が開始される予定となっている。
  同ルートは,本州と四国とを初めて陸続きとする画期的なものであり,また,本州四国連絡橋における初の道路と鉄道との併用橋でもあるため,大きな経済効果が期待されている。
  しかし,本州と四国を連絡する一般旅客定期航路事業者等にとっては,航路の再編成を余儀なくされるなど,同ルートの供用により大きな影響を受けることとなる。
  同ルートに関連して規模縮小等航路に指定された航路は65航路(41事業者)あるが、これら一般旅客定期航路事業等が受ける影響を軽減するため,「本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法」に基づき,関連航路の再編成,当該事業を営む者に対する助成及び離職者の再就職の促進等の対策を実施することとしており,このため,62年9月に関係者からなる現地の連絡協議会において航路再編成計画が合意され,関連航路の整理・縮小方針等が定められた。
  また,63年1月には尾道・今治ルートの伯方・大島大橋も供用が開始される予定となっており,同橋についても62年3月に航路再編成計画が合意され,関連航路の整理縮小方針等が定められた 〔5−2−17表〕


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