2 地方交通の維持・整備


(1) 地方交通の現状と課題

 (ア) 公共交通機関の確保

      地方においては,自動車の保有の利便性が高いことから,マイカーの普及のテンポが著しい状況にある。
      このような状況の中で,地方では公共交通機関の維持が困難となっており,公共交通機関を利用せざるを得ない人々の足の確保が重要な課題となっている。

 (イ) 地域交通計画を指針とした地域交通の整備

      地方における交通の維持・整備を図るために,運輸省では56年以来,都道府県単位に,長期的な展望に立った地域交通のあり方を示した地域交通計画を策定してきており,既に40地域で計画が策定され,残る地域についても,策定作業を終えつつある。今後は地域交通計画の中に示された公共交通維持・整備の各種方策の具体化,実現を図ることが重要であり,地域の実情に応じた交通対策の推進に努めているところである。
      また,各地方運輸局に設置されている地方交通審議会の常設の機関である都道府県部会を活用し,地域の意向を的確に把握し,これを反映したきめ細かな地域行政を推進している。

(2) 中小民鉄及び地方バスの維持・整備

 (ア) 苦しい経営状況にある中小民鉄,地方バス

      中小民鉄及び地方バスは,地域における生活基盤として必要不可欠なものである。しかしながら,輸送人員が61年度において,中小民鉄約3.2億人(対前年度比1.9%減),地方バス(三大都市圏を除く。)約33億人(同3.9%減)と減少し 〔4−2−7図〕,運賃収入が伸び悩んでいる一方,人件費等の諸経費が増加し,極めて苦しい経営を余儀なくされている。

 (イ) 中小民鉄の維持・近代化の促進

      中小民鉄は,経営改善を図りその維持に努めているものの,大部分の事業者が赤字経営となっているが,地方交通に重要な役割を果たしている。このため,国としても,地方公共団体と協力して,その運輸が継続されないと国民生活に著しい障害が生じる鉄道について経常損失額に対し補助(欠損補助)を行うとともに,設備の近代化により経営改善,保安度の向上又はサービスの改善効果が著しいと認められるものに対し,設備整備費の一部を補助(近代化補助)している。
      62年度においては,35社に対し約8.8億円の国庫補助金を交付した 〔4−2−8表〕

     (経営改善への努力が望まれる地方バス)
      地方バスは,地域住民の足として重要な役割を担っているが,これらの多くは過疎化の進行,マイカーの普及等により輸送需要が年々減少しているため,事業運営の合理化等の経営改善努力にもかかわらず,大部分の事業者が赤字経営を余儀なくされ,路線の維持が困難になっている。このため運輸省は,バス事業者に対し,車両の冷房化,フリー乗降制の導入等サービスの改善による利用者の維持・増加や地域の実情に応じた路線の再編成による運行の効率化等,自主的経営努力を指導するとともに,それらの経営改善努力を前提として助成措置を講じ,バス事業の自立と地域住民の足の確保に努めている。
      この助成措置は,住民生活にとって必要不可欠な路線の経常損失額及び車両購入費について,都道府県がバス事業者に対して行う補助の一部を国が補助(生活路線維持費補助)するものである。なお,これらの路線のうち利用者が極端に少ない,いわゆる第3種生活路線(平均乗車密度5人未満の路線)は,乗合バス路線として維持していくことが困難であるため,欠損補助を一定期間に限って行うとともに,その間に路線の再編成,廃止等の整理を進めることとしている。
      また,バス路線の廃止後においても,市町村又は市町村の依頼を受けた貸切バス事業者が代替バスを運行する場合には,代替バスの購入費等について,都道府県が行う補助の一部を国が補助(廃止路線代替車両購入費等補助)することにより,地域住民の足の確保を図っている。
      なお,62年度においては,バス事業者164社,354市町村等に対し約99億円の国庫補助金を交付した 〔4−2−9表〕

(3) 特定地方交通線の転換等

 (ア) 進む特定地方交通線の転換

      鉄道による輸送に代えてバス輸送を行うことが適当な路線として選定された特定地方交通線は,63年8月末までに38線1,386kmがバス輸送に転換されるとともに,26社29線886kmが第三セクター等地元が主体となって経営する鉄道に転換されている。

 (イ) 一層の経営努力が必要なバス転換線

      バス輸送は,停留所の数が増加すること,需要実態に合わせた運行系統や運行回数の設定が可能となること等から,国鉄当時に比べて利便性は増加していると考えられる。しかしながら,地域の全般的な過疎化の進行,モータリゼーションの進展等のため輸送人員が引き続き減少している路線が多い。
      経営成績については,国鉄線当時と比べて経費が大幅に減少したため,バス転換したすべての線区において赤字額が大幅に縮小し,一部路線では黒字となっている。
      なお,転換後のバス輸送において赤字が生じた場合,開業後5年間はその全額を国が補助することとなっているが,今後とも,一層の経営努力を重ね,地域の発展と住民の足の確保に努める必要がある 〔4−2−10表〕

 (ウ) 地元の一層の協力が求められる鉄道転換線

      鉄道転換線は,地元の要請に基づいて設立された第三セクター等により運営されており,列車の運行回数が増加するなど利便性は高まっているが,モータリゼーションの進展等のため輸送人員が減少している事業者が多く,また,収支状況については,転換前と比較すると大幅に改善されているものの,経常損失を出している事業者が多いことから,必ずしもその経営の見通しは楽観できるものではない 〔4−2−11表〕

      各社とも経費の削減,イベント列車の運行による増収を図るなど経営努力を行っているが,地域のための鉄道という本来の目的を達成するためには,事業者における一層の経営努力はもちろんのこと,旅客誘致等に対する地元関係者の積極的な協力が不可欠である。

 (エ) 地方鉄道新線の状況

      地方鉄道新線(日本鉄道建設公団が国鉄新線として建設していた路線で工事が凍結されていたもののうち,JR各社(国鉄)以外の鉄道事業者が経営することとなり工事を再開したもの)は,地元自治体等が主体となった第三セクターにより運営されており,現在までに三陸鉄道(普代・田老間及び釜石・吉浜間)をはじめとして6社が開業しているが,さらに残る7路線の建設が進められている。

(4) 離島航路対策

 (ア) 離島航路の現状と国の助成

      我が国には有人島が420余あり,船舶交通はここに住む人々の生活の足として重要な役割を果たしている。離島航路は,63年4月現在372航路あるが,これら離島航路の多くは,輸送需要の低迷,諸経費の上昇等により赤字経営を余儀なくされている。
      このため,国は離島航路の維持・整備を図るため,従来から地方公共団体と協力して,離島航路のうち一定の要件を備えた生活航路について,その欠損に対し補助を行ってきており,62年度においては,112事業者,118航路に対し約27億円の国庫補助金を交付した 〔4−2−12表〕

 (イ) 必要な経営改善方策の積極的実施

      離島航路の経営状況は,62年度は燃料費の安定もあり若干の収支改善をみたものの,輸送需要の減少,諸経費の上昇等により経営の悪化は避けられない。また,このような状況に加え,近年においては離島住民の生活基盤の充実を図るため,離島航路就航船舶の高速化,フェリー化等生活水準に見合ったサービス水準の高度化の要請が強まっているが,厳しい財政事情の中で,これらの要請に応え,今後とも生活航路としての離島航路を維持していくためには,一層の経営合理化,効率化等を図る必要がある。

(5) 本州四国連絡橋の建設に伴う旅客船対策

  本州四国連絡橋の建設に伴い,関連地域の交通輸送に重要な役割を果たしている一般旅客定期航路事業注)は,相当の影響を受けるものと予想されるところがら,その影響を軽減するため,「本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法」(昭和56年法律第72号)に基づき,関連航路の再編成,当該事業を営む者に対する助成及び離職者の再就職の促進等の対策を実施することとしている。
  本州と四国が初めて陸続きになる瀬戸大橋(児島・坂出ルート)については,道路と鉄道との併用橋として63年4月10日に供用されたが,これに伴い関係者からなる現地の連絡協議の場において,62年9月及び63年3月に合意された関連航路の整理・縮小方針等に基づき,7事業者が8航路を廃止し,5事業者(5航路)が減船,減便または船舶の小型化等航路の規模縮小を行った。
  また,63年1月には尾道・今治ルートの伯方・大島大橋も供用が開始されたが,同橋についても62年3月に合意された関連航路の整理・縮小方針等に基づき,4事業者が7航路を廃止した 〔4−2−13表〕

HR

注) 一般旅客定期航路事業:旅客船(13人以上の旅客定員を有する船舶)により一定の航路において一定のダイヤで人又は物を運送する事業をいう。


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