3 トンネル開通後の人,物の流れの変化,経済活動の活発化


(1) 人の流れの変化

 (青函フィーバーで大幅増)
  旅客交通についてみると,青函トンネルの開通は,JR利用客の増加に貢献するだけでなく,航空,フェリーの利用者の増加にもつながっている。63年6月にJR北海道が津軽海峡線利用者に対して行ったアンケートの結果でも,青函トンネルが開通したので旅行をしたという人々が約半数おり,青函トンネルの開通は,本州と北海道の旅客の流動を活発化させたとみることができる。
  さらに,イベントの開催等の要因や北海道観光全体の人気の高まりもあり,本州〜北海道間の移動が活発化し,各交通機関とも,速報値によれば, 〔2−1−3図〕に示すとおり好調な実績を挙げている。

 (ア) JR旅客(津軽海峡線及び青函連絡船)

 (a) 連絡船フィーバー

      明治41年以来,本州〜北海道間の大動脈として活躍した青函連絡船の63年3月の廃止期限が近づくにつれ,その廃止を惜しむ,いわゆる連絡船フィーバーが62年夏頃から起こり,それまで減少傾向にあった青函連絡船の輸送人員は大幅に伸びた。連絡船廃止直前の63年2月にJRと連絡船を乗り継いだ輸送人員は,13.4万人で対前年同月比104.0%増と約2倍の伸びとなった。
     ○JR (中小国〜木古内間の断面交通量)
     ○航空 (羽田〜千歳線、青森〜千歳線、三沢〜千歳線、羽田〜函館線の合計)
     フェリー (青森〜函館航路)

 (b) 津軽海峡線の利用状況

      津軽海峡線(青函トンネル)は,開通以来好調な輸送動向を示しており,3〜9月の輸送人員は1.2〜2.3倍程度の伸びを維持している。

 (c) 津軽海峡線の性格

      津軽海峡線利用者の利用目的は,アンケートによると56%が観光・レジャーで,業務は25%に過ぎず,津軽海峡線は観光・レジャー路線としての性格が強い。

 (イ) 航空旅客

      本州と北海道を結ぶ路線は,好調な観光入込み等に支えられ,おおむね堅調に推移しており,3〜9月の羽田〜千歳,羽田〜函館,青森〜千歳,三沢〜千歳の4路線の合計の輸送人員をみると,対前年同月比15.6%増から同5.6%増までの間で推移しており,青函トンネル開通後も好調な実績を示している。

 (ウ) フェリー旅客

      フェリーの利用動向も極めて好調である。青森〜函館航路のフェリーの3〜9月の輸送人員は,対前年同月比56.0%増から同18.7%増までの間で推移している。
      乗用車の3〜9月の航送台数は,対前年同月比60.3%増〜17.9%増の間で推移しており,おおむね好調な伸びを示している。

(2) 物の流れの変化

 (JRコンテナは快調なすべり出し)
  JRコンテナ及びJRコンテナと競合すると思われる内航コンテナ,フェリー及び航空について,4〜9月のそれぞれの輸送量の伸び率を比較してみると,景気の拡大を背景として各輸送機関ともおおむね好調な中で,JRコンテナの伸びが特に目立っている。
  以下各輸送機関別の物流動向は,次のとおりである 〔2−1−4図〕

 (ア) JRコンテナ

 (a) 津軽海峡線の利用状況

      近年の製品の軽薄短小化,出荷の高頻度化の傾向にマッチした輸送システムとして,コンテナ輸送の人気が高く,青函トンネルの開通は,その傾向と相まってJRコンテナ輸送の好調な伸びにつながった。
      貨物の種別についてみると,上りは,紙,乳製品等,下りは雑貨等が伸びている。
      こうした需要の高まりに対応するため,日本列島を結ぶ札幌〜福岡ルートの新設を図るとともに,輸送列車の増加及び連結車の増加による輸送能力の増強を進めている。

 (b) 他の輸送機関に与える影響

      津軽海峡線の開通は,主力のコンテナ輸送の競争力が回復したことにより,他の輸送機関にも影響を与えると考えられる。
      しかしながら,北海道からの大宗貨物である農産物が出荷される秋冬繁忙期の動向をみなければ,その影響を最終的に判断することは困難といえる。

 (イ) 内航コンテナ

      内航コンテナは,米,じゃがいも,たまねぎ,紙といった輸送スピードをあまり要しない貨物が主力であるため,鉄道との競争関係が開通前からあり,大幅にJRコンテナにシフトするとの見通しもあったものの,上り,下り合計で対前年比較では,小幅ながら伸びている。

 (ウ) フェリー(トラック航送)

      フェリーは,海峡・中距離・長距離航路注)ともおおむね順調であるが,とりわけ長距離航路については,水産品,雑貨等の増加により,好調な伸びを示している。

 (エ) 航空

      ここ数年順調な伸びを示してきたが,スピードを必要とする雑貨(宅配),生鮮野菜類等JRコンテナと競合しないものが主体であるため,トンネル開通後も好調に推移している。

(3) 観光の動向

 (青函博覧会も盛況)
  開通以前から青函連絡船フィーバーが起こり,観光客の増加につながっていたが,開通後には,海底駅のトンネル見学サービス等青函トンネル自体が観光資源としての価値を有するようになった。
  また,トンネル開通にあわせたイベントとして青函博覧会が函館市,青森市の両会場において開催され,開催期間中(63.7.9〜63.9.18)に函館会場で146万人,青森会場で147万人が入場した。
  函館市における4〜6月の宿泊者数は,25万人と前年同期比約20%の増加を示し,また,札幌市においても同様に65万人と同8.5%の増加を示し,青函トンネルは好ましい影響を及ぼしている。
  また,北海道の主要観光地における入込客数の状況もおおむね好調である 〔2−1−5表〕

  このような観光客の増加を見込んだホテル・旅館の建設も活発で,函館市,札幌市においては,客室数がそれぞれ対前年比で10%,14%増加している。

(4) トンネル開通の経済的効果

 (青函インターブロック交通圏形成に向けて)
  トンネルの開通にあわせた経済活動の活発化がみられた。
  先に策定された第四次全国総合開発計画においても,青函トンネルの開通を契機として,広域的な交流の促進が期待される地域と位置づけられ,63年4月には「第1回青函インターブロック交流圏構想推進協議会」が開催されるなど,関係自治体においても積極的な取り組みがなされている。
  また,産業界においても,製造販売業,技術開発センター等の進出の動きが強まってきている。
  青函トンネルの開通は,時間短縮効果,安定的輸送,積み替えの必要のない直通運行の実施等により,旅客輸送以上に物流の面でより一層好ましい影響を及ぼすと考えられる。北海道から出荷される貨物の大半を占めるのは,農産物,畜産物,水産物等の1次及びいわゆる“1.5次”産品である。これらの貨物は,一日でも早く市場に到着し,販売されることによって鮮度の低下を防ぐことができる。青函トンネル開通による時間短縮効果等とクールコンテナの運行等の関連サービスの充実が相まって,市場圏が拡大し,北海道から出荷される貨物の市場価値が高まることになる。具体的には,これまでコンテナ輸送に適しなかった牛乳,アイスクリーム等に加え,レタス,パセリ等の野菜類や魚介類も新鮮なまま輸送できるようになっている。このような市場価値の上昇は,市場での競争力を高め,ひいては生産の拡大につながることも考えられる。さらに,本州から北海道への貨物も時間短縮効果等により,その流通の活発化も予想される。このように青函トンネルの開通は,本州と北海道相互の市場圏の拡大を促し,生産機会や雇用機会の増大を促し,北海道の地域開発を促進すると予想される。
HR

注) 海峡航路…………青森〜函館,野辺地〜函館航路等,中距離航路………八戸〜室蘭,八戸〜苫小牧航路等,長距離航路………舞鶴〜小樽,大洗〜苫小牧航路等


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