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海の交通法規入門


  各種船舶間の航法

 動きやすい船が、動きにくい船を避ける(各種船舶間の航法)
広い海の上で、船と船が出会う場合の航法のうち、「行き会い船の航法」「横切り船の航法」「追越し船の航法」は、適用にあたり、互いの船の大きさや性能には関係ありません。一方総トン数何万トンもある大きな船、もう一方が小さなモーターボートといった場合でも、行き会い船の行き会いの関係、横切りの関係、追越しの関係となったときには、それぞれの航法が適用されます。
しかしながら、例えば、機関や舵が故障して思うように操船ができない船とか、網を引いて思うようには動けない漁船などについても、原則どおりでいいのだろうか・・・そんな疑問があるのは当然です。
こうした場合について、海上衝突予防法では、「各種船舶間の航法」として「動きやすい船が、動きにくい船を避ける」という原則で、別の航法を定めています。
「各種船舶」としては、動力船、帆船、漁ろうに従事する船舶、運転不自由船、操縦性能制限船などをあげています。

  動力船:エンジン(機関)で走る普通の船
  帆船:ヨットなどセール(帆)のみで走る船
漁ろうに従事する船舶:操業中の漁船
運転不自由船:故障その他で他の船を避けることができない船
操縦性能制限船:しゅんせつ等の作業中で他の船を避けることができない船

各種船舶の定義 → 海上衝突予防法3条

 これらの船が、動きやすい船か、動きにくい船か考えて見ましょう。

  ◎動きやすい船  ○動きが制約される船  △やや動きにくい船  ×動きにくい船

として、それぞれに印(記号)を付けてみてください。

 動力船は、動きやすいので◎印です。
 ヨット(帆船)はどうでしょうか。広い海域と風があればほとんど自由に動くことができますが、風上に向かう場合や風が弱い場合などは、動力船に比べると動きが制約されますので○印です。
 漁ろうに従事する船舶は、ヨット(帆船)よりも更に動きが制約されますので△印です。
 「他の船をさけることができない」という運転不自由船、操縦性能制限船は、もちろん×印です。

 ◎動力船 : エンジン(機関)で走る普通の船
 ○帆船 : ヨットなどセール(帆)のみで走る船
 △漁ろうに従事する船舶 : 操業中の漁船
 ×運転不自由船 : 故障その他で他の船を避けることができない船
 ×操縦性能制限船 : しゅんせつ等の作業中で他の船を避けることができない船

 それぞれの動きの容易さがわかれば、あとは、原則をあてはめるだけです。動きやすい船が動きにくい船を避ければよいということになります。


     は、×を避ける。
     は、×を避ける。
     は、×を避ける。

具体的には、
 動力船は、帆船、漁ろうに従事する船舶、運転不自由船、操縦性能制限船を避ける。
 帆船は、漁ろうに従事する船舶、運転不自由船、操縦性能制限船を避ける。
 漁ろうに従事する船舶は、運転不自由船、操縦性能制限船を避ける。
ということになります。

 「各種船舶間の航法」でいう「各種船舶」は、貨物船、旅客船、漁船・・・といった船の種類ではありません。船の動きの容易さに注目した種類・区別ということになります。
 貨物船や旅客船は「動力船」ですが、機関や舵が故障して他の船舶の進路を避けることができない状態となった場合には「運転不自由船」となります。
 漁船は、操業中(漁ろうに従事中)は「漁ろうに従事する船舶」ですが、漁をしないで走っている場合は「動力船」です。漁場の往き帰りなど、漁をしないで走っている漁船は「動力船」の航法が適用されます。
 ヨットはセールで走っているときは「帆船」ですが、エンジンを搭載しているヨットが、セールをたたんでエンジンで走る場合は「動力船」です。
 ヨットがエンジンで走り、セールを張ることができる状況で、セールを併用する場合も「動力船」です。セーリング中、エンジンを併用する場合は・・・これも同じこと、やはり「動力船」です。
 「各種船舶間の航法」を適用するためには、誰が見ても、容易にそれぞれの「各種船舶」であるということがわかる必要があります。このためには、海上衝突予防法に定めるそれぞれの灯火や形象物を表示しなければなりません。

◎もう少し詳しく知りたい場合は
海上衝突予防法 → 第18条

今回は、広い海の上での航法のうち、各種船舶間の航法についてみてみました。
 「海の交通法規入門」では、以後、
   「船員の常務」
   「夜の航海 船の灯火」
   「昼の航海 船の形象物」
などについて、解説する予定です。
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